同盟編2
○現在、オレは同盟締結の為、結社の本部を再訪している。
同行したのはマスターやさとるさんだ。
さとるさんがこの旅に同行するにあたってはギルド本部でも議論が巻き起こった。
現在、ギルドの実務を取り仕切っているのはさとるさんだ。そのさとるさんが長期間ギルドを離れるのは危険である。しかし、さとるさんはこの旅への同行を強く主張した。結社との同盟はギルドにとって初めての同盟となる。この同盟での条件が今後他勢力との同盟との規範となるのは間違いない。それ故この同盟はギルドに取って極めて重要なのだ。その為この同盟だけは自分が行かなければならない。さとるさんの決意は固かった。
結局、ギルド長や美咲ちゃんがさとるさんの主張を認めた事でさとるさんはこの旅に同行する事が出来た。
事前にハルカを通じて結社とは事前交渉を行っていたので条件交渉は概ね上手くいった。
しかし、ある一点に置いて条件が纏まらずに交渉が難航している。その条件とはギルドへの課税対象だ。ギルド側は完全な非課税を主張しているのだが国家の樹立を目指す結社としては完全な非課税は断じて認める事が出来ないのだ。
結社は現在特に税を徴収している訳では無いが今後、国家として成立した時にギルドにのみ非課税を認めていては他の組織からも非課税を主張されかねない。
一方、ギルドとしても特定の国家に対して税金を払うのは他の国家にも課税を主張されるので認めにくい。
「結社の方は今後、人頭税を考えていられるようだが自由に各地を移動するギルドメンバーにどの様に課税するのです?」
「ある一定の期間、結社の勢力域に居住した場合は課税とする訳にはいきませんか?」
「その一定の期間とは連続した期間ですか?それとも合算した期間ですか?」
「連続した期間では課税対象となる前日に勢力域から出れば脱税が可能になる。合算した期間で考えるべきでしょう」
「ではその合算した期間はどうやって算出するのです?」
「それは今後一種の関所を設ける予定ですのでそこでの通過記録に照らし合わせればいいのでは?」
「では関所以外から出入りしたらどうするんです?」
「関所で発行する移動証明書(仮名)を持たぬ者は違反者として取り締まる予定です」
「依頼達成中にやむを得ず関所以外から出入りした場合でもですか?」
「そ、それは・・・」
「それにギルドメンバーは自由な移動をすでに認められている筈です」
「・・・それは一時的な措置です」
「それはおかしい。すでに認めた権利を一方的に反故に出来るのでは全ての交渉は無意味です」
「・・・」
こんな感じでこの数日結社との条件交渉が続いている。ギルド側で喋っているのはほぼさとるさんだけだけどね。
自由な移動や武装する権利はギルドの職制上認められたのだがとにかく税金に関しての交渉が難航している。
しかし、ここをクリアにしておかないとギルドとしては支部も開けない。その為さとるさんは結社側の内務担当者たちとかなり激しくやり合っている。
課税対象を最大限に拡げたい結社側と課税対象を出来るだけ最小限に抑えたいギルドとの静かな闘いだ。
槍や弓矢を使う訳では無いがこれも立派な闘いだろう。
-さとるさんが一緒に来たがった理由が分かるな。
オレやマスターだけではこんな粘り強い交渉は出来ない。いずれ結社側に押し込まれ丸め込まれただろう。
-しかし人頭税とは古風だなぁ。
人頭税は所得格差とは無関係に課税されるのでほとんど廃れていた税制度だが所得などを調べる手間が無く極めて低コストで導入出来る税制で現在の状況にはマッチした税制だそうだ。(さとるさんの解説)
今後は経済活動の充足により所得に応じた税との併用が図られるだろうとの事だ。(もちろんさとるさんの予想)
オレにはそんな事より重要な事がある。
それさえ無ければギルド本部で妻と嫁と目眩く狂愛の日々を過ごしていただろう。
はぁ、惜しかったなぁ。妊娠した優子さんは胸やお尻、太ももに柔らかく肉が付きなんともいえないまろやかさが出ている。最近、ますます肉体の馴染んできた香織さんの全身からは艶気が滴りそうなほどだ。出発前に充分に貪ってきたのだが離れた途端に飢えてくるような素晴らしい二人なのだ。
その誘惑を振り切ってここまで来たのには理由がある。先に始末したコウモリ男の後始末だ。
結社の議長の実子でハルカの実兄だった男だ。議長やハルカはその性質を警戒して高い役職を与えなかったが結社内部ではそれなりに知名度のあった男だ。特に結社内部の急進過激派からは首領と目されてきた。その男を殺した以上後始末が必要だろう。
オレはハルカに命じてコウモリ男がオレに殺された事実を既に結社側に伝えている。
そしてオレは同盟締結までここを離れられない。しかし同盟が締結されれば結社から手の届かないギルドに戻る身だ。条件交渉で時間が掛かる間にオレがコウモリ男を殺した事実は充分に結社内に広まった。
そうなるとどうなるのか?
