村への帰還とひきこもりと
オレは、いや、オレとエイティはオレの村に戻ることにした。
珍しい物は町で買ったが、ストレージに収納したので、手荷物はない。
エイティには、いつもよりちょっと良い服を着せた。
「じゃあ、エイティ、行くか!」
「はい。ご主人様。どこにでもついていきます。」
とりあえず、町の壁を出た。
ほどなく、トビトカゲが寄ってきた。
あ、そういえばドラゴンが小さくなったやつ。
もうね、色々ありすぎて、ちょっと忘れてた。
「ご主人様、トビトカゲが肩に。ご主人様のですか?」
「ああ、そうだよ。ドラゴンだ。」
「ドラゴンってお名前なのですね。」
「まあ、ドラゴンなんだけどね。」
どこかから飛んできただけだけど。
ちゃんとつたわったのかな?
まあ、別に伝えなくていいかな。
帰りは別に乗って帰らないし。
「さて、行くか。」
「はい。」
オレはエイティの肩を寄せた。
そのあと、転移魔法でオレの村に戻った。
ここは、オレの森のログハウスの前だった。
「え?ええ!?ここどこですか?」
エイティがちょっと混乱してる。
「あ、ごめん。説明を忘れてた。転移魔法なんだ。」
「てんい・・・まほう。ご主人様は、何でもできるのですね。」
そうだろうか。
すべてが思い通りだったら、セリカの村を襲った奴らなどすぐに見つけて、潰してしまうことが出来たはずだ。
家に入る前に気づいたが、随分周囲の耕作が進んだな。
立派に畑だ。
後で季節に合った種でも準備しようか。
牛っぽい生き物もつないである。
この村の住人は狩猟民族と思っていたが、農耕民族でもあるのか。
酪農もやっているし、10人ほどの本当に小さい村なのに手広くやっているな。
一応、ログハウスにはノックしてから入るか。
セリカがびっくりしたらいけないし。
『ドンドン』
『ガチャ』
『バタバタバタバタ』
「ユーイチ様!!」
セリカが家の奥から走ってきた。
「あ、セリカ、ただいま。」
言うが早いか、セリカが抱き着いてきた。
そういえば、数か月家を空けているんだった。
結ばれてすぐに家を空ける旦那って・・・愛想を尽かされても何も言えんな。
「セリカ、ごめん。遅くなった。」
「いえいえいえいえ!良いんです!」
久々に会ったけど、セリカってこんなキャラだったかな。
「さー、入ってください、入ってください。カフェラテも淹れられるようになったんですよ!」
ほう、それは楽しみだ。
「あれ?どちらの方・・・は・・・?」
ようやくセリカがエイティに気づいたようだ。
エイティは、あまりのことに目が点になって固まっていた。
「ユーイチ様の・・・妹・・・浮気相手!?愛人!?」
エイティは話題が自分に動いたことで、オレの後ろに隠れてしまった。
「エイティ、この人は怖くないよ?」
エイティはえぐえぐと涙目だ。
「こっ、この子はなんですか?その・・・妾だ愛人だと言われても私はただ受け入れるしか・・・」
「こっ、こら!そういうのじゃない。どう見ても子供じゃないか。」
「私ならご主人様がお望みならば・・・」
「ごっ!ごしゅじんさま~!?」
「いや、そうじゃない!そうじゃないんだ、セリカ」
トビトカゲはオレの頭の上をぐるぐる回りながら飛んでいる。
もはや混とん。
人間関係が最高にややこしくなった瞬間だった。
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落ち着いたところで、オレとセリカ、エイティはダイニングのテーブルの椅子に座っている。
