第32話
グルグル回りながら喚き散らすエルフレートを他所に仲間たちは一斉に体制を立て直した。
「親衛隊隊長、騎士師団長、そしてほかのみんなもよく来てくれたな」
プルプルは完全回復し安堵した様子で周りに礼をする。
「王女様の魔力が半端ないのが幸いしました。実は王女様が出られた後、世界中にスマホが出回ると同時に
急速に魔力が失われ始めたのです」
プルプルにニッセルも続ける。
「そして私達で原因を探っていた矢先、このイキリン山の山頂だけがまだ魔力が残っておりました。
王女は此処にいるとアタリを付け急ぎ、女王陛下に伝達、指示を仰ぎ最大の禁忌物である”中継局”なるものを破壊するため
ここへ参上した次第であります」
それを聞いてプラプラは胸を撫でおろした。
相手の状況が回復したのがかなり癪に障ったのかエルフレートの怒号は止まらない。
”ふ、ふ、ふざけやってぇ!せっかくのライブ中継をなにしてくれとんじゃー!
こんな放送事故しやがってっこれじゃあ収益化できねーじゃねーか!”
エルフレートならぬドローンはそう叫びながらあちこちを飛び回る。
「何だこいつ」
プルプルが持っていた剣で薙ぎ払おうとするがドローンは巧みな動きでのらりくらり交わしてゆく。
”こーなったらほらあれだ!お前ら全員脱げっ!脱いでそれ以上になれっ!心配スンナ!垢バンされたって
運営囲ってっから!ほら早くしろよ視聴者様が逃げちまうだろうぅぅううう”
「う、うわぁなんかわかんないけどヤバいぐらいの性格上の”難”を感じるなぁ」
人に散々やらかしといて挙句に脱げ脱げって・・・恐ろしいまでの自己中ね」
メソメソもプラプラもやろうと思えば一撃で屠ることも出来るがあえて白い目でエルフレートを眺めていた。
二人だけではない、事態の収拾にあたっていた仲間たちのぶっ飛んだエルフレートを見て呆気に取られている。
そんな中、プラプラが覇気のある声で言う。
「エルフレート!!」
”ぬぉ?!急に叫ぶなビビるだろーがっ”
画面越しのエルフレートは一瞬驚いた顔をするが直ぐに睨みつける。
「母から聞いた。貴様が太古の昔、異世界に行ったエルフ・エルフレートだな!」
「う、うそっ?!」
「逆バージョン?!」
プラプラの一瞬エルフレートは面食らうが直ぐにその顔を自身ありふれた顔に戻した。
”ふふふ、私のめーせーなら当然よね。この登録者数全世界NO.1のエルフレートなら”
「なっ、王女様?!」
プルプルが信じられないような顔をしてプラプラの顔を覗き見る。
プラプラは全てを悟っているかのように真っすぐエルフレートを見つめていた。
遡る事太古の昔ーーー。
「ううぅ・・・」
聖なるイキリン山へと定例祈願に来ていたエルフレート、そしてブラミール・プライトは
突如放たれた光により見た事もないような異世界へと飛ばされていた。
「エルフレート!ここはいったい何?!なんか、魔法とは違う痛々しいような光があちこちに…
それにあの地を這う鉄の塊…ここって、古文書にあった異世界とかいう・・・」
「ううううぅぅぅ・・・あっはははっはっ!あーーはははははははっ!」
戸惑うブラプラの事など気にも留めず、エルフレートは高らかに笑う。
「エルフレート?どうしたのっ?」
ブラミールは不安を抑えきれずエルフレートに駆け寄るがそれをエルフレートは軽々しく跳ねのけた。
「っ!エルフレート!」
「やったわ・・・ついに来たのよ、異世界に。伝説の通りならここには科学がある、文明がある!
明けない夜、華やかな都市、娯楽、悦楽、道楽・・・。
生き物の肉を喰らい、血をすする。毎日毎日豆を食い、しょーもない魔法を馬鹿みたいに唱える
糞つまらない日々は終わりよっ!」
エルフレートは顔を歪ませながらそう言いほくそ笑む。
「何を考えているのエルフレート!!こんな毒のような苦しい空気の世界に何を望むというの?!
