外なるもの転生とマクスウェルの悪魔
このシリーズは設定厨が思い付いた設定を元に第一話分だけでっちあげてみた、というシリーズです。
設定だけなので続きとか考えていません。
もし、続きが読みたいという奇特な人が居たら、適当にパクって自分で書いてみてください。コメントに作品URL張っていただければ読みに行きます。
異世界転生、話には聞いたことがあるがまさか自分が体験することになるとは思わなかった。
今、俺の目の前には何もない真っ白な風景が広がり、知的生命体らしい名状しがたい巨大な何かが鎮座している。
自分でも意外なことに、そんなSANチェック待ったなしの状況でも案外冷静に状況を受け止めることができていた。
平静を保てていたのは、多分直前の死亡体験が凄絶だったからだろう。
それまでの人生はある意味平凡だった。大学を1留してギリギリの成績で卒業し、運よくそこそこ大きな会社に入社できて、大きな失敗も成功もなく窓際一歩手前で平社員を10年以上続け、しかし独身のまま人生の展望もなく中年のおっさんになっていた。
そんなある日、会社帰りに繁華街近くを歩いていたところ、裏路地から飛び出してきた女性にぶつかったのが人生終了の合図だった。女性は地面にしりもちをついてしまった俺に「すみませんっ」と一言声をかけるとそのまま俺の脇を抜けて走り去ろっていく。
直後、同じ路地裏から包丁を振り回し血走った目をしたマスクで顔を隠した男が目の前に現れた。直感的に女性はこの男から逃げてきたと察した俺は、なぜか突然沸き上がった正義感と勇気でもって、男の進路を遮るように立ち上がった。
俺など眼中になかった男は俺を突き飛ばして女性を追いかけようとしたが、そう来るのが分かっていた俺は一歩前に出て身をかわしつつ男の右腕、包丁を持っている腕を脇に抱え込む。そのままもみ合いになって脇腹に激しく熱い痛みが走る。
刺された、そう感じて痛みでひるんだすきを突かれ、男は俺を車道に突き飛ばす。受け身も取れず投げ出され、身を起こそうと顔を上げた瞬間、俺の目に入ったのは猛スピードで突っ込んでくる大型トラックだった。
痛みで何かの脳内物質でも出ていたのか周囲全ての動きがスローモーション再生され、トラックの運転手がスマホを操作しているのが見て取れた。ただ、思考だけ加速しても体は動かず、そのままなすすべなく数トンはあろう鉄の塊に跳ね飛ばされ、そこで俺の記憶は途絶えていた。
つまり、小説投稿サイトでよく読んでいた転生もののフルコースみたいな人生の終焉を体験したわけだ。自分が文句のつけようもなく死んでしまっていることを自覚しているから、今更何がやってこようと平静でいられたのかもしれない。
あるいは、趣味でよく読んでいた小説サイトのシチュエーションに何かしらのデジャブ的なものを感じていたのか。
いずれにせよ、目の前の異形が何かのアクションを起こすのを静かに待つことができていた。
「転生ものの定番だと、出てくるのは神様か女神様なんだけどな……」
そうつぶやいたところ、名状しがたい何かの方から声が響いてきた。
「残念ながら、我は神ではない。ぬしらの世界でいえば悪魔に属するなにかである」
言葉と同時に、俺の脳裏に膨大な量の情報が流れ込んできて、強制的に目の前の存在を理解させられた。
この何かは、世界を形作る大いなる存在の意識の欠片だった。俺が住んできた世界をはじめ、いくつもの並行世界は、大いなる存在の見る夢であるらしい。
大いなる存在は代り映えしない夢に飽いていて、変化を起こそうと無意識のうちに世界に干渉しようとしている。
目の前の異形は世界への干渉を行うために発生した大いなる存在の無意識の欠片だった。神に等しい力を世界にふるうことができるが、お世辞にも善の存在とは言えない。むしろ天災人災を引き起こす悪魔だといえるだろう。俺の身に突如訪れた波乱万丈の終焉は、そんな世界への干渉によってもたらされたものだった。
