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鎌倉ヴァンパイア・ヴィンテージ ~独占欲強め銀髪メイド様は、私(の血)を独り占めしたい~~  作者: つきよ


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第39話【今日、親いないから、泊まっていきませんか?】

(前半の電車移動から続く)


「あの、大庭さんと梶原さんって、どんな関係なんですか?」

「遠い親戚で……うちの家が近いので一緒に暮らしてた感じです」

「ああ、お二人の苗字的に『鎌倉党』の一員ですもんね」

「そうそう。あんまりよく知らないんだけどね」


電車に揺られながら、私は適当な言い訳を並べた。

「部長はずっと寒川に住んでるの?」

「はい、お母さんと一緒に暮らしています」

「へぇー。じゃあ、景ちゃんと小中学校って同じだったの?」

「小学校は同じでしたが、中学は梶原さんが私立に行っているので一緒じゃないですね」

「なるほど……。小学生の時の景ちゃんはどんな感じだったの?」

「私も仲良しグループではなかったですが、すごく『お嬢様』って感じでした。だから高校に入った時に、あんなヤンキーになっていたのは驚きました」


なるほど。途中から景ママの教育でヤンキーになったのかな……?

私たちは寒川駅に到着し、部長の案内で景ちゃんの家へ向かった。


「なんか、うちの周辺に雰囲気が似ている」

「そうなんですか?」

「うん。なんていうのかな、道が狭くて、丁字路やら曲がり角が多いのよ。不便だし、不審者がいないか心配になる……」

「なるほど……。この辺は昔からある地域で、たぶん梶原の一族の屋敷があったので、見通しの良い十字路を作らないようにしたんだと思います。攻めにくいように設計されてるんですよ」

「え、どういうこと?」

「丁字路やら角を多くして、敵が侵入しにくいようにしているんです。戦国時代の城下町とかが結構わかりやすいですが、ここはもっと古い鎌倉時代からなので、その名残があるんですよ」

「へ……へぇ……」

「あ、そろそろ到着しますよ」


そこには、大きな日本風の門があり、立派な塀が周辺をぐるりと囲っていた。


「で……でかい……」


古い建物の門には似合わない、新しいインターフォンを鳴らす。


『どちら様ですか?』

「あの……大庭しぐれと申します……えーと、景ちゃんと同じ学校の者です」

『少々お待ちください』


しばらくして。

「あらあら、しぐれちゃんじゃないの〜」


大きい門の横にある小さいドアから、景ママがいつもの団地妻スタイルではなく、パリッとした着物姿で登場した。


「あ……どうも……。すみません、突然来てしまって……」

「全然いいのよ〜。そちらの方は?」

「あ、私も同じ高校の斎木 桜子といいます」

「初めまして、景の母です。ほら、上がってくださいな」


大きい門が開き、私たちは中に案内された。

そこは和洋折衷の、大正ロマンを感じるような素晴らしいお屋敷だった。広い玄関から豪華な応接室に通されると、女中さん(?)が私と部長にお茶を置いてくれた。こんなすごいお手伝いさんがいるんだ……。


「ごめんねぇ……景ったら、『会いたくない』って聞かなくて……」

「いえいえ……こちらも突然押し入ってしまって。ちょっと今、喧嘩してしまって……」

「そうなのね。景ったら突然スーツケースを持って帰ってくるなり、なにもお話をしてくれないのよ。何があったか教えてくれるかしら」

「えーと……」


私は部長さんがいる手前、「アルバイト先の雇い主(ソフィア様)の仕事を手伝っていて、家の家事を疎かにしてしまって、それで景が怒ってしまった」とオブラートに包んで話をした。


