24話 〜いざ王城へ〜
そして次の日。
私はいつもより早く目を覚ました。いや、目を覚ましたというより、ユラちゃんに起こされた。
「お姉ちゃん。朝だよ」
「んぁ……あと5分……」
「今日はお城に行く日だよ」
「起きたぁあああああああ!!」
私は勢いよく布団から飛び起きた。その衝撃で隣で丸まっていたシロちゃんが「にゃ!?」と飛び跳ねる。ごめんて。
「ご主人〜うるさい〜」
「ごめんねシロちゃん。でも今日は王族イベントだよ! 王様とかお姫様がいるかもしれないんだよ!」
「お肉ある〜?」
「多分ある!」
「シロ行く〜」
この子本当にブレないなぁ。お肉があればどこにでも行きそうだ。いや、シロちゃんがいないと私たち普通に危ないから助かるけどね。
アンちゃんはベッドの端で大の字になって寝ていた。元クイーンアントの威厳はどこに行ったのだろうか。最近は完全にただの甘えん坊だ。
「アンちゃん起きて。お城行くよ」
「むにゃ……妾は女王ぞ……王城など向こうから来るべきなのじゃ……」
「朝ご飯抜きね」
「起きたのじゃ!!」
食べ物の力は偉大だね。
朝食は軽く済ませることにした。馬車に揺られると気持ち悪くなりそうだし、あまりお腹いっぱいにするのは良くない。そう思ってパンとスープを出した。
……のだが。
「ご主人〜お肉〜」
「妾も肉が食べたいのじゃ!」
結局肉串を追加で出した。軽く済ませるとは一体。まぁ、食べる子は育つからいいか。シロちゃんはもう十分育ってる気もするけど。
モカさんとシュリちゃんも朝食を食べに来た。シュリちゃんは昨日買った服を大事そうに抱えている。気に入ってくれたみたいでよかった。あのデレは今思い出しても破壊力がすごい。お姉ちゃん頑張っちゃうぞ。
「ユウさん。本当にシュリを連れて行くんですか?」
「もちろんだよ! 王城なんてなかなか行けないし、社会見学だよ社会見学」
「しゃかい……?」
「あ、えっと。お勉強みたいなものかな」
危ない危ない。前世ワードが自然に出てしまった。最近気が緩んでるね。
「シュリ。ユウさんの言うことをちゃんと聞くのよ」
「うん!」
「あとユウさん。無茶しないでくださいね」
「モカさんまで!? 私そんなに無茶してるかな?」
「「「してる」」」
『してる〜』
ユラちゃん、アンちゃん、モカさん、シロちゃんの声が重なる。シュリちゃんまで頷いている。なんでや。私は安全第一のスローライフ希望者なんだけど。
……あれ? 確かに熊と戦ったり、クイーンアント討伐したり、家を貰ったり、風呂場増築頼んだりしてたな。スローライフとは?
