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崩壊した世界でみんなで楽しく生きていく〜サバイバル〜  作者: 伊右衛門


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調査編4

○-う~ん、困った。


一緒の牢に入っていた囚人の話では裁判は数日の間、大抵の場合、翌日には行われるとの事だったのだが、オレがここに入って10日経っても裁判が行われない。

一緒に入っていた二人の囚人はすでに裁判を受け牢を出ている。

数度の窃盗を繰り返していた男は本人の楽観的予想を裏切り奴隷身分に落とされてしまった。

軽度の犯罪だが何度も繰り返していたのが致命的にマズかったようだ。

もう一人の男は本人の予想通り厳重注意で放免されたんだけどねぇ。


「おい、お前の番だぞ」

牢の見張りをしている男の声でオレの思考は中断した。

「ん?あぁ、9二角」

「9二角っと、・・・なぁ、これ待ってくれないか?」

「待った無しの約束だろ」

「むぅ」

見張りの男は盤面を見つめ悩み始めた。


今、オレは見張りの男と将棋を楽しんでいる。

もちろん、オレは牢内にいるので鉄格子を挟んでの将棋だ。


-なんか、すっかりここに馴染んじゃったな。


「なぁ、オレの裁判はまだなのか?」

盤面を見つめ考え込んでいる見張りの男に声を掛ける。


「・・・あん?」

「オレの裁判」

「あぁ、おれも催促はしてるんだがな」

上の空で見張りの男が答える。


-はぁ、ホントかよ?


ここでの生活も慣れてしまえば悪くは無い。

雨風は凌げるし不味いながらも食事も出る。

だが、とにかくヒマなんだよなぁ。

強制労働も囚人への虐待の無いので何もやる事が無いのだ。

日がな一日牢の中でぼ~っとして過ごさなくてはいけない。

見張りの男もそんなオレを憐れに思ったのか、数日前に将棋盤を持って来てくれた。

まっ、見張りの男もヒマだったんだろうな。


それからオレと見張りの男はこうやって将棋を楽しんでいる。

もっとも、オレは牢から出れないから見張りの男がオレの駒も動かしてくれるんだけど。


でも、まぁ、いい奴だよな。この見張り。

ズルはしないし勝っても負けても根に持たない。

ヒマ潰しの遊び相手としては、ほぼ最高の相手だ。

案外それだから牢の見張りなんてやってるのかもしれないな。


さすがにそろそろ飽きたので牢を破壊して逃げてもいいのだが・・・

それをするとこの気のいい見張りに迷惑だよなぁ。

はっ、まさかそれが結社の狙いなのだろうか!?

なんて悪辣な奴等だ。


「う~む、参った。おれの負けだ」

ずっと盤面を見ていた見張りの男がそう言いながら笑った。

まだ考えてたのか?


「んじゃ、約束の品をくれ」

「くそっ、おれも妻と愛人と妾がいて生活が苦しいんだぞ」

見張りの男はぶつぶつ言いながら牢を出ていった。


-妻だけじゃ無く、愛人や妾までいる身でなに言ってやがる。


こんなに長時間、囚人を見張りも無しで放っておくのは問題だと思うが・・・

-あいついい奴だけど出世しないだろうな。


しばらく待っていると足音が聞こえてきた。

-うん、匂いからすると約束の品は上手く手に入れられたらしいな。


「大変だ!お前の裁判が決まったぞ!」

「おいっ!落とすなよ!」

「おっと危ない」

「人の勝利の報酬を粗末に扱うなよ、まったく」

「悪い、悪い」

頭を下げる見張りの男の手から勝利の報酬を奪い取る。


今日の勝利の報酬は鶏もどきの足の塩焼きだ。

鶏もどきなどと言っているが正体は変異で発生したでかいカエルだそうだ。


オレは鶏もどきの塩焼きにかぶりつきながら見張りの男の話を聞く。

-うん、旨いな。オレもここから出たらその鶏もどきとやらを探してみよう。


「大変ってなにが大変なんだ?裁判は行われる予定だったんだろ?」

結社の法律は詳しく知らないが、これまで話を聞いた限り今の時代としてはまぁまぁな法律だと思う。


「それが幹部たちが集まってお前の裁判を執り行うらしいぞ」

「ふ~ん、それって珍しいのか?」


-う~む、本物の鶏より旨いかもしれないな、これ。

塩焼きを食いながら見張りの男に聞いてみる。

「おれが知ってる限りこんな事は初めてだ」

「そうなのか」

どうやらオレの正体に結社側も気付いたみたいだな。

-ちょっとヤバイかな?

「お前本当は何やったんだよ?」

「さぁ?」

結社の法律に詳しく無いオレとしては自分の行動の何が結社の法に抵触しているのか判断出来ない。


盗賊退治は基本的に結社の勢力範囲外でやっていたのでこれが違法とは思えない。

街の様子を探ってはいたが別に違法な事はしていないと思う。

ちょっとマズいのは持っていた塩の出所だが塩を舐めて出所が分かるとは思えないのでこれも問題無いだろう。


-まぁ、結社側とすれば敵対するかもしれない勢力の人間が街を彷徨いていたので捕まえたが、どうやって罪に問えばいいのか分からなかったのかな?


結社が法治国家樹立を目指しているのであればそう考えるのが一番納得出来る。

-ちゃんと法の不遡及の原則ぐらいは守っているよなぁ?

