悪役令嬢は主人公に恐怖する
このシリーズは設定厨が思い付いた設定を元に第一話分だけでっちあげてみた、というシリーズです。
設定だけなので続きとか考えていません。
もし、続きが読みたいという奇特な人が居たら、適当にパクって自分で書いてみてください。コメントに作品URL張っていただければ読みに行きます。
婚約者であるヴォンクーラ王子の私への態度が冷たい。最近そう感じることが多くなった。もともと親同士の政治的駆け引きで決まった政略結婚で、そこに愛はない。婚約が決まって何年もして、学園に入学してから初めて顔を合わせたくらいだ。
とはいえ、それなりに仲良くはしていたつもりだった。正直なところ、あまり頭の良い方ではないのだけど、ルックスは洗練されていて気品あった。物腰も王家の教育に恥じない優雅さがあり、武術にも秀でている。学園の子女たちにとってはまさにあこがれの王子様だ。
人気があるといっても、私か婚約者であることは周知であり、あからさまに粉をかけようとする者はいなかったのだが、最近になって一般特待生のプレイア嬢と一緒にいるところをよく見かけるようになった。
プレイア嬢は庶民の出ながら成績優秀で特待生となった才女。特に数学や言語学では常に学年トップの成績をキープ、教師たちの間でも10年に一人の天才として噂になっていた。
また見目も良く、ほとんど着飾っていないにも関わらず、おしゃれにお金と時間をかけている貴族の娘とならんでも見劣りしない。おそらく、きちんとしたコーディネイターがついて化粧をすれば、絶世の美女と言われることだろう。
ヴォンクーラ王子の口からプレイア嬢の名を聞くようになったのは前期の学年試験が終わった後のことだ。お付きのメイドのミスで試験レポートの返却時に王子のレポートとプレイア嬢のレポートを取り違えて回収してしまったことがきっかけで話をするようになったそうだ。
プレイア嬢のレポートは教諭からは優を超える秀の評価を受けており、一方で王子のレポートは赤ペンだらけで再提出が求められていた。流れで王子はプレイア嬢にレポートを見てもらうことになり、さらにいくつかの偶然も重なって勉学を中心にいろいろお世話になっているらしい。
らしい、というのは私の侍女たちからの断片的な目撃情報を聞くだけで、他の王子のファンの子女たちの間ではうわさにもなっていないからだ。おそらく、婚約者のある公人の身で他の女子、それも庶民の出の娘を懇意にしているなどと広まってしまわないよう、王子のお付きの侍女たちが奔走しているのだろう。
そんな状態がしばらく続いていくうちに、徐々に王子の私への態度が冷淡になっていると感じるようになった。
私は別にそれを気にしてはいなかった。王子は王族として教育を受けているし、社交界のマナーは心得ているはず。第一夫人とは別に愛唱を囲っている貴族は多いし、殿方にまで貞淑を求めるつもりもない。
ただ、あまりいい気分にはならないのも確かだった。庶民の娘にうつつをぬかすだけでなく、第一夫人となるはずの私への態度が冷たくなるというのはちょっと信じがたい。
さらに数か月が過ぎたが、状況は悪化の一途をたどっていった。プレイア嬢は才能をいかんなく発揮して教師たちの称賛を浴び、王子は私を意図的に避けるようになり、ほとんど話す機会もなくなった。
そんなある日、珍しく王子が私を呼び出した。学園の離れで待っているとの言伝を侍女を通じて伝えてきたのだ。
なんとなく嫌な予感がしたが、婚約者関係なく王族の招集に応じないわけにもいかず、離れの東屋へ赴いた。
そこにいたのは怒りを顔ににじませた王子と、王子付きの侍女数名。
「ライヴァール嬢、どうしてここに呼ばれたか理由はわかるか」
王子の口調はまるで詰問のようだった。
「いいえ、最近殿下は私を遠ざけるばかりでしたので、さっぱり心当たりがございません」
「ふん、語るに落ちたな。これを見ろ」
王子は送り主の名が記されていない手紙を私に差し出した。
「今朝、この手紙がプレイア嬢の机に忍ばせてあったそうだ。内容はこうだ『婚約者の居る王子に取り入ろうなんて恥を知りなさい。身の程をわきまえぬ売女は相応の報いを受けることになります』」
どうやら、王子はこの手紙を私が忍ばせたと思っているようだ。手紙を机にたたきつけると、二度とこんなことをするなと一方的に言い捨てて東屋を出ていった。
