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第40話 洛陽7 漢帝国派

 劉協は士燮と内密に話したいとの希望があり、身分の低い賈駆と張遼を残し、董卓と呂布を伴い士燮の部屋へ入った。

 先に訪ねて来たのは曹操とは言え、流石に皇族に先んじて士燮に面会を求めることは出来ない。それに、曹操としても董卓軍の誇る軍師と武将と話してみたかったし、この二人が残されたのも曹操達と接触を図りたいという意志がありありと感じられた。

「こうして直に話すのは初めてね。董卓軍の賈文和と言えば、軍が羌族に包囲されても冷静に機会を伺って一兵も損なわずに脱出させた知恵者と聞いているわ。確か、魚を採るフリをして川を堰き止めて、水が溜まるのを待ってから川を渡って堰を切ったのよね?」

「……それはボクの知恵ですが、ゆえの……董卓の統率がなければできなかったことです。水が溜まるまでに脱走兵が散発的に出ていたら、士気の低下に乗じて攻め込まれて全滅していたでしょう」

「己の知恵を誇らないのね」

「正しい情報を得ても、いくつもの策を用意しても、それを活かせる人物でなければ意味がありませんので」

「なるほど、貴女の主君は一角の人物という訳ね」

 曹操と賈駆が話している横で、一刀達は張遼と話していた。

「董卓軍の人と言えば、宛の近くで華雄さんに会いました。配下の人たちからも慕われていて良い人でした。董卓様に宛てた書状を頂いていたのですが、どこにいらっしゃるのかが分からなくて……」

「あー……ウチら、今は宮城きゅうじょうの中に詰めとんのや。大将軍の命令で劉協様の護衛ってことでな。せやから街中に行くこともあらへんから、ウチらが洛陽に居るちゅうこと自体知っとる人の方が少ないんやろ」

「そうだったんですね。後ほど時間があったら書状を持って来てお渡ししますね」

「華雄の奴、なんや失礼な事せえへんかったか?」

「そんなことはありませんでした。良い馬を持ってるな、と褒められました」

「ほーん。華雄が褒めるんならホンマに良え馬なんやろなあ。お許しがあったら後で見せてや。あ、このお茶菓子むっちゃ甘くて旨いで。それと堅苦しい話し方は無しにしてや」

「分かった……馬超も後で行く? 董衣と花相の他に、紫鈴って青鹿毛とかも居るぞ」

「良いのか? もちろん行くぞ」

 馬超の名を聞いた張遼が反応した。

「馬超言うたら西涼の馬超かいな? 馬術の腕はこの漢帝国でも随一らしいやん。腕比べしたいんやけどなー……あー、華雄っちが居れば休み貰って行かれるんやけどなー」

「もし機会があれば馬家の屋敷か、競馬場にもなってる調教場に来てくれ。大体そこで調練しているぞ」

「馬が鈍らんようにってのも大事やもんな……呂布ちんが居る時に頼んでみよかな」

「ダメに決まっているでしょう、しあ。理由も無しに他家の有力者と会えば、十常侍に痛くもない腹を探られることになるわよ」

 曹操と話し終えた賈駆が張遼を止める。

「ちぇー。政治の世界は面倒いでホンマ……」

 張遼が不満を漏らすのを横目に、賈駆が一刀に聞きたいことがあると言った。

「北郷殿。貴方の国の貨幣についていくつか聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」

「えっと……私に答えられる範囲であれば。どういう合金か、とかそういうのは分かりませんよ」

「それも気になるところですが、ボクが知りたいのはあの貨幣の価値なのです。あれほどの装飾を施した貨幣ですから高価なのだとは思いますが、それにしては金や銀では無く銅や黄銅のようなものを用いています。あの貨幣は一体どういったものなのですか?」