「あら……それで帰っちゃったのねぇ……」

「これは私が悪いので……」

「それで、うちまで来てくれたのね。……あの子、結構頑固なところがあるから。ちょっとお部屋まで行ってみる?」

「いいですか……?」


部長は空気を読んでくれたみたいで、「私はここにいます」と言って応接室で待っていてくれた。

長い廊下を、景ママと一緒に歩いていると。


「――それで、本当はどうしたのかしら? さっきの説明は、お友達の手前の嘘よね」


鋭い……。

「はい、実は……」

私は本当の理由を話した。


「罪な女の子ね、しぐれちゃんは〜」

「今回のことは私が本当に悪くて。口先ばっかりになっちゃって……だから……」

「大丈夫よ。こういうのは、どっちが悪いとかないから」

「はい……」


やがて、二階のドアの前に着いた。


「景、しぐれちゃんが来てくれたわよ」

『帰ってもらうように言ったでしょ! 会いたくないの!』

「そうは言っても、わざわざ来てくれたのよ……?」

『嫌だっていってるでしょ!!』


すると、景ママが目をカッと見開き、いつものふんわりした雰囲気とはかけ離れたドスの効いた声を出した。


「景!! 客人がわざわざ来てくれてるんだから、礼儀として顔を出しな!!」

『うるせぇよ!! 会いたくねぇっていってるんだろうが!!』

「あんまり、客人を困らせるんじゃねぇよ。そんな風に育てた記憶はねぇぞ」


これが……本物のヤンキー……というか、指定暴力団……?

私が震え上がっていると、景ママはすっといつものつり目フェイスに戻り、困ったように笑った。


「お見苦しいところを見せてごめんねぇ……。今日はダメみたい。私からもお話をしておくから……」

「い……いえ! こちらこそ……ごめんなさい……」


「景ちゃん……ちゃんとお話をしようね……」

ドア越しにそう伝えて、私は部長さんと門まで戻った。


「どうでしたか?」

「ダメだった……。一緒に付き合ってくれたのに、ごめんね……」

「いや、いいですよ。今日は帰りますか?」

「いや。今日はこの門の前で待っている……。景ちゃんが出てくるまで」

「本気ですか?」

「うん。部長は帰って大丈夫だから。今日はありがとう……今度なんかお礼をさせて……」

「そんなのいいですよ……。と、ともかく、なにかあったら連絡してください」


そう言って、連絡先を交換してくれた。本当に優しい人だ。

部長が帰ってからは、さっき景ちゃんの部屋であろう二階の窓のあたりを見上げながら、ずっとDiscordでメッセージを送っていた。長文を送ったり、謝罪のスタンプを送ったりした。


すでに周りは真っ暗になっていて、いつもならバイトから帰ってきてご飯を食べている時間だ……。

すると向こうから、ランニング姿の男性が近づいてきた。


「君〜、こんなところで何をしているの?」

「え……喧嘩した友達を来るまで待ってます……」

「喧嘩した? ……その制服は見ないけど、どこの学校の子かな?」


え、こんな時間に……ナンパ……? 怖い……。

私が後ずさると、男性はポケットから紐のついた手帳みたいなものを出し、パカッと開いた。


「あ、ごめんなさいね。私こういう者で」

「あ、警察の方……」

「梶原代議士の家を警備している者なんだけど……ちょっと確認していいかな」


代議士の警備!? 景ちゃんの実家、一体どうなってるの!?

学生証を見せると、警察の人は無線でなにやら連絡を始めた。

数分後。


「あら、しぐれちゃん……まだいたの?」

門から景ママが出てきた。

「ごめんなさい……ずっと連絡をしてて……」

「いいのよ……。もう遅いし、おうちまで送るわよ」

「いや、それは本当に申し訳ないので帰ります……!」

「でも……」


周りに迷惑をかけてしまって、胸がいっぱいだった。これ以上は本当に迷惑をかけられない。

逃げるようにその場をあとにした。


「私は本当に馬鹿だなぁ……皆さんにご迷惑をおかけしてしまって……」


正直、甘く考えていた。いつものように自分が行動すればなんとかなると思っていたから。でも、そんなにうまくはいかないし、いままでの行動も自分のエゴだったんだ……。

とぼとぼと夜道を歩いていると。


「大庭さん?!」

「部長? ……なんでここに?」


自転車に乗った部長さんだった。

「いや、こっちのセリフですよ……もう22時ですよ……」

「そんなに経ってたの?」

「電車とかまだあるんですか?」

「え、あるはず……あっ、乗り継ぎだから間に合わない……タクシーで帰るよ……」

「え、ここから大庭さんの家って学校の方面ですよね……お金かかりますよ」

「いや、アルバイトで貯めているから……大丈夫……」

「うちに泊まっていきますか?」

「それはさすがに……そんなに仲良くないのに、そこまでしてもらう訳には……」


すると部長は、眼鏡の奥の目を真っ直ぐに向けて言った。


「少なくとも、私は友達だと思ってますし、部員も大庭さんのこと気に入ってますから。部員じゃないですが、ある意味『準部員』と思ってます。部員が困っているなら、助けるのが部長の役目です」

