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崩壊した世界でみんなで楽しく生きていく〜サバイバル〜  作者: 伊右衛門


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同盟編9

◇「どうだ?」

隣に立つ副長に訊ねる。

「屋上まで制圧しました。遠征軍の勝利です」

メインマストの上部に作られた見張り台で隣に立っていた副長が呟く。相変わらず彼の目は驚く程鋭い。

「戦闘開始からざっと四時間ですか・・・」

彼らが攻撃を開始してからわずか四時間で連合の砦は陥落した。情報ではあの砦は連合で最大の砦にも関わらずだ。

「強いな」

その砦を短時間で陥落させたギルドに私は呆れる。内部では激戦が行われたのかもしれないがここから見る限りはギルドの完勝だ。城壁が崩れた段階でギルドの勝利は決まっていた。

「強いですな。遠征軍は」

私の言葉に副長も頷く。

「違うな・・・」

「なにがです?」

私が小さく呟いた言葉に副長が反応した。

「強いのは遠征軍では無い。ギルドだ」


我々瀬戸内水軍もこの遠征に協力しているが陸上戦を苦手とする事から戦闘にはほとんど参加していない。同じく協力している結社も基本的には補給を担当しているので実際の戦闘に参加する事は稀だろう。実際の戦闘はほぼギルドが担っているのだ。

そもそもこの遠征は連合に手を焼いた我々水軍と結社が共同でギルドに行った依頼だ。水軍は地上戦を苦手としているし結社は連合から遠すぎる。頭を悩ました我々は共同でギルドに依頼する事にしたのだ。しかし正直言ってギルドがここまで本格的に遠征軍を組織するとは思っていなかった。一種の企業体であるギルドは国家との対立を望まない。その為、ギルドに依頼するに当たっては水軍と結社の間で何度もギルドに内密で話し合いが持たれたのだ。どうすればギルドはこの依頼を引き受けてくれるか?巨額の依頼料だろうか?なにがしかの特権だろうか?我々と結社の幹部たちは何度も話し合ったのだ。だが全国共通の貨幣が未だ復活していない現状で巨額の依頼料は非現実的過ぎる。また特権に関してもギルドは既に結社領域内での非課税特権や自由通行権を所持しており水軍との間にも塩の独占交易権を有している。これ以上の特権をギルドに与える事にはさすがに結社も我々も難色を示した。それなら現在有する特権を盾に交渉すればとの意見もあったがそれはいくらなんでも危険過ぎる。そんな事をして万が一ギルドと敵対すれば被害はこちらの方が大きいのだ。征服に成功すれば九州をギルドの領地として認めればどうかとの案もあったがギルドは領土的野心をほとんど持っていない。そもそもウイルスパニック以降人口が激減した現在土地は余っているのだ。しかも征服後では征服に失敗した場合はギルドはタダ働きになってしまう。そんな条件をあの切れ者が受け入れる訳が無い。結局妙案は出ないまま一度ギルドと交渉してみる事にした。そこでギルドが希望する報酬があれば検討すればいい。認められる報酬なら受け入れればいいし認められなくてもギルド側の望みが分かれば交渉の糸口ぐらいにはなるだろう。やや無責任な気持ちで結社側の代表と共にギルドと交渉を行った。だがギルド側の返答は予想外な物だった。ギルドは結社に兵糧を用意するように要請し水軍にはその運搬を要請した。兵糧を誤魔化して利益を得ようにも用意するのは結社、運搬するのが我々水軍ではギルドが利益を得る事は不可能に近い。つまりほぼ無報酬に近い形でギルドは依頼を受け入れたのだ。

ギルドがこの遠征で結社と水軍に要求したのは唯一。連合幹部への処罰をギルドに一任して欲しい。ただそれだけだったのだ。正直、連合幹部など我々には興味は無い。むしろ汚れ役をギルドが引き受けた形になるだけだ。

