水族館
ガタンゴトン。日曜の朝、電車に揺られつり革を握る。隣にいるのはにっこにこな笑顔の三尹だ。
朝からすごい笑顔だな。かわいい......
昨日の夜、いろいろ考えた結果。三尹に明日も出かけようと電話で誘ったのであった。結果は二つ返事で、こうして朝から......
「どうしたの? 優くん?」
「いや、何でもないよ。それより、朝早くからごめんね。今日も遊びに誘っちゃって」
「ううん。誘ってくれて嬉しかった。それに初めての二人きりのデートだし......」
「そ、そう? ならよかった」
あ、危なかったー。照れた表情でそんな反応されると抱きしめたくなっちゃうだろ。
華やぐ気持ちは置いといて、今日俺たちが行く予定の場所は都内からでも行きやすいところにある水族館だ。片道二時間くらいかかるけど、いつも漫画の話題が尽きない俺達なら大丈夫だろ。
「今日はお昼も私が作ってきたから楽しみにしててね」
「う、うん」
ああ、水族館につくのが楽しみだ。
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目的の駅についてからはそこからは船に乗り水族館がある島まで渡航することになる。
三十分ほどで島につくみたいで俺たちはその間にお昼を食べることにした。
「あんまりね、料理は得意じゃないんだけど......どうぞ!」
ガバッと勢いよく開けられる弁当箱の箱。
唐揚げ、ハンバーグ、春巻き、ミートボール......
中に詰まっていたのは男が好きそうな食べ物ばかりであった。
うわー茶色......
「ど、どう?」
心配そうに俺の方を見つめてくる三尹。ここは安心させるためにもパックっと食べないと。
「おいしそうだね」
「はい。箸」
「ありがとう。じゃあ、いただくね」
「うん。食べて食べて」
俺の胃袋よ。耐えてくれ!
モグモグ......!
「おいしい! 本当においしいよ!」
「ほんと?」
「うん」
「よかったぁ」
見た目が茶色ばっかだから、恐れていたけど、一つ一つはちゃんとしたものであった。ただ、脂がすごいけどな。これなら、おいしく食べられそうだし、半分だと考えれば......
「ん? 三尹も食べなよ」
「いや、私は脂っこいものは苦手だから」
「え?」
そういう三尹の手には市販のサンドイッチが握られていた。
嘘だろ? ってことは一人でこれを全部......? すまん、俺の胃袋よ。やっぱり、耐えてくれ......!
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「優くん。着いたよ」
「う、うん」
「大丈夫? 船酔い?」
「う、うん。そんな感じ」
今、魚見たら吐いてしまいそうだ。
そんな気持ちを抑えながら俺は水族館へ進む。
ここは船に乗って水族館へ向かう臨場感やイルカやアザラシのショー、さらにペンギンの餌やりなど生き物とまじかに触れあえるのが目玉の水族館だ。
でも、今のところそれらが裏目に出てしまっている。イルカが魚を食べているところなんて見たら......うっ!
「ゆ、優くん、大丈夫?」
「す、少しゆっくり周ろうか」
胃の中で暴れてるこいつらを早く消化しなければ。
そんなこんななるべく魚を見ないようにして館内を回っていた時だった。
アナウンスが鳴り、イルカショーの始まりを告げる。
横で目を輝かせている三尹。行きたがっていることは言わなくてもわかる。だが、三尹のことだ。もちろんそれを口にはしない。
だから、俺から言わないといけないのだが......その前に胃袋と相談をしなければ。
『胃袋さん、胃袋さん。調子はどうですか?』
『大丈夫だよ!』
よし、許可は取れた。
「行ってみるか」
「うん!」
屋外の海につながった大きな水槽。それを真ん中にアリーナのように広がる観客席。俺たちは水がかからないように後ろの方に座る。
ショーの内容はイルカの大ジャンプや空中の輪をくぐったり、ボールにタッチをするなどといったありきたりなものであったが、久しぶりに直で見ると十分に楽しめるものであった。
何より、水しぶきが上がるたびに興奮する三尹が隣にいるだけで今まで見てきたイルカショーの中で一番楽しいものになる。
初めて会った時からこんな顔をしてたな。図書室で声をかけた時、すごい驚いた表情をしていたな......でも、すぐに打ち解けて笑って話せて。
あの時は前髪やメガネで隠れて見えなかったが、今と同じ笑顔をしていたんだよな。
今日、三尹と一緒にいた間ずっと考えていたんだけど、やっぱ俺は三尹のことが好きなんだ。自分の気持ちをちゃんと言えない所も、料理がちょっとずれてるところも、漫画が好きなところも、その目も、全部。
昨日、亮介が言っていた本当の意味は分からないけど、俺は三尹のことが好きだから、この気持ちをちゃんと伝えよう。
「三尹」
「?」
真剣なまなざしで見つめる。三尹は今から俺が何を言おうなんてわかりもしないだろうな。
「あ、あのさ。俺、三尹のことが......好きなんだ!」
好きといったと同時に特大サイズの水しぶきが上がり、俺たちの頭上に降りかかる。
ここまで届くのかよ! 今ので聞こえなかったんじゃ―
「三尹......? 泣いて―」
俺が最後まで言い終わる前に三尹は飛び出していってしまう。
呆然とする中、俺はそれを黙ってみるしか......
『追え!』
『胃袋さん!?』
『何のためにあの脂の塊を耐えたと思ってるんだ! 追って気持ちを伝えろ!』
「...」
俺は走り出した。外に出て辺りを見渡す。思っていたよりも早く三尹は見つかった。
外の休憩用のベンチ。そこに三尹はいた。俺は座らず横に立ち、言葉を考える。
泣いて逃げるってことは、やっぱりそういうことだよな。でも、このまま友達の関係まで壊れるのは絶対にいやだ。そんなことになったら後悔しか残らない。
「三尹、ごめん。急だったよね。今日のことは忘れ―」
「違うの。付き合ってると思ってたの」
「え?」
「私、もう付き合ってると思ってたの」
何を言っているんだ。
「いつから?」
「昨日、下の名前で呼びたいっていった時」
あ、あれかぁああああああああああああああ!!
言い方によるがあれも告白になるのか? でも、それってOKってことだよね?
じゃあ、なんで泣いて......勘違いだったことがショックで?
「三尹......」
「嬉しかったの。あれは勘違いだったけど、本当に優くんは私のことが好きだったって」
それを聞き、俺はたまらず抱きしめてしまう。
「ごめん! 三尹!」
みんな悩んで、俺みたいに心配してたんだな。三尹も亮介もみんな怖かったんだ。
「ごめん、俺、へっぽこで」
「謝らないで私、うれしいから。今度は勘違いじゃないんだよね」
「うん。俺は三尹が好きだ。付き合ってほしい」
「......こちらこそお願いします」
こうして俺達は無事結ばれることになった。
今度は亮介とも仲直りしないとな。




