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鎌倉ヴァンパイア・ヴィンテージ ~独占欲強め銀髪メイド様は、私(の血)を独り占めしたい~~  作者: つきよ


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第23話「過激派親衛隊との死闘とマーキングの上書き合戦」

夕暮れの帰り道。

私と景ちゃんが下校していると、見覚えのあるセーラー服の集団――景ちゃんを崇拝する『過激派ファンクラブ(親衛隊)』の面々が、私たちを取り囲むように立ち塞がった。


「大庭しぐれ。景様から離れなさい、この泥棒猫」


先頭に立つ親衛隊の隊長が、親の仇でも見るような冷たい視線を私に向けてくる。


「お前ら……なんだよ。これから帰るところだから退けよ」


景ちゃんが、いつもの学校用の『ヤンキーモード(孤高の狼)』で前に出て庇ってくれた。


「景様、申し訳ありませんが、我慢ならないのですわ!」

「なんだよ……。大庭とは、同じアルバイト先だから一緒に帰っているだけだろ」


景ちゃんが言い返している間、私は無言で状況を分析していた。

相手は六人。私はまず相手の『手』を確認した。


先日、ソフィア様から教わったのだ。

『敵に囲まれた時は、まず相手の人数と手を見なさい。手に何か持っているか、上着の胸ポケットにペン(武器になる)はないかを確認するの。それから、逃走ルートの確保。もしダメなら、地面の砂や石を拾って目潰しにして攪乱しなさい』と。


私は、ソフィア様の教えに忠実に、足元に落ちていた手頃な石をそっと拾い、ポケットに忍ばせた。

(いざとなったら、隊長の目に砂を投げて、景ちゃんの手を引いて突破する……!)

……あれ? 私、いつからこんな殺し屋みたいな思考回路になったんだっけ?


「大庭しぐれ! こちらのお話を聞いているのかしら!?」

「あ、聞いてます。景さんが言っている通りでして……えーと、親衛隊の隊長さんですよね? よければ通してもらえると……」

「今回は、そうはいきませんわ! あなたには何度もお手紙を送っているのに、ずっと無視されているではありませんか!」


お手紙? ああ、あの下駄箱に入っていた『果たし状』のことか。あれをお手紙と呼ぶお嬢様感覚がすごい。


「えっと、無視していたのはすみません……」

「ふん。今回は、我々の総意をしっかりとお伝えしますわ。今後、景様との一切の接触を禁止します!」

「え……」

「あなたには、容疑がたくさんありますのよ!」


隊長の後ろにいた親衛隊の一人が、バインダーを開いて高らかに読み上げ始めた。


「我々の調査部によると、下記の罪状が確認されています!」

「その一! 景様の手作り愛妻弁当を、我々に見せつけるように食べる罪!」

「その二! 一つ屋根の下で、ラブラブ同棲生活をしている罪!」

「その三! お昼休み、景様と密かにアイコンタクトをしている罪!」

「その四! 景様がふと見せる、大庭氏に対する『女の顔』罪!」

「その五! 景様が何もないのに、目で大庭氏を追ってしまう罪!」


「いやいや! 後半の罪状、私まったく関係ないですよね!?」


景ちゃん側の問題じゃないか。

私がツッコミを入れると、隊長が鼻で笑った。


「我々も、景様が選んだ方なら……身を引く覚悟はありましたわ。でも、調べさせてもらいました。あなたのお父様は、海外赴任先で現地妻を作り、その子を本妻のしぐれの三者面談に向かわせるような、鬼畜すぎる殿方だそうじゃないですか!」


(あ、しまった……)

以前、ソフィア様に三者面談の代理(母親役)をお願いした時の、適当な嘘の設定だ。親衛隊の調査能力、高すぎるでしょ。


「そんな不純な血筋で、しかも純金組ならまだしも、金メッキ組であるあなたが……高貴な景様と見合うはずがありませんわ!」


その言葉を聞いた瞬間。

私の頭の中で、ブチッ、と何かが切れる音がした。


「……あん? てめぇ、今なんて言った?」


声のトーンが、自分でも驚くほど低く沈んだ。

心臓の鼓動が、ドクン、ドクンと異常な速さで跳ね上がり、視界の端が赤く染まっていくような感覚があった。


「な!? なんですか、その乱暴な口の利き方は! 事実でしょう! だからこそ、そんな下品な言葉遣いになるのかしら!?」

「おい、てめぇ……いい加減にしろよ」


親の七光りで学園に入っただけのお嬢様たちが、努力してこの学園に入った人たちを馬鹿にするのは、絶対に許せなかった。


「……親の七光りで入っただけの温室育ちが、キャンキャン吠えてんじゃねぇぞ」

「なっ……! 内部進級試験をちゃんとパスしてきていますのよ!? あなたにそんなこと言われる筋合いありませんわ! どうせ、親だって大した仕事をしていない底辺なのでしょう!?」


隊長がヒステリックに叫んだ、その瞬間だった。


ドゴォッ!! という鈍い音が響いた。


私の右ストレートが、親衛隊隊長の顔面にフルスイングでめり込んでいた。


「ぐはぁっ!?」


周囲から「た、隊長ー!?」と悲鳴が上がる。

しかし、私の体は止まらなかった。無意識のうちに左手で隊長の胸ぐら(セーラー服の襟)を掴み、そのまま鳩尾みぞおちに向かって容赦なく二発目の拳を叩き込んでいた。


「がはぁっ……!」

「もう……やめておくんまし……」


白目を剥きかけた隊長が呻くが、私は襟を掴んだまま周囲の親衛隊をギロリと睨みつけた。


「ほかに相手になるヤツはいるかぁ!!? この『大庭しぐれ』が全員まとめて相手になってやるぞ!! あぁ!?」


私が咆哮すると、親衛隊の面々はヒィッと悲鳴を上げ、一斉に後ずさりした。


……はっ、と我に返る。

私の右手は赤く腫れ、拳の皮が剥けていた。左手は、気絶寸前の隊長の襟をガッチリと掴んだままだ。


(あ……あれ……?)