答えがそろそろ出てきた。
「お~、結構集まってきたなぁ」
オレたちの宿泊する一軒家の周囲に人影が蠢いている。
初日はこちらを窺う数人だったが数日前からは20人程度が毎晩集まる様になってきた。
「これ以上は増えないかな?」
「そうねぇ。どれも見た顔ばっかだからこれで精一杯なんじゃ無いかしら?」
彼らを見ながらマスターと話し合う。
「はぁ、結社には抗議したのですがこの有り様ですか」
椅子に座ったさとるさんがオレたちの会話にため息をつく。
オレたちが最小の人数で結社の本拠地に乗り込んできたのはこれが理由だ。
いい機会なのでこの際結社内部に巣食う急進過激派を壊滅させたかった。
自分達のリーダーを殺された急進過激派を議長や幹部たちが押さえ込めればそれはそれでいい。しかしその可能性は低いと見ていた。ハルカやコウモリ男を見る限り議長はかなり穏健な男性のようだ。そうでなければあんな子供たちは育たないだろう。
そんな男が自分達と同じ組織に所属する人間を断罪出来るだろうか?
答えがこれだ。善人ではあるのだろうが、正直頼りない。
「まぁ、いいじゃない。こっちに損は無いんだから」
マスターが落ち込むさとるさんを慰める。
オレたちは結社が指定した一軒家を交渉中の宿舎として使用している。
当然そこの安全対策は結社側の責任だ。そこに押し入った者たちを賊として討伐しても文句を言われる筋合いは無い。
さらにそこに押し入ったのが結社の人間だった場合はどうなるか?
交渉において大きなアドバンテージを得る事になるだろう。
「はぁ、前向きに考えましょうか」
大きなため息と共にさとるさんが立ち上がった。
なんせコウモリ男は対外的には一結社メンバーに過ぎない。彼が犯した罪を責めても極めて遺憾だったとか言われてお仕舞いにされてしまう。
ギルドの完全非課税を認めさせるにはそれでは足りないのだ。
「これで非課税だけでは無く流通の一部も掌握出来るでしょう」
ん?流通の一部?なにそれ?
オレとマスターの疑問顔に気付いたさとるさんが説明してくれる。
ギルドに対して完全非課税が認められれば当然ギルドメンバーの私物も非課税になる。
そうすればなにかを持ち込んでもそれは非課税だ。
具体的には塩とかも。
おそらく課税されるであろう高価な結社の塩と非課税のギルドの安価な塩。しかもギルドの方が高品質。どちらが市場を支配するかは明白だろう。塩市場を支配出来ればかなり大きな発言権を持つ事になる。
アクラツなドラゴニュートはそこまで考えていたらしい。
「塩市場を支配すれば依頼が無くても生活出来ますしね」
日本では塩は簡単に手に入れる事が出来たので実感しにくいが塩は人間が生活する上で絶対必要な物資だ。給与を意味するサラリーなどもソルトが語源になっているそうだ。
それを支配しようとは・・・
そのアクラツさには苦笑するしか無い。
外が賑やかになってきた。
我慢出来なくなった者が押し入ろうとしているようだ。
一応、ここには結社から警備の人間が派遣されているが人数に差がありすぎる。
危なくなったら逃げて救援を呼ぶように言っているが大丈夫だろうか?
