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今世の廻天 - 巡り巡って本気出す -  作者: 飽き性の少年
第三章 少年期 フィリア救出編
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第21話「もう一踏ん張り」

「一回、一人にさせてくれ」


 誰も返事をせずに部屋から出ていく彼をただ、見つめていた。

 ただ立ち尽くす僕たちの後ろで、啜り泣きながら机を叩く音がした。

 

 僕達は、泣くこともできないまま、彼を無視してしまった。

 とてつもない罪悪感、何も助けられない無力感が僕を襲う。


「私、一回ナダユキさんを見てきます」


 椅子に座っていた彼女が突然そう口を開き、ナダユキと同じように扉から外へ向かった。


 なんだか、二人を失ったかのような。

 さっきまで暑かったこの部屋が、熱が抜け落ちて、冷め切った……


 母親のご飯みたいで。


 少し寂しかった。


 僕たちは、静かに。

 何も喋らずにナダユキ達を待ち続けていた。


 時間もあまりない、料理なんか人並み以下だぞ。ゼロからやれって無理があんだろ。


 僕が思いつくのはこの状況への文句ばかり、この場を打開する策なんて。

 そもそも考えることすら出来なかった。


 一度探しに行こうとした。

 足に力を入れた。

 

 でも、立ったら倒れてしまうような、崩れてしまうような。

 そんな気がして、立ち上がるのを



 やめた。


 本当に、向かおうと、立ちあがろうとしたんだよ。

 でも、無理だったんだ。



 やめたんだよ。



 僕には誰かを励ませるだとか、助けるなんてことできない。したことがない。

 だから心が拒否した。



 ただ同じことばかり考えた。

 気持ちが沈み始めていた。

 もう考えることすら辞めようとした時。

 

 ようやく進展があった。


「すまん、ノルディア君、伯父さん」


 ナダユキが目の下を赤くして戻ってきた。

 外はもう真っ暗だ、まるで彼の目の下を強調しているようで、気に食わない。


「僕のせいで時間を使いすぎた、材料集めだけでも今日終わらせよう」


 真剣な眼差しでこちらを見てくる彼に威圧感を感じたが、まあしょうがない。

 ハンバーガー作るとか言い出したのは僕だ。


「なんだ?何を作るんだ」


 グルーブルがこちらへ無邪気に質問してきた。

 どうせ話しても明らかに料理に無頓着そうなんだから意味ないだろ。


 ……ん?あれ?




「「お前料理人じゃねえか!」」

「あ?そうだが」


 そうだ、忘れていた。

 こいつに料理の仕方をレクチャーしてもらえば、あるいは。


 一日で完成させることもできるかもしれない。


「伯父さん、この辺にいいレタスを売っている店はないかい?」


 絶対にそうじゃない、絶対に教えてもらうのはそれじゃない。

 案外、ナダユキは馬鹿なのかもしれない。


――

 昨日、宿に戻って休憩をしようとした。

 僕だって寝ようとしたんだ、でもこんな大金が隣にあって寝れるかよ。


 異常なんだ。

 なのにこいつは大金の真横でスヤスヤ眠っている。


 昨日の事を知ったことで疲れたのか、爆睡している。

 ナダユキが寝ているところを見るのは久しぶりかもしれない。


 毎朝先に起きていたからな。

 そういえば、父様はいつも一番に起きていた気がする。

 後輩よりだらけていて恥ずかしくないのか?


 もちろんワーストのことだ。

 さて、思い出に耽っている時間もあまりない。


「早く起きてください、今日で終わりなんですから」


 そう言って触った彼の体は少し冷たくなっていた。

 しょうがないな……


 僕は彼の体にかかっている毛布を少し動かして、数十分温めた。

 

 これくらいなら、いいよね。

――

「おはようございます」


 グルーブルさんの所に僕たちは身支度をしてたどり着いた。

 その場所は昨日の店ではなく、街が公開しているキャンプ場だった。


「冬だからいいけど、もしも夏だったら……」


 Gとか、ああ、考えるだけで鳥肌が立つ。

 

「あれ、グルーブルさんはどこにいるんですか?」


 さっきからどこにも姿が見当たらない。

 周りにはお爺ちゃんばかりだし、あの体が見つからない訳がないと思うんだが。


「あの人ならあそこですよ」


 彼女が指を刺したのは、背後でもなく、真横でもなく。



 空だった。


「おいお前ら、少しそこをどけ」


 グルーブルは指を立てて空を刺したかと思ったら、突然彼の指先が歪み始めた。

 というより、空気が?


 なんだか、蒸し暑いな。

 冬のはずじゃ?


 その時、衣服が少し上へ浮かんだ。

 彼の指先に段々ピントが合わなくなっていく。


 でも、はっきり見えたものが一つある。

 青色に輝く。


 

 熱が――


「紅き風の精霊よ――

今汝の求める所に大いなる加護あらん

ファイヤーシルフ」


 その瞬間。

 ブレていた指が、空間の乱れが更に強くなり。

 流れすらも歪み、逆転した。

 そしてやがて、一本へと重なった。


 

 高く振り上げた腕をみて、僕達は思考を止めた。


 

 僕達全員が目を瞑った瞬間、何かが削れる音がした。

 土が、地面が。

 炎に押しつぶされていた。


 違う、何もかもが。

 分子が引き裂かれている。




「まぁこんなもんか」


 グルーブルはそう言ってゆっくりと着地した。

 でも、地面が揺れたのを僕はしっかりと感じた。


 ナダユキの親戚なだけある。

 はっきり言おう、化け物だ。


 心臓が熱くなる、それには恐怖と尊敬なるものが混じっていた。


「よし、これでハンバーガーとやらを作ってみろ」


 まさか、この炎を料理用とでも言うまいな?

 もうこの人を人間として見ることができなくなる!


「そうだ、レタスは俺の弟から買ったやつを分けてやる」


 よし、これで準備は整った。

 あとはもう料理を開始するだけだ。

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