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9.ギルドの売店でゆるりとお買い物

 粗方あらかたスキルの検証を終えたボクは、走って街の入り口にたどり着く。

 結構人が多いね。南門の入場待ちの馬車が数台並んでいる。

 少し待っているとボクの順番がやってきた。係の人に声を掛ける。


「通っていい?」

「それはできない。チェックは規則だ」


 知らない衛兵のおじさんと会話をしたボクは、冒険者カードを提出し、検問を終えて、街の中へと入る。

 人の往来が多く、中央通りは露店で賑わいを見せる。

 朝のように走って通ることができないので、できるだけ早く歩き、冒険者ギルドに向かっていく。


「着いたー」


 ボクの独り言と同時に正午の鐘が鳴り響く。

 ボクは受付のカウンターに向かって歩いていく。


「あれ? 居ないね」


 すると、どういうことだろう。

 ギルドマスターが席を外している。

 代わりに知らない女性がその席に座っている。

 でも、なぜか声を掛ける人が誰も居ない。


 左右の女性職員には並んでいる人が沢山居るのに、ギルドマスターの席だけ並ぶ人が居ない。

 なにか嫌な予感がする。

 ボクも周りの大人たちと同じように、いつもと違う場所に並んだ方がいいのかもしれない。そう思っていると、人の声が入り口から聞こえてくる。


「なあ、また盗賊が攻めてきたんだって」

「あいつら、どうやって連絡を取っているんだろうな?」


 まずいよ。このままだと受付ができないよ。


「え……?」


 そう思っていると、タイミングよくギルドマスターの席に居る女性と目が合ってしまった。こっちを見ているね。

 気のせいじゃないみたい。

 ボクを見て微笑んでいる。整った眉と瞳がボクを捉えている。

 若い女性だ。大人と子供の中間のような年齢に見えるね。

 左右の女性職員よりも明らかに若く、どちらかというと可愛くて愛嬌がある。

 だというのにどうして誰も並ぼうとしないのかな?

 不思議だね。


「えっと……、ボク?」


 とうとう手招きをされる。

 ボクの後ろには誰でもない。ボクを呼んでいるようにしか見えない。

 周囲の人たちの視線もボクに集まっている。


「おい。見ろよ」

「あいつ、運がいいな……」


 思った通りだ。カウンターに行くと目を付けられるかもしれない。常連の冒険者から言い掛かりを付けられるテンプレ的な事案が発生しそうな予感がする。


「おい。あのガキは誰だ?」

「気を付けろ。こういう場合は逆にお前が嫌われるぞ?」

「ちっ。そうだったな」

「お前ら馬鹿か? あいつは女だ。関係ない」

「なんだ。それを早く言えよ」


 どうしよう。

 周りの人たちの反応から察するに、これってつまり、手招きをしている女性は、女性専用の受付員ってことになるのかな?

 だとしたらボクは男だ。男だということは別のカウンター席に移動しなければならないってことだよね?

 ボクの予測が正しいのであるならば、そこにボクが行くのは相応しくないということになる。

 でもあの女性はボクを見てくれている。ボクに微笑んでくれている。

 このまま迷っていると逆に失礼になる気がする。

 どうしよう。非常に困るね。


「リエル。どうした?」


 この声は。


「アリーさん?」


 振り向くと制服姿のアリーが近づいてくる。


「イルベルが呼んでいる。行った方がいい」

「え? でも、ボク男だし」

「ん?」


 そこでどうして首をかしげるの。

 ボクは男だよ。女じゃないよ。

 これってもしかして、アリーもボクのことを女の子だと勘違いしているのかな?


