30.そして、新年度へ
春休みが終わって、わたくしは学園の三年生に進級し、ダヴィド殿下とマノンお姉様は四年生に進級し、ミレーヌ殿下は五年生に進級した。
わたくしは初夏に十五歳になって、新年のパーティーではデビュタントを果たす年齢になる。
学園の三年生というのは、とても大事な節目の年なのだ。
お義兄様とヴィクトル殿下は王立アカデミーの二年生に進級した。
三年生になってからは、デビュタントを意識して、礼儀作法の授業が厳しくなると聞いている。ダンスはわたくしは得意な方だが、ダンスもデビュタント後には晩餐会に出席できるようになって、正式に夜会で踊るようになる。
三年生で学ばなければいけないことはたくさんあった。
春休みも暇を見つけては勉強をしていたので、進級後の実力試験でわたくしは無事に首席を取ることができた。今回はダヴィド殿下とマノンお姉様が同点で二人とも首席となって、ミレーヌ殿下も六位と順位を上げていた。
実力試験の結果が貼り出されたホールで、ミレーヌ殿下とわたくしは手を取り合って喜んでいた。
「ミレーヌ殿下、六位おめでとうございます」
「春休みの間、ヴィクトル殿下が付きっ切りで教えてくださったのです」
「それで順位を上げることができたのですね」
「アデライド嬢も首席おめでとうございます」
「ありがとうございます」
わたくしとミレーヌ殿下が喜んでいる横で、ダヴィド殿下とマノンお姉様が誇らしげに胸を張っている。
「これがわたしの実力です」
「わたくしもこれくらいできて当然ですわ」
「次は夏休み前の試験ですね」
「負けませんよ」
競い合っているダヴィド殿下とマノンお姉様。お互いがいるからこそ、二人は成績を保てているのかもしれない。
「油断した……引っかけ問題に引っかかってしまった……」
落ち込んでいるドナは、今回は二位だった。それでも、成績上位者として学費は免除されるので問題はないだろう。
試験結果を確認してから、わたくしとミレーヌ殿下は昼休みで王立アカデミーと学園を繋ぐ長い階段の下に向かった。
階段からお義兄様とヴィクトル殿下が話しながら降りてくる。
お義兄様とヴィクトル殿下と合流して、四人でサロンの一室で昼食を食べた。
「アデライド嬢は実力試験も首席だったのですよ」
「ミレーヌ殿下は六位にまで上がっていました」
ミレーヌ殿下とわたくしが報告すると、お義兄様とヴィクトル殿下が笑い合う。
「自分のことではなくて、ミレーヌ殿下のことを報告するのだね」
「アデライド嬢とミレーヌ殿下の仲のよさに妬けてきそうだよ」
指摘されて、わたくしは自分のことでなくミレーヌ殿下のことを報告していて、ミレーヌ殿下も自分のことではなくわたくしのことを報告していたことに気付く。
わたくしとミレーヌ殿下は、二歳の年の差はあるが、お互いに相手のことが一番大事な親友なのだと改めて実感する。
「わたくし、もうすぐ誕生日なのです。誕生日には隣国に戻ってお祝いをします。ヴィクトル殿下はお誘いしているのですが、アデライド嬢、マクシミリアン殿、ぜひわたくしの誕生日に参加してくれませんか?」
ミレーヌ殿下にお誘いを受けて、わたくしはお義兄様の顔を見る。わたくしはまだこの国から出たことはないし、隣国の王家のお誕生会に出席していいものか判断ができなかった。
「お誘いありがとうございます。父と母に確認してお返事をしますね」
「はい。いいお返事をお待ちしています」
お義兄様がミレーヌ殿下にお義父様とお義母様の了承を取ることを伝えてくれて、わたくしはほっと安堵する。
わたくしだけの判断ではお返事ができなかった。
隣国はこの国と言葉が似ているが、少し違う言語を使っている。語学の授業で隣国の言葉は習っているが、王族とお会いしてお話ができるくらいに流暢に使いこなせるかといえば自信がない。
ミレーヌ殿下のお誕生会に招かれることになったら、わたくしは隣国の会話を猛特訓しなければいけない気がしていた。
昼食が終わって、午後の授業も終わると、サロンでダヴィド殿下とマノンお姉様とミレーヌ殿下とお茶をすることになっていた。
マノンお姉様はダヴィド殿下に対して、少し怒っているような様子だった。
「マノンお姉様、どうしたのですか?」
