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魔人の瞳

間に合わなかったー(´;ω;`)

「私は!帰りたいぃ」

 四十間近で立派な肩書きの、大の男が、まさしく駄々を捏ねている。

 本来の軍の副官や部下たちは、恐れをなしてこの難物(アーレス)をマーガス達に丸投げした。


「我儘を言うな、サッサと賠償条件に同意したら、書類に国璽と署名をよこせばいいんだ、引き延ばすならもっと毟り取るぞー!」

 確保した他国の王宮の執務室で、アーレスは今回の原因である、仮にも一国の国王を大声で罵っている。


「拳を握りしめて、暑く語らないでください」下宿人(マーガス)のコメント。

「書類が(しわ)になるぞ」血のつながった実の弟(シグルド・ダリル)のあしらい。

「伯父上、書類に叫んでも仕事は終わりません」同じく実の(ダリル)の激励。


 本職の外交官が到着して、下っ端文官のマーガスと、私設騎士団(実質は貴族身分の傭兵団)を取りまとめて西の国境線に待機していたダリル親子は、ここに留まる必要はもう無い。


 三人は帰ろうとしたのだが、駄々っ子が離さない。

「お前たちだけズールーい!」

 今回制圧に当たった部隊は、緊急で出動したので本来の持ち場に戻さなければならない。

 新たに別の駐留軍を編成して、配置しなければならないのだが、賠償金の支払額によって、その規模は変わってくる。

 はっきり言えば、耳を揃えて全額支払えるなら、駐留軍は要らないが、そんな資金があるなら、勇者を召喚して他国(それも超大国)に侵略戦争を仕掛けようとはしないだろう。


「アーリシャの顔が見たい、声が聞きたいぃ」

((どうしよう、ダメな大人だ))

 アーリシャというのはアーレスの今年三才になる娘で、正しくはアリスティナという。


「去年は南の海が溶けた途端に、海洋伯領に海賊が押し寄せて、花祝いの祭りに帰れなかったんだぞ、今年こそはと思ったのに!」

 執務机に突っ伏して、髪をかきむしる。

「「ハイハイ」」

 外交官が、馬車でおっとり到着した時点で、過ぎてしまった。

(極秘に周辺各国に根回しをしていた)


 花祝いの祭りというのは雛祭りの事だ、建国王が故郷の行事を持ち込んだもので、女児に晴れ着を新調し、雛人形の代わりにおとぎ話の王子様お姫様の人形を飾る、(かなり変形している)。



「通信魔道具か、『魔人の瞳』があれば・・・」

 マーガスのつぶやきに、がばっと顔を上げたが、

「そうか通信魔道具、いや、ダメだ、あれは軍事機密だ・・・」

 と、諦めた。

((あ、まだまともな判断力はあるんだ))


 今回、国の中心地でもある王都に本体を置いて、東西南北の各軍の協力の元行った実験は、多少通話状態の悪い場所が有ったものの、国内全土だけでなく、国境を越えたこの国でも通信に問題は無かった。

 まだ売却価格は決まっていないが、国に買い上げられる事だけは確実だろう。

 難を言えば男、それも騎士や兵士が揃いのピアスというのが、見た目的に何とも言えないのだが。



「で、魔人の瞳というのは何だ?」


「今回の通信魔道具の実験と一緒に、個人的に別の魔道具も試験していたんですが、ダリルが身に付けていた赤い石のネックレスと、黒い鏡の二つでセットの魔道具です」

「ああ、あの派手というか、豪華な、で、使い方は?」


「今回の場合だと、アーリシャにネックレスをかけさせると、黒い鏡の方にアーリシャ本人の姿と周りの景色が写し出されて、物音も全部聞こえます。

 何より今回空間魔法で、ダリルが国境の砦から、この王宮の地下まで連れ去られたのも、すぐに距離と方角だけは判って・・・」

 ガシッと、将軍がマーガスの手を握りしめた。

「言い値で買わせてもらおう!」


 マーガスは、目を逸らした。

「すみません、ついでにコッソリと実験するつもりが、全面的にバレまして、王家のお買い上げになりました、断る手段は無いと思われます」

 確かに、要人警護にこれ程有効な物もない。

「・・・・・・」

(うわ、燃え尽きた)


「あ、あの、代わりに良い事を教えてあげます」

「良い事?今すぐ帰れること以外のどんな?」

 やさぐれている、細マッチョの美丈夫が。


「今度の『小鳥の囁きの日』(エイプリルフール)にですね、アーリシャが、お父さんに、どんな嘘をつこうかと一生懸命頭をひねっているんです」

「ふむ!」


「それでカロルティナさんが」

 カロルティナはダリルの母である。

「アリスに『お父様嫌い』って言えば良いよと、入れ知恵を・・・あ、ああ!」

 スケルトンの様にバラバラに崩れ落ちた。

「逆です逆! 嘘をつく日なんですから!当日は間違えないでください」





「アーリシャに会いたいぃ」

「ハイハイ、お仕事頑張ってください、お父さん」

「お前に娘はやらん!」

「定番のお返事ありがとうございます」




 ♡ ♡ ♡ ♡


「お(とー)(しゃま)、き、きらい」

 今日は嘘をつくのだ、と口篭もりながら精一杯告げるアリスを、周囲の大人がニコニコしながら見ている。

 事前に内容を知らされていた父親(アーレス)も、衝撃を受ける事なく笑顔(デレデレ)で笑み崩れる。

「そうか、そうか、お父様はアーリシャが大好きだぞー」

((あ))

 この時、父娘(おやこ)以外の全員の心は一つになった。


「えっ?」

 小さなアリス(アーリシャ)の、はにかんだ笑顔がビシッと、固まった。

 みるみるうちに目には涙が溢れ、泣くのを(こら)えるために、唇がわなわなと震える。

 (それ)を見たアーレスの顔も、突然の出来事に娘に向かって手を差し出した姿のまま、固まる。

「う、うぅ、あ、わあーーーん」

 もはや父親(アーレス)を振り返りもせず、カロルティナの元まで走って逃げる。


「え?」

 一拍遅れて、父親も解凍するが、時すでに遅し。

 また、この年頃の子供は世界が終わった様な、心に突き刺さる泣き方をするのだ。


 カロル叔母がアリスを抱き上げてあやし、その周囲に祖父や他の叔母、従兄弟たちが集まって口々に慰める。


「まあ、こうなるよな」

「うん」

「ど、どういう事だ?」

 マーガスとダリルの声に、アーレスが二人に詰め寄った。

「どうもこうも、今日は『嘘をつく日』なんですよ!あなたアーリシャに向かって、何と、言、い、ま、し、た、か?」

 ガーン!という見えない大文字を背負って、アーレスが再び固まった。


「まったくもう、あなた軍人というより、政治家寄りの優秀(はらぐろ)さなのに、どうして娘が絡むとダメになりますかねぇ」


書き足りない事は今日から始まる本編で。m(__)m

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