「関係ない。イルベルが呼んでいる。一緒に行こう」

「あっ」


 アリーがボクの手をつかむ。

 そのままカウンターに誘導される。


「リエルを連れて来た」

「ありがとう。アリー」

「ん」


 なんかおっとりした声。

 少し良い匂いがする。


「そっか。リエルっていうのね。私はイルベル・ホーリーよ。それで、今日はどうしたの?」


 イルベルさんがボクの目を見て笑い、まるで幼い子供と話すかのように対応してくれる。

 取りあえず要件を伝えることにする。


「薬草採取が終わりました。沢山あるので検品をお願いします」

「それじゃあ冒険者カードを出してね。依頼内容を確認するのに必要なの」


 言われるままに、カードを懐から取り出し、イルベルに手渡す。


「これは……、指名依頼かしら?」


 そう云えばそうだった。

 回復院のギルド長からの直接依頼。

 凄く偉い人だって聞いている。聖女でギルド長のお貴族様。

 直接面識はないけど、ボクみたいな雑魚キャラに依頼するなんて、一体どんな人なんだろうね。


「確認したわ。回復草をできるだけ多く納品して欲しいという依頼ね。すぐに提出できるかしら?」

「うん、いいけど。200はあるので大きな箱が欲しいですね」

「そう、分かったわ。ちょっと待っていてね」


 そう言うと、イルベルがどこからともなく大きな箱をカウンターの上に持ち出してきた。

 ボクはアイテムボックスから持っている全ての回復草をその箱の中に入れていく。


「アイテムボックスなんて珍しいわね」

「これで全部です。確認をお願いします」

「ええ、いいわよ」


 イルベルが受け取り箱を持って、カウンターの奥へと歩いていく。

 待っている間にボクは、付き添ってくれているアリーに感謝をする。


「ありがとう。アリーさん。おかげで報告ができました」

「ん、リエルはいい子」


 アリーがボクの頭に手をそえる。


「えっと……」

「ん」


 アリーがボクの頭を撫で始める。

 嬉しいけど、子供扱いはして欲しくない。

 ちょっと困るな。


「あの、頭を撫でるのは止めてもらえないでしょうか?」

「リエルの長い髪は柔らかい。手触りがいい」


 あの、恥ずかしいです。

 そんなやり取りをしていると、イルベルが戻ってきた。


「確認が終わったわよ」


 よかった。イルベルが笑っている。


「うふふ。アリーとリエルは仲がいいのね」

「ん、当然だ。リエルは友達だからな」

「え?」


 そうだったんだ。


「あら、そうなの? アリーが外の子と仲良くなるなんて珍しいわね」

「ん」


 なんか嬉しいな。

 孤児院でボッチだったボクに友達ができた。

 アリーはちょっと癖があるけど、ボクに優しいし、いい人だよね。

 今度からボクも友達として話し掛けることにしよう。

 もしかしたら、女の子に好くしてもらったの、これが初めてかも。


「依頼は達成ね。ちょうど回復院ギルドの人が居たので全部渡してきたわ。品質が良くってとても喜んでいたわよ」


 これはお金が期待できるかも。


「報酬は金貨二枚と銀貨三枚になるわ。それと追加で指名依頼をお願いされたわ。引き続き採取依頼をお願いするわね」


 全部で230000ルード。凄い大金だ。


「えっと、仕事は明日からでもいいですよね?」

「ええ、それでいいと思うわよ」


 ボクはお金を数え、アイテムボックスに仕舞い込む。


「はい、冒険者カードよ。これで手続きは完了したわ」

「ありがとうございます」

「それで、リエルちゃんはこれからどうするの?」


 もう予定がある。


「屋台で適当に昼食を済ませて、その後で買い物をしようかと思っています」

「そっか、買い物か……。そうね。何が買いたいのかな? よかったらお姉さんに教えてくれない?」

「別にたいした物でもないですよ。下着と服に、洗濯用の薬とか? 他には武器を手に入れたいと思っています」


 あ、ポーションの価格も知りたいかな?


