第19話「回復」
約3週間ほど新規投稿を休んでしまい申し訳ございません。なるべく2日おきに投稿できるよう頑張っていきます。
ひとまず、ハンバーガーの食材を集めよう。
「食材はパン、レタス、チーズ、そしてメインのパティですね」
この中でも、チーズはかなり希少だ。
この世界ではたまに貯蔵庫にこびりついているくらいで、作り出す技術は五つ星のシェフでもなければ知らないらしい。
しかし、それは転生者以外の話だ。
前世では小学生でも牛乳パックを振り回してチーズ作りに挑戦していたものだ。
まぁ、ほとんど失敗に終わるが。
そんなことはさておき、牛乳さえ手に入れられればチーズを作り上げられる。
とりあえず、一番入手困難なパティ。
牛肉から仕入れよう、いますぐにでも。
……と思ったが、ナダユキの所持金を持ってしても金が足りないらしい。
少し過信し過ぎた!!
――
ということで、お金を稼ぐために定番の魔物退治をすることにした。
ゴブリンは少し苦い思い出があるので、少しランクを下げたスライムを討伐する。
ゴブリンの出来事で改めて、A級冒険者の技量を思い知ったと思う。
正直少し舐めていた。
「着きましたね」
辿り着いたのは全方向が緑の平原の中心。
スライムはよく茂みに姿を隠しているんだとか。
飛び出してきて、いきなりバトルだ!!とかはやめてほしい。
奇襲をかけるならこちらからが良い。
そんなことは置いておいて、少し妙だ、気配が全くしない。
しかし、それは空を除いて。
……久しぶりに僕の勘が動いた。
スライムが全く見えなかったのはそういうことだったか。
その時、草木が僕達から逃げ出そうとしてるように揺れた。
いや、僕達の上から来る、ナニか。
暴走する髪の隙間から見えたのは、蒼い、
気迫のある羽が生えた魔物。
"蒼龍"
「二人にはまだ早いと思うよ」
真っ先に口を開いたのはナダユキだった。
瞬きの間に空気の乱れだけを残して、消えた。
そしていきなりこの世の物とは思えない叫び声が聞こえ、視界がぼんやりと霞んだ。
出会って数秒で、蒼龍の首は僕の目の前に落ち、四肢が潰れた。
蒼龍の目に映る僕を見て。
狩られると本能的に思った、もう動けないのに。
物凄い振動で僕は尻もちをついて、耳を抑えた。
キーンと鳴る耳鳴りに、呆然と。
そんな時、前を見たら彼女が倒れてしまっていた。
意識は……どうやらまだあるようだ。
アイセラの前に立ち、手を差し伸ばした。
「自分で立てます」
その口調はあまり嫌そうじゃなかった。
間髪入れずに彼女が口を開く。
「蒼龍ってたしか、B級冒険者でも苦戦するっていわれてる筈ですよね?」
「あぁ、そうだね」
「あなた一体何者ですか……」
あまり詳しくは分からないが、化け物ということは理解できる。
蒼龍は珍しいこともあり、質屋にでも持って行くと物好きの"神様"が高く買うらしい。
この世界では太客を神様とでもいうのだろうか、それとも客は神とかいうめんどくさい暗黙のルールがあるのか。
まぁいい、僕らには関係のない話だ。
それにしても、死臭が酷い。
体がデカい、臭いも魔力も魔物を捕食しまくったお陰だろう。
「ヒッ」
まるで悪魔と思わせるような目に、声を出してしまった。
「これ見たことが……」
そう呟いた彼女は、だんだん顔が青ざめていき、少し離れた場所で吐き出した。
僕は彼女の背中をさすり、話しかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
横目でそう言った時、先程とは少し違う反応を示した。
何も喋らなかったが、目はあまり暗くない。
久しぶりに見たような気がした、彼女のこの顔を。
そんな僕達の横で、銭湯上がりみたいな清々しい顔をしたナダユキが淡々と蒼龍を捌いていた。
僕はこの狂気の青年に戦慄しながら、何もない虚無をさすった。
――
「み…水!」
僕達はあの後お爺さんから荷台を借りて、蒼龍を3人がかりで運んだ。
爺さんが長々と自慢していた荷台の強度でも、蒼龍の重さに耐えきれず今にでも悲鳴を上げそうな勢いでギシギシと言っている。
今のヒビが入ってる荷台を見たら、屈辱で全てを破壊するだろう。
想像するだけで尿が出そうだ。
まぁいい、とりあえず今はタプタプの腹に水をぶち込もう。
喉がカラカラだ。
一杯、また一杯と喉を流れ込んでいく。
横目に水を飲む彼女を見て、少し笑みが溢れた。
「質屋に運んでくるよ」
そのナダユキの発言のせいで、アイセラに勘付かれたかもしれない。
後で覚えておけ。
心の中でそう何回も唱えた。
二人きりになった僕達は、決して綺麗ではない。
雲が覆われた空を眺めていた。
前世ではこの無言の時間に何を話そうかとずっと悩んでいただろう。