ドラゴン(トビトカゲの名前になってしまった)は、ソファで一人ゆっくりくつろいでいる。
オレの横にエイティ、向かいにセリカと言う、びた一文身動きできない状況となっている。
ちょっとした緊迫した空気が流れている。
特に秘密にすることはないので、エイティとの出会いから現在までを話した。
「ご主人様、私のことそんなふうに思っていてくれたのですか。嬉しいです。」
なんとかしたいとか、面倒をみるとか、言ったことへだろうか。
エイティは少し照れているように笑った。
セリカは、とにかく涙を流してずっと「大変だったねぇ、大変だったねぇ」と繰り返していた。
うーん、二人がぶつからなければオレ的にはOKだ。
さて、一段落したところで、コーヒーでも飲むか。
「セリカ、コーヒーを淹れてくれ。」
いうが早いか、動くが早いか、先にキッチンに移動したのはエイティだった。
セリカも後にキッチンに行った。
「私が頼まれたから、私が淹れるの!」
「ご主人様の身の回りの事は私の役目です。」
キッチンで二人がもめている。
こりゃあ、しばらくコーヒーは出てこないな。
テーブルにひとり残されたオレは、これからの事を考える事にした。
コーヒーなしで。
エイティは、仕事を覚えさせて、世の中に出してやるつもりだったが、面倒を見ると言って連れてきてしまった。
奴隷癖も抜けないし、いっそオレの身の回りの事をするメイドとして雇うか。
エイティのメイド姿を想像した。
セリカと比べたら圧倒的に表情は無い。
無口なメイド・・・いいな。
ミニスカートで、シックな感じのメイド服は、エイティに合いそうだ。
ゴスロリチックなのもいいだろう。
ゴスロリは、エイティの黒髪、黒い瞳にもピッタリマッチしているように感じる。
それはオレが元々日本人だからそう感じるのだろうか。
そういえば、ゴスロリって海外風だけど、日本発祥で日本独特の文化だとウィキペティア的なもので読んだ覚えがある。
良いな、ゴスロリ。
エイティは、変にこの世界の常識がないから、家電とかも使い方を教えたら抵抗なく使えるようになりそうだ。
朝は起こしてくれて・・・いや、朝は目覚めるまで寝ていたい。
朝は起きなければならないなんて、社畜が板につきまくってるなオレ。
起きたときに近くにいるのは少し怖いし・・・
第一落ち着かない。
起きたときに朝ごはんを作ってくれるのは、セリカが出来るようになってるし・・・
掃除とか?
狭い家だし、そんなに仕事量はないな。
洗濯は・・・洗濯機がやるから、干したり、取り込んだり、畳んだり、かな。
これはなかなか面倒だ。
オレは家事の中で洗濯が最も嫌いだった。
洗濯機で洗うのはいい。
でも、洗い終わるまで、オレの頑張りは維持できない。
洗い終わる頃には飽きている。
たまたま頑張って干しても、乾くまでまた時間がかかる。
取り込むまでは、テンションを維持できないのだ。
これは仕事として成立するな。
料理もセリカと交代制にしたら、セリカの負担も減るだろう。
セリカは、畑仕事もあることだし。
女性同士でキッチンの共用がトラブルの元になりそうなら、もう一つエイティ用のキッチンを増やしてもいいさ。
ここは異世界。
オレが望むように出来る世界だ。
悩むことじゃない。
セリカの村を襲ったやつは結局分からないままだったが、気には留めておこう。
ペンディングだな。
オレは予てからの念願のひきこもり生活を決めこもう。
基本家の中で過ごす!
