初めてのお買い物
いつものように起きて、いつものように朝食を食べた。
エイティとの食事も当たり前になったな。
最初は同じテーブルで食事をすることができないほどだったけれど、いまでは一緒に食事をするのが当たり前になっている。
こんなに早く変わることができたのは、無意識にオレの希望が反映されているのかもしれない。
「今日はお出かけになりますか?」
いつものようにエイティが聞いた。
「今日は町に行こう。エイティも一緒だ。」
「はい!」
今日は、商店のおじさんにカートをプレゼントしないとな。
あと、家を貸してくれたじいさんにお礼を言って家賃を納めないと。
エイティは、じいさんに返さないといけないかな・・・
少しの時間でも一緒に過ごしたのだ。
分かれるとなると寂しい気もする。
ただ、逆に考えると、縁もゆかりもない子だ。
一生面倒を見るとなると少し重い。
うちに来た時よりも、少し明るくなったし、じいさんに返すのが筋と言うものだろう。
食事の後、エイティには、少しいい服を着せた。
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オレたちは町にでた。
今日もにぎやかだ。
「エイティ、買い物に行っておいで。オレは用事があるから後で合流しよう。この前行ったパスタの店で昼に合流しよう。
「はい。あの雑貨屋さんのお隣のお店ですよね。」
「そうそう。お昼はあそこで食べるつもりなんだ。量が多いからお腹すかせておいで。」
「はい!分かりました!!」
パスタ屋は以前エイティを連れて行ったことがあった。
味も中々にいいのだが、少しづつの量で多めの品数が出てくる。
エイティはどんなに量が多くても絶対に残さない。
このお店を選んだら少しかわいそうだったかな。
ここ数日でエイティも割とお駄賃をたくさんもらった。
お金はあるけど、使い暇がなかっただろう。
今日は、町に出たし、好きな物を買えばいいと思う。
食べ物を買うのか。
アクセサリーを買うのか。
今まで奴隷として自由のない生活だったようだ。
今日好きなものを買えればいいな。
オレはエイティといったん別れて、いつもの焦点に行った。
今日はカートに色々と品物を積んでいた。
ただ、今日は売らずにカートごとおじさんにプレゼントするつもりだ。
残念ながら、取引は今日で終わりだからな。
「あ、おじさん!」
オレは商店に着いた。
「お、ぼうず、今日はぼうずが来たか。」
「ああ、今までツレが来ていて悪かったな。」
「いやいや、あの子はいい子だよ。純粋さがある。ぼうずよりも会うのが楽しみだ。」
意外にエイティは人気だった。
代理を送り込んで申し訳ないと思っていたが、取り越し苦労だったようだ。
「おじさん、今日はこいつだ。」
「お!ちょっと多めじゃないか。金が必要なのか?」
「いや、今日はプレゼントだ。タダで渡しに来た。」
「どういうことだ?」
「オレ、町を離れることになった。おじさんのところに来るのも今日が最後だ。」
「なんだと!?お前が持って来るものは一流品ばかりだったのに!なんとかなんないのか!?」
「町は離れるんだ。元の村に戻る。待っている人がいるんだ。」
「なんだ、所帯持ちだったか。まあ、たまには来いよ。」
「そうだな。さよならはもったいないかな。時々は来るよ。」
一度行った場所は転移魔法的な何かで移動できるはず。
ときどきは、町に来るのも悪くない。
「そうこなくちゃな。良い品待ってるぜ。」
「ああ。でもまあ、選別だ。今回の商品はおじさんにあげるよ。これまでのお礼だ。」
「こんなにか!あと、このタイヤが付いている荷台は・・・」
「ああ、カートもやるよ。使ってくれ。」
「こりゃあ、『カート』っていうのか。助かるよ。」
「よし、良いものもらったし、今日はこれをやるよ。」
おじさんは、オレに小さな指輪をくれた。
「ゆーびーわー!?」
「そんな反応かよ。あの、かわいい嬢ちゃんにやったらいいだろう。」
「あの子はそんなんじゃないんだよ。」
「でも、好きなんだろ?」