やばい、やばいどうしよう。こんな野蛮な暴力沙汰、景ちゃんが見たら絶対に幻滅される……!

私が恐る恐る隣を振り返ると。


そこには、両手を胸の前で組み、頬を真っ赤に染めて、すっごくとろけた瞳で私を見つめている景ちゃんがいた。

完全に、乙女の『惚れたフェイス』だった。


(幻滅されるどころか、好感度カンストしてるぅぅぅ!?)


私はみんながボーッとしているのを好機と見て、隊長をポイッと手放し、景ちゃんの手を引いて全力で逃げ出した。


「景ちゃん、行くよ!」

「は……はい〜♡」


走ってかなり距離を離した後、私は景ちゃんに弁解するように説明した。


「ご、ごめんね! あれは違くて……その、私にも譲れないものがあって、それを馬鹿にされて……。でも、暴力は絶対によくないよね……本当にごめん」

「いいえ、いいんです! お気持ち分かりますし……!」


景ちゃんは、興奮冷めやらぬ様子で私の手を握り返してきた。


「すっごくかっこよかったです……! あの冷徹で隙のないワンツーパンチからの、周囲を威圧する咆哮……。さすが大庭殿……一生ついて行きます……!」

「すっごく悦に入ってる!? てか、昔の話し方(武士モード)に戻ってるよ景ちゃん!」


気持ちを切り替えて、夕方から洋館でのアルバイトをこなしていた。

すると、アナスタシアさんが私の手を取り、怪訝そうな顔をした。


「どうしたのですか、その拳の怪傷は」

「えっと、これはちょっと……」


私は、帰り道に起きたこと(親衛隊との乱闘)を素直に説明した。


「なるほど。無勢に多勢の中、真っ先に敵側のボスを物理で沈めたのですね。とても戦略的です」

「いや……その、自分でもよく分からなくて。頭に血が上ったというか……絶対に暴力はよくないのに……」


私が落ち込んでいると、アナスタシアさんは「その通りですが」と前置きしつつ、私の拳に景ちゃんが貼ってくれた『可愛い猫の絆創膏』を、躊躇なくベリッと剥がした。


「向こうは大勢で圧をかけてきたのですから、先手必勝は仕方ないでしょう。それよりも……」


アナスタシアさんの金色の瞳が、怪しく細められた。


「他の女(景)のために戦って、あなたが傷付くのは感心しません。それに……手にこんなに『あの女の匂い(絆創膏)』をつけているのも、非常に不愉快です」

「あの……アナスタシアさん? ちょっと、くすぐったいです……!」


アナスタシアさんのねっとりとした舌使いにゾクゾクしていると、不思議なことに、傷がみるみるうちに薄くなり、塞がっていくのが分かった。


「……これでもう、この安っぽい絆創膏は要りませんね」

「う……ありがとうございます」

「あらあら、イチャイチャしているところごめんなさいね。どうしたのかしら?」


そこへ、丸眼鏡をかけたソフィア様がフラリとやってきた。

どうやら『冬のコミケ』が近いらしく、同人誌の原稿の追い込みで徹夜続きらしい。


「えっと、ちょっと怪我をして……」


私はソフィア様にも、急にブチギレて暴力を振るってしまった経緯を説明した。


「ふふ、見かけによらず大胆なのね。さすがは『鎌倉武士』の末裔ね」

「なんですか、その誉め言葉……。でも、本当に急に力が湧いてきたというか、抑えきれなかったんです」


すると、ソフィア様は眼鏡をクイッと押し上げて言った。


「原因は、あなた、このアナスタシアから血を分けてもらったからでしょうね。言語を理解できるように処置した時、ヴァンパイアの『力』も少し混ざっちゃったのよ」

「えっ!? なんですか、それ!」

「まぁ、ヴァンパイアの超人的な身体能力と闘争本能が、ほんの少しバフとして追加されただけだから安心して。ヴァンパイアになったわけじゃないから」

「ええ……こわいんですけど……」

「それに加えて、あなたの祖先は生粋の戦闘民族(鎌倉武士)よ。侮辱されたことで、その眠っていた闘争の遺伝子とヴァンパイアの血が共鳴して、反応したってことね」

「納得できないですが、理屈は納得できました」


私は深い溜め息をついた。


「それにしても、景の親衛隊は厄介ね。色々と嗅ぎ回って、我々のことまで探るようになったら面倒だわ……。今のうちにつぶしておこうかしら?」

「いやいやいや! その辺は私がなんとか穏便に済ませますから!!」


アルバイトの帰り道。

一緒に並んで歩いていた景ちゃんが、私の右手をじっと見つめて言った。


「あの、しぐれ。拳の怪我はどうしたんですか?」

「あ、ええと……アナスタシアさんに治してもらったんだ」

「どうやってですか?」

「え、えっと……舐めてもらって……」

「…………ふーん」


景ちゃんの声の温度が、氷点下まで下がった。

彼女は無言のままカバンから新しい絆創膏を取り出すと、完全に治っている私の拳の真上に、ペタンと貼り直した。


「え、治ってるから大丈夫だよ? 絆創膏、もったいないよ」

「いいから、つけておいてください。……他の女の『マーキング(唾液)』を見るのは、とても不愉快なので」


ヤキモチを焼いて、ものすごく怒っている。

景ちゃんの機嫌を直すにはどうやって甘えればいいか……私は帰り道ずっと、そのことばかり考えていた。


(第23話 完)

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