「まぁ、今回はお城に行くだけだし大丈夫だよ!」
「その『だけ』が一番信用できません」
モカさんがため息をつく。酷い。けど否定できないのが悲しい。
身支度を済ませ、昨日受け取った礼装をアイテムボックスに入れる。道中で汚れたら嫌だし、着替えるのは王城についてからで良いだろう。私は基本的に動きやすさ重視なのだ。ドレスで馬車に乗るとか絶対しんどいし。
「それじゃあ行ってくるね」
「はい。お気をつけて」
モカさんに見送られながら家を出る。外にはギルドに手配してもらった馬車が停まっていた。思ったより普通の馬車だ。木で出来ていて、車輪も硬そうで、座席も硬そう。これはお尻が死ぬやつだ。
「お嬢ちゃん達が王城まで行くって聞いた客かい?」
「はい! よろしくお願いします」
「王都までは半日ほどだ。途中で休憩は挟むが、道はそこまで悪くねぇから安心しな」
御者のおじさんは気の良さそうな人だった。こういう普通に親切な人を見ると安心する。こっちの世界、チンピラ率高いからね。
私たちは馬車に乗り込んだ。
そして出発してから数分で理解した。
馬車、めっちゃ揺れる。
「お尻がぁ……」
「ご主人〜揺れる〜」
「妾は楽しいのじゃ!」
「ユラは平気だよ」
「シュリもちょっと楽しいかも」
子供達が強い。私だけダメージを受けている気がする。いや、今の体も子供みたいなものなんだけどね。前世の社畜ボディよりはずっと軽いはずなのに、乗り物耐性は上がっていないらしい。
外の景色はのどかだった。街を出ると、左右には畑が広がり、その奥には低い森が続いている。朝日が葉っぱに当たってキラキラしていて、少しだけ幻想的だ。こういう景色を見ると異世界に来たんだなぁと実感する。
まぁ、横でシロちゃんが私の膝を占領してるんだけどね。重い。かわいい。許す。
「ご主人〜お腹すいた〜」
「さっき食べたばかりでしょ」
「馬車に乗るとお腹すく〜」
「そんな理屈ある?」
シロちゃんは上目遣いでこちらを見てくる。くっ、かわいい。だがここで甘やかしてはいけない。甘やかしてはいけないんだけど。
「……干し肉ならあるよ」
「ご主人好き〜」
負けました。
アンちゃんにも干し肉を渡し、ユラちゃんとシュリちゃんにはクッキーを渡す。昨日の夜に作っておいてよかった。王族への手土産用に作ったはずなのに、もう少し減っている。まぁ、まだ沢山あるから大丈夫だよね。多分。
しばらく進んでいると、馬車が急に止まった。
「うおっ」
「きゃっ」
私は前につんのめりそうになり、ユラちゃんに支えられた。情けないお姉ちゃんでごめんよ。
「どうしたんですか?」
「魔物だ。狼型が三匹。珍しくはねぇが、馬が怯えて進めねぇ」
御者のおじさんの視線の先には、確かに狼のような魔物がいた。普通の狼よりも一回り大きく、口元から涎を垂らしている。うん。普通に怖い。ゲームで見るのと現実で見るのは違うね。
「シロちゃん」
『まかせて〜』
シロちゃんは猫の姿のまま馬車からぴょんと降りた。狼たちはシロちゃんを見ると低く唸る。相手を完全に舐めている顔だ。残念だったね。その子、うちの最強戦力です。
シロちゃんが一歩近づく。
「にゃ〜」
次の瞬間、狼たちは一斉に腹を見せて地面に転がった。
……え?
「シロちゃん何したの?」
『ちょっと怖くした〜』
「ちょっととは」
狼たちはぷるぷる震えている。なんか可哀想になってきた。
私は馬車から降りて狼たちの近くに行く。ユラちゃんが少し心配そうにこちらを見るが、シロちゃんがいるから多分大丈夫だろう。多分ね。
「君たち、人を襲っちゃダメだよ?」
『わ、わかった。白き王の連れには逆らわない』
ん?
白き王?