「まあ嫌いじゃないけどさ。」
「じゃあ、何も問題ないだろ。」
おじさんは、オレに指輪を押し付けてきた。
もらえるものはもらっておくけどさ。
おじさんにカートごと商品をあげてから店を後にした。
今回は塩と胡椒、砂糖にたまごにマヨネーズに・・・日用品の調味料を中心に、ちょっとした食材もあげてきた。
昼には少し早いが、用事は終わったので店に行って待つか。
オレは待ち合わせの店に向かった。
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「あ!ご主人様!こちらです!」
エイティは律儀に店の前で立ったまま待っていた。
「エイティ、待っていたのか。」
「はい。」
エイティは店の中で一人で待つのはハードルが高かったかもしれないな。
「じゃあ、中に入ろうか。」
「はい。」
元気のいい店員に促されて、テーブル席に向かい合って座った。
まだ少し早い時間だったみたいで、お客さんはほとんどいない。
注文はいつも通りに済ませた。
オレは、字が読めないので、感でそれっぽいメニューを選んだり、おすすめを頼んだりしていたが、今日はおすすめを頼んだ。
エイティは、オレと同じものを注文するのがいつもの流れだ。
「エイティ、町は楽しんだか?」
「はい。私、買い物も初めてで、お金を使ったのも初めてでした。」
そうか、奴隷だったわけだから。
逆に、そんな初めてのエイティが何を買ったのか興味がわいた。
「何を買ったんだ?」
「えーっと・・・」
少し言いにくそうだ。
恥ずかしい物を買ったのかな?
そしたら、あんまり追いかけるのもかわいそうかな。
「いっか、今がタイミングだよね。そうだよね。」
エイティは小さな声で何か言いながら何かをテーブルの上に出した。
テーブルの上に置かれたそれは、腕輪だった。
落ち着いたデザインで、薄い青い色の腕輪。
エイティには似合うのかな・・・
まあ、こういうものは本人が好きならばそれでいいのだ。
好みはひとそれぞれだしな。
「ご主人様へプレゼントです。いつも良くして頂いて本当にありがとうございます。」
「!!」
なん・・・だと・・・。
エイティは他には何も持っていない。
つまり買ったものはこれ!?これだけ!?
数日かけて稼いだお金で買ったものが、自分の物ではなく、オレへのプレゼント!?
生まれて初めて自由に使えるお金で買ったものが、オレへのプレゼントだと!?
たしかに、オレの物だと考えたら、青はマッチしている。
青は好きだ。
この薄い青は、とんでもなく好きだ。
おそるおそるプレゼントだと言う腕輪に手を伸ばした。
「あの、ご主人様にはもっと高価なものの方が合うとは思ったのですが、今の私にできるのはこれくらいだったので・・・。」
オレはエイティが言っていることが頭の上をすり抜けていき、左手を伸ばしたまま一言だけ言った。
「エイティ、オレに付けてくれないか。」
「はい。」
エイティは笑顔でオレに腕輪をつけてくれた。
サイズといい、デザインといい、色といい、完璧にオレの手にマッチしている。
きっと大きさとか、色とか、オレの事を考えながら選んでくれたのだろう。
オレは本当に感動していた。
もしかしたら、涙を流していたかもしれない。
とにかく胸が詰まって、何も言葉が出てこない。
この少女は、12歳になるまで名前も与えられず、食べ物もろくに与えられず、愛情も知らずに生きてきたのに、初めての自由がオレへのプレゼントって・・・
「エイティ、左手を出してごらん。」
なんとか言えた。
エイティは何も疑問に思わずに、素直に左手を出した。
その小さな手の薬指に、さっきおじさんからもらった指輪をはめてやった。
サイズは少し大きいし、デザイン的にも子どもが喜ぶものなのかは分からない。
でも、今はこれしかないと思ったのだ。
「これは、エイティにプレゼントだよ。」
「え。ご主人様からの・・・プレゼント・・・」
エイティはうつむいて涙を流していた。
指輪のはまった左の薬指は、右手がそれられて、何か大切な宝なものを手にしているようだった。