わたくしが問いかけると、マノンお姉様がダヴィド殿下を睨み付ける。不敬かもしれないが、この二人の関係ならば大丈夫なのだろう。
「わたくし、他の男子生徒から聞きました。ダヴィド殿下が、わたくしを誘わないように他の男子生徒に睨みを利かせていたというのです」
「それは本当ですか!?」
「いや……その……」
「デビュタントの夜も、わたくし、ダンスに誘われなくておかしいと思っていたのです。プロムも誰も誘ってくれませんでしたし」
「マノン嬢はわたしに誘われるのが嫌でしたか?」
「い、嫌ではありませんが……ダヴィド殿下はどうしてそのようなことをしたのですか?」
真正面からマノンお姉様に問い詰められて、ダヴィド殿下が顔を赤くしている。返答に困っているダヴィド殿下に、マノンお姉様が深くため息をついた。
「わたくしと首席を争っているから、わたくしが誰にも誘われずに惨めな思いをすればいいと思ったのですか?」
「ち、違います!」
「ならば、なぜ?」
完璧に怒ってしまったマノンお姉様に、ダヴィド殿下が顔を真っ赤にしながら、必死に言い訳していた。
「マノン嬢は気は強いですが、愛らしいので、すぐにたくさんの男性に誘われるでしょう?」
「わたくしが誘われないで、落ち込めばいいと思ったのですか?」
「違います! わたしがマノン嬢を誘いたかった。わたしだけがマノン嬢を独り占めしたかったのです!」
はっきりと言ったダヴィド殿下は耳まで真っ赤だった。
言われたことをゆっくりと理解したのか、マノンお姉様も徐々に顔を赤くする。
「そ、それって……」
「わたしがマノン嬢に好意を持ってはいけませんか?」
「ダヴィド殿下が、わたくしに……?」
「マノン嬢が了承してくれるのでしたら、わたしは父上にマノン嬢との婚約をできるようにお願いします」
真剣な眼差しで告げたダヴィド殿下に、わたくしとミレーヌ殿下が顔を見合わせて頷き合う。
やっとダヴィド殿下は素直になれたし、マノンお姉様にも気持ちが通じたようだった。
「か、考えさせてください」
「どれくらいの期間?」
「しばらくです」
「具体的には?」
「しばらくは、しばらくです! わたくしだって、両親に相談しなければいけませんからね!」
マノンお姉様も顔を真っ赤にして、返事をしている。
この感じでは二人は近いうちに婚約が結ばれそうだった。
お茶の時間はダヴィド殿下の告白と、マノンお姉様の狼狽の中で終わってしまったが、わたくしはバルテルミー公爵家のタウンハウスに帰って、お義兄様が帰ってくるとすぐに今日のことを伝えた。
ダヴィド殿下がマノンお姉様を思っていたことを聞くと、お義兄様は驚いていた様子だった。
「ダヴィド殿下がマノンのことを。全然気が付かなかったな」
「二人は同じ学年で首席を争う好敵手としても仲がよかったですし、お茶の時間も一緒でした。ダヴィド殿下はマノンお姉様のことを意識するようになったのでしょう」
「伯父上が何を仰るかだが、辺境伯家の娘とダヴィド殿下だったら、いいご縁なんじゃないかな」
お義兄様もダヴィド殿下とマノンお姉様を応援する立場のようだった。
初夏になれば、わたくしは十五歳、お義兄様は二十歳になる。
前の人生でお義兄様が死んでしまったのは十八歳で、それよりも二年も長く生きられたことになる。
わたくしは前の人生で生きた年月よりも二年長く生きることになるが、前の人生の記憶に頼らなくても自分で人生を切り開くことができると思っていた。
前の人生の記憶がなかった二年生での試験も全て首席を取ることができたし、ブランシュ嬢やミレーヌ殿下とのトラブルも、お義兄様の力を借りながら、無事に解決することができた。
これから先の人生にどんな困難が待ち受けているのか、想像もつかない。
でも、誰もが未来は分からないながらも生きて行っているのだと思う。
わたくしも、未来が分からなくても、自分でどう生きるかを決めることができる。
二度目の人生、わたくしは困難もありつつも、こうして無事に生きている。
お義兄様と幸せになって、長い人生を終えるときまで、わたくしはずっとお義兄様と共に生きて行くのだ。
これで、コミカライズ続編用に書いた続きは完結です。
最後まで読んだくださってありがとうございました。
また続きを書くことがありましたらよろしくお願いします。