「それと、回復薬と魔力薬も見てみたいですね。高いことは分かっているのですが、今後の参考に知っておくのもいいと思っています」


 回復薬とは、回復のポーションのことで、作った物にどれだけの価値があるのかを確かめたいのが本音だ。

 魔力薬は実際に市場で取り扱っているのかを知るためだ。

 ゲーム時代では非売品だった。生産物や宝箱からのみ手に入れることができる。


「外のお店は止めた方がいいわね」

「え?」

「今すごく治安が悪いのよ。それでね。リエルちゃんが一人で買い物に行くのは止めた方がいいと思うの」

「そうなんですか?」

「うん。特に若い子が騙されているらしいのよ。買い物もそれとなく粗悪品を押し付けられるかもしれないから、騙されないように詳しい人と一緒に居た方がいいと思うわ」

「えっと、困ったな……」

「でも安心して。冒険者ギルドにもお店があるのよ。初心者用の武器からちょっとした服まで全部そろっているわ。雑貨は品物にもよるけど、それなりに充実しているわね」

「そうなんですか」


 冒険者ギルドにお店があるなんて気付かなかったね。

 言われてみると建物は大きくて広い。

 ここに何があるかなんて考えてもいなかったな。


「ん。だったら私が案内をする」

「そっか。アリーが付き添ってくれるなら安心ね。頼めるかしら?」

「任せろ」


 アリーが名乗りを上げてくれた。


「リエル、行こう。私に付いてくる」

「あ、待ってください」

「行ってらっしゃい」


 腕をつかまれたので、急いで付いていくことにした。

 向かう途中、通路を通り、広い食堂がある建屋にたどり着く。

 食堂は解体場と隣り合う場所。

 解体場は、あらゆる魔物に対応するため、入り口がとても大きく作られている。

 その解体場と隣接している食堂も同じ広さになる。

 臨時の時は、魔物が置けるスペースになるようで、天井が高く、三階の通路まで見渡すことができる。

 王都の冒険者ギルドの食堂と同じ造りで、日雇いの仕事をしていたときに教えてもらったことがある。


「こっちだ」

「あ、待って。アリーさん」


 賑わう食堂に着いて早々、入り口横の階段を上がり、二階へ向かっていく。


「よう! アリー? なんで急いでいるんだ!」

「うるさい! 死ね!」


 アリーが暴言を吐いた。

 その対応に笑いを飛ばすギルド職員風の男性たち。大きな骨付き肉を握っている。

 どこか漫画のような光景にボクは、思わず笑みを浮かべてしまう。

 そして、二階の通路を歩く。

 そのまま奥へ進むと、吹き抜けの食堂から外れ、静かな場所になる。


「着いた」


 アリーが立ち止まった。


「ここが売店。ゼピックが管理している店」


 広い入り口の前に沢山の売り物が置いてある。店の中に入ると複数の棚に物が乱雑に置かれている。

 まるで整理されていない物流倉庫のようだ。

 武器に盾に鎧にテントや鍋に調味料。他にもいろいろな商品が置かれている。


「ゼピック! 私だ! 客を連れて来た!」


 アリーが大声を張り上げた。

 店の奥から大きな物音が聴こえてくる。


「ゼピック!」

「なんじゃい! 今手が離せん! 用があるなら奥へ来い!」

「ん。リエル、行こう」

「はい……」


 ボクは勝手が分からないので、アリーの指示に従う。

 歩いてみると、店内は長い通路のよう。

 客は一人も居ないようで、なぜか独特の暖かい雰囲気がする。


「ゼピック! 来たよ?」

「少し待っておれ!」

「ん、分かった!」


 カウンターの奥は作業場のような造りなっているようだ。

 音から察するに、物づくりをしているのだろう。

 金槌を叩く甲高い音が微かに聞こえてくる。


「今手が離せんのじゃ!」


 鍛冶系のスキルだろうか。

 ボクも知識はある。


「終わったぞ。今そっちに行くからの!」


 小柄で白髭を生やした老人風の男性が、部屋の奥からやって来た。

 地人族のドワーフ。鍛冶全般が得意で、酒に強く、背が低い人が多い種族。

 居るところには居るらしく、この世界のボクにとって始めての出会いになる。


「それで? 今日はなんの用じゃ?」

「客を連れて来た。話を聞いてあげて欲しい」


 この人もアリーと同じギルドの制服姿をしている。

 専属という意味だろうか。


「なんじゃ? お主が客か?」

「あの、買いたい物があるんだけど……」


 レティッシャの助言を思い出し、砕けたような言葉遣いを心掛ける。


「お主、名前は?」

「リエル、だよ」


 言いづらい。やっぱり丁寧な話し方をしてみたい。


「アリーよ。子供を連れて来たのか?」

「リエルはいい子。ゼピックも気に入ると思う」

「しかしのう。ここは子供が来るところではない」


 子供じゃないよ。

 まだGランクだけど、立派な冒険者だよ。


「お主、歳はいくつじゃ?」

「12歳だよ」

「なんじゃ。小さいからてっきり10歳以下かと思ったぞ。いや失礼した」


 ボクってそんな風に視えるんだ。

 背が低いし、線も細いけど、幼い子供みたいだって言われたのは初めてだよ。

 それとも皆が思っていることなのかな?