 探るような視線の賈駆。一刀は助けを求めるように曹操を見るが、曹操は「言ってみなさい」と促しているようだった。

 以前、未来の知識は不要だと言った曹操だったが、これは単純に興味があって尚且つ知っても問題の無い範囲の知識だと考えているのだろう。

(もしかしたらどうやって切り抜けるのかを楽しんでるのか? 曹操様……)

「それはウチも興味あるなあ。鉄貨の1貫分って意味なんか?」

「そうですね……昔は単位にせんがあって、10銭で1円だったようですが今は銭は流通していません。価値としては100円、一を縦にして〇が二つ続いた銀色のものでお握り1個分くらいの価値です」

 このくらいの大きさの、と一般的なサイズのお握りを手で示す一刀。

 これには賈駆や張遼だけではなく、曹操まで驚きを露わにした。馬超は参内していたが、一刀が献上した日本円を見ることができない位置に居たため良く分かっていない様子だった。

「もしや貨幣制度が立ち行かなくなるほど貨幣価値が暴落しているのですか? 或いは大飢饉で食料難が続いたせいで物価がおかしくなったとか……」

「そういう訳でも無いんですが……とにかく、私の国はお金の偽造対策に命を掛けているようなふしがあって、それであんなお金を使っているんです。街を歩いている人の財布には必ず入っているくらいありふれたものです」

「あれだけすれば偽造なんて出来ないでしょうけど……では、どうやってその価値を保証しているのですか?」

「何制だっけ……金本位制は昔か。今は管理通貨制? 政府の信用だったか地代や資産を担保にしてるんだったかと」

 賈駆と曹操は深く考え込み、張遼と馬超は顔を見合わせた。

「……毎年の税収と摩耗や紛失を照らし合わせて発行してるっていうの? 正直理解が追い付かないわ……硬貨そのものに価値を担保させないでどうやって民衆が納得するのよ……」

「政府の信用、ね……」

「馬超っち、この人らが何を言うてるか分かるか?」

「全然分からん……」

 説明をする側もされている側も、双方が頭を抱えそうになった時に客間の扉が開かれた。

「詠、霞、終わったわ。何を話していたの?」

「月……ちょっと昨日の貨幣の事を聞いていただけ……」

「そう。通貨の概念もだけど、どんなまつりごとが行われているのかも聞いておかないとね。北郷殿の家は元々は武家として領地を治めていたそうですが、どのような統治だったのですか?」

「100年以上前の事ですので……私の国よりもルキウスさんのローマの方が大国の統治で参考になると思います」

「羅馬についてはまた後日、昔の甘英が残した資料を参照しながら公的に伺いますので。北郷殿はあくまで民間人ということですので公的資料には記載されません。話せる範囲で構いませんので、どのような暮らしかだけでも御聞かせ下さい」

 董卓が尋ねるが、一番興味深そうな顔をしているのは劉協だった。

 曹操はこれ以上のことを聴くと自分の思考に影響が出るかもしれないと思ったのだろう。西域国家や異民族の事を聞きたがっていた馬超を伴い士燮の書斎へ向かった。

「それでは……武家の時代は征夷大将軍がこの国で言うところの天子様より任命され、各地の有力武家……大名を統率していました。大名家は世襲でしたが、統治能力の不足やお家騒動があると改易されたり領地を召し上げられたりしました。現在では選挙……地元の平民が地域の代表を選んで、例えば零陵の代表が洛陽で漢全体の政策や公共事業の話し合いをしているようなものです。この例で言うと、零陵の代表も立候補した人の中から平民が選びます」

 いっそ未来の世界から来ている、と明かしたらどれだけ楽だろうと思いながら一刀は言葉を選び説明する。この時代に普通選挙や民主主義の概念をもたらすのはどうかと思っていた一刀だが、劉協や董卓は既にその概念を得ていたようだった。