しかしなぜ、ギルドが連合幹部への処罰を気にするのだろう?連合幹部のなにがギルドをそうさせたのだろうか?ギルドは基本的に良心的な組織ではあるが決して甘い集団では無い。彼らはパニック後の日本でいち早く組織を立ち上げおそらく現在では日本最大の戦闘集団である。これまで複数の戦いを経験しそれら全てに勝ち抜いてきた組織だ。ただの仲良し集団では絶対に不可能な事だ。そんなギルドが連合幹部を気にしている。なにかがあるのだ。しかし残念ながらなにがあるのかが私では分からない。結社側はそれに対して何らかの情報を持っているようなのだが水軍はこれまでギルドを通さず結社と交流した経験がほとんど無い。水軍はついつい陸地での事を軽視してしまう傾向がある。陸地で何があっても広大な海があれば我々は生きていける。そんな思いを我々全員が持っているのだ。そんな我々に結社が重大な情報を漏らす訳が無かった。


「・・・海で生きる者の弱味だな」

我々も陸地での出来事には注意しているつもりなのだがもたらされる情報の多くはギルド経由なのが現状だ。ギルドが情報を歪めているとまでは思わないがギルドを経由した情報はどうしてもギルドの主観が入る。その情報は我々水軍に真に必要な情報で無い可能性がある。

「我らも陸地に諜報機関でも作りますか?」

私の考えを読んだのだろう。副長が声を潜めて提案してくる。

「魅力的な提案だが現実的では無いな」

私も声を潜めて副長に答える。

残念ながら我々水軍にはそんな技術も経験も無い。そんな我々が諜報機関など作ったらギルドや結社に警戒されるだけだろう。

「・・・まずはいくつか海産物の取引所を作ってみよう」

塩の取引はギルドの手前不可能だが海産物なら大丈夫だろう。物が集まれば人が集まる。そうすれば情報も集まるだろう。集まった情報の中には水軍にとって真に必要な情報もあるだろう。まずはそこからだ。

「ギルドとの関係は?」

「これまで通りだ」

私は副長に断言する。現状でギルドと敵対するのはリスクが高すぎる。製塩方法も造船技術もギルドからもたらされたモノだ。ギルドと敵対するのは望ましくない。

「ギルドと水軍が将来に渡って最適な同盟であればいい」

「・・・結社以上にですな」

「そうだ」

副長は私の言わんとする事が分かったようだ。ギルドと水軍は塩によって密接に繋がっているが最近は結社とギルドの関係も深まっている。ギルドという国内最大、もしかすると世界有数の戦闘集団との同盟を強化する事は水軍に大きなメリットをもたらす筈だ。


「おっ!砦からのお客さんがそろそろ来ましたね」

海岸線に簡素な鎧を纏った者たちが集まり始めた。先程までとは打って変わって明るい口調で副長が話し出す。

「ギルドの作戦通りですな」

ギルドから一般の奴隷兵を海岸に送ると連絡は来ている。

「朝までは放っておこう」

「そうですな。朝まで放っておけば彼らも少しは頭が冷えるでしょう」

幸い今は暖かい季節だ。朝まで放っておいても風邪などは引かないだろう。

「朝になればメシを食わせてやれ」

「メシを食わせて武装解除ですね」

私は副長の言葉に頷く。

「拐われてきた奴隷たちは解放するが幹部が混じっていたらギルドに引き渡せ」

「へい。水軍とギルドの強固な同盟の為ですな」

副長がニヤリと笑う。


「後は任せます。佐藤さん」

「お任せ下さい。若社長」

一瞬かつての口調に戻す。ほんの戯れだ。


副長がマストから素早く降りていき他の船員たちに指示を出す。


今回の遠征で分かった事がある。これまで私は敵は連合だけだと思っていた。しかし敵は他にもいたのだ。結社という競合相手が・・・


「まさかそれを分からせる為に兵站を共同で行わしたのか?」

私の脳裏にふとそんな考えが浮かぶ。ギルド、というよりあの竜人はそれも目的だったのでは無いだろうか?ギルドとの同盟を維持したくば結社以上に役に立てと・・・


「まさかな」

いくらなんでもそれは穿ち過ぎだろう。


「・・・まさかな」


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