拡大編8
○「二人とも身体は大丈夫?」
城壁近くに借りている宿舎に戻り、優子さんと香織さんに確認する。
二人は戦場には近づいていないが万が一という事もある。
あの妖精もどきが卵を産み付けるのかどうかは不明だが、確認するべきだろう。
手遅れになってからでは遅いのだ。
「私たちは大丈夫だけど真人は大丈夫なの?」
多少の傷はあるが刺されたような傷は無い。
多分、大丈夫だろう。
「多分じゃだめ!そこに座りなさい!」
優子さんに怒鳴られ、床に座らされる。
鎧を脱ぎ、上半身の服を脱ぐ。
半裸になったオレの肉体を優子さんが真剣な表情で細かく調べていく。
特に傷口は入念に調べられた。
もしかしたら、傷口に卵を生み付けられるかもしれないからだ。
「うん、大丈夫みたい」
じっくりと調べていた優子さんが安堵のため息をつく。
卵を生み付けられるなんてゾッとする。
戦場に出た人間は一度調べた方がいいだろう。
その後、全員でお互いの肉体を丹念に調べた。
玲子は優子さんと香織さんが確認してくれ、他のメンバーは主にマスターが確認してくれた。
かなり邪念が混じっていた確認だったが、その分丁寧だったからいいだろう。
調べられたメンバーに少しの心の傷が生まれたような気がするが、卵を生み付けられるよりマシだ。
優子さんと香織さんもお互いを確認した。
「あの妖精もどきの生態が分かるまでは戦場に出るべきじゃないな」
ひとまず、全員の安全は確認出来たが戦場に出る度に確認するのは難しい。
それに卵を生み付けられた場合の対処法が不明だ。
「・・・卵の段階で外科的な処置をすれば大丈夫だと思います」
つまり生み付けられた卵ごと肉を抉れば大丈夫なのか。
「あくまで思うだけだから無茶しないで」
優子さんがオレの手をぎゅっと握る。
無茶はしたくないが、このままだと町は完全に包囲されてしまう。
ゴブリンにこの町の城壁を崩す力はないだろうが、長期間包囲されると食料などの物資が不足する。
この町の生産力は高いが人口も多いので消費も激しい。
長期の籠城は不可能だ。
「今のゴブリンどもの数は?」
「ざっと、500体ってとこね」
マスターなら冷静に判断出来るから500体って数はかなり正確な数だろう。
・・・500体か。
ゴブリンがそれほど連携して攻撃するとは思えないので、決して倒すのが不可能な数じゃないな。
問題はゴブリンに混じっているこれまで見た事のない変異体だ。
こちらは能力も知的レベルも不明だ。
・・・妖精もどきが一種の蜂のような生態だと仮定すれば、正体不明の変異体の中に女王蜂のような存在がいるんじゃないだろうか?
そいつを倒す事が出来れば・・・
深夜、見張りの目をかいくぐってオレは一人城壁の上に立つ。
ゴブリンは基本的に昼行性の筈だ。
夜なら眠っている可能性が高い。
耳を澄ますが城壁の向こうで物音はほとんどしない。
今夜は満月では無いが月明かりはある。
やつらより夜目の利くオレはこのぐらいの明かりでも充分に戦える。
支部長である田中さんの戦場に出るなという指示に逆らう事になるがやむを得ない。
オレがやったってのがバレなければ問題無い。
さて、そろそろ行こうかと思っていると背後に気配を感じた。
「・・・アニキ、なにしてるの?」
玲子のやつ、ほんとに忍び足が上手いな。
獣化していないにも関わらず、ほとんど足音がしない。
「夕涼みだ。昼間、暑かっただろ?」
「フル装備で?」
玲子の顔が不審げに歪む。
今のオレは全身を鎧で覆われている。
そして、手には愛用の槍。さらに背中にも予備の槍を二本担いでいる。
この姿では玲子も騙せないか。
「じゃあ、装備の確認だ」
これでどうだ?
「なるほどってアニキ。それじゃ誰も騙されないよ」
ちっ、やっぱりバレてるか。
「アニキ、いくらなんでも一人じゃ無茶だよ」
そうかな?
結構、自信はあるんだけどな。
「別に特攻じゃないぞ」
変わった変異体モンスターを重点的に狙えば、女王蜂に当たるんじゃないかな?
「姉御や姐さんたちは?」
ん?二人とも失神してるぞ。
言わないけどな。
「アニキ、わたしも行くよ」
玲子が鎧の紐を緩める。
確かに玲子ならオレ以上に夜目が利くし役にも立ってくれるだろう。
「ダメだな」
「なんで?」
「おまえは女だから」
女は戦場で死ぬべきでは無い。
「え~、男尊女卑だ!」
難しい言葉を知ってるじゃないか。
困ったな。ここで押し問答をしてると見張りに見つかってしまう。
「玲子、あそこを見てみろ」
玲子の背後を指差す。
「ん?」
後ろを向いた玲子の後頭部に拳を打ち込む。
「ズルいよ、アニキ」
玲子の肉体が崩れ落ちる。
崩れ落ちる玲子の肉体を受け止め、静かに寝かせる。
呼吸を確認するが大丈夫だな。
タフなやつだなぁ。
眠る玲子の頭を撫でる。
玲子はオレが悲壮な決意で特攻すると思ったようだが、とんでもない。
オレはやりたいからやるだけだ。
500体のゴブリンに未確認の変異体モンスター。
実に面白そうじゃないか。
昼間のトロール戦では玲子たちのがんばりでオレ個人としてはあんまり楽しめなかったんだよな。
周囲を気にせず、思いっきり、何も考えられなくなるまで戦う。
考えただけでぞくぞくして勃起してしまいそうだ。
優子さんや香織さんとのえっちはオレを満ち足りた気分にしてくれる。
しかし、戦いには身体の奥底で爆発しそうな衝動を解放する快感がある。
どちらもオレを幸せにしてくれるものだ。
どちらも誰にも譲らないぞ。
オレは笑いながら城壁から大地に飛び降りた。




