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TS転生 猫とスローライフ!?  作者: 妄幽


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24/29

24話 〜いざ王城へ〜


そして次の日。


 私はいつもより早く目を覚ました。いや、目を覚ましたというより、ユラちゃんに起こされた。


 「お姉ちゃん。朝だよ」

 「んぁ……あと5分……」

 「今日はお城に行く日だよ」

 「起きたぁあああああああ!!」


 私は勢いよく布団から飛び起きた。その衝撃で隣で丸まっていたシロちゃんが「にゃ!?」と飛び跳ねる。ごめんて。


 「ご主人〜うるさい〜」

 「ごめんねシロちゃん。でも今日は王族イベントだよ! 王様とかお姫様がいるかもしれないんだよ!」

 「お肉ある〜?」

 「多分ある!」

 「シロ行く〜」


 この子本当にブレないなぁ。お肉があればどこにでも行きそうだ。いや、シロちゃんがいないと私たち普通に危ないから助かるけどね。


 アンちゃんはベッドの端で大の字になって寝ていた。元クイーンアントの威厳はどこに行ったのだろうか。最近は完全にただの甘えん坊だ。


 「アンちゃん起きて。お城行くよ」

 「むにゃ……妾は女王ぞ……王城など向こうから来るべきなのじゃ……」

 「朝ご飯抜きね」

 「起きたのじゃ!!」


 食べ物の力は偉大だね。


 朝食は軽く済ませることにした。馬車に揺られると気持ち悪くなりそうだし、あまりお腹いっぱいにするのは良くない。そう思ってパンとスープを出した。


 ……のだが。


 「ご主人〜お肉〜」

 「妾も肉が食べたいのじゃ!」


 結局肉串を追加で出した。軽く済ませるとは一体。まぁ、食べる子は育つからいいか。シロちゃんはもう十分育ってる気もするけど。


 モカさんとシュリちゃんも朝食を食べに来た。シュリちゃんは昨日買った服を大事そうに抱えている。気に入ってくれたみたいでよかった。あのデレは今思い出しても破壊力がすごい。お姉ちゃん頑張っちゃうぞ。


 「ユウさん。本当にシュリを連れて行くんですか?」

 「もちろんだよ! 王城なんてなかなか行けないし、社会見学だよ社会見学」

 「しゃかい……?」

 「あ、えっと。お勉強みたいなものかな」


 危ない危ない。前世ワードが自然に出てしまった。最近気が緩んでるね。


 「シュリ。ユウさんの言うことをちゃんと聞くのよ」

 「うん!」

 「あとユウさん。無茶しないでくださいね」

 「モカさんまで!? 私そんなに無茶してるかな?」

 「「「してる」」」

 『してる〜』


 ユラちゃん、アンちゃん、モカさん、シロちゃんの声が重なる。シュリちゃんまで頷いている。なんでや。私は安全第一のスローライフ希望者なんだけど。


 ……あれ? 確かに熊と戦ったり、クイーンアント討伐したり、家を貰ったり、風呂場増築頼んだりしてたな。スローライフとは?


 「まぁ、今回はお城に行くだけだし大丈夫だよ!」

 「その『だけ』が一番信用できません」


 モカさんがため息をつく。酷い。けど否定できないのが悲しい。


 身支度を済ませ、昨日受け取った礼装をアイテムボックスに入れる。道中で汚れたら嫌だし、着替えるのは王城についてからで良いだろう。私は基本的に動きやすさ重視なのだ。ドレスで馬車に乗るとか絶対しんどいし。


 「それじゃあ行ってくるね」

 「はい。お気をつけて」


 モカさんに見送られながら家を出る。外にはギルドに手配してもらった馬車が停まっていた。思ったより普通の馬車だ。木で出来ていて、車輪も硬そうで、座席も硬そう。これはお尻が死ぬやつだ。