結社の穏健派はまさか同じ結社の人間を襲ったりしないだろうとタカをくくっていたようだが甘いんだよなぁ。
彼ら急進過激派はハルカを自分達の女神として独占したい狂信者だ。理屈では計算出来ない。
しばらくすると外が静かになった。
辺りに独特の鉄臭い匂いが広がる。
あちゃ~。思わず頭を抱える。
どうやら警備に付いていた人間は殺されたようだ。
見るとさとるさんやマスターも苦い顔だ。
だから逃げろって言っておいたんだが・・・
「手加減の必要は無いわね」
マスターが腰から大振りのナイフを抜く。
「証言する者が必要なので皆殺しにはしないでください」
さとるさんが壁に立て掛けてあったメイスを持つ。
「それは任せます」
オレも巨大な鉈を手にする。
オレやマスターの武器では手加減は難しい。
「はぁ、二人も残せば充分でしょう」
ドカドカとした足音が部屋に近付いてくる。
ドンッ!
鈍い音と共に扉が蹴破られる。
鍵はしてなかったんだが・・・
「貴様らにテンッ!」
先頭で入ってきた男がなにかを言っていたが無視して大鉈を降り下ろした。
大鉈は男の頭頂部から入り下顎に抜ける。さすがおっさんが自ら鍛えた業物だ。頭蓋骨を断ち切っても歪みひとつ無い。
-うん、満足の出来る逸品だな。
顔面を失った男がドサッと膝から崩れる。
痙攣する頭部から桃色のぷるぷるした物体がこぼれ落ちる。
脳みそだ。溢れたからかシワが見えない。
先頭で考え無しに突っ込んできたし頭が悪かったのだろうか?いや、脳みそのシワと知能は関係無かったっけな?後でさとるさんに確認してみよう。
「き、貴様っ!」
倒れた男の背後で青ざめている男の首を掴んで部屋に引っ張り込む。
オレに引っ張られ体勢を崩した男の後頭部にマスターのナイフが突き刺さる。
「もう!全員が部屋に入ってからにしてよ!」
後頭部に突き刺したナイフを何度かグリグリ動かしてトドメを刺しながらマスターが不貞腐れる。
-ふむ、言われてみれば確かにそうだな。
見てみると乗り込んできた男たちが腰を抜かしている。間近で仲間が殺されて動転したようだ。
さらに後方にいた男たちは不利を悟ったのか逃げようとしている。
これはマズいな。
急進過激派を壊滅させる計画が早くも崩壊しかかっている。
「こっちは任せた!」
オレは咄嗟に窓を開け外に飛び降りる。
「このおバカ!」
飛び降りる背中にマスターのキツい声が降り注ぐ。
5、6人残っているがあの二人なら大丈夫だろう。
マスターは戦闘力ならギルド屈指の男だしさとるさんは重装甲高機動のドラゴニュートだ。
あの程度の相手なら問題無い。
大地に飛び降りたオレは慌てて正面玄関に向かう。
「せっかく来たんだ。ゆっくりしていけよ」
玄関から逃げようとしていた男たちを食い止める。
オレの笑顔を見た男たちが後ずさる。
-ほっ、良かった。
カッコつけているが内心はかなり動揺した。
危なく逃げられるとこだった。
そこからは草刈りのようだった。
狭い廊下に密集した男たち。大鉈を振るう度に彼らの手足や頭が飛ぶ。
彼らも必死に剣や槍を振るうが密集しているので威力が無い。
数ヵ所にかすり傷を負った時には生き残ったのは一人だけになっていた。
証言をさせる為に数人は生け捕りにする予定だがそれは上でやっているだろう。
その上彼はオレが振るった大鉈で既に両腕を失っている。血止めもしていないし助からないだろう。
男は失った両腕を見ながら涙を流している。
その男に近付く。男は近付くオレに気付いて顔を上げる。
その顔は血の気を失い真っ青だ。
「この悪鬼め!」
男は目を血走らせながらオレを睨む。
オレはそれを無視してゆっくりと大鉈を振り上げる。
こいつらはオレの優子さんと香織さんを拐ったコウモリ男の仲間だ。
許すつもりは最初から無い!