「シロちゃん。白き王って言われてるよ」
『シロ王様〜?』
シロちゃんは嬉しそうに胸を張った。猫の姿で胸を張っている。かわいい。王様なら国民を守らないとね。
「じゃあ森に帰ってね」
『わかった』
狼たちは一目散に森へ逃げて行った。御者のおじさんは口を開けたまま固まっている。
「お嬢ちゃん達……一体何者なんだ?」
「スローライフ希望者です」
「妾は女王なのじゃ!」
「アンちゃんはちょっと黙ってようね」
話がややこしくなるからね。
その後は特に問題なく馬車は進んだ。途中で昼食を挟み、アイテムボックスからサンドイッチとスープを出す。御者のおじさんにも渡したら、かなり喜んでくれた。異世界でも差し入れは大事だね。
「こんなうめぇ飯を馬車の上で食えるなんてなぁ」
「まだまだありますよ」
「お嬢ちゃん、金持ちなのか?」
「猫ちゃんが金持ちです」
「……そうか」
おじさんは深く追求しなかった。大人だ。
日が少し傾き始めた頃、遠くに大きな壁が見えてきた。
王都だ。
壁は高く、門の前には人と馬車の列ができている。行商人らしき人、冒険者らしき人、身なりのいい人。色んな人がいる。街とは規模が違う。さすが王都。
「すごいねぇ」
「うん。大きい」
「ゆう姉ちゃん、あそこにお姫様いるの?」
「多分いるよ!」
「多分ばっかりなのじゃ」
「知らないものは仕方ないじゃん!」
門に着くと、兵士さんに身分証を求められた。私はギルドカードを渡す。兵士さんはカードを見るなり目を見開いた。
「Sランク……ユウ様で間違いありませんか?」
「はい。多分」
「多分?」
また言ってしまった。
「王城より通達を受けております。こちらへどうぞ。王城まで案内の者をつけます」
「ありがとうございます」
Sランクって便利だね。いや、便利と言うには責任が重そうだけど。私は気軽にスローライフしたいだけなのに、どんどん遠ざかっている気がする。
王都の中はとても賑やかだった。屋台の匂い、客引きの声、石畳を走る馬車の音。人が多い。建物も立派だ。見たことのない店が沢山ある。これは帰りに寄るしかないね。
『ご主人〜お肉の匂い〜』
「帰りね」
「妾はあの甘い匂いの店に行きたいのじゃ!」
「帰りね」
「ゆう姉ちゃん、あのお店かわいい服いっぱいあるよ」
「帰りに行こうね」
「お姉ちゃん。全部行ってたら日が暮れるよ」
「大丈夫。日が暮れたら泊まればいいから」
ユラちゃんが呆れた顔をしている。最近この顔を見る回数が増えた気がする。成長だね。お姉ちゃんは嬉しいよ。多分。
馬車は王都の中心へ進んでいく。やがて、白く大きな城が見えてきた。遠目でも分かるほど立派で、尖った屋根や綺麗な壁が太陽の光を受けて輝いている。
うわぁ。お城だ。
語彙力が死んだ。
王城の前で馬車が止まる。門の前には鎧を着た兵士が並んでいた。その中央に、見覚えのある厳つい男がいる。
「よく来たな。Sランク冒険者ユウ」
「こんにちは。ゴリラさん」
「ゴリラスだ」
「あ」
やってしまった。登城前にいきなり名前を間違えるとか最悪だ。いや、前も間違えた気がする。ごめんて。
ゴリラスさんはため息をついた。
「陛下がお待ちだ。くれぐれも粗相のないように」
「はい!」
私は背筋を伸ばす。ユラちゃんも真似して背筋を伸ばした。シュリちゃんは少し緊張している。アンちゃんはなぜか堂々としている。シロちゃんは眠そうに欠伸をしている。
うん。不安しかない。
王城の中へ案内される。廊下は広く、天井も高い。床は磨かれていて、歩くのを少し躊躇するくらい綺麗だ。壁には絵画や金色の装飾が並んでいて、いかにも偉い人の家という感じがする。
掃除大変そうだなぁ。
そんな庶民的なことを考えていると、廊下の向こうから小さな足音が聞こえてきた。
金髪の女の子が走ってくる。ふわふわのドレスを着ていて、後ろからメイドさんらしき人が慌てて追いかけていた。
「あなたが白い猫を連れた冒険者ですの!?」
お姫様だ。
多分お姫様だ。
しかも、めっちゃかわいい。
私は思わず固まった。
「お姉ちゃん?」
『ご主人〜?』
「お姉様?」
「ゆう姉ちゃん?」
全員の視線が私に突き刺さる。
まだ何もしてないよ!?
まだね。
こうして、私たちの王城イベントは幕を開けたのだった。




