第六話 僕とテストと来たる夏
「なぁ、有馬。今回の計算テスト、どうだった?」
「100」
全ての授業が終わり、放課後となった。
相変わらず、つんつんとした頭の少年が話しかけてくる。
「……漢字は?」
「60」
「偏ってんなぁ」
予想はついているだろうが、彼の名前は、安田通。
にひ、とした笑い方は変わってない。
「漢字を使う意味が理解できない。全部ひらがなでいいと思う」
「言い方ひどくない?」
いや、全く以て僕の言葉は間違ってない。
漢字に関しては、元々の僕の世界の言語形態と違いすぎるのだ。
それ以外はほぼ同じなのに。
「滅べばいい、漢字」
そう呟く、うねった癖の強い髪の眼鏡の少年。
言わずもがな、僕である。
背中に背負われようとしているのは、ランドセルというリュックサックもどきだ。
僕、山崎有馬は今、十二才。
小学校というところに通い始めて、五年。
この世界の教育とはつくづく発展しているのだなと、時間割をみてはため息を吐く年頃だ。
どうしてこんなにも色々と教えられるのか。
この学校は、この世界は、何を生み出そうとしているのか。
覚えることが多すぎる。
そんなことを考えながら、ため息を吐く年頃だ。
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じぃぃぃんとセミの声がする。
下校途中。田んぼの脇の道路を二人で並んで帰る。
風になびく緑色の稲達。
その奥に並ぶ点々と密集した、色とりどりの家々。
さらにその奥に並ぶ銀色のビル群。
ふと、周りの風景に目をやると、そんなものが見える。
田舎と都市が混在する姿は、いつ見ても不思議だ。
僕が住む、ここ来間谷市は一言で表すならば。
混沌である。
「有馬。新しい魔法考えたんだけど。ほら、ここ、こうすれば」
「こうすれば?」
「分裂しながら進む移動式火球」
通の魔法への熱心さは相変わらずだ。
まだ実技には至ってない。
それでも、魔法の基礎を教えてからは、更にのめりこんだ。
もっと、もっととせがまれる日々である。
「いや、このままだと、増えた方の火球がこっちに飛んでくる。だからここは……」
「有馬ー。通ー」
そんなことを話していると、後ろから高い声がした。
振り返って見ると、ある少女がこちらに走っている途中だった。
僕達に近づいてくるにつれて、減速する。
追いつくと、僕の背中をぽんと叩いて横に並ぶ。
「一緒にいい?」
オレンジ色のキャミソールの少女が、に、と笑った。
後ろの髪をお団子状でひとつにまとめている。
彼女の名前は、光坂まり。
そう、あのお隣さんの女の子だ。
昔よりかなり明るく、活発的になった。
「あれ。石田さん達と帰るんじゃなかったの?」
「桜ちゃんは、委員会。洋子はクラブ」
「他の奴は?」
話を遮られて不満そうな通は、呆れたように呟く。
「……まだ、恥ずかしい」
まりは顔を俯かせると、少し唇をとがらせて、転がってた石を軽く蹴った。
人見知りなところは、健在だ。
「でもさ、通だって、有馬としか帰ってないよね」
「いいだろ、別に。友達なんだし」
まりは、きっと顔を上げると通に言う。
通も負けじと言い返す。
そして、まりもそれに言い返す。
「私だって、友達だよ」
「女だろ」
「友人関係に性別は関係ありませんー」
僕は言い争う二人を横目で見ながら、暑い、かき氷が食べたいと思った。
「第一お前の家、有馬の家の隣なのだから、帰り位有馬をひとりじめしたっていいだろ?」
「っへへー。いいでしょ。もうすぐ夏休みだから、私のひとりじめだもんねー」
「くそぅ、こうなったら毎日有馬を連れだしてやる」
まりと出会ったのも、ちょうど今日くらいだったな。
あのころの通はやんちゃだったな。今もだけど。
太陽がじりじりと僕らを照らす。
本当に暑い。溶ける。
もうすぐ夏休みが始まる。
さぁ。始まりました、小学生編。
皆おっきくなったので、会話が組み立てやすいです。