でも、今は何も喋らなくても良いくらい信用できる仲間がいる。
生暖かい絶望の対価で。
少し、成長したな……
とまぁ、自分語りはこれくらいにして、アイセラに話でも振ろう。
「後は食材集めと――」
「うわぁ、びっくりした」
口を広げながらそう言う彼女に、気づけば口にしていた。
「可愛いな」
「え、いや何言ってるんですか!」
顔を赤らめる彼女が、とても愛くるしく感じた。
こんな子を、僕はプライドだけで傷つけて、追い払った。
そりゃ嫌われても仕方ないよな。
それでも、彼女は僕に接してくれる、前と同じように。
仲間みたいに、隣にいてくれる。
謝るなら今だ。
彼女に許してもらいたい。
「この前は、ご――」
「あ、お帰りなさい」
僕の言葉を遮って、彼女は僕の背後に手を振った。
ナダユキが大金を持って歩いてくる。
……言えなかったな。
「どうした?ノルディア君」
「いえ、なんでもありません……それより今日は一度帰りましょう」
もう雲の隙間から夕陽が差し込んでいる。
あと2日ある、今日しっかり休んで最高のハンバーガーを作ろう。
その後、また言えば良い。
彼女に
「このお金はノルディア君に任せるよ」
「それじゃあ今日は解散ってことで」
彼女の微笑みを心の中で喜んで、宿に帰った。
――
まだ外は暗い。
疲労で、気絶するように地面で寝ていた。
体がズキズキする、せっかく寝たのにあんまり意味がなかったな。
いや、地面で寝ていたせいじゃない。
彼女に謝れなかった事にまだ後悔してる、また今度って思ったけど。
後悔はしてしまう。
もう覚めちゃったものはしょうがない、少し散歩でもするか。
フラフラと歩きながらドアノブに手をかけて、開いた時。
隣の部屋が開いた。
出てきたのは同年代、いや少し上くらいの男。
剣を背負った彼の目は鋭かった。
恐怖を感じて扉を閉めようとした時、
「あ、こんにちは」
不器用な笑顔でそう挨拶してきた。
「あなたも冒険者なんですか?」
「あぁ、俺はC級冒険者パーティ、プロフェシーのリーダーだ」
C級か、かなり凄腕だ。
でも聞いたことがない、A級B級に埋もれて名前が広まらないのだろうか。
「あ、すまん、俺用事あるからすぐ行くわ」
「分かりました」
「またな!」
そう彼が走り去っていくのを見て、僕は部屋に戻り。
もう一度ベッドに入り込んだ。
少しでも休もう。
そうして二度寝した。
――
もう朝か……
もうかなり明るい、少し寝過ぎたな。
外がやけにうるさい、少し静かにしてくれよ。
「牛肉大量入荷だ、買った買った!」
牛肉か、そういえば買わないといけないんだっけ。
……大量入荷!?
――
「ということで、あの人混みの中から牛肉を入手して欲しいんです」
全員疲れていたようで、僕よりも長く寝ていたそう。
ギルドに誰もいない時は流石にチビるところだった。
「全員に一万月を授ける、いつか必ず返しに来い」
「あなたが頼んでる癖に、最低ですね」
「最低だな」
しまった、この世界では通用しないネタだった。
なんで最低なんて言われないといけないんだよ!
まぁいい、この狭い通路の人混みから牛肉を400グラムほど入手すれば、後の食材は楽々集まる。
ここが正念場だな。
「それじゃあ行きますよ」
「「おう」」
「獲ったぜ!」
その声を合図に、僕達が一斉に動いた。
二人は走って直接、なら僕は――
上からだ!
転移魔術で屋根に移動して、人々の流れが少し緩んだ瞬間……
「今だ!」
そうして僕は肉を掴んだ。
着地したと同時に、周りから感嘆の声が上がった。
僕は肉を抱えて離れ、裏のレジに並んだ。
ふぅ、これで牛肉の心配はないな。
その時、後ろから声が聞こえた。
「たく、肉を買うだけに四時間もかかるとはな」
聞いたばかりの声が僕の耳に入った。
後ろに並んでいたのは、
「あ、今朝の」
彼も僕に気がついたらしい、そう。
今日の早朝、宿で会ったC級冒険者だ。
もしかして、朝早くから出て行ったのは牛肉の為か?
「お、あんたも取れたんだな」
四時間も苦戦していた人より多く取れたなんて言えない。
言ったらどうなることか……
あれ、よく見たら体にアザが出来ている。
四時間人混みの中で格闘していたら当然といえば当然なのか?
「ちょっと体を寄せてください」
「え?あぁ」
戸惑いつつもすぐに体を寄せた。
彼の体に手を当てた。
「ちょ、何やってんだ、俺はそういう趣味は」
「創造神よ、我ら人の民に
もう一度血肉を植え付けよ――
ヒーリング」
治癒魔術で彼を治した、治癒を無詠唱で使うのは神の怒りに触れそうだ。
今はまだ詠唱をしよう。
「あんた、すげえな!これどうやってんだ?」
彼らは治癒魔術の存在を知らなさそうだ、C級パーティなのになぜ?
