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クッキー姫  作者: ガバいエイムばあちゃん
3/3

第3話

森にはおっそろしい魔女が住んでるでよ!


近付くんでねぇど!


紅茶の上品な渋みのある香りと、お菓子の甘い香りが溶け合って私たちの鼻をくすぐる小屋の中。

新たなお客さんの来訪でお茶会を仕切り直した私たちは、明日を一つ増やして丸テーブルを囲んでいた。


「わぁ!お姉さんの持ってきたリンゴ美味しいです!」


「ムグムグ、美味しい!」


「まぁ、及第点ってとこかしら?」


魔女のお姉さんが持ち寄ったリンゴを食べて三者三様の感想を述べる私たち。

リンゴそのものの品質もさることながら、魔女のお姉さん以外は先ほどまでクッキーを食べていたので瑞々しい果汁が新鮮でより美味しく感じられた。


「そういえば今更ですけどお名前を伺ってませんでしたね。」


本当に今更だが、いつまでも「魔女のお姉さん」と呼び続けるのもよそよそしいのでここで聞いてみたのだが、




「フフフ、あんた魔女に真名を聞いちまうかい。」




少しこちらの不安を煽るような返答が返ってきた。

魔女というものに出会ったことがないから知らなかったけど、あれ、これはまずい質問だったのかな?死ぬのかな私。


「あんたマロを必要以上に怖がらせないでよ。魔女の名前知ったくらいでどうこうなるわけないじゃない。精霊の私達でさえ初耳よそんなの。」


ここで植物の精霊さんがお姉さんをジト目でたしなめた。


「ああ、ごめんね。ちょっとからかっちまったよ。魔女ジョークさ魔女ジョーク。」



あらやだお姉さんたらお茶目なんだからもう。本気でビクビクしてたのに。




「リリっていうんだ。私の名前。」




お姉さん改めリリさんはあっさりとその名を告げた。


「リリさんですか。素敵な名前ですね。失礼かもしれませんがなんだか思ってたより可愛らしいです!」


村人から恐れられる森の魔女というくらいだからもっとカイザーなんたらとかインフェルノなんたらとかおどろおどろしいものを想像していたが、なんだかとても女の子らしい名前だなぁ。


私の発言に当のリリさんはちょっと顔を赤らめて口を尖らせる。


「そりゃあ娘が森の魔女として人々から恐れられるなんて産んだ時点で想像できる親なんていないからね。名前も無難なものになるさ。」


こんなに美人だと拗ねてる顔も破壊力抜群ですわ。

ちょっと気を緩めるとぼーっと魅入ってしまいそうになりましてよ。


・・・なんだこの口調。


いけない。私は割と健全な精神の持ち主だと自負していたんだけど、あまりの美貌で表情の一つ一つに心が吸い寄せられてしまいそうだ。


そんなこんなでしばらく時が過ぎ、リリさんが来てから焼き始めたクッキーが焼きあがったようだ。



「あ、クッキーがちょうど焼けたみたいですね。私取って来ます。」



そう言って私は立ち上がり、お茶会をしていた部屋と壁一枚で仕切られたキッチンへ移動した。


精霊さんたちのためにストックしたものではなく、新たなお客さんであるリリさんのために新しいものを焼いたのだ。


精霊さんたちはどうもならないけど、私がクッキーを振る舞った人間は5人中3人が死亡している。「美味しすぎる」という訳の分からない理由で。

せっかくのお客さんに少し失礼かもしれないが、これは人間用にほどよく手を抜いて作ったクッキーである。


お菓子をわざと美味しくなくなるように作るというのは逆に難しかったけど、あの悲劇は繰り返すわけにはいかないのだ。


砂糖は控えめ、材料も今あるものから最も低価の安物。前に同じものを振る舞った精霊さんからも「うーん、美味しいっちゃ美味しいけど、微妙。」という心強いお墨付きをもらっているから大丈夫!大丈夫だよね。


