第2話 晴天の霹靂(特盛)
「じゃあリオレ様、今日もよろしくお願いします」
「おなしゃーす(舐)」
そう言って、黒板に文字を書きながら俺に算数を教えているのは俺の……平たく言えば家庭教師だ。
この舐めた返事はイヤイヤな俺を無理やり授業に出させた奴らへのささやかな抵抗。
高卒の俺に算数を説くとは、恐れ知らずも甚だしいな(?)
「──では、ここの答えは?」
「──121ッ(キリッ)」
「121……正解です、流石ですね!」
いえいえ(笑)そちらこそいい問題を出されますね(笑)
二桁の掛け算ぐらいならギリ余裕ですよ。
「では次は──」
また次の単元へと進んでいく授業。
退屈なり。
だがしかし、ここで「てんてー、次進みまひょー」なんて言って意味わからん数学まで進まれると厄介だ。
俺は雑魚数字狩りに勤しむとしよう。
◇
授業が終わって、貴族特有のティータイムが始まる。
1人だったり、姉や兄がいたりと好きでもないし嫌いでもない時間。
自然の近くで飲むリリアの紅茶は、絶品と決まっているのだが。
リリアが慣れた手つきでカップに紅茶を注ぎ、俺はそれにゆっくりと手を伸ばした。
そういえば、最初はマナーがどうと飲ませてもらえなかったな。
そう、最初はキツかった。
……俺は転生者であり、この世界の住民ではない。
元の世界で死んだのか、それすら思い出せないが、気付いたらこうなっていた。漫画やアニメで見てきた理想とも言える異世界転生を経験してしまったのだ。
正直嬉しいけどね?
こんなん全人類の夢や、せやろ?
でも楽ばっかじゃなくて、苦労あるんでしょう?
ご心配要りません(キメ顔)
俺ことリオレですが、SSR転生である皇子に転生しました。しかも第三皇子、ギリ帝位継承スルーしても許されるでしょ。
そもそも争う物なのか知らんけど。
かなりスタンダードな異世界みたいだし、目一杯楽しみたいところ。
「……あぁ、サイコー」
「どうかされましたか?」
「いや、リリア。世界は美しいな……」
「そうですね」
もうちょい相手してくれよ(泣)
あぁちなみに、苦労は少ないだけであるにはある。さっきも言った貴族の作法とか、あとは……チート魔力とか、
流石異世界ということで、この世界には魔法なるものが存在する。
そして勿論扱うのに魔力が必須で……
「ピクピク」
あッ、やばいこれ。
最悪だこれキてるわ(便意)
嘘です、便意じゃなくて魔力がキてます。
「……悪いリリア、ちょっと席外すね」
「お供します」
「そこにいてくれ、すぐ戻る」
席を立ち、城に向かって歩く。ただひたすらに衝動を抑えながら、バレないよう平静を装い歩いた。
そして、リリアの死角に入ったであろう瞬間に繰り出されるガチダッシュ。
「はっ、へへ、やばいぞこれ、どこに打てばいいんだよ!」
俺の魔力にはたった一つの欠点がある。
それは、強大すぎて俺の体を蝕むことだ。
今も、溢れる魔力が今にも爆発しそう。
人目につかない場所を探ろうにも、もう無理っぽい(急な諦め)
うーん、俺はよく耐えたよ。
うん、出しまーす(脳死)
城の影から外に向かって、気まぐれで習ったばかりの電撃魔法を放つ。
「……確か、《雷槍》?」
次の瞬間。
——世界が、白に染まった。
轟音。
あまりにも圧倒的な雷鳴が空気そのものを叩き潰し、俺の鼓膜を揺らす。
放たれた雷は“槍”なんて可愛いものじゃなかった。
極太の雷光。
それはまるで天そのものを引き裂く裁きの柱。
迸った青白い閃光が一直線に空を貫き、雲を蒸発させながら遥か彼方まで消し飛んでいく。
「ふえ?」
ビキビキビキッ!! と空間を裂くような音。
遅れて衝撃波。
城壁の窓がガタガタと揺れ、庭木がまとめて吹き飛んだ。
「────はい終わった〜(察し)」
静けさを取り戻した空を、
俺は呆然と見上げた。
……昨日の炎魔法にしとけば良かった、
なんだ今の。
俺こんなの習ってないよぉ……
家庭教師の先生、
『小規模な電撃を放ち相手を牽制します』
とか言ってたよね?
どこが???
覚悟の準備をしておいて下さい!裁判も起こします!理由は勿論お分かりですね!?
ほら見ろよ……
空に巨大な光の筋が残ってるんだが???
しかも雲が真っ二つになってる。
いやぁ割れるんだ、雲って。
「ぐっ……!」
直後、腹の奥を殴られるような感覚が走った。
やばい。
急に出しすぎたか?
いや、リリアに日頃の恨みで下剤でも盛られたかもしれん。
俺は慌てて壁に手をつく。
視界がぐらりと揺れる。
「はぁ……っ、はぁ……!」
腹痛Level99かな?
だが、おかげで暴走寸前だった魔力はかなり静かになった。
……ふぅ。
危なかった。
王都消し飛ばさなくてよかった〜。
「……戻るか」
俺は何事もなかったように服についた土を払う。
なお遠くでは、
「な、なんだ今の!?」
「雷!?」
「魔術塔の実験か!?」
「神が怒っておられるのだ!早く祈らねば!」
などと騒ぎ声が聞こえていた。
ごめんちゃい☆
◇
「リオレ様、先ほどの雷は大丈夫でしたか?」
「……あぁ、音がすごかったけどね」
席に戻ると、リリアがカップ紅茶を注いでいた。
良かった、城一つ挟んだからこっちの被害はなさそうだ。
多分、騒音被害はあったろうけど。
あれ、誰かいる?
リリアの向かいには——見知らぬ少女が座っていた。
「……え?」
思わず固まる。
陽光を受けてきらきらと輝く金髪。
透き通るような白い肌。
深い蒼の瞳。
年齢は俺と同じくらいだろうか。
いかにも“物語に出てきそうな美少女”が、そこにいた。
そして少女は、俺を見るなり、びくっと肩を震わせた。
「ひっ」
「えっ」
あっ、死のう(早計)
初対面でその反応ある??
リリアが平然と紹介する。
「リオレ様、こちら本日より王城に滞在されることになりました、ルミナリア・フォン・アルセイン様です」
まさかの公爵家の令嬢だった。
兄たち誰かの婚約者候補かな?
僕のだぞ!!!(早計)
俺が内心で絶望していると、ルミナリアはなぜか青ざめた顔で俺を見つめていた。
その視線は、俺ではなく——
バチッ。
まだ微かに魔力を散らしていた俺の右腕へ向けられていた。




