第38話【いざ、寒川へ】
3人で食べる朝食が今は、カップ麺である。あらためて私は二人に甘えていたのだと実感した。
そして、学校につくと遅れて景ちゃんがきた。
「あの、景ちゃん!」
「あ、ちょっと邪魔なんだけど...」
「ごめんなさい」
久しぶりのヤンキーモードだった..
撃沈した私が机に戻ると、よしのが
「どうしたの?二人とも百合ってないじゃん」
「その表現、やめてよ、それどころじゃないの...」
わたしは経緯を説明した。
「なるほど...仕事にかまけて、家庭を疎かにしていたら、嫁から実家に帰ります宣言されたのか」
「まぁ...そんな感じです」
「ふーん、まぁ...普通に謝っていけばいいんじゃない?」
「全然、話をきいてくれないんだよぉ」
「てか、ごはんをアナスタシアさんと梶原につくらせたあたり、相当だけどね。日頃はありがとうっていったりしている?」
「最初はいってたけど、それが当たりまえになって…」
「そういうところだと思うよ」
痛いところをつかれてしてしまった...
いつもお昼は一緒に食べていたが、もちろん、それもなく、どこかにいってしまったので私は探した。
音楽室から、誰かの歌声が聞こえる。
「この声は…」
音楽室をのぞくと景ちゃんがアコースティックギターをひきながら、80年代の日本の聞いたことある歌を歌っていた。
「こんな綺麗な歌を歌うんだ」
景ちゃんが歌い終わったのを見計らって意を決して中にはいる。
「景ちゃん...」
「何の用?」
「あのさ、いろいろとごめんね...」
「ともかく謝ればいいと思うなら、やめて」
「いや...その...あの...忙しくて、二人の時間とかとれてなかったと思うの...だから今度一緒に...どこかいかない?」
「そういうのいいから。もう話すことないから」
そういってギターを片づけて出て行ってしまった。
放課後。
「はぁ...うーん...」
「あの、大庭さん...用がなければかえっていただけませんか...最近、歴研が狂犬レズの軍門に下ったって噂になっていて...」
怠惰にスマホをいじっている私に、歴史研究会の部長が本を読みながら目線も向けずに冷たく言う。
「だって...ここ居心地がいいですもん...」
ソフィア様の配信の方針で困ったときにちょくちょく来るようになってから、私はすっかりここの準レギュラー的になっている。
「なにかあったんですか?..」
私は部長に、一緒に生活している景ちゃんと喧嘩したことを説明した。
「……なるほど。大庭さん、豊臣秀吉は知っていますよね?」
「え? はい、天下人の……」
「ええ。その天下人でさえ、正室のねね様に愛想を尽かされそうになった時は、ただ口で『ごめん』と言うだけじゃなく、織田信長様に泣きついて仲裁を頼んだり、長文の文を何通も書いて『お前が一番だ』という誠意を物理的に示しました。言葉だけの『ごめんね』なんて、今の梶原さんには絶対に届きませんよ」
「誠意……物理的な誠意……。そうか、直接実家に行って、逃げずにちゃんと向き合って謝らなきゃ!」
「……気付いたなら、早く行ってください。私の平穏な読書タイムのために」
「それが……景ちゃんの実家の住所、知らないんです」
ピタッ、と部長の動きが止まった。
「……は?」
「ど、同棲の勢いで一緒に住み始めちゃったから……! あ、でもアルバイト先の雇い主(ソフィア様)なら履歴書を持ってるはずと思って聞いたんですけど、『うちのセキュリティとコンプライアンスは完璧よ。従業員の個人情報なんて教えられるわけないでしょ』って言われてしまい」
「……それは当たり前だと思いますよ...」
部長は心底呆れたように、深々とため息をついた。
そして、諦めたようにポツリと口を開く。
「寒川、ですよね」
「えっ!? なんで知ってるんですか!?」
「私も地元が寒川ですから。……というか、地元民なら『梶原』の家を知らない人はいませんよ。あそこら一帯を昔から仕切っている由緒ある一族で、ものすごく大きなお屋敷ですから」
「本当ですか!? 部長、お願い! 私をそこまで案内して!!」
「ひっ!? ちょ、引っ張らないで……! わかりました、案内するから命と貞操だけは……!」
私は、怯えて身を縮める歴研の部長の腕をむんずと掴み、部室を飛び出した。
■ 寒川町
神奈川県の中央南部に位置する町です。全国的に最も有名なのは、相模国の一之宮である「寒川神社」。
全国唯一の「八方除」の守護神として知られ、毎年お正月には全国から大勢の参拝客が訪れる、非常に格式の高い神社として有名です。
また、町の西側を一級河川の相模川が流れており、古くから水上交通や農業で豊かな土地として発展してきました。