「そんな……私が勝手に言ってるだけで……」

「何をそんなに弱気になってるんですか……大庭さん。……じゃあ、今度パフェ奢ってください、ね?」

「いや、本当に周りに……いつも誰かに甘えてばかりだから……」

「なんか、弱っている大庭さんだと調子が狂います。……じゃあ、いったん私の家で作戦会議しましょう。明日の朝から、梶原さんを駅とかで待ち伏せしてお話をしましょうよ!」

「それは申し訳なさ……」

「だって、大庭さん泣いている。そんな人を放っておけない」

「え……なんで、気付かなかった……うっ……」


気づけば、私の頬には涙が伝っていた。


「ほら、いきますよ」


* * *


部長の家は、古めかしいアパートだった。


「あの……ご両親にご迷惑じゃ……」

「大丈夫です。私はお母さんだけで、今日は夜勤なので親はいません」

「ごはんは食べましたか?」

「まだ食べてない……」

「腹が減っては戦はできません……さっき私は食べてしまったので……カップヌードル温めますね」


差し出された熱々のカップヌードルが、こんなに美味しいとは思わなかった。


「すみません、配信をつけていいですか?」

「あ、はい……」


スマホから、聞き慣れた声が聞こえた。

「あれ、それって……」

「知ってますか? 最近有名になってきたVTuberさんです」


そこには、よく知っているソフィア様の配信画面が映っていた。


「好きなの? そのVTuber」

「はい。最初はふざけた歴史ばっかり言っていてオカルト系だと思ったんですが、知識もあって、本当の話かもしれないってわかってからは好きで見ています。いつもこの時間は一人なので、聞きながら勉強したり、本を読んだりしています」

「歴史が大好きなんだね。なんで部長はそんなに歴史が好きなの?」


正直、私は学校の歴史は苦手だ。誰々が何年に何をしたとか暗記するだけで、楽しくない。


「なんでしょう……。偉人や歴史上の人物と言われる人たちも、意外と人間臭くて、私たちと同じで苦しんだり失敗したりしている。そういう人間臭いのが好きというか……難しいですね。ただ、みんな自分の人生を、自分なりに精一杯生きてきたところにすごく共感してます」


上手く言えないや、と言いながらポリポリと顔を掻く部長さん。


「そっか。私は歴史は苦手で、やれ何々さんが何年になにをしたって暗記ばっかりで……」

「学校の授業とかは触りだけですからね。もし、私たちが歴史的人物になったとしても、今日の出来事は……そうだなぁ……『大庭しぐれの事変』という単語しか残りませんから。それだと、その時の本当の感情なんてよくわかりませんよね」

「なにそれ、意味わかんないよ」


部長の例え話がちょっと面白くて、私はふふっと笑った。


「やっと笑ってくれましたね。今日の大庭さん、ずっとしかめっ面だったから」

「そうだったんだ……なんかごめんね」

「そういうところですよ。よくわからないのに謝るのはよくないです」

「あ、ご……」

「ありがとう、でいいと思います」

「……うん、ありがとう」

「では、作戦会議と行きましょう。今日は泊まってください、着替えは私のを渡しますから」


こうして、私の『歴史好きの友達』が、色々と作戦を考えてくれた。


「……そんな方法でうまくいくのかな?」

「いきますよ、安心してください」

「明日は早いですよ。というか、深夜3時に起きます」

「そ! そんなに!! 部長っておとなしい人だと思ったけど、大胆な案を思いつくよね……」

「やるときは、やるんです」


そういう会話をしていると、初めて部長と会った日を思い出した。私(鎌倉の狂犬レズ)から部員を守るために、自分を差し出した時のことを。


「たしかに、そうだね……」

「では、もう寝ましょう。明日の討ち入りのために」

「討ち入りって……」

「忠臣蔵みたいでワクワクします……」


そして私たちは、ソフィア様の配信を子守唄代わりにしながら眠りについた。

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