「俺らのパーティよ、剣士しかいないから魔術師が欲しいんだ、入らねえか?」
なるほどな、道理で知らないわけだ。
剣士だけでC級まで上り詰めたって、一体どれだけ強いんだ。
「入りたいのも山々なんですが、僕一応パーティを組んでまして」
「そうか、残念だ」
そんな他愛の無い話をしていたら、前の客はもう居なかった。
店員が不機嫌そうにこちらを見ている。
「すみません」
――
ふう、やっと買えたぁ。
もうハンバーガーは完成したと言っても過言じゃない。
後は野菜だな、
「二人とも、次は野菜を」
二人の返事は聞こえなかった。
そうだ、買えた事を伝えてない。
そんなに肉はいらない、無駄遣いはダメだ。
早く戻らないと、走れ走れ!
そうして人混みにたどり着いた時、少し離れたフェンスに寄りかかっている人影が見えた。
「二人とも、大丈夫ですか?」
燃え尽きたプロレスラーのような面構えをしている。
「すみません……」
――
「れあすをかいまひょうか」
あの後、二人にボコボコにされた。
ヒーリングで自分を治したいところだが、魔力の消費が激しいので出来なかった。
あいつら治すんじゃなかった……
「そういうと思って、昨日のうちに僕が買っておいたよ」
そう言ってナダユキが取り出したのは、トマト、パン、キャベツだった。
シゴデキだな。
「あれ、ハンバーガーってやつはレタスを使うんじゃ?」
「これがレタスなんじゃ無いのかい?」
本当にそう思ってそうな純粋な目でこちらを見てきた。
感謝してるけどぶん殴りたくなった。
「まぁ、緑だし見た目も似てるし大丈夫だろう」
「ダメに決まってますよ!」
もう一度言う、ぶん殴りたくなった。
「すいまへん、いっはいなおしてもらっへいいへふか?」
「わかりました、次はちゃんと伝えてくださいね」
怒りながらも素直に治してくれる彼女は、やはり可愛い。
「よし、それじゃあナダユキさんがレタス買ってこなかったのでレタスだけ買いに行きましょうか」
「絶対そのままでもいいと思うが……」
言い訳は無視して、商店街に向かった。
とはいえ、この街は医療に長けているから店は少ない。
商店街と言っていいのだろうか?
「そう言えば、蒼龍っていくらで売れたんですか?」
「昨日渡したじゃないか」
数えるの面倒で数えてないんだよな、今更数えるより教えてもらった方が早いだろう。
「一応、六千万月だよ」
「「……え?」」
「いま、六、六千円って」
「ち、違いますノルディア、六千万月です」
六千万月って、一軒家余裕で買えちゃうぞ。
未成年がそんな大金持ってていいのか?
「……ん?」
周りから視線をたくさん感じる、少し声が大きすぎたか?
大金を所持していることがバレるかもしれない。
今すぐこの場を離れなければ。
「二人とも、ここから離れましょう」
「あぁ」
どうやら二人も視線には勘づいていたらしい。
一歩足を動かした瞬間、周りの人間も一歩動いた。
これはまずいかもしれない。
今日一日鬼ごっこに使うのは大幅な時間ロス。
どうするべきか……
そうして段々と鼓動が速くなり、今すぐにでもここを去りたいと言う気持ちが強くなる。
「おーい!今度は超高級パンが半額で販売だってよ!」
その言葉が人々の耳に入ったのを皮切りに、数人がそちらへ向かっていく。
数人減って、僕たちを捕まえるのが難しくなったからか。
さらに数人、数十人と離れていった。
「良かった……」
「大丈夫か?」
そう話しかけてきたのは先ほどのC級冒険者。
「さっきの借りだ」
「ありがとうございます」
借りの重さが違う、このまま何もしないのは僕の流儀に背く。
「明日、良かったらギルドに来てください」
「あぁ分かった」
約束もしたところで、一度この大金を預けるべきだろうか。
母様のところに、いや。
フィリアもいない今、合わせる顔はない。
しょうがない、宿にでも預けとくか。
――
「お待たせしました」
宿に金を置いてきて、外に出た時。
もう日が暮れ始めているのに気づき全力疾走してきた。
「大丈夫ですか?」
「はい、速く買いに行きましょう」
心配してくれるのはとても嬉しいが、今は急がねば。
「店がたくさんありますね」
医療の街にしては、結構店がある。
ただ、閉まっていく店も多くなってきた。
「あ、あそこの八百屋さんとかどうですか?」
彼女が指を刺したのは強面の店主が経営している小さめの店だった。
少し気が乗らないが、買いに行くか。
歩き出した瞬間、僕らに気づいた店主が素早く店を閉めてきた。
「閉められちゃいましたね」
「どうしようか」
時間に追われながら必死に考えていた時、ナダユキが口を開いた。
「あそことかどうかな」