「それは羅馬の平民会議と平民政務官の選出に似た制度ですね。武家から平民の政治に移ったようですが、我らの天子に当たる方はどうされたのですか?」

「象徴として存続しております」

「……税制や軍事は?」

「主には所得税でしょうか。1年間の収入に対して、高収入に成るほど少し税率が上がります。軍事は志願制の職業軍人で、兵には国から給料が出ます」

 その後も色々と聞かれるが厳密には違うかも知れません、と前置きしながら答える。流石に疲れてきた頃、

「劉協様、董卓様、一刀様も少々お疲れのようです。一刀様も遭難の前は学生として未だ勉強中の身。国政の全てを知っている訳では無いのですから程々にされませんと。それに、ここまで熱心にお尋ねになられるとただの雑談以上の意図を感じてしまいます」

 一刀が本当に海外の人間なのかを疑っているのか? と暗に尋ねる桜桃。一刀も同じように考えてはいたが、少しばかり違和感を抱いていた。

「……失礼かとは思いますが、劉協様達はただ外国の事を知りたいというよりは、国の治め方ですぐに効果のある政策に興味を示されているように感じました。細梔様……呂強様のような方が地方に追いやられていることから、良識ある文官の方々が居なくなった後の事を想像されているのですか?」

 劉協と董卓主従に緊張が走る。

「……士燮殿は北郷殿達に志を託したと言っていました。でしたら、私達も士燮殿に話したのと同じように、胸襟を開くのがスジと言うものですね」

 覚悟を決めたように董卓が言う。

「それに、呂強殿にも関わる話でもあります。ですが、聞いたら後戻りはさせませんよ」

「呂強様の為になることがあるのなら協力は惜しみません……いいよな? 桜桃」

「もちろんです」

「分かりました。では呂布将軍、部屋に人が入らぬよう見周って下さい……確かに私達は十常侍が居なくなった後の政治をどうするか考えています。今の朝廷は十常侍一派こと濁流派と、大将軍何進殿を中心とした反十常侍の清流派とで割れています。単純に武力で十常侍を排除しても、各地方の豪族、豪商との繋がりや実務的な能力を持った文官が不足しています。ですが、それだけなら名門の袁家を始めとした清流派諸侯の持つ人材が時間を掛ければ補えます。正確には、補えてしまえるのです……」

「つまり、清流派諸侯が新しい十常侍になるのではないかと考えているのですか?」

「その通りです。それを防ぐために地方に配流された文官、武官を呼び戻すことを計画しています。十常侍に反対する者のほとんどを趙忠が讒言によって遠ざけたことが幸いしました。彼らを朝廷の中心に据え、清流派諸侯の家臣を補助として用います。そして不正や癒着の芽が出ないうちに素早く改革を行い、漢帝国の体制を強固なものにして付け入る隙を無くします」

「……濁流派に清流派に、さらに漢帝国派……皇室派? が有る訳ですね」

「力の有る家かそうでないかでさらに細かく分類できるでしょうけれど……外国の方に我が国の分裂騒動になりかねない事を話すのは気が引けますが、士燮殿とも利害は一致していると賛意を得ています」

 士燮は漢帝国派に協力するようだ。清流派諸侯が朝廷で工作し、各地で力を持ってそれぞれに野心を向き出しにしたら歴史通りに戦乱の世が訪れる。そうなっては少数民族の連合国家という幼い国は、海外交易の玄関口という豊かな土地を枕にしながら夢を見る間もなく討ち果たされるだろう。

