覚醒編4
○あれから、さとるさんと田中さんは町の代表者たちと数度、話し合っているが結論はまだ出ていない。
さとるさんとしてはギルド本部を移転させたくないのだろうが、町の代表者たちも簡単に諦める気は無さそうだ。
「なんでこの町の代表者たちは本部移転に拘っているんですか?」
会議に参加していないオレの素朴な疑問だ。
本部が存在するメリットって何だろう?
ギルド長である大先生がいる事か?
大先生はギルドの理念や良心を象徴する人だが、実際のギルド全体の運営はさとるさんと美咲ちゃんが行っている。
本部にある工房などの施設が目的なのだろうか?
しかし、あくまで施設なのでこの町にも作ろうと思えば作る事が出来る。
さくやさんたちが来てくれたので支部でも電気は復活するし、本部移転のメリットがよく分からない。
「ギルドは現在、確認されている最大の武力組織です」
さとるさんの言葉にうなずく。
ギルドでは仕事の性質上、ほぼ全員が武装している。
現代ではかなり強力な武器も持っている。
それに古くからいるギルドメンバーは何度かの実戦も経験している。
こうして考えると結構強力な集団になってるな、オレたち。
「さらにギルドでは島と独自のルートを通じて交易も行っています」
島では塩や干物を作っている。特に塩は人が生きる上で必要不可欠な物資だ。
ギルドはその特産物を武器や知識と交換している。
最近では本部周辺の集落も農作物などを塩などと交換しているそうだ。
本部を離れていたオレは知らなかったが、本部にはその為の為替的な物まで存在するそうだ。
以前からギルドでは依頼料を収穫時まで待って支払ってもらう事が多かった。
この依頼の報酬は収穫後にお支払いいただきますとの覚書を集落とギルドで交わすのだ。でも、その都度その都度で覚書を作るのは大変だし煩わしい。そこで、食料1日分の覚書、3日分の覚書、15日分の覚書などをテンプレート化したそうだ。
その仕組みを島との交易に流用したのだ。
集落は現物が無くてもギルドが発行した手形があれば塩などを購入する事が出来る。
そうして収穫時に収穫物をギルドに納入する。
ギルドは手数料として納入された収穫物の数パーセントを貰い島まで運んでいく。
こうすれば集落の人たちは安全に塩などを手にする事が出来る。
島からしてもギルドが保証しているので安心して取引が出来る。
もし、なにか事情があって作物が支払われない時はギルドが変わって支払い、ギルドは後日、集落から作物を回収する。
もちろん、その際は手数料が上乗せされる。
つまり、銀行と流通をギルドが引き受けてるのか。
オレは静かにさとるさんを見つめる。
「ここまで早く為替まで必要になるとは思っていませんでした」
さとるさん、分かっててやったな。
貨幣経済に慣れ親しんだ我々はいずれ物々交換では不便を感じ為替を利用しようとする事をさとるさんは予想していたそうだ。
ただ、さとるさんの予想よりかなり早い段階で必要になったそうだ。
ギルドを設立した事が関係してるのかな?
そして、今の時代はかつてよりはるかに移動が困難な時代だ。
道路はこれからどんどん荒れていくだろうし、ガソリンや軽油などの燃料はすでにほぼ枯渇している。
「あの大亀を手懐けたのもその一環ですか?」
あの大亀が発見されてから調教されるまでのスピードが余りにも早すぎる。
「大亀の発見自体は偶然です」
まぁ、そうだろうなぁ。
いくらさとるさんでもどんな新生物が発生するかは予想出来ないだろう。
ん?
「以前、馬のような変異体の目撃情報があった時、さとるさんが注目してたのはこの為ですか?」
以前、島に避難して来た人が山中で馬のような変異体を目撃した話をした時、さとるさんがその変異体に関心を持った事がある。
もしかして、さとるさんあの時から今の状況を予想してたのか?
「いずれ、流通が困難になるのは予想されていましたから」
さとるさんがにっこり笑う。
う~ん、さとるさんの方がよっぽど化け物だな。
この町の代表者たちが現在のギルド本部の活動をどこまで知っているかは不明だが、これなら移転を要請されても仕方ない。
国家の三要素とは国土、人民、主権だったかな?
現在のギルドはほとんど、国土を持たない国家になってきてる。
ギルド法と武力や経済力などと言う主権を持ちギルドメンバーと言う国民を持っている。
こうなると国土を持っていない事が反対にメリットになりそうだ。
国土を持っておらず民族も無いギルドはギルドを認める国家ならどこにでも存在出来る。
今後、さとるさんの予想通り都市国家が成立してもギルドはその中に存在する事が可能だろう。
オレがのんびり変異体退治をしている間になんだかギルドがものすごい組織になってるな。
「マスターは知ってたの?」
「ここまで早くこんなに大きな組織になるとは思ってなかったわ」
それもそうか。
オレもこんな組織になるなんて予想してなかった。
「副ギルド長としては移転には反対ですかな?」
田中さんの質問にさとるさんが答える。
「あの場所は予想以上に有利な場所ですから」
海からも適度な距離に位置し周辺に大規模な集落の無いあの場所はギルドの独自性を保つのに都合がいいそうだ。
翌日も早朝からさとるさんたちは代表者たちと協議を重ねた。
オレも幹部の一人として参加したがお互いの主張は平行線のままだ。
う~ん、これは本部での活動を代表者たちは知っているんじゃないだろうか?
そうでないと、ここまで本部移転に拘る理由が分からない。
しかし、そうすると疑問が生じる。
どうやって本部での活動をこの町に住む代表者たちが知ったのか?
本部での詳しい活動内容はオレも知らなかった。
それなのになぜ代表者たちがその事を知っているのだろう?
オレたちが知らない間に本部に行った者がいるのだろうか?
佐藤くんが何度も伝令として往復しているように本部と支部は決して移動出来ない距離じゃない。
最近は交流も活発になってきているので誰かが本部に行っていても不思議では無いだろう。
でも、誰が行ったのだろう?いや、別に移動を制限してる訳じゃないから誰が行っても構わないけど、少し、気になる。
その日も結論は出なかった。
「代表者たちもえらく移転にこだわりますな」
田中さんが帰り道でそう口にする。
さとるさんがやんわり移転を断っても代表者は引き下がらなかった。
「この町はギルド対して負い目があるのでしょう」
この町は一度、ギルドと戦っている。
「それで何かあった時に見捨てられると考えているのかもしれませんね」
こないだの変異体の襲撃の時もギルド支部のメンバーは誰一人として逃げたりしてないし、本部は即、応援を出したのだが、どうしても不安らしい。
「さとるさん、会議は取り止めにして本部に戻った方がいいんじゃないですか?」
馴れてきたとは言えここはかつて人間至上主義だった町だ。
さとるさんやさくやさんには危険かもしれない。
「そうですね。考えておきます」
さとるさんになにかあればギルドは崩壊してしまう。
宿舎に戻ったオレたちを藤井くんが待ち受けていた。
「大変です!さくやさんが戻って来ていません!」




