表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

16.どこかでスタンピードが起きたようです

 日が明るいうちに冒険者ギルドに帰って来ることができた。

 建物の中に入ると朝よりも人が少なくなったように見える。

 カウンターの待ち時間もなく四人と別れ、ボクはいつものように受付に向かうことにした。


「こんばんは、ディアーナさん。薬草の採取が終わりましたので検品をお願いします」

「リエルくん。よかったよ。ちょうど君に用があったんだ」

「どうしたんですか? 急に」

「実はね。ダンジョンでスタンピードがあったんだよ。その影響で魔物の群れが外に迷い込んでしまったようでね。君よりも年上の冒険者が北西の森で死亡する事故が起きたんだよ」

「えっ、そうなんですか?」


 スタンピードとは、大暴走という意味になる。

 ゲームや小説でも良く知られている通りで、魔物の群れが押し寄せて来る災害になる。


「北門には衛兵と冒険者が集まっている最中だ。我々ギルド員も一部を残し、そのほとんどが出払っている状況になる」

「はあ」


 そういえば、帰って来るときにもすれ違う人が多かったよね。

 あれはおそらく門に向かう冒険者の団体だったんだろうね。

 今ごろギルドマスターのおじさんも向かっているのかな? きっと。


「一部の者に緊急招集が下されている。ギルドマスターの権限により、対象はFランク以上だ」

『えええぇえええーっ!』


 離れたところから四人の悲鳴が聞こえてくる。

 ミューリーたちが家に帰れないことに悲痛の声を上げたようだ。


「そういうことだからリエルくん。君にもお願いしたいことがある」

「はい」

「今から物資の運搬を頼みたい」

「え? え?」


 あれ。ちょっと待ってよ。

 ボクはGランクだよ?


「ディアーナさん。ボクも緊急招集になるのですか?」

「いや違うよ。リエルくんは対象外だ。だが君にはギルドマスターからの特別依頼が来ているよ。見掛けたら物資の運搬をさせろと云われている。全ての要件は一時凍結とし、しばらくはこの件に時間を割くようにとも云われているよ」

「今日採って来た分はどうするのですか?」

「今から処理をするよ。でもね。明日以降は物資運搬に専念してもらいたい。そのつもりでお願いするよ」

「分かりました」


 そうすると、何回もアイテムボックスを使うことになりそうだね。

 今から作業があるのだとしたら、残りの魔力量が心配になる。

 念のために魔力回復薬を飲んでおこうかな。


「それじゃあ回復草を出してくれないか? 時間がないからね。すぐに査定を済ませるよ」

「はい」


 ディアーナさんがカウンター上に受け取り用の箱を置く。

 ボクはその中に大量の回復草を取り出していく。


「確かに。量的には問題なさそうだね。でも悪いが、支払いは後日でもいいかい?」


 お金には少し余裕がある。

 すぐに払ってもらわなくてもいいだろう。


「はい」

「すまないね。その分こちらからも色を付けておくよ。それよりも、早速だけど物資の運搬作業に取り掛かってくれないか?」

「えっと、それはいいのですが。一つ報告したいことがあります」

「ん? なんだい? 何かあるのかい?」

「実はそこに居る四人と関わることなのですが……」


 二つ隣のカウンターで声を上げているミューリーたちに近づくボクは、ディアーナさんと一緒になって話を聞く。


「そんなことがあったのですか。大変でしたね。良く生て帰ることができましたね」

「うん。リエルくんのおかげです」

「そうだな」

「あたくしたちもリエルさんに助けてもらいましたわ」

「ええ、そうね」

「それでは念のためにもう一度確認しますね。バージェンの皆さんは、リエルさん一緒に五人でストラックボアを退治したということで、よろしいでしょうか?」

「ええ。と言っても、リエルが一人でやったことになるわね。私は三人を守ることに必死で、ほとんど何もしていないわね」

「あたくしも同じです。盾の守りで防ごうとしたのですが、ストラックボアの攻撃に為す術もありませんでした。リエルさんが居なければ、今ごろ死んでいたと思います」

「私もそうです。リエルくんが居なかったら死んでいたと思います」

「あたしからは何もないよ。たまたまストラックボアに襲われなければ、いつもの通りの仕事だったと思うよ。しいて言うならば、あたしがリリーの傍を離れたのが原因になるな」

「フュール。それは違うわ。リーダーである私の判断ミスよ。原因があるとしたら私にあるわ」


 受付のセルエットさんを含めた四人が、リィリーエの負傷した原因の所在についての報告を始めていく。

 どうやら回復院ギルドとの兼ね合いがあるらしく、ミューリーたち四人の関係は複雑な様子。


「ミューリーさんはなにも悪くないのです。悪いのは注意をおこたった私が原因だから。この件はお婆様にそう伝えるつもりだよ? だから他の皆も安心して下さい」

「リリー、そうはいかないわ! 他にも反省する点が多くあるわ! フュールが察知してくれた気配に、私がもう少し注意をしていればよかったのよ!」

「でも、私は」

「あー、すまないがちょっといいかい?」


 ディアーナさんがカウンター越しで二人の会話を遮る。


「二人とも。その話は回復院ギルドでしてくれないかい? 冒険者ギルド側としては、君たちの行いに不満はないよ。現に依頼のホーンラビット討伐を終えているようだし、無事に帰ってきてもいるからね」