前に私のクッキーを食べて狂ってしまった怖いおじさん達のようなことにはならないはずである。



「よし。大丈夫!」



初めてちゃんと人間のお客さんに振る舞うクッキーだ。よろこんでくれるといいな。


「お待たせしました!クッキー焼けたのでどうぞー。」


若干の期待と不安を飲み込んだ微笑をたたえながら、精霊さん、そしてリリさんにそれぞれのお皿でクッキーを差し出す。


「やったぁ!いただきまーす!」


「あんたさっきも結局一皿分平らげたのによく入るわね。」


「フン、クッキーなんてなんねんぶりかね。ありがたくいただくよ。」


まずは精霊さんたちが自分の体長の半分近くあるクッキーを掴み取り、それぞれかじりつく。


「んー!美味しい!」


「あんた本当にそれしか言わないわね。ムグムグ。」


彼らにはいつも通りのクッキーを出してあるので、反応は大して変わらなかった。


さて、残るはリリさん。あれ以来初めて人に出すクッキーだ。果たして・・・。



〜リリ視点〜


世界一の美貌を持つ私に匹敵する程の美貌を持つ娘マロ。


そいつがどんな奴なのかを見定めに出向いたんだが、少し厄介な、いや、今となってはそんなに悪くは思ってないが、おかしな状況に陥っている。


魔女ということを伏せ、軽めの接触を済ませて帰ろうと思っていたのだが、一緒にいた精霊にその速攻で正体を暴かれた。


私が魔女だと知れれば大抵の人間は恐れおののきその場を動くことすらままならない。


楽しそうにお茶してる最中だったみたいだし異端者である私があまりその場を引っ掻き回すのも気が引けたのでこの場は立ち去ることにしたのだが・・・。


なぜだか今はテーブルを囲んでお茶会に参加している。


私はこの娘マロの人となりにも興味があって来たのだが、長らく人と会わずにこんな森の中で暮らしていたからか、魔女の私を見てもそれほど恐れず、逆に自分から関わりを持とうとするなど、少々変わった娘であることが分かった。


さてそのマロが自分で焼いたというクッキーを持ってきた。


私は調理らしいことといえば薬の調合とかばかりで、家事全般はギラギラと暑苦しい従者に丸投げしてある。


(お呼びですかご主人!!)


なんかギンギラの彼が箒とちりとりを手にニカッと微笑みかける幻覚まで見えてきた。



さて、それは置いといて


なんというかこう、容姿では互いに拮抗しているがこういう家庭的な面で差をつけられているような気がして、彼の手伝いを少しくらいならしてやろうかという気にもならなくもない。



さて、件のクッキーなのだが、自分の半分も生きていない小娘の料理だなんて見くびっていたが、なかなか綺麗に焼けていて香ばしい匂いがする。


創作物によくある壊滅的に調理ができないタイプも警戒していたが、その心配は無さそうだ。


「へぇ、美味そうじゃないか。それじゃさっそく失礼して・・・。」



私はそのクッキーを一口かじった。



「これは!?」



口に含んだ瞬間私の身体に衝撃が走った。


(なんだこの多幸感!?美味しいとかそんなレベルじゃない。魅了の魔術か?いや違う。魔術で細工した痕跡は無い。)


私は更なる分析のため一口分欠けたクッキーを口に放り込んだ。


(魔術でないとしたら薬、いや、それも違うね。私なら食う前に匂いで気がつくはずだ。だとすると単純に調理でこれを作り上げたってのかいこの娘は!)


私は更にお皿のクッキーに手を伸ばした。

今まで出会ったことの無いほど美味なのに何故か懐かしい。


脳に味覚の情報が行き着く前に訪れるこの膨大な幸福感。


可能なことならずっとこれを食べて生きていたい。



分析のため、あるいはただ単に身体が求めてか、3個目、4個目と食べ進めるうちに皿のクッキーは無くなってしまった。


何か心の中が満たされたようで、心の中からまだこれを欲する声が聞こえる。

これはもしかするととんでもない娘に出会ってしまったのかもしれない。



〜マロ視点〜



これはまずいのではないだろうか。



リリさんがクッキーを一口かじってから固まってしまった。

そしてまた動き出したかと思うと再びクッキーを食べて固まった。

そんなルーティンをお皿のクッキーが無くなるまで続けた後、やはり再び難しい顔をして動かない。


「あ、あのぉ〜。もしかしてお口に合いませんでした?」


反応があるかどうか試すために、恐る恐る呼びかける。

少しの前を置いた後、ハッとしたように我に帰ったリリさんがようやく言葉を発した。


「これ・・・お前が作ったのかい?」


どういう意図の質問だろう。手を抜いたのがバレて怒らせてしまったのかな。


「はい。頑張りました。」


当たり障りのない返答。実際頑張った。


「マロ、あんたは凄まじいものを持ってる。バカみたいな話だけどこのクッキーは人を惑わすこともできれば籠絡することも訳ないだろうよ。」


しまった逆だ!!


ある程度手を抜いたつもりだったが私のクッキーはまだ危険域を脱していなかったようだ。


「あ、あの!すみません!」


「なんで謝るんだい。」


「そんな危険なものをお客さんに出してしまって、私ったらもう大丈夫だと思ってたのに・・・。」


私は深く頭を下げて謝罪した。

リリさんは正気を保っているようだが、一歩間違えればまたあの悪夢が再来するところだったのだ。


謝罪とともに、私の過去に何があったのかをリリさんに話した。話を聞いていたリリさんはなぜか納得したように頷いた。




「・・・なるほど、そういうことかい。心配しなさんな。別に私は怒っちゃいないよ。その程度じゃあ私は死なないしね。」


リリさん曰く、魔女として人間の域を出てしまったリリさんは、精霊さんと同様に何らかの耐性があるのだとか。


「でも、失礼な話ですが今回は少し調整してわざと美味しくなくなるように作ったんです。それでもやっぱりその・・・危ない域を出てませんか?」


もしそうだとするともう本当に人にはクッキーを出せない。弱々しい声でリリさんに尋ねた。



「うん、これは普通の人間だったら自制心が効かなくなるレベルだね。身体が求めるままに食べ続けてそんで限界を超えて死んでしまう。このクッキーにはそれほどの力がある。」



