決闘②
「決闘のやり方は知っているんだろうな?」
そう、ロードに向かって問いかけてくる相手は、如何にも舐めくさった態度のあの副隊長だ。
彼は約束通り現れたロードに一瞬驚いた後、ロードの全身を舐め回すように見て舌なめずりをした。
決闘には三つの基本的なルールがあることは、エリックに聞いた。
その一、観衆がいること
その二、武器を手放した時点で勝敗を決すること
その三、敗者は勝者に従うこと
その一は不正を無くす為、その二はあくまでも模擬形式で行うので殺傷無用の為、その三は言わずもがな。
だが今回は三つ目のルールに、ロードが女という特約事項がつく。
男が女を従わせる、考えていることは皆同じだ。
ロードはそんな男の本心を見透かし、嫌悪した。
何処の世界でも、考えていることは一緒だな。
さて、今回手持ちが無いロードの為、用意された武器は三種類ある。
一つ目は棍棒、長さ180cm程有り、一般的な成人男性向けのものだ。
今のロードの身長が130cmそこそこ、棍は長めが基本とはいえ長すぎる、却下だ。
二つ目は槍、これも棍棒に同じく長すぎるので却下だ。
最後は剣。
どうやら男の方も、剣を扱うようだ。
ならこれが互いの力量を図るのに、一番手っ取り早いだろう。
指定の位置に戻ると、さっきよりニヤつきが増えた男に更に怒りがふつふつと湧き上がった。
後方では数刻前にいじめられていた男、エリックが不安気にこちらをみている。
負けるわけにはいかない、必ず勝つ、それも、最上の方法で。
睨み合う両者の間に、審判役を担ってくれた兵士が立つ。
用意が出来た事を確認すると、決闘の合図を出した。
「決闘…開始!!」
ロードは普段通りの構えを見せる。
前世で習っていた剣道の構えだ。
周囲の兵士はその見たことがない構えに、疑問を呈する。
最初に動いたのは、男の方だ。
特攻で近付いてくると、ロードに向かって剣を大きくく振りかぶる。
その剣を真正面から受け止めたロードは、数センチ後ろに押しやられた。
「ッ」
「おいおい、手加減してやれよ!女の子だぞ!」
野次が飛び交う中、男は更に拮抗しあった剣に力を込める。
「うるせぇ!
大人の恐ろしさを、このガキに、思い知らせてるんだよッ!」
じわじわ押し問答を繰り広げる様は、一見男が優勢の様だが、事実は違った。
男は少なからず焦っていた。
まさか、最初の一撃を受け止めるとは。
あの時点で女の剣を叩き落とし、勝負はついていた筈だ。
その為に本気で振り下ろしたつもりだった。
それなのに現実はどうか、身長も体格も違う少女に、互角の力でせめぎ合っている。
何なんだ、この女は…!
一方のロードも、前世との力の違いに気付いていた。
以前の自分なら、このぐらいのなまくら剣、簡単にはね返せた筈だ。
しかし、今は弾き飛ばされないようにするのに力を込めるのが精一杯だ。
これが、今の自分の実力だというのか…
一旦引き下がるか、そう迷いが生じた時、一瞬の気の緩みが身体に異変をもたらした。
突然腕から力が抜け、バランスが崩れる。
ロードとして初となる試合、まだどれ程まで自分の身体が耐えれるのか、彼女は把握していなかった。
その不意を、男は見逃さなかった。