 ミューリーとリィリーエが口を閉ざし、この場に居る全員が無言でディアーナさんの声に耳を傾ける。


「それよりも気になることがある。なぜストラックボアが現れることになったのか、君たちは分かっているのかな?」

「ええ」


 ミューリーが名乗りを上げる。


「スタンピードのせいでしょう?」

「そうだね。ミューリーくんの言う通りだよ。ストラックボアはダンジョン限定の魔物になる。森には居ない存在だよ」


 資料室の本にもストラックボアが北の森に居るとは書かれていなかった。


「ちなみに魔物の死体はあるのかな?」

「それはリエルが持っているわ」


 急に話を振られたのでボクは、「うん」と、一言うなずきで返えす。


「そうか。すまないがリエルくん。後でそいつを提供してくれないか?」

「はい。そのつもりです」

「ありがとう。しかし、困ったことになったな」

「そうですね」


 ディアーナさんとセルエットさんが、考え込むように見詰め合う。

 二人が相談を始めて行き、なんとなく分かるボクは、そのやり取りを黙って見守ることにする。


「ちなみに、ストラックボアに気付いたのはいつ頃になるのかな?」


 突然会話を切り出したディアーナさんが、ミューリーたちに振り向く。


「正午を過ぎた辺りだったかしら? フュール、そうだったわね?」

「ああ。あたしが注意をした。確か、食事を始めるときだったよな?」

「ええ、そうでしたわね。リィリーエさんが用意してくれたパンを配っていたときでした」

「うん。私も覚えているよ」


 ということは、ボクが串焼き肉を食べた辺りかな?


「先輩。一刻の猶予も無さそうですね」

「そうだね」


 ディアーナさんがうなずき、セルエットさんが紙を取り出し、羽ペンを握る。


「知っていると思うが、ダンジョンから外に出た魔物は生き物として生を得ることになる」

「確か、一日よね?」

「そう。その通りだ」


 ディアーナさんがミューリーと目を合わせる。


「12時間で自然の魔素を取り込み、半日で仮初の肉体から変態すると云われている」


 その振りを両手で演出する。


「でもおかしいわね。スタンピードが起こったのは今日だったはずよ? なのにストラックボアが変態を完了しているとなると、外に出てから二日は経っている計算になるわね」


 ミューリーの返しに、仲間の三人が黙ってうなずく。


「そうだね。おそらくダンジョンから外に出たのが二日前になるはずだ。ダンジョンの魔物はスタンピード以外で外に出ることはない」

「だとすると、私たちの知らない場所でスタンピードが起こったという事になるのかしら?」

「その通りだよ。ダンジョンの入り口は複数あるからね。確認されている場所以外の入り口から出たとしか考えられない」


 そんなはずはない。ダンジョンの入り口は全て管理されているって資料に書いてあるからね。


「いいですか?」


 セルエットさんが声を上げる。


「スタンピードの発生場所はルトベークです。ですが、ベースリレーの街に被害がありませんでした」


 全ての入り口はベースリレーに繋がっている。


「だったら、ルトベークの通路に私たちの知らない入り口があるのかもしれないわね」

「その可能性は十分にあるね」


 ミューリーとディアーナさんが話しを進めていく。


「これは公開されていない情報になるが、盗賊とその協力者だけが知る入り口が存在すると云われている」

「知っているわ。結構有名な話しね」

「結論から言うと、我々の知らない入り口から魔物が出て来たことになる。だから、原因となる入り口を見付け、早急に魔物の排除をしなければならない」

「はい。その通りですね」


 ディアーナさんの言葉に、書き事をするセルエットさんが一言のうなずきで応える。


「報告書が出来ました。すいませんが、バージェンの皆様にはこの手紙を至急ルトベークで待機しているギルド員に渡していただきたいです」

「できないわ」

「どうしてですか?」

「私たちは一度回復院に報告する義務があるからよ。報告には時間が掛かるわ。だから、他の人にお願いしてもらいたいわね」


 ミューリーがボクを見る。

 ボクもその思いに応える。


「だったらボクに任せてもらえませんか?」

「え? リエルくん。いいのかい?」

「荷運びのついでです。それほど手間も掛からないと思いますよ?」

「そうかい。それじゃあお願いするよ」

「いやしかし、先輩?」

「大丈夫だよ。聞けばリエルくんはそこそこできるようだしね」

「ですが」

「いい。私の責任ってことにするよ。それよりもリエルくん。本当にやれるのかい?」

「はい」

「ごめんね、リエル。私たちの責任を押し付けたみたいで、なんだか心苦しいわ」

「気にしないでよ。ボクがやりたいって思っただけだから」

「ねえ、リエルくん」


 リィリーエが心配そうに眉を寄せている。


「後で宿に連絡を入れるから、絶対に無理をしないでね。私、リエルくんにお礼がしたいの。だから、危険だと思ったら必ず逃げてよね?」

「うん。大丈夫だよ。荷物を運ぶだけだから」

「絶対に無理をしないでね?」

「うん。リリーも元気でね。体を休めて早く元気になってね」

「うん」

「ではリエルさん。この手紙をお願いしますね」

「分かりました」


 ボクはセルエットさんから手紙を受け取り、アイテムボックスに仕舞い込む。


「リエルくんには他にも色々やってもらいたいことがある。早速だが、私に付いて来て欲しい」

「はい」


 ディアーナさんがカウンターから離れる。ボクはその指示に従うように後を追っていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