ザンッ!
一気に振り下ろした大鉈が男の肉体を両断した。
翌朝、連絡を受けた議長たちがオレたちの宿舎に駆け付けその惨状に顔を歪める。
瀟洒な家は血と臓物ですっかりその面影を失っている。
「・・・なにもここまでやらなくても良かったんじゃないのかね?」
幹部の一人がオレを睨み付ける。
「襲われた被害者が加害者を気遣えとおっしゃるんですか?」
さとるさんが冷笑を浮かべる。
「酷いのはここだけで2階はまだマシよ」
マスターが生き残りの二人を渡しながら言う。
そうかぁ?オレも確認したが2階も大して変わらなかった。
むしろさとるさんのメイスで叩き潰された死体はオレが大鉈で切り裂いた死体よりグロいと思うんだが?
「今回の件は完全にこちらの落ち度だ。すまなかった」
議長がさとるさんに頭を下げる。
「議長っ!謝る必要などありません!」
さっき睨んでいた幹部が謝る議長を止めようとする。
バキッ
「馬鹿者!彼らは我々が出来なかった事を敢えてやってくれたのだ!」
振り返った議長が幹部をぶん殴る。
結社内部に巣食った急進過激派は結社を追い出されればテロリスト化する危険性があった。それが分かっていたから議長は彼らを処罰しなかった。対話を続ければいずれ分かり合えると考えたのだ。
しかし、それが彼らを助長させてしまった。
その結果がコウモリ男の暴走でありこの惨状だ。
「組織を率いる者には時に非情な決断が必要なのです」
さとるさんが議長をじっと見詰める。
「・・・心しておきます」
議長が再度さとるさんに深く頭を下げる。
-ふむ。これで手打ちにするか。
さとるさんに頭を下げる議長を見てそう思った。
優子さんと香織さんを拐った結社に対しどの程度の償いをさせるか?
言い換えればどこまでを報復の範囲とするか?
急進過激派だけなのか?結社全体なのか?
実はそれを決めかねていた。
だが素直にさとるさんに頭を下げる議長の姿を見てオレの内部に滾っていた激怒を解放する事にした。
-父を許してくださりありがとうございます。
最近大人しかったハルカがアクセスしてくる。
-いや、議長の人徳ってやつだろ。
あそこで頭を下げられない男だったら報復はまだ続いていた。
-それよりおまえオレに襲われるのが怖くてアクセスしなかったな。
ハルカは結社の本拠地に乗り込んでから一度もアクセスしてこなかった。
ギルド本部にいた頃は必要も無いのにアクセスしていたのにえらい差だ。
-うっ、・・・はい。
脳内に上目遣いになるハルカの映像が浮かぶ。
ハルカは実際に手の届く範囲に不機嫌なオレが来て怖くなったのだ。
-まぁいいさ。アクセスしてきたって事はちゃんと理解出来たんだろ?
-はい。あのお二人に手出しすれば許されない事がよ~く分かりました。
-分かればよろしい。
これで今後ハルカや結社があの二人に手出しする事は絶対に無いだろう。
「真人くんもこれでいいですね?」
さとるさんがオレを冷たい目で見詰める。
「ああ、これで満足」
さとるさんに笑いかける。
「・・・それは良かった」
それを見てようやくさとるさんが微笑む。
-これ以上はオレも非情な決断の対象になりかねないからな。
先程の言葉は議長だけでは無くオレにも言っていたのだ。
その日の夜、ギルドと結社の間に正式に同盟が締結された。
後年、この時をもって新世紀元年と呼ぶ事になるとは誰も予想していなかった。
本日はここまでとなります。
明日も同じぐらいの時間に投稿予定です。
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