 「お嬢ちゃん達が王城まで行くって聞いた客かい?」

 「はい! よろしくお願いします」

 「王都までは半日ほどだ。途中で休憩は挟むが、道はそこまで悪くねぇから安心しな」


 御者のおじさんは気の良さそうな人だった。こういう普通に親切な人を見ると安心する。こっちの世界、チンピラ率高いからね。


 私たちは馬車に乗り込んだ。


 そして出発してから数分で理解した。


 馬車、めっちゃ揺れる。


 「お尻がぁ……」

 「ご主人〜揺れる〜」

 「妾は楽しいのじゃ!」

 「ユラは平気だよ」

 「シュリもちょっと楽しいかも」


 子供達が強い。私だけダメージを受けている気がする。いや、今の体も子供みたいなものなんだけどね。前世の社畜ボディよりはずっと軽いはずなのに、乗り物耐性は上がっていないらしい。


 外の景色はのどかだった。街を出ると、左右には畑が広がり、その奥には低い森が続いている。朝日が葉っぱに当たってキラキラしていて、少しだけ幻想的だ。こういう景色を見ると異世界に来たんだなぁと実感する。


 まぁ、横でシロちゃんが私の膝を占領してるんだけどね。重い。かわいい。許す。


 「ご主人〜お腹すいた〜」

 「さっき食べたばかりでしょ」

 「馬車に乗るとお腹すく〜」

 「そんな理屈ある?」


 シロちゃんは上目遣いでこちらを見てくる。くっ、かわいい。だがここで甘やかしてはいけない。甘やかしてはいけないんだけど。


 「……干し肉ならあるよ」

 「ご主人好き〜」


 負けました。


 アンちゃんにも干し肉を渡し、ユラちゃんとシュリちゃんにはクッキーを渡す。昨日の夜に作っておいてよかった。王族への手土産用に作ったはずなのに、もう少し減っている。まぁ、まだ沢山あるから大丈夫だよね。多分。


 しばらく進んでいると、馬車が急に止まった。


 「うおっ」

 「きゃっ」


 私は前につんのめりそうになり、ユラちゃんに支えられた。情けないお姉ちゃんでごめんよ。


 「どうしたんですか?」

 「魔物だ。狼型が三匹。珍しくはねぇが、馬が怯えて進めねぇ」


 御者のおじさんの視線の先には、確かに狼のような魔物がいた。普通の狼よりも一回り大きく、口元から涎を垂らしている。うん。普通に怖い。ゲームで見るのと現実で見るのは違うね。


 「シロちゃん」

 『まかせて〜』


 シロちゃんは猫の姿のまま馬車からぴょんと降りた。狼たちはシロちゃんを見ると低く唸る。相手を完全に舐めている顔だ。残念だったね。その子、うちの最強戦力です。


 シロちゃんが一歩近づく。


 「にゃ〜」


 次の瞬間、狼たちは一斉に腹を見せて地面に転がった。


 ……え?


 「シロちゃん何したの?」

 『ちょっと怖くした〜』

 「ちょっととは」


 狼たちはぷるぷる震えている。なんか可哀想になってきた。


 私は馬車から降りて狼たちの近くに行く。ユラちゃんが少し心配そうにこちらを見るが、シロちゃんがいるから多分大丈夫だろう。多分ね。


 「君たち、人を襲っちゃダメだよ?」

 『わ、わかった。白き王の連れには逆らわない』


 ん?


 白き王?


 「シロちゃん。白き王って言われてるよ」

 『シロ王様〜?』


 シロちゃんは嬉しそうに胸を張った。猫の姿で胸を張っている。かわいい。王様なら国民を守らないとね。


 「じゃあ森に帰ってね」

 『わかった』


 狼たちは一目散に森へ逃げて行った。御者のおじさんは口を開けたまま固まっている。


 「お嬢ちゃん達……一体何者なんだ?」

 「スローライフ希望者です」

 「妾は女王なのじゃ!」

 「アンちゃんはちょっと黙ってようね」


 話がややこしくなるからね。


 その後は特に問題なく馬車は進んだ。途中で昼食を挟み、アイテムボックスからサンドイッチとスープを出す。御者のおじさんにも渡したら、かなり喜んでくれた。異世界でも差し入れは大事だね。