「ご主人様は、私に名前をくださいました。」
「そして、温かいご飯をお腹いっぱい食べさせてくださいました。」
「今まで見たこともないような服もくださいました。」
「温かくて、ふわふわな寝床もくださいました。」
「町では見たこともない物も見せてくださいました。」
「仕事もくださいました。」
「私に、生きる希望をくださいました。」
「いつも、いただいてばかりなので、何か少しでもお返しをしたくて・・・」
「でも、またいただいてしまって・・・」
昼のパスタ屋で二人して、泣いてしまった。
料理を運んできた店員が少し驚いていたけれど、オレ達にはどうでもいいことだった。
パスタの味は全く覚えていなかった。
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オレは、この世界はオレがお思った通りになっていると思っていた。
村から出てきて、一人で少し寂しいと思ったら、エイティが来た。
ずっとサラリーマンで決められたことだけやってきたオレなので、たまに人助けをしたかったのだと思う。
エイティは本当に不幸な生い立ちだった。
それを少しでも救えた・・・かもしれない。
ひどい栄養状態だったのに、回復も早かった。
精神的にどん底だっただろうけど、回復は劇的だった。
これらはオレの都合、オレが気持ちがいいようにそうなったのだろうと思っていた。
でも、エイティの考えや行動はオレの考えの上を行っていた。
オレの予想を大きく超えたから、感動したのだろう。
パスタ屋のあとは、例のじいさんのところに足を運んでいた。
エイティももちろん一緒だ。
「こんにちは、今日はどんな御用で?」
「ああ、そろそろ町を出ようと思って。長い間世話になったな。」
「!!」
エイティが過剰に反応したけど、今は、じいさんと話している。
とりあえず、話の腰を折らないように・・・
「じいさんは、要らないって言ってたけど、家賃を納めに来たってわけだ。」
「そんな、あなたは命の恩人です。本当によかったのに。」
「いや、施しを受けてばかりじゃ、かえって申し訳ない。でも、頼みもあるんだ。」
「ほお、頼みとはなんですかな?」
オレは、横にいたエイティの肩をたきよ出ながら言った。
「この子、エイティと名付けた。この子を連れて行きたい。」
「気に入ってくださったか。その子はもうあげたものと思っています。煮るなり焼くなり好きにしてもらってかまいません。
「そうか。」
快く譲ってもらえてよかった。
人を売り買いするのも気分はよくないが、奪い取っていくのはもっと気分が悪い。
快く送り出してもらいたかったんだ。
「見れば随分こぎれいな服を着せてもらって、肉も随分ついたようでですな。」
確かに、家に来た時は、骨と皮しかなかったからな。
「オレはエイティを奴隷とは思っていないしな。」
「かわいがってもらっているようで何よりですじゃ。どうぞ、好きなところに連れて行ってくだされ。」
「ありがとう。」
オレはお礼を言いながら、家賃として少し多めにお金を収めた。
「ちょっとこれは多すぎるんじゃないでしょうか。」
「これからオレは森の中の村に戻る。お金は要らないんだよ。それよりも、じいさんに使ってもらいたい。」
「分かりました。もらっておきましょうぞ。」
オレは手を振りながらじいさんの家を離れていた。
横でエイティはとにかく泣いていた。
女の子に泣かれているのも困るばかりなのだが、ずっと目をおさえてヒックヒック言っている。
泣きの時のしゃくりなので、泣きシャックリなのか。
よく考えたら、この現象の言葉を知らない。
帰ったら、ちゃんと話して聞かせないとな。
オレは、エイティを村に連れて帰ることにした。
こんな素直な子はいない。
今後どのように成長するかは分からない。
でも、嫁に出すまで、オレが責任をもって育てる!
そう決意したのだ。
エイティはずっと泣いてるし、周囲の人はチラチラ見てるし、何とも居心地は悪い昼下がりになってしまった。