「これは、どういうことなのかしら」
一人東屋に取り残された私に残ったのはただ困惑だけだった。このようなことを指示した覚えはないし、もちろん自分でも手紙なんて書いてはいない。私のことをおもんばかった誰かが勝手にやったのだろうか。それにしたってこんなあからさまな脅し文句は使うまい。
王子が置いて行った手紙をもう一度読み返そうと手を伸ばして、便箋が袋とじになっていることに気が付いた。学園の子女たちがこっそり手紙のやり取りをするときに使う使う折り方だ。表に当り障りのないことを書いておいて、袋とじの内側に本当に伝えたい秘密のメッセージを書いておくといった使い方をする。
袋とじを開くと、そこにはきれいな筆跡で『その場でしばらくお待ちください。byプレイア』と書いてある。一瞬、罠を疑ったが、なんとなくこれは本人の筆跡のような気がした。
ここは学園の中。外部の者が入り込むことなんてできないし、庶民の出であるプレイア嬢に伯爵家である私をどうこうできるような権力もない。私は指示の通りこの場で待つことにした。
王子が離れを立ち去ってからしばらく置いて、プレイア嬢が一人で東屋に現れた。手には書類を入れる事務封筒を持っている。
「ライヴァール様、お待たせしてすみません」
「いえ、どちらにしてもここで休んでいるつもりだったから気にしなくてよいわ。それより、どういうことなのか説明いただけると思ってよいのかしら」
私の問いに、プレイア嬢は黙ってうなずくと、手に持った書類を机の上に広げて、事のあらましを説明にかかった。
「まず確認なのですが、先ほど殿下が連れていた侍女2名の名前はわかりますでしょうか」
「初めてみる顔で名前まではわからないわ。最近、殿下とはあまりお話をできていなくて、新しく入った侍女のことはよく知らないの」
私の答えにプレイア嬢は険しい表情を見せて考え込む。
「やはり最近入った方なのですね……。ということは来月のあのイベントもそういうことなのね」
「来月……?」
「はい、来月、秋節句の舞踏会がございますでしょう、そこでちょっとしたトラブルが起きるのです」
プレイア嬢の未来を予言するかのような言葉に、今度は私が眉を顰める。さらに、プレイア嬢の説明は続く。
「こちらが秋節句の舞踏会会場となるバラの庭園の間取り図になります。一般学生の控室には西の離れが使われるのですが、当日、ここに保管される私のドレスを忍び込んだ何者かが切り裂きます
タイミングはおそらくライヴァール様が貴族生徒の控室に入ってから。私が主席祝辞の打ち合わせのため遅れていくまでの間です」
この子はいったい何を言っているのだろうか。来月に行われる舞踏会の段取りをなぜ知っているのか……。
「ドレスが破れていることに気が付いた次女が殿下に告げぐ……いえ、報告してことが判明し、犯人探しが秘密裏に行われます。その際、ライヴァール様が貴族控室に入ってからしばらくして、一人の侍女が出てきて西の離れに向かったとの証言が得られます」
「つまり、私が命令して侍女を向かわせる、と言いたいのかしら」
「いいえ、この証言はおそらく嘘です。全て王子の侍女のでっち上げ、ドレスを切り裂いたのも王子の侍女の仕業の可能性が高いです」
プレイア嬢は見取り図を元にありうる状況を一つずつ検証し、そう推理するに至った根拠を説明してくれた。その内容は理路整然としていて、綿密かつ簡潔。まさに天才とはプレイア嬢のためにあると思わせられる推理力だった。
「黒幕の目的はおそらく、殿下にライヴァール様との婚約を破棄させ、王国内の政局を混乱させること。帝国の思惑が絡んでいる可能性が高いです」
一気に話が大きくなった。確かに、プレイア嬢の説明を聞く限り、外部の人間の思惑があったとしか考えられない。ただし、そのような事件が起きたのであればの話なのだけど。
「ごめんなさい、いくつか確認したいのだけど、まず、来月の舞踏会で起きることがなぜわかるのかしら。予言の魔法でも使ったのかしら」
「そう……ですね……。少し説明が難しいのですが、天啓のようなものを授かったとお考えいただければ近いかと。この学園で私が体験する重要なことがらのいくつかを、入学前に夢の中で体験しているのです。こうすればどうなるか、こうしなかったらどうなるかといったことも含めて」
「では、来月の舞踏会の事件は貴女がどう動けばどう変化するのかしら」