 「こんなうめぇ飯を馬車の上で食えるなんてなぁ」

 「まだまだありますよ」

 「お嬢ちゃん、金持ちなのか?」

 「猫ちゃんが金持ちです」

 「……そうか」


 おじさんは深く追求しなかった。大人だ。


 日が少し傾き始めた頃、遠くに大きな壁が見えてきた。


 王都だ。


 壁は高く、門の前には人と馬車の列ができている。行商人らしき人、冒険者らしき人、身なりのいい人。色んな人がいる。街とは規模が違う。さすが王都。


 「すごいねぇ」

 「うん。大きい」

 「ゆう姉ちゃん、あそこにお姫様いるの?」

 「多分いるよ!」

 「多分ばっかりなのじゃ」

 「知らないものは仕方ないじゃん!」


 門に着くと、兵士さんに身分証を求められた。私はギルドカードを渡す。兵士さんはカードを見るなり目を見開いた。


 「Sランク……ユウ様で間違いありませんか?」

 「はい。多分」

 「多分?」


 また言ってしまった。


 「王城より通達を受けております。こちらへどうぞ。王城まで案内の者をつけます」

 「ありがとうございます」


 Sランクって便利だね。いや、便利と言うには責任が重そうだけど。私は気軽にスローライフしたいだけなのに、どんどん遠ざかっている気がする。


 王都の中はとても賑やかだった。屋台の匂い、客引きの声、石畳を走る馬車の音。人が多い。建物も立派だ。見たことのない店が沢山ある。これは帰りに寄るしかないね。


 『ご主人〜お肉の匂い〜』

 「帰りね」

 「妾はあの甘い匂いの店に行きたいのじゃ!」

 「帰りね」

 「ゆう姉ちゃん、あのお店かわいい服いっぱいあるよ」

 「帰りに行こうね」

 「お姉ちゃん。全部行ってたら日が暮れるよ」

 「大丈夫。日が暮れたら泊まればいいから」


 ユラちゃんが呆れた顔をしている。最近この顔を見る回数が増えた気がする。成長だね。お姉ちゃんは嬉しいよ。多分。


 馬車は王都の中心へ進んでいく。やがて、白く大きな城が見えてきた。遠目でも分かるほど立派で、尖った屋根や綺麗な壁が太陽の光を受けて輝いている。


 うわぁ。お城だ。


 語彙力が死んだ。


 王城の前で馬車が止まる。門の前には鎧を着た兵士が並んでいた。その中央に、見覚えのある厳つい男がいる。


 「よく来たな。Sランク冒険者ユウ」

 「こんにちは。ゴリラさん」

 「ゴリラスだ」

 「あ」


 やってしまった。登城前にいきなり名前を間違えるとか最悪だ。いや、前も間違えた気がする。ごめんて。


 ゴリラスさんはため息をついた。


 「陛下がお待ちだ。くれぐれも粗相のないように」

 「はい!」


 私は背筋を伸ばす。ユラちゃんも真似して背筋を伸ばした。シュリちゃんは少し緊張している。アンちゃんはなぜか堂々としている。シロちゃんは眠そうに欠伸をしている。


 うん。不安しかない。


 王城の中へ案内される。廊下は広く、天井も高い。床は磨かれていて、歩くのを少し躊躇するくらい綺麗だ。壁には絵画や金色の装飾が並んでいて、いかにも偉い人の家という感じがする。


 掃除大変そうだなぁ。


 そんな庶民的なことを考えていると、廊下の向こうから小さな足音が聞こえてきた。


 金髪の女の子が走ってくる。ふわふわのドレスを着ていて、後ろからメイドさんらしき人が慌てて追いかけていた。


 「あなたが白い猫を連れた冒険者ですの!?」


 お姫様だ。


 多分お姫様だ。


 しかも、めっちゃかわいい。


 私は思わず固まった。


 「お姉ちゃん?」

 『ご主人〜?』

 「お姉様?」

 「ゆう姉ちゃん?」


 全員の視線が私に突き刺さる。


 まだ何もしてないよ!?


 まだね。


 こうして、私たちの王城イベントは幕を開けたのだった。

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