ネットもスマホもないから、しばらくは、セリカとエイティと料理の開拓でもするか。
セリカにこの世界の料理を習うと共に、オレの世界の料理を作れるようになる。
なんとなく、オム焼きそばが食べたくなったので、試してみるか。
一度もオムライスも焼きそばも作ったことが無いけれど、やれば何とかなるだろう。
畑は村の人に任せよう。
オレは種を提供したり、トラブルが起きたときの対処係でもしようか。
・・・こう考えると、完全ひきこもり生活は、周囲に誰かいると、成立しないな。
必ず、どこかで誰かと交流する必要が出てくる。
そうでなくても、畑を村人に任せてしまうのには少し抵抗がある。
オレも何かしなければ・・・と考えてしまうのだ。
自分だけ何もしないのは、居心地が悪い。
社畜がオレの根幹に根付いているな。
いっそひとりで村を出ようかと思ったが、今日までひとりで出かけて、結局エイティを連れて帰ってきてる。
結果、関わる人が増えてるし・・・
ひきこもりってのは、意外に難しい。
一般的に社会の底辺の様に見られがちだが、親の家に寄生している時点で、親が弱点になる。
親に何かあった時点で、ひきこもり生活は破綻するのだ。
親がひきこもりの子供の更生プログラムとかにハマってもアウト。
そうでなくても、親との関係は日常的に悪いだろう。
そんな不安定な上に成り立っている引きこもりは、本当の引きこもりではない。
トラブルが起きるまでの、仮染のひきこもりだ。
オレは、完全なひきこもりを目指している。
そうなると、村は安定していて、トラブルがなく、オレの出番がない状態で、人間関係も円滑。
そんな最高の状態を作り上げ、維持できないといけないのだ。
考えてみると、ひきこもりはかなりハードルが高い、高度なライフスタイルだ。
まずは、身近な人間関係から交通整理するか。
「セリカ、エイティ、おいで。これからの事を話そう。」
オレは、今考えた、二人の役割を話て、二人がぶつからない様にした。
取り合うからぶつかるのだ。
それぞれの役割と守備範囲が決まっていたらトラブルは起きない・・・はず。
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エイティには、メイドとしての仕事を与えた。
メイド服もバッチリ準備した。
「これからは、ご主人様のメイドとして、尽くさせていただきます。」
うん、我が家のな。
「新しい服、すごく嬉しいです。こんな立派な仕立ての服が着れるなんて、私は幸せ者です。」
「それは、オレの知る限り、メイドをする時の正装だ。着替えも、別デザインもあるから、好きなのを着てくれ。」
合法的に色々着せられるのは役得役得。
眼福眼福♪
「料理はオレも教えられないから、しばらくは一緒にチャレンジしよう。」
「はい、ご主人様と一緒にお料理できるなんて幸せです。」
横で少し拗ね始めているセリカにも役目を与えないとな。
「セリカは、オレにセリカの村の料理を教えてくれ。」
「私の村の料理ですか?」
「そう、オレもここで生きていくには、みんなが普段食べている物を知らないと仲良く出来ない。」
そう、『同じ釜の飯を食う』とはよく言ったもので、一人だけ別の物を食べていてら、そのコミュニティに受け入れられることはないのだ。
「同時にオレの知ってる料理も覚えて、出来れば村の人にも食べてもらいたい。たまにはパーティーみたいなのを開いてもいいな。」
「パーティーですか。」
「そう、みんなで食べて、飲んで、騒ぐんだ。」
「なるほど、ユーイチ様の食文化を村にも取り入れさせようと言うことですね。」
「そうなんだ。押し付けるわけじゃないけど、野菜なんかはオレが出した種だから、元々の料理とは合わない可能性が高い。」
「確かに。」
「元々の食材なら、セリカの村の料理法が合っているだろうし、そうでないなら、オレのって、新しい選択肢を得てほしい。」
「分かりました。」
「あと、エイティはこの家のメイドとして接してやってくれ。」
「・・・はい。」
やはり、あんまり納得いってない顔だ。
オレはセリカに近づいてこっそり言った。
「将来的に、子供が出来たら、家事全般をできる人がいた方が便利だろう?今から少しずつ教えていきたいんだ。」
セリカの顔が一気にぱあっと明るくなった。
「はい!将来のために!」
うん、それで二人の役目ができた。
そう考えると、人は自分の役目がないと不満に感じたり、不安に感じたりするってことか。
オレ自身もそうなのだろうか。
ひきこもりの役目ってなんだ!?
自宅の警備か!?
つくづくひきこもりは難しいぜ。




