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歩いて近づいてくる平瀬さんがかなり迫ってきたけれども、そのようなわけで、俺が吉岡だと気づくことはあり得ないから問題はない。
とはいっても、こんな化け物のような顔を彼女の瞳に映して、気分を害させるのは申し訳ないので、去らなくては。
ゆえに、ひとまず俺は体の向きを反転させた。
「あれ? 吉岡くん? そうだよね?」
え?
今、背後から聞こえた声の主は、平瀬さんだ。間違いない。
同じ名字の別の人間の知り合いがいて、その男に対して言ったという可能性もある。確かめようと、俺は恐る恐る元の方向へ振り返った。
「吉岡くんなんでしょ?」
平瀬さんは、俺が立っている地点に着いて、誰か他の人ではなく、俺に向かって問いかけた。
「どうして……」
俺の言わんとしていることを、彼女は理解したようだ。
「わかるよ、久しぶりだけど、なんとなく雰囲気とかで。ただ、ずいぶん経つとはいえ、顔は昔とだいぶ変わった感じがするね?」
「……う、うん」
変わった感じがするどころのレベルではないはずだ。この顔を目にして少しも気味悪がらないなんて、やっぱりこの人は差別など一切しない素晴らしい人だ。
「実は、いろいろあって、整形手術をしたんだ。だから」
「そうなんだ。事情は知らないけれど、そんなに変わるくらいの手術をするなんて、大変なことがあったんじゃない? 大丈夫?」
平瀬さんはすごく心配してくれている表情で言った。
「うん、大丈夫。安心して」
それよりも——。
「あのさ、俺のことを嫌ってるんじゃないの? 覚えてるよね? 高校生のときに、きみが通っていた学校の、校舎を出てすぐのところで、話したの」
目の前の平瀬さんは穏やかで、あのときとはまったく違い、俺にわずかの嫌悪感もにじませていない。
「ああ、ごめんね、あのときは。実はね、吉岡くんと顔を合わせる前に、中学からの友達が吉岡くんの姿を目撃していて、『中学時代に、クラスの教室で、責められる感じになったあいつを、かばったことがあったじゃん。それで、知子にホレて、付き合いたいって言いにきたのかもよ。あんたは擁護したけど、やっぱりあいつの態度は問題で、善い人間じゃないのは間違いないから、断ったら申し訳ないとか考えてOKしたり、受け入れなくても脈はあるって期待を持たせることになったりしないように、もう二度と近寄ってこないくらいしっかり突っぱねなきゃ駄目だよ。もしそうしなかったら、私がその場に行って代わりに追い払うからね』って、きつく忠告されて、その通りにしちゃったんだ。だから、精一杯冷たく振る舞ったし、口にした内容も本心じゃなかったの。ごめんなさい」
平瀬さんは大きく頭を下げた。
「ずっと後悔してたの、ひどいことをしちゃったって。そもそも吉岡くんは悪い人じゃないことを私ちゃんとわかってて、あのみんなに批判されたときも、かわいそうだからじゃなくて本当にそうだからありのままを言ったんであって、友達にそのことを主張すればよかったのに。もしもう一度会うことができたら、絶対に謝ろうとずっと思ってて、だから顔がずいぶん変わっちゃっても今、あなたが吉岡くんだって気づけたし、内向的な性格で、すごく久しぶりなのに、ためらうことなく話しかけられたんだよ。しつこいだろうけれど、本当にごめんなさい」
心から申し訳なかったという謝罪を彼女は行った。
「も、もういいよ」
とてつもなく真摯な態度で、俺は恐縮しまったくらいだ。
「もとはといえば、俺に落ち度があったんだから」
それはそうと。
「でも、俺が悪い人間じゃないとちゃんとわかっていたって、なんでそう判断してくれたの?」
他の誰一人そんなふうに思ってくれたことはなかったというのに。
「そりゃあ、誰も見てないのに廊下にあった落とし物を拾って職員室まで届けにいったり、通学路で猫に優しくしてあげてたり、よく見ていればわかるよ」
「そうだったんだ」
そんな場面を見てくれていたなんて、全然知らなかった。
それから、話題がなくなり、何をしゃべろうかと俺は言葉に詰まった。平瀬さんも同じみたいで、少しばかり沈黙状態になった。
「あのさ」
「あのね」
ほぼ同時に、お互いに声を発した。
「なに? 先に言っていいよ」
平瀬さんに促され、俺は口を開いた。
「え? うん、じゃあ……実は俺、ずっときみのこと……いや、やっぱり平瀬さんが先に言ってよ、悪いけど」
情けないが、緊張でどうにもならなくなって、そのように切り返した。
「そ、そう? じゃあ……実は私、ずっとあなたのことが——」




