知らない気持ち、恋心と
その日の夜、俺は布団の中で今日あった出来事を思い出していた。
素手同士の戦闘において、新木を組み伏せ圧倒的有利な状況にあったにも関わらず、新木が全身武装を装着しただけで、立場が逆転してしまった。
たった一撃避けるのもやっとな速くて重い攻撃。
攻撃をくらった時、俺は絶対に勝てないと悟ってしまった。
絶対的な差。
全身武装の出来る者と出来ない者との目に見えない境界線であるかのように感じた。
そうしたこともあってか、
全身武装が出来る=優秀
という風潮がある。
「…くそったれ」
隣のベットで酒見先生が寝てるためか、無意識に声も小さくなる。
(いつまでもこのままってわけにもいかねーよな)
そう思いながらも、どうすることも出来ない俺はさっさ寝ることにしたのだった。
~織音side~
「……とうだい…」
あの場で綺麗な女の先生が彼のことをそう呼んでいた。
おそらく彼の名前だろう。
「…なんで私のこと…あんなに庇ってくれたんだろう…?」
織音は常日頃から全身武装について周りから馬鹿にされ続けていた。
気にしてない、と言えば嘘になる。
しかし、事実は事実である。
無愛想なせいか彼女を庇おうとする者は誰もいなかった。
それが当然の事だと分かってはいた。
いつも相手にせず黙って過ごしているから、今日もいつものようにほっとくつもりだった。
しかし彼はわざわざ相手に突っかかって行った。
彼女に謝れ、と私のために何度も何度も。
私はそれを見て迷惑とは思わなかった。
むしろ嬉しい。すごく嬉しかった。
あの時感謝を伝えようと思ったが、教師に連れていかれたのを見ていることしかできず、伝えることを忘れてしまっていた。
「ちゃんと謝って…お礼を言おう…」
自分のために一生懸命になってくれた彼のためにも。
そう思いながら布団に入る。
(……あれ…?)
ふと織音は、自分の心臓の鼓動が早く動き顔が熱いことに気がついた。
「なんだろう?…風邪…かな?」
そう結論付けて寝ようとするも、なかなか眠りにつくことが出来なかった。
その上、布団の中で彼の事を考えるとますます目が冴えてしまうのであった。
織音の彼への想いが恋だと知るのはまだ先の事である。
朝、学校に登校すると周りからヒソヒソ声が聞こえてくる。
あの話が少し沈静化したかと思いきや、また目立つ事をしてしまった俺は、また噂の中心に逆戻りだ。
教室に入ると例のごとく三船さんやその友達二人、山根さんと西山さん(最近覚えた)に事の転倒を聞かれた。
軽く事情を説明すると、あの先輩は昔っからウザかった、と評判は悪かった。
「停学なんていい気味よ!」
西山さんがそう言う。
失礼ながら俺もその意見には賛成だった。
ただそのまま狸寝入りを決め込むとは思えず、警戒だけはしていようと思う。
雑談していると酒見先生が教室に入り、いつものようにHRが始まった。
昼の授業も終わり、三船さん達と一緒に昼飯を食おうと思ったが、酒見先生に次の授業で使う資料を持ってこいと言われ、別々に食うことにしてもらった。
遅れて食堂に入り、定食を頼みこむ。
どこか座れる場所を探していると長椅子に一人しか座っていない所を見つけ、すぐさまそこに移動する。
「…あ」
「…刀鞘君?」
座っていた女子には見覚えがあった。
というか、忘れられない。
いきなり初日から突っかかって来た火野エリスがそこにいた。
いまさらどこかに移動するのも変なので彼女の真正面に座る。
「ここは特等席よ?私だけのね」
「知るか。共有スペースはみんな平等なんだよ」
語尾が少し強くなる。
察しの通り、あまり彼女には良い印象が無くどこか刺々しくなってしまう。
「…そ」
短くそう返されるとお互い無言で飯を食べる。
「…ごちそうさま」
彼女より早く食べ終えた俺は早足にその場から離れようとする。
「ねえ」
「…なんだ?」
彼女に話しかけられる。
「馬鹿にされていた女の子を庇ったそうね」
「…それがどうしたんだよ」
「それは誰にでも出来ることじゃないわ。誇ってもいい事よ」
「…!」
意外な言葉に言葉に詰まる。
彼女は俺のした事を褒めてくれたのだろうか。
「あ、ありがとよ」
それだけ伝え、照れくさくて食堂から逃げるように去る。
「…ふふっ」
一度火野の方を振り向くと、彼女は笑みを浮かべ笑っていた。
その無邪気な顔にドキッとするも顔を左右に振り今度こそ食堂を後にした。
行くか行かないか迷ったが、織音がいたあの広場に向かう事にした。
「ちょっと気まずいよなぁ」
そう思い広場の石影に隠れ、彼女の座っているベンチを覗くと彼女はいつものように大量の弁当を食べていた。
「…あほらし」
それを見て、気まずくなっていた俺が随分と阿呆らしく思えて笑ってしまう。
「よお。昨日ぶりだな」
元気良く俺は声をかける。
「…とうだい」
「あれ?名乗ったけか?えーと織音さん?」
「…玲子」
「え?」
「…玲子でいい」
「じゃあ…玲子」
「…うん」
「俺は刀鞘大和。好きに呼んでくれ」
「…じゃあ…やまと」
「お、おう」
女の子に下の名前を呼ばれると気恥ずかしくなる。
「「……」」
「…座っていいよ…」
そう言って、ベンチにあった多量の弁当を引き寄せ人一人座れるスペースを作ってくれた。
それに従い座る。
しばしの沈黙の後、玲子は口を開いた。
「…昨日は…庇ってくれてありがとう。
…嬉しかったよ」
彼女は顔をこちらに向けている。
真摯に伝えようとしてるのが分かる。
「…でも俺はあの男に謝らせることが出来なかった」
俺は自分の不甲斐なさを恨んだ。
「…ううん。私のために一生懸命になってくれたことが嬉しかったの…だから…ありがとう。
それに…昨日、お礼を言えなかったから…ごめんなさい…」
丁寧に玲子は頭を下げる。
感謝と謝罪が合わさったような感じだ。
「俺こそあの時逆上して殴りそうになった時、止めてくれてありがとう」
今回罰が軽かったのも相手を殴ったりせず、
押さえつけただけだったおかげでもあるはずだ。俺も頭を下げてお礼を言う。
「…ふふっ」
「…ははっ」
謝りあうのを見て、お互い自然と笑っていた。
そしてお互いのわだかまりが無くなり、昼休みが終わるまで喋り続けていた。
余談だが、彼女は俺と同じ二年生と、同級生だった。
「…じゃあ、また明日」
「おう。明日な」
明日もここに来よう。そう思い玲子の方を見ると、彼女の顔が少し赤かったのは気のせいだろうか。
彼女と話しただけで今日一日頑張れると思うのは俺が単純だからかな。
そして勉学には悪戦苦闘しながらも三日の月日が流れる。
まだこの時は学園に危機が訪れるなんて
誰も思ってはいなかった。
さて、いよいよ物語は動きだします!