「そこまで大きな話になると、私にはどうしようも無いですね……」

「故郷の政治や貨幣のお話でもう十分です。後は十常侍に知らさないで頂ければ問題ありません……さて、そろそろ宮城に戻るとしましょう」

「董卓様に華雄殿からの書状がありましたのでお渡ししたいのですが、少しお待ちいただいてもよろしいですか?」

「あー、それならウチが貰ってくから劉協様達は先に帰ってええよ。ちょい話したいこともあるし」

「貴女は仮にも護衛で――」

「詠ちゃん、いいんじゃないかな? 霞も偶には街を歩きたいのでしょ?」

「分かっとるやん。月の方が軍師の詠より賢いねんな」

「うるさい、馬鹿!」

 劉協一行は張遼を残して宮城へ戻った。

 張遼は一刀から華雄の書状を受け取ると、清流派諸侯が何をしようとしているかを話し始めた。

「月……董卓たちは言わんかったんやけど清流派っちゅうか大将軍一派な、宦官の粛清を考えとんねん。十常侍の悪評もかなり広まっとるし、黄巾党対策やーって諸侯の軍を洛陽に引き入れられたんも大きい。でも董卓は何進に協力を約束したんやけど、劉協様と結んでることは何進に秘密にしとんねん。何進は今の主上なら妹が後宮に入っとるのもあるし、十常侍のせいで傀儡として教育されとるから扱い易いって考えとるんやろ。やけどもうちんとこの董卓は劉協様の志の大きさを知ってな、劉協様を副帝に、自分を丞相にして漢の改革をするつもりなんよ」

「それって……簒奪に思われかねないんじゃ? 少なくとも清流派諸侯からは出し抜かれたって思うだろ」

「その汚名を被ってでもって覚悟なんや。言っとくがこれは劉協様から持ち掛けられた事やで。実際にどうやって改革するとか副帝がーってのは賈駆っちが考えたんやけどな」

「そのために外国の政治の事とかを聞きに来たのか」

「……月は天下だの何だのに興味は無いんや。ただ、戦の無い世が来て欲しいっちゅうだけの優しい子なんや。せやからどうか、協力は出来んくても見守ってて上げて欲しいんよ」

「それはもちろん……」

「まあウチからは以上や。難しいことは置いといて、馬を見せてや。そろそろ馬超も戻るやろ」

 曹操と馬超が戻るまで黒砂糖のサーターアンダギーのような菓子(開口笑と呼ばれるもの)を食べながら待つ。曹操たちが戻ると馬超に声を掛けてうまやに行く。意外にも曹操も馬に興味があるようで付いて来た。

「私の親戚が牧場を経営して馬を扱っているのよ。まあ、そこの跡取り娘が曹洪なのだけれどね」

 厩に着くと一刀の姿を認めた馬たちが前かきをしてアピールする。

「昨日のことがあるから十常侍からの暗殺対策ってことで外に出せてないんだよ。李梅とか馬丁の人が庭の中だけでも歩かせてはいるんだけど……」

 李梅は日中の警備をしているのであまり構ってやれていないのだろう。気性の幼い董衣は、しきりに鞍の方を見ては外に出せと言っているようだ。

「ほー、ウチんとこの馬より一回りくらい大きいやん。どれも良いトモしとるやん。特に紫鈴って馬は見た目も整ってて皇族に献上されてもおかしくないくらいやん」

「北郷、董衣の馬房の奥に猫が居るけど、一緒に飼ってるのか?」

「え? 猫なんて飼うどころじゃなく旅続きだったぞ。鼠取りに士燮様の屋敷で飼われてるのか?」

「董衣の母の雛菊も猫が好きですから似たのでしょうか」

「張遼殿、涼州では騎兵だけの軍があって戦をするということだけど、どのような戦術が好まれるのかしら?」

 明日は思い切り走らせてやれるかな、と考えながら一刀は曳き運動の用意をした。

 宦官の粛清まわりの事って原作だとどうなってるんだろうと考えながら書いてました。董卓をフォローしつつ改革をするっていうと筆者的にはこんな解釈です。


・魚を採るフリをして~

 これは董卓が考えた作戦らしいですが、献策を採用する度量と兵への統率力を示すために賈駆の献策ということに。

・貨幣や政体の説明

 未来人という事を隠しながら一般人の見識で話すと矛盾することがありそう。仮に未来の政治などを語ってしまったところで、それがこの時代に最適かどうかは別問題なので大筋で変わりは無いのですが……

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