それが守られていないとかなり不利な状況に陥る事も考えられるが、法治国家を目指すならそんなアホな事はしないだろう。


翌日、オレは久しぶりに牢から出された。

「なぁ、いつもの見張りのおっさんは?」

珍しい事に今日は一度も見張りの男を見ていない。

夜間の見張りは交代制だったが日中の見張りは決まってあの男だったのだが・・・


オレを牢から出した男は無言でオレに手錠を嵌める。

手錠が小さくていささか手首が痛い。

-まぁ、ここは大人しくしとくか。

これぐらいの手錠ならいつでも引きちぎる事が出来るしね。


オレは周囲をごつい男たちに囲まれある建物に連行された。

通常、裁判はオレが入っていた警察署の一室で行われると聞いている。

どうやらオレは通常の裁判は受けられないらしい。

-特別待遇ってやつだな。あまり嬉しくないけど・・・



オレは大人しく男たちの指示に従う。

ここで暴れてもあまり意味は無いだろう。

せっかく結社の幹部が勢揃いしてくれているんだ。

顔ぐらいは拝んでおこう。


先頭を歩いていた男が重厚な扉を叩く。

「入りなさい」

部屋の中から静かな声が響く。

扉が開かれオレは室内に足を踏み入れる。


そこで見たのは・・・


「おいっ、なにやってんだよ?」

いつもオレを見張っていたあの男の姿だった。


ずらりと並ぶ結社の幹部たちの中央にあの見張りの男は座っている。

位置から考えるとこいつが結社の代表なのだろうか?


「手錠を外しなさい」

見張りの男がオレを連行してきた男たちに命じる。


「しかし!」

「大丈夫だ。彼には知性も理性もある」

連行してきた男たちがざわめいたが男の言葉でオレの手錠を外し始めた。

「いいのか?ここで暴れるかもしれないぞ」

本気で暴れれば素手でもここにいる半数は殺す自信がある。

今のところそのつもりは無いけどね。


「君の事を10日間も観察してきたんだ。君は信ずるに足る男だ」

少し殺気を出したのに見張りの男の自信は崩れなかった。


「改めて自己紹介させてもらおう。最高評議会議長を勤めている加藤 誠だ」

最高評議会議長とは恐れ入った。

結社の組織構造は分からないが、かなり上位の立場なのだろう。


「なんて呼べばいい?加藤様か?誠ちゃんか?」

オレのふざけた発言に他の幹部たちがざわつくが加藤誠が軽く手をあげただけで静まった。

-信頼されているみたいだな。

「どちらでも構わないが出来れば議長と呼んでくれ」

苦笑しながら加藤誠はそう言った。


-うん、これは大物だな。

なんというかさとるさんに感じが似ている。

闘って負けるとは思わないが話し合った方がいいだろう。


「最高評議会議長ってヒマなのか?」

少なくとも日中はずっと一緒だったぞ。

「それだけ君や君の所属するギルドを重要視しているんだよ」

薄暗い牢では分からなかったが議長殿の顔色がちょっと悪い。

昼間はオレを見張って夜に仕事をしていたのだろうか?


-ふむ、ギルドの事も知ってるのか。


「ギルドの事を報告したのはあの変わったコウモリ男か?」

「彼に人格的な問題があるのは認めるが、それでも稀有な能力を持った有益な男だ」

-飛行能力の事か?

航空機のほぼ全てが使用不可能な現在、空を飛べるのは確かに有益だろう。

しかし、あの性格ではあちこちでトラブルを起こしてると思うぞ。


「さて、まずは君の罪に関してだが・・・」

議長殿の視線を受けて一人の女性が立ち上がる。

年齢的には30代半ばぐらいだろうか?

なかなかの美人だが目付きがちょっと怖い。


「彼の行動に関して調査しましたが特に罪となる行動は認められませんでした」

「武器の持ち込みに関してはどうなる?」

女性の発言に他の幹部が疑問を呈する。

こっちは50代ぐらいの男性だ。

やや薄くなった頭頂部と眼鏡が特徴のおじさんだ。


「評議会では自衛用の武器の所持を認めています」

「あれが自衛用かね?」

眼鏡のおじさんがオレ愛用の鉈剣を見て眉を顰しかめる。

-おいおい、おっさん、まさかひのき棒で変異体や盗賊の相手をしろって言うのか?

「現在、自衛用武器の定義に関しては議論中ですが、火器以外の武器に関しては事実上容認されています」

-いいぞ!お姉さんがんばれ!


その後も他の幹部たちからの疑問にお姉さんが答えていく。

すらすらと淀み無く・・・


「いい加減茶番は止めて本題に入らないか?」

オレの言葉で幹部たちの動きが止まる。

もちろん、お姉さんの動きも。


「・・・いつから気付いていた?」

議長殿がオレを静かに見詰める。


「全員、演技力不足だな」

一人ずつ幹部が順番に質問してその全てにお姉さんがすらすら答える。

そんな会議あるか。

事前に打ち合わせしてたのがバレバレだぞ。


「さすがだね」

議長殿に促されお姉さんが席に座る。

一見、無表情だがちょっと耳が赤くなってるな。


こちらも長い牢獄生活でそれなりにストレスが溜まってるんだ。

結社側の公平さのアピールにいつまでも付き合う気は無い。


「オレに対する拘束はそちらでは違法だったんだろ?」

色々時間を掛けて調べてみたけど違法行為が見つからなかったんで慌てたんだろうなぁ。

これでも結社の勢力範囲に入ってからは気をつけていたんだぞ。


「そうだ、君を拘束する正当な理由は全く無かった。完全にこちらの落ち度だ。すまなかった」

そう言って議長殿がオレに頭を下げる。

-そっちの方が分かりやすくていい。


「オレとしてはこの件に対する抗議は行わない。オレが行わない以上ギルドもこの件を利用する事は無い。これでいいか?」

「そう言ってもらえるとこちらとしても助かるよ」

「お互い組織の看板を背負うと色々大変だよな」

「いや、まったくだ」

オレと議長殿は視線を合わせて笑い合う。


やれやれ、これでようやく交渉が始められるな。



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