「切り裂かれたドレスを見つけた後、私が誰に頼るかで犯人とされる方が変わります」
「何をバカな……起きた事件の犯人が後から変わるなんて、そんなことがあわけが……」
「はい、もちろんそんなことはあり得ません。ですから、真犯人が別にいて、状況に応じてその罪を別の誰かになすりつけていると考えたのです」
「!?」
なんという発想をする娘なのだろう。でも確かに、それならつじつまは合う。
「これまでもいくつかの不自然なイベント……いえ、出来事について裏の事情を探ろうとしていたのですけど、私の立場では上流貴族の事情は調べることが出来なくて、確証が得られなかったのです」
なるほど、この娘の考えていることがおぼろげながらに見えてきた。
「それで最初に殿下の侍女について聞いたのね。今回の件に関わっていることが確実な侍女たちが誰とつながっているのかを探るために」
「さすがライヴァール様、ご慧眼です。今回の手紙についても、殿下の侍女が何かしらの誘導をしていると考えています。私が読んですぐに殿下がたまたま通りがかるのですが、殿下は普段はあの時間は武術修練場におられれるはず。
他にも何かあったときに絶妙のタイミングで殿下がいつもと違う行動パターンで私のそばに現れます。あまりにもタイミングが良すぎます。私が手紙を目にする時間を把握していて、かつ殿下のそばに居る誰かが誘導したとしか考えられない。その条件を満たすのは侍女の方たちだけです。
では、誰がどんな思惑を持って侍女たちにそれを指示したのか。不祥事での王宮の混乱を喜ぶ誰かが暗躍しているのは間違いないのですが、それが誰なのかははっきりしていなかったのです。考えられるとすれば、新興派の貴族か、国王の権力に食い込もうとする教会の手のものか、王国と対立する帝国のスパイか……」
この国の貴族や教会のコネで侍女に付いたのであれば、王宮有数の権力者につながる私への顔つなぎを必ずする。それをせず暗躍しているのであれば、王国支配者層の内部崩壊を目的にしている帝国のスパイが消去法で残るというわけね。確かに、言われてみればその可能性は高そうだけど、これを庶民の立場から断片的な情報だけで推測するなんて……。
行動力も尋常ではないわ。今日見せてもらった見取り図だって、それなりの立場のものでないと入手が難しいもの。後ろ盾も何もないこの娘がそれを入手するにはそれ相応の手間や策謀が必要だったはず。
「プレイア嬢、一つ聞いて良いかしら」
「はい、何か不明な点がありましたでしょうか」
「なぜ、そこまでわかっていて、さらなる真相を知ろうとするのかしら。天啓を利用して地位を高めるのであれば、そんなことを知っている必要はないでしょう?
むしろ、私に話したことで事件が起きなくなる可能性だってあるはずよ」
私の問いに、彼女は微笑んだ。
「ライヴァール様、私は学園での生活を人生の頂点にしたくないのです。確かに、ただ天啓に従っていれば、一時的に権力争いの漁夫の利を得ることができましょう。しかし、足場も固めずに手につかんだ幸運だけで得られたものは、逆にちょっとした不運ですぐに失われてます。
運良く得られた地位を維持したいのであれば、さらなる上を望むのであれば、足下をおろそかには出来ません。今回の件も、一歩間違えばこの国全体が内憂外患の窮地に立たされる危険すらあります。そうならないために、天啓という学園にいる間だけの幸運にただすがっているわけにはいかないのです」
なんという強烈な上昇志向だろう。この国の貴族の娘たちは結婚こそが人生の終着点と考えている者が多い。結婚してしまえばあとは子を産み、家に守られて安全に暮らすことしか考えていないのだ。だが、この娘は違う。社会の表舞台に自分の意志で立ち、常に上を目指し続けるのが当然だと思っている。
私は悟った。この娘は決して敵に回してはならない。
10年に一人の天才と呼ばれる頭脳を持ち、学術に優れているだけでなく、権謀術数でもそこらの貴族など足下にも及ばない。これが私と同い年とは、なんて末恐ろしい娘なのだろう。
悪役令嬢が出てくる乙女ゲー主人公に、策謀家の主人公が転生したら面白いんじゃないかと思って設定を考えてたんですが、このケースだと第三者の視点から描写した方がその異質さが際だって良いんじゃないかと思うんですよね。