それに私達の魔力もここではまったく無力に等しくなっている。こんなところ早くぬけだしてーーー」
「だまれっ!この糞が!」
エルフレートはブラプラを蹴飛ばした。
「うぐっ、何をするのよ!」
「貴方の馬鹿みたいな魔力のおかげで異世界の門を開くことが出来たわ、それは感謝してあげる、まあちょっとやり過ぎた部分はあるけど。
でもそんなことより私はあの母親が築き上げたあの糞詰まんない何の刺激も無いエルフの世界が嫌で嫌で仕方がないのっ。だからここに来るために利用させてもらったわ、悪く思わないでよ」
そう言うエルフレートの目はギラギラと妖艶な光をより一層強くさせていた。
「やめなさいエルフレートっ!ここがどんな世界は古文書に読んでいればわかるでしょっ!
ここは人という生き物が欲望のままに生きる世界よ!」
「たしかに欲望のままに生きているのかもしれない、しかしながらそれは我々エルフが禁忌とする”悦”
なのよ。禁忌とすると同時にもっとも欲してやまないもの」
エルフレートは隠し持っていた投げナイフをブラミールに投げつける。
ブラミールは紙一重でかわして慌てて近くの岩肌に身を隠す。
「私はここで女王になるのっ!あんな何の刺激も無い糞エルフの世界の王女なんて嫌よ!!」
まだ魔力が残っているのか、エルフレートは詠唱をして爆裂魔法をあちらこちらに連発する。
「エルフレート・・・姉さん!お願い、戻ってきて!!」
ブラプラも負けじと詠唱を唱えるが姉の方が一枚上手なのか隙を突かれ懐に忍び込まれる。
「?!!!」
胸ぐらをつかまれ、そのまま詠唱魔法を唱えて身体の自由を奪われる。
「・・・あなたのような真面目ちゃんにはあの世界がお似合いよ、帰りなさい!」
「姉さん!!戻ってきて、貴方が”私達の世界”の女王なのよ」
「見てなさいブラミール、私はこの”悦”世界で女王なる」
そう言うと魔力によって無理やりこじ開けられた異世界へのゲートへとブラミールを突き飛ばした。
そんな切迫した緊張感のある場面を背中のリュックに無数のポスターを突き刺した男が震えながらスマホで撮影していた。
男を見てエルフレートはふと呟く。
「ふふふっ”マジか”?早速これはバズっちゃうって!」
「マジカ・・・」
ほくそ笑むエルフレートを薄れゆく意識の中、ただ見つめながらゲートへと引き込まれるブラミール。
ただ頭の中には、”マジカ”という呪われた声だけが響くのであった。
”と、いうわけなのよ”
「じ、じゃあ、エルフレートってもともとこっちの世界の女王様なの」
「何という素っ頓狂な・・・てか不良にもほどがあるでしょ」
「”悦”に誘惑されるとは・・・エルフの風上にも置けん」
「ゆえに母上より、何とかするようにと勅命が下ったのだ」
一同はエルフレートが流した解説動画をまるで映画を見るかのようにある者は菓子を食べ、またある者は飲み物を
すすりながらレビューに花を咲かせていた。
「って王女!のんびりしている暇はございませんよ!あの者はマジカの異世界を滅ぼした元凶、
マジカだけでは飽き足らず、ここにまで手を伸ばしてきたのですよ!」
いち早く我に返ったニッセルが身を正して剣を構える。
”お察しがいいわね。まあ、元は私が統治する予定だった世界だしぃ、今更っていうか?
こっちで登録者数稼ぐのも良いつーかね。スマホ配りまくったんだからむしろ崇めろって感じじゃん?”
「相変わらずですね、この人はーーー」
「母上っ!!」
背後から澄んだ声に一同が振り返る。
そこには幾人もの兵を従えたプラプラの母、ブラミール女王陛下がエルフレートを睨みつけていた。
”お、マジひさしぶりじゃん?何千年ぶり・・・あ、そっか今私にケンカ売ってるのはあんたの娘かぁ
通りでなんかキモイ魔力感じると思ったわ”
「き、貴様っ王家の人間に無礼なことをっ」
プルプルが身構えるがそれをプラプラは手を制した。
「エルフレート、貴方の事は母上よりよく聞いている!もしも腕に覚えがあるなら、そしてこの世界までも
我がものとしたいなら私を打ち負かして見せよっ!」
プラプラはとびっきりの詠唱魔法を腕輪に込める。
”へぇ~まあ母親に似て相変わらずイライラすること言うわ”
バリバリバリバリっ・・・。
「う、うわっ出てきたぁ」
「・・・何なのこの魔力、プラプラ以上?!」
バリバリバリッーーゴォオオオオオオ!!
ディスプレイからどこぞのホラー映画のようにニューっとおどろおどろしく出てきたエルフレート。
先ほどの画面越しとは打って変り全身からにじみ出るその覇気はその場にいる全員を戦慄させた。