リリさんの言葉に私はゴクリと唾を飲んだ。



 「しかも恐ろしいのがそれを魔法や薬ではなく単純な調理の腕で成し遂げてしまうところさね。あんたが悪意を持ってこれを作ったんじゃないってことは承知のうえで、普通の人間、とりわけあんたの大事な人にはすこし手を抜いたものを出すことをおすすめするよ。」


 「もうやってるんです・・・。」


 「なんだって?」



 私の一言に聞き間違いかとリリさんが聞き返す。


 「過去の悲劇を繰り返さないように、リリさんには申し訳ないのですが、わざと美味しくなくなるように作ってあるんです。」


 私の告白に目を丸くするリリさん。


 「アッハッハッハ!!驚いた!まだ上があるってのかい!こいつはいいね。それを口にできたやつはまさしく天国を見るだろうよ!」


 リリさんはその端正な顔立ちに似合わず豪快に笑った。


「あ、あの・・・。」


 「いやぁ、ごめんよ。あんたのことをただのなよっちい小娘だと思ってたんだけど、それは違う。あんたは魔法使いとして人類の頂点に立った私と同格の力を持ってる!」


 森の魔女と同格とは・・・。人里はなれて森にこもっているうちに私は妖怪にでもなってしまったというのだろうか。


 「でも、わたしはリリさんみたいに何でもはできません。ただクッキーを焼くくらいしか・・・。」


 ちょっと誇張が過ぎるんじゃないかと思った私はそう口走った。


 「いや、あんたの本気のクッキーってやつを出された日にゃさすがの私もどうなるか分かんないからね。あんたは唯一私を殺す、いや隷属だってさせられる人間ってわけさ。」


 どんどん話のスケールが大きくなってついていけなくなって来た。



 「そ、そうなんですか。でも私は森の中で静かに暮らしたいだけなので、宝の持ち腐れですね。」



 「いや、そんなことはない。現にアンタはこのクッキーを通して、」


そこで一呼吸入れて、こちらの目をまっすぐ見ながら続けた。




「この森の魔女を惚れさせた女だからね。」





ちょっぴり卑屈になった私にリリさんがかけた言葉はあまりに唐突で、理解まで少しばかり時間を要した。


あれ?これは百合?百合の花咲くの?


「惚れ・・・ハイ?」


「なに、深い意味はないよ。じゃあ私はこの辺で失礼しようかね。」



目を丸くして固まる私にそう言うと、リリさんは立ち上がって椅子に掛けていたローブを身に纏った。


深くない惚れるって何!?




「美味しいお茶とクッキーありがとさん。久々に楽しかった。また来るよ。」


「あっ・・・ハイ!お待ちしております・・・?」



森の魔女は嵐のように訪れまた嵐のように去ってしまった。

まあ、また来るとの事なので近いうちにまた会えるんじゃなかろうか。



「綺麗な人だったなぁ・・・。」



「マロ・・・?マロ?おーい」


しばらくポケーっと虚空を見つめていた私に植物の精霊さんが話しかける。


しかし返事はない。屍のようだ。


「ダメだこりゃ。さて、そろそろいい時間だし私達も帰りましょうか。」


「うん。そうだね。今日の分のクッキーノルマは達成したよ。」


「アンタねぇ・・・。」



思考が異世界へ旅立ってしまった私とどこまでもマイペースな土の精霊さんに呆れた様子の植物の精霊さんは、惚けた私の頭にそっと百合の花を飾ってから帰って行った。


「じゃあ僕も帰るね!またいつか〜。」


土の精霊さんも続く。


私はぼんやりとしたまま2人に手を振り、窓を閉めた。




それから約1時間後。



「ふぃ〜。なんだか濃い1日だったなぁ。」



太陽が山に沈みかけ、森の中にある小屋は一足先に暗闇に包まれ始める頃、私は一人でそんなことを呟いた。


過度の緊張と混乱を短時間で繰り返した頭は休養を求めているが、とりあえずはお茶会の片付けと、今日の夕飯の準備を始めなければ。


「さて、何から始めたもんじゃろな〜」


微妙にリズムをつけながらそう呟き、テーブルに出た食器を回収する。


割と山盛りに近い量のクッキーが乗っていた皿がすっからかんになっているのを見ると、なんだか少しスッキリとした気分になる。


こうやって食べてくれる人がいるから、またクッキーを作ろうという意思が湧いて来るのだ。



もちろんやりすぎない範囲でね♪






そんなことを思いながら食器を片付けていると、玄関のドアが再びノックされた。




(誰だろう。リリさん忘れ物でもしたのかな?)



玄関から入ってくるお客さんなんてリリさん以外に心当たりがないので、ちょっと緊張しつつもドアを開けてしまった。




入ってきたのは、3人の男の人だった。





「すまぬ娘よ!今晩泊めてはくれまいか!!」



私の脳は本日何度目かのフリーズ状態に陥った。





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