「それで? どういう経緯でここに来ることになったんじゃ? ここはギルド専用じゃぞ?」


 ギルド専用の店ってことは、冒険者であるなら来てもいいってことだよね?

 別に変なことじゃないと思うんだけど。


「ん、イルベルが云っていた。街が最近物騒らしい。新人が騙されているから、ここに行けって云われた」

「なるほどのう。それでアリーが連れて来たのか?」

「ん。リエルはいい子。ギルドで守るのは当然」

「お前さんがそこまで言うのは珍しいわい」


 なんかボク、アリーの中でいい人になっているけど、どうしてなんだろうね?


「話は分かった。それでリエルよ。何が欲しいんじゃ?」

「服に下着と洗濯用の薬に武器。後は回復薬もあれば見てみたい」

「あるぞい」

「え?」

「ちっと待っとれ。今持って来るわい」


 そう言葉にしたゼピックが、カウンターの奥へと離れていく。

 そしてすぐに戻って来た。

 手には箱を抱えている。


「これで全部じゃ」

「早い、ですね」

「なんじゃ。無理する必要はないぞ? そういう話し方の奴もここには沢山おるわ」

「あ、はい!」

「うむ。子供は素直が一番じゃ」


 やっぱり変に聞こえていたんだね。


「早速じゃが、全部で金貨二枚じゃな」

「え?」

「なんじゃ、払えんのか?」


 そうじゃなくて。


「あの、その箱の中身を確認させてもらえないでしょうか?」

「おお、そうじゃったな。いいぞい」


 せっかちな人なのかな?

 それともボクを騙そうとしているのかな。

 ドワーフだからどう判断していいのか迷う。

 ゼピックさんには少し気を付けた方がいいのかもしれないね。

 気を取り直してボクは、箱の中の物を一つずつ確認していく。


「これは?」

「バームの実じゃなあ。砕いて水にさらせば、泡が出て汚れが落ちる」

「これは?」

「服じゃ。子供用なんて物は、ここにはそれしかないぞい」


 フード付きの白いローブ。

 インナーは白のブラウスに黒の短ズボン。

 カボチャパンツに白の薄い肌着。

 それに、青い厚底のブーツ。

 底の部分に厚いゴムが張ってある。

 少しサイズが大きようだけど、そこは成長するから丁度いいのかもしれないね。

 でも、カボチャパンツはちょっと違う気がする。


「あの、ボクはふんどし派なので、カボチャパンツは止めて欲しいです」

「そうなのか? 分かったわい。少し待っておれ」

「あの、箱の中の物に触ってみてもいいですか?」

「ああ、いいぞい」


 確認が取れたのでボクは、鞘に入った短剣を鑑定してみる。



 名前 ショートソード

 評価 80

 効果 ATK+8 空き 空き

 補正 錆に強い 形がいい



「うん」


 品質の良い物だ。

 というか、掘り出し物だよね? これ。

 空きスロットが二つもある。

 今はできないけど、将来的には錬金術で強化ができるね。

 買いだね。


 で? 回復薬はどうだろう。



 名前 傷薬軟膏

 品質 48

 効果 体力回復微

 補正 色が悪い 塗ると痛い



 回復のポーションじゃないみたい。


「ほれ。はかまを持ってきたぞい」

「あの、ポーションはないのですか?」

「ん? あるにはあるが、売るほどの量は無いのう」

「そうですか……、だったら」


 値段を聞くだけでもいいよね?


「もしも売りに出すのなら幾らくらいする物なんですか?」

「金貨三枚じゃ」

「そんなに……」

「なんじゃ? リエルはポーションが欲しいのか?」

「いえ。そういう訳ではないです。ちょっと知りたかっただけなんです」


 金貨三枚。仮にショートソードが金貨一枚だったとすると、ゲーム時代の価値に合わせてポーションが5本分になる。

 そこから金貨三枚の価値を勘案すると、ゲーム市販価格のおおよそ15倍の値段になる。

 いくらなんでも高すぎる気がする。


「でも高いですね。どうしてそんなに高騰しているんですか?」


 まあ、これが通常価格なんだろうけど。

 一応、理由を聞いてみた。


「なんじゃ知らんのか?」

「はい。できれば教えて欲しいですね」


 あれ? なんか思ったのと違う反応がきた。


「今な。西の方でゴブリンが大繁殖しておる。ゴブリンが人里を襲って死人が大勢出ておるようじゃな」

「え?」


 それってかなりまずいんじゃないかな?

