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鎌倉ヴァンパイア・ヴィンテージ ~独占欲強め銀髪メイド様は、私(の血)を独り占めしたい~~  作者: つきよ


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第45話 ヴァンパイアの母と人間の母



館までの切り通しの途中。

蝉が力強く鳴いている。初夏を感じながら、私とお母さんはソフィア様の館に向かっていた。


「はぇー……こない大きいお屋敷が、鎌倉にあったんやね」

お母さんはウキウキとした様子で、細い山道を上っていく。


やがて重厚な門に着き、インターフォンで開けてもらって、そのまま玄関まで進んだ。

いつもは使用人用の勝手口から入るけれど、今日は来客用の正面玄関からだ。ここから入るのは、この館のアルバイトの面接で来て以来だなぁ。


重い木製のドアが開くと、完璧なカーテシー(お辞儀)をして、アナスタシアさんが応対してくれた。


「初めまして。レディースメイドのアナスタシアと申します。あるじから言付けを聞いております。まずはこちらの応接室でお待ちください」

完全に『外向けモード』のアナスタシアさんは、やっぱり息を呑むほどかっこいい。


「本物のメイドさんよ!! しぐれ!! すごいわ!!」

「はは……こちら、アナスタシアさん。私の所属する部署とは違うけど、上司の方だよ」

「いつも娘がお世話になっております」

お母さんも、慌てて『外面モードの東京弁(標準語)』に切り替えて挨拶した。


豪華な応接室のソファで二人で座って待っていると、ドアが開いてソフィア様とアナスタシアさんが入ってきた。


「初めまして。この館の主のソフィアと申します。しぐれさんをお預かりしております」

「こちらこそ、しぐれがいつもお世話になっております」

今さらだけど、普通の高校生がアルバイト先に親を連れて挨拶に来るって、あることなのかな?


挨拶もそこそこに、お母さんは風呂敷に包まれた桐箱を取り出して、テーブル越しにソフィア様へ差し出した。

「こちら、私の実家よりお渡しするようにと言われまして、持参いたしました。よろしければお納めください」


「ご丁寧にありがとうございます。……あら、この風呂敷の家紋は『近衛牡丹』じゃない」

「はい。我が家の家紋です。私の父から、ソフィアさんがお気に召すだろうということで……」

「なるほどね。しぐれの母方は京都の貴族と聞いていたけれど、彼女からどこか懐かしくて良い匂いがしたのは道長の直系だったからなのね」


「ようご存知ですね。あまり家では、実家の話はいたしませんので」

ソフィア様は私の方を向いて、呆れたように微笑んだ。

「どこの貴族かと思っていたけれど、貴族中の貴族だったのね。そういう特大の情報は、早く言いなさいよ、しぐれ」

「全然その辺、わからなくて……」


「失礼ですが、ソフィアさんはおいくつなんですか? すごくお若く見えるのですが……」

「ふふ、2000歳ぐらいですわ」

お母さんが驚いた顔をする中、マダムたちの優雅な会話が始まる。メイドさんが紅茶とケーキを持ってきてくれた。


「よろしければお召し上がりください」

ソフィア様に促されて、私もケーキを頬張る。相変わらず、ここのケーキはすごく美味しい。


「実は、うちの実家にソフィアさんのことをお聞きしましたら、ご存知だとおっしゃるので驚きましたの」

「そうね。平安時代のほとんどはみやこで毎晩パーティーをしていましたから、大体の貴族の方々とは懇意にしておりましたわ」

「この子の父親と結婚するにあたり、その辺の昔話は聞いておりましたが……まさか、本当だったとは思ってもみませんでしたわ」


お母さんの言葉遣いが、少しずつ京都の訛り(地の言葉)に戻り始めている。


そんな優雅な会話を聞きながら私がケーキを食べていると、アナスタシアさんが静かにこちらに来て、私の顔を覗き込んだ。

「しぐれ、口の端にクリームがついています。拭いてあげますよ」

「あ、ありがとうございます……」

アナスタシアさんが、ハンカチで優しく私の口元を拭ってくれる。


その風景を、お母さんとソフィア様がじっと見ていた。

ちょっと、恥ずかしいのだけど。

すると、お母さんが目を細めて私に尋ねてきた。


「あんた、そこの綺麗なアナスタシアさんと、どんな関係なん?」

「た……ただの上司ですけど?」

「上司が普通、口を拭いてあげるなんてこと、ありえへんやないの……もしかして……」

お母さんの鋭い追及が始まる前に、すかさずソフィア様が口を開いた。


「私たちの世界では、下の者へ甲斐甲斐しくお世話をするのが通例なのです。私たち長く生きる者から見たら、人間の皆様はまだ『赤ちゃん』みたいなものですから」

ソフィア様のその完璧なフォロー(言い訳)を聞いて、お母さんは「なるほど」と納得したようだった。


「こちらの風呂敷、開けてみてもよろしいかしら?」

ソフィア様が、お母さんが持ってきた風呂敷を解き、中の箱を開ける。

そこに入っていた古い和紙の束を見た瞬間、ソフィア様の赤い瞳が見開かれた。


「『和漢朗詠集』の写本じゃない……!」

だいぶ年季の入った昔の本だったが、ソフィア様はすごく興奮しているようだった。

「ええ。うちの家にあったもんで、きっとお気に召すやろうと父が」

「思い出すわ……夜な夜な、雅な乱痴気騒ぎをしたあの時を……」

平安時代の夜のパーティーって、ナイトクラブみたいなノリだったのだろうか。


「よろしおした。今でもたまに、他の旧華族たちで集まったりしてますさかい、京に来てくれはったら、みなも喜びますわ」

「いいわね……京になんて久しく行ってないし。その時はお邪魔させていただくわ」


その後も、ずっと雅な世間話をして時間が過ぎていった。

頑なに「京都」のことを「みやこ」と呼ぶ二人に、私はなんとなく疎外感を感じながらケーキを食べていた。

すっかり二人は意気投合していた。


「いやぁ、楽しくお話しさせてもろて、よかったですわ。そろそろお暇させてもらいます。今後とも、しぐれをよろしゅう頼みます」

「こちらこそよ。こんなに京の話ができたのは久しぶりだわ。景の母親も系統でいうとそちらかと思ったのだけれど、彼女は完全な『関東武者』の気質だったから、こんな雅な会話はできなかったの。楽しかったわ」


そうして会食を終え、私たちは自宅へ帰る道中。

お母さんが、前を歩きながらポツリと言った。


「しぐれ、あんた……あのアナスタシアさんって方とも付きおうてるの?」

「なっ!?」

ドストレートな死球デッドボールを投げ込まれた。


「な、なんでそう思うの?」

「質問に質問で返すあたりが、もう黒やさかい。……まったく、しぐれはお父さんに似てしもたんやねぇ」

お母さんは呆れたようにため息をついた。

「……あんな綺麗な子ぉ嫁にもろうたら、後々えらい大変やえ」


『ヴァンパイアだからダメ』ではなく、『綺麗な人だから大変』という謎の着眼点。

さすがは人の母だ……。

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