表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/10

第6話:妹セリーヌの反撃――“真実の愛ごっこ”の終焉

王宮の空は、まるで何かの前触れのように重く曇っていた。


 その朝、私のもとに一本の文が届いた。


 差出人は――セリーヌ・グランフォード。


「姉さま。お話ししたいことがあります。どうか、一度だけ、お時間をいただけませんか――セリーヌより」


 達筆で丁寧な文面。けれど、そこに込められた焦りや苛立ちを私は見逃さなかった。


(……今さら、何を話すつもり?)


 だが、私が断ろうとした矢先、シオン殿下は静かに言った。


「会え。相手の狙いは見えている。だが、そろそろ“はっきりさせる”頃だ」


 その言葉に、私は静かに頷いた。


「……ええ。終わらせましょう。私の中でも」




 約束の場所は、王都郊外にある侯爵家の離れ。


 建前上は“非公式の面会”――けれど、シオン殿下の命で王宮近衛が裏で控えていた。


「姉さまっ……!」


 到着するなり、セリーヌが駆け寄ってきた。


 ふわふわの金髪に、儚げな涙。見慣れた“可憐な妹”の仮面。


 ――でも、もう騙されない。


「話があるのなら、手短にして」


 私が冷たく言い放つと、セリーヌの顔から表情が剥がれる。


「どうして、姉さまが妃の座に……! 私のものだったのに!」


「それは私が決めたことではないわ。皇帝陛下の命令。そして殿下の意志よ」


「違う! あれはっ……全部間違いなのよ!」


 セリーヌは涙を振りまくのをやめ、憎悪に染まった目で私を睨みつけた。


「あなたは、ずっと私の邪魔だった! お父さまもお母さまも、私の方を愛していたのに……なんであなたばかり!」


 叫ぶその声は、もはや“可愛らしい妹”のものではなかった。


 けれど、私は驚かなかった。


 ――そう、ずっと知っていたのだ。

 この妹は、誰よりも欲深く、誰よりも恐ろしくて、誰よりも……寂しいのだと。


「私が“あなたのもの”を奪ったと、本気で思っているの?」


「ええ、思ってるわ。だから私は、全部取り返すの。殿下だって、私にふさわしいのよ。だって、姉さまより――」


「その言葉、殿下の前で言ってみる?」


 その瞬間、背後の扉が音を立てて開いた。


「……続けろ。興味深い話だ」


 低く響いたその声に、セリーヌは凍りつく。


 現れたのは――シオン・ヴァルディウス、第一皇太子。


「し、シオン殿下……どうして……」


「アリシアを呼び出し、何を仕掛けるか……すべて予測できていた。お前の性格も、な」


 シオンはゆっくりとセリーヌに近づく。その瞳には、冷酷な皇太子の仮面が完全に戻っていた。


「“可憐な妹”を演じながら、婚約者を奪い、毒を盛り、今度は王宮を揺るがすつもりだったか」


「ち、違っ……わたしは……ただ……っ!」


「――言い訳は聞き飽きた」


 その一言が、刃のように空気を裂いた。


「セリーヌ・グランフォード。王命により、お前は帝都からの追放を命じられる。これ以上の処罰は、姉への情とやらで見逃してやる」


「そんな……そんなの、いや……っ!」


 セリーヌは膝から崩れ落ち、泣き叫んだ。けれど、誰もそれを哀れむ者はいない。


 私はただ静かに、それを見つめていた。


 あれほど羨んでいた“完璧な妹”。

 けれど今、そこにいたのは、哀れな少女の成れの果てだった。


 


 帰りの馬車の中で、私はシオンに問いかけた。


「……本当に、あれでよかったの?」


「お前が望むなら、もっと厳しくしてもよかった。だが……」


 彼はふっと目を伏せる。


「……昔の俺も、少し似ていたからな。認められたくて、愛されたくて、手段を間違えたことがある」


「……殿下も?」


「今はもう、違う。お前に出会って、変われたからな」


 その言葉に、胸がふわりと温かくなる。


 もう、妹と比べられることもない。

 誰かの代わりとして扱われることもない。


 私はこの人に、ただ“アリシア”として選ばれた。


 だからもう、振り返る必要はない。


(ここからが、私の始まり)


 そう思えたのは――隣にこの人がいてくれたからだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ついでに、すっかり忘れられてる元婚約者のエリオットと毒親も一緒に追い出せばスッキリするのに。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