 こっちにもゴブリンが来ないか心配なんですけど。


「ゴブリンキングが出たんですか?」

「ほお。よく知っておるのう」


 なんとなく知っている知識から、ゴブリンキングの名前を出してみたんだけど。


「私も気になる。ゼピック。ゴブリンキングの情報はないの?」

「うむ」


 ゲームではクエストのボスキャラ扱いだったね。

 その強さは中々のもので、様々な役職のゴブリンと一緒にリポップして来るゴブリンの王。

 序盤の強敵で、倒すとたまに首を落とすことがある。

 なんの冗談か分からないけど、ゴブリンの首が部屋の置物として利用できるようになる。

 一部のマニアに需要があって、それなりに場数を踏んだプレイヤーが廃狩りをする定番の魔物になる。


「ゴブリンキングは確認されてはいない。わしが聞いた話では、ホブゴブリンを長とするゴブリンの集落が多く存在しておるらしいわい」

「そう。ん、だったらいい」


 それってどういう意味だろう。

 ゴブリンの生態に詳しくないのでボクには分からない。分からないからこそ、分かっている前提で話しを進めないで欲しいね。


「まあ、ゴブリンキングが出たら緊急依頼がこっちにも来るじゃあろうし。それにゴブリンは弱いからのう。ゴブリンが目立っている間は、ゴブリンキングなんぞ生まれてくるはずがないわい」


 いや、ゴブリンも強いと思うけど。

 錬金術の検証を終えた今のボクなら勝てるかもしれないけど、それでも単体が限界だと思う。


「まあ、話を戻すとのう。ゴブリンのせいで怪我人が多く出ておるということじゃ。その治療に教会がポーションをかき集めておると巷で噂になっておる。おそらく、そのせいじゃあろう」


 何か引っ掛かる。

 確証はない。だけど、教会がわざわざポーションを集める理由としては、弱い気がする。


「あっ、そっか! だから指名依頼がボクに来たんだね」


 教会はポーション作りを専売としている。

 特許ではないものの作れる者が居ないため、必然的に専売になったと孤児院で聞いたことがある。

 ゲームの世界でもそうだったね。

 おそらくこの街でも、ポーションは教会が管理しているはずだ。


「リエルよ。どういうことか説明せよ」

「ん。私も気になる」


 教会は回復院ギルドと連携を取っている。

 薬を作るのに長けた薬師にそれを扱う医師。回復を得意とする聖女に適性がある男性光魔法使いを抱え込んでいる。


「誰かがポーションを故意に集めているのだと思います。今のうちに集めておかなければいけない。そういう意志があるようにボクは感じられます」

「うむ。それはわしが言ったように、ゴブリンに襲われた人を癒すために教会が集めておるのではないのか?」

「違う。それだとおかしい。回復院は光魔法が得意。別にポーションじゃなくてもいいはず」


 アリーが気付いてくれたみたいだね。


「云われてみればそうじゃのう。ポーションは教会の一部の者にしか作れないからのう。そのために需要が大きいはずじゃ。普段は冒険者や辺境の村に使われておる。大きな街では光魔法使いや聖女が傷を癒してくれるから、ポーションを買い集めておるのが回復院ギルド側じゃあ、筋が通らんからのう」

「ん、私もそう思う。手が回らない。別の使い道がある。あるいは、今のうちに集めておく理由がある。それがリエルの疑問。でしょう?」

「そうです。そう言いたかったんです」


 わずかな情報だけど、世の中の矛盾点には目ざとく気付いておく必要がある。

 今の場合は、街の治安が悪くなったことと同時に、ポーションを集める教会側の時期が一致している。

 そのため、普通の人だったら気にする必要がないことかもしれないけど、ボクたち冒険者は、街の治安を守るのも仕事の内。

 常に情報と向き合う姿勢こそ、生きるために必要なこと。


「わしも思う所が少しできたぞ。後で定例会議のときに報告するとしよう。そのときまでには調べておく」

「ん。エイブラムには私から言っておく。皆にもそれとなく説明しておく」

「うむ。アリーよ、頼んだぞい」

「ん」


 なんかよく分からないけど、話がまとまってよかったね。


 それじゃあボクの要件だね。

 魔力薬の価格についても話を聞いておこう。

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