ただ、目の前の欠片がいくら天変地異を引き起こしても思うような退屈しのぎを作り出すことはできておらず、手詰まりに陥った。そこで新たな試みとして始めたのが、ヤツがひきおこした天変地異で世界からはじき出されてしまった魂を拾い上げ、別世界に送り込んで暴れてもらうというやり方だ。
巻き込まれた方からしてみれば、ずいぶんと身勝手な話である。理不尽な理由で殺されて、わけもわからず未知の世界に送り込まれたところで何ができるわけもなし、むしろ異常体験をした反動で平穏に退屈に寿命を全うしようとするものがほとんどだったらしい。
そこで、欠片は暴れやすいようにおぜん立てを整えるため、送り込む前に欲しい能力を与えてやることにした。その試みは、いくつかの世界で成功を収めたようだ。ただ、その加減はなかなかに難しく、あまりにも万能すぎる力を与えるとそれはそれでつまらない結果になりやすいらしい。
そんなわけで、大いなるものの欠片が提示してきたのは、こんな条件だった。
「ぬしの知るぬしの世界の悪魔名前を一柱あげよ。その悪魔の持つ力を与えよう」
悪魔という存在は普遍的にどの世界に存在し、強力な力を振るったという逸話が残されている。しかし、持てる能力の数は限られ、世界そのものをどうにかするような万能の力ではない。神にあだ名す悪魔は、その性質上神によって誅される程度の力しか持ちえないのだ。
なるほどな、とある意味感心したが、ではどんな悪魔の力が欲しいかと言われると、思いつかない。そもそも特定の宗教を信仰しているわけでもない日本人の、さらに理系の俺には能力とセットで知っている悪魔が数えるほどしかいない。思いついても、疫病を流行らせたり、他人を堕落させるみたいな、もらっても大してうれしくなさそうなものしか出てこない。
そんな中、理系だからこそ名前も能力も知っている悪魔がいくつか居ることを思い出した。それらの能力を思い浮かべて悩んだ末、俺はこう答えた。
「『マクスウェルの悪魔』の力をくれ」
解説のようなもの
マクスウェルの悪魔とは
Wikipediaによれば、1867年にジェームズ・クラーク・マクスウェルという物理学者が提唱した思考実験で、提唱者の名前をとってマクスウェルの悪魔と呼ばれている。
もし、分子の動きを監視でき、その動きによってより分けることができるの悪魔が居れば、エントロピーを減少させることができるのではないか、というのがその内容である。
エントロピーというのはものすごく単純に言うと熱の伝わりかたの法則で、熱はより冷たいものにしか伝わらない、という内容。
例えば、ばねに伝える力であれば、行き過ぎて反動で逆戻りしたりすることがあるが、熱伝導にはそれがない。これが、熱力学第二法則と言われている法則。
しかし、熱というのは分子の振動の強さとして現れるが、分子一つ一つに注目すればその動きの強さは均一ではないはず。であれば、動きの強い分子と弱い分子をより分けることができれば、熱力学第二法則に反した現象が発生するはず。
具体的には、50度のお湯を、0度の氷と100度のお湯に選別したりすることができる。
これがマクスウェルの悪魔である。
ちなみに、科学の世界ではマクスウェルの悪魔は存在しえないことが証明されている。
マクスウェルの悪魔が持つ能力は以下の二つ。
・分子レベルのミクロのものの様子を知覚できる
・分子レベルにピンポイントに選別して動きを制御できる
もし、このような能力を持っていたとしたら、熱操作以外にも錬金術系統でチートな能力を発揮するだろう。
例えば、お酒から水成分だけを取り出してアルコール濃度を高める、炭素原子を組み替えてただの炭を巨大なダイヤモンドに変える、鉄と炭素を均一に混ぜた高品質な鋼を作る、単分子カッターを作り出すなどなど。
分子レベルでのものを知覚できるなら鑑定的なこともできるし、人の体を細胞レベルで作り替えることだってできる。治療、生体改造なんでもござれだろう。
もし、こんな能力を持って異世界に転生したら、どんな冒険をするだろう。
それと、マクスウェルの悪魔と同じような思考実験にラプラスの悪魔というのが居たりするが、そちらは能力の性質上なろう的転生ものには向かないと思われる。




