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77 ショッピングモールが近いんですよ

 要のマンションにお世話になることについては割り切ることにした。

 それでも少なからず抵抗はある。

 ……が、自分の力ではどうすることもできないことも理解していた。



 それに──




(ここからなら、ショッピングモールが近いんですよ!!)


 マンションから見える範囲にショッピングモールの存在。

 祀莉がここに留まる決意をした要因はこれが1番大きかった。



 自宅からだと歩いて20分。

 まず家から出ることに父親の許可が必要なのは辛かった。

 一度にたくさん購入するので、荷物の持ち運びも大変だった。


 それがここからでは片道5分! 往復で10分!

 たくさん購入しても少し我慢すれば重い荷物から開放される。

 一度の買い物でも無理そうな量なら、小分けに購入するのもありだ。


(いつでも買い物に行けます……! あ、でも先に要に預けている小説から読んでしまわないと)




 要はリビングにある一人掛けのソファーに腰掛けて、今日の新聞に目を通していた。

 そっと近付いた祀莉は、ソファーの横に膝をついて要に声をかける。


「要、わたくしの小説を返していただきたいのですが……」

「テスト前に没収したアレか。それなら奥の部屋に置いてある」

「そうなんですか! ではさっそく……!」


 要の言う奥の部屋に案内してもらおうと、勢いよく立ち上がる。

 やっと読めるのだ。

 そう思うと自然と顔が綻ぶ。


 ——そんなウキウキとした気分に要が水を差した。



「課題が終わるまでは渡さないからな」

「えっ!?」

「アニメも禁止だ」

「はい!?」

「外出もダメだ」

「そ、そんなぁ……。どうしてですか!!」



 要は新聞から視線を外すことなく淡淡と告げる。


「そうでもしないと、終わらせないだろ?」

「う……でも、明後日は諒華と会う約束をしてるんです!」


 要の隣へ移動して、横から顔を覗き込む。

 それくらいなら許してくれると期待を込めて。

 祀莉の必死さに、ようやく要が新聞から顔を上げた。



「課題が終わればな」


 ──鬼だ!

 ちょっとでも期待した自分が馬鹿だった!!



 恨めしい目で睨みつけている祀莉を無視して要はソファーから立ち上がった。 


「俺は今から用事でちょっと出掛ける」

「え? どこか行くんですか……?」


 “俺は”ということは、祀莉を置いて出掛けるらしい。

 今度こそ自分をここに閉じ込めて桜とデートか!と目を煌めかせたあたりで要の手が迫ってきた。

 逃げる隙を与えない鮮やかなデコピンをくらった。


「お前、今余計なこと考えただろ?」

「いたた……」

「俺がいない間きっちり勉強しておけよ。大好きな読書の時間を確保するために」

「ぐ……」


 それを言われると逆らえなくなる。

 額をおさえながら要を見上げた。

 祀莉と目が合うと意地悪な笑みを浮かべて部屋を出ていった。




****



 たった2日で全ての課題を終えられるはずもなく、諒華には外に出られないと謝罪の電話を入れた。

 事情を知った諒華は嫌な顔せず、むしろ祀莉のために色んな種類のケーキを持ってマンションまで足を運んでくれた。


「いやまぁ……さすがに2日では無理だとは思うわよ。私も全然手をつけてなかったし。それより、ほら。ケーキ! 好きなの選んでいいのよ」

「わぁ、ありがとうございます!」

「本当はパーティーでこっそり誕生日を祝おうと思って、人気のパティシエが作ったホールケーキを用意してたんだけどねぇ」

「そうだったんですか! すみません、途中で退出してしまって……」

「あれは仕方ないわよ。あんたも北条君も注目浴びちゃったし、むしろ良かったのかも」



 あのまま会場にいても居心地が悪いだけ。

 どちらにせよ、目立つのが嫌な祀莉は早々に切り上げたいと言い出しただろう。

 春江が用意してくれた紅茶を飲みながら、桃がのっているショトケーキを口に運んだ。

 祀莉がたくさん食べれるようにと小さめに切り分けてくれている。

 夕食が食べられなくなるのを覚悟すれば、あと3つは食べられそうだ。



 諒華はモンブランの栗を口に運びながら、ぐるりと部屋を見回した。


「まさか、北条君が実家を出てるとはねぇ。そこに祀莉がいるのも驚きだわ」

「わたくしもです……。まさか要のところでお世話になるなんて思いもしませんでした」




 諒華には謝罪の電話をした時にあらかた説明してある。

 要が一人暮らしをしているマンションにお世話になっていると告げると、「はぁ?」と間の抜けた声が電話口から聞こえた。

 祀莉も数人の使用人と西園寺邸でお留守番のつもりだったので、諒華が驚くのも当然だと思う。


「まぁ……しばらく祀莉を外に出したくなかったってのも分かるし」

「どうしてですか?」

「武井のバカ子息があんたを捜してるのよ」

「わたくしを? それはどうして……」

「本人曰く、“直接会って謝罪したい”だそうよ。パーティーの次の日に武井社長も一緒に血相を変えてうちに来たわ。西園寺家と連絡が取れないって」

「まぁ……」


 両親は共に海外に行っているから、連絡を取ろうというのは難しいだろう。

 連絡が取れたとしても面会ができるのは早くて一ヶ月先。

 武井にとってはすぐに謝罪と誠意を示して許してもらいたいところだが、残念なことにタイミングが悪い。


「でも祀莉は残ってるでしょ? 昨日は西園寺家にまで押し掛けたって言うし……。ちょっと心配だったのよ」

「そ、そうなんですか……?」



 両親がいないところで謝罪にこられても、祀莉にはどう対応すれば良いのか分からない。

 できれば二度とお目にかかりたくない相手でもある。


(こっちに避難しておいて良かったです……)



「その……武井さんはどうしているんですか? まだわたくしを捜して……?」

「それに関しては北条君が対応してるみたいだから、あんたは安心して課題に勤しみなさい」

「要が?」

「祀莉の小父さまに任されたとかで、彼らの処遇は北条君次第ね。どうなるのかしらね〜武井株式会社。もともと業績は良くないって聞いてたし、今回の息子の騒動がとどめだったりして。——あ、次はどれ食べる?」


 武井のこの先よりもケーキの方が大事らしい。

 まだ余っているケーキの中から、好きなの選んで良いのよと箱を差し出された。


「そうですね……う〜ん、ちょっと待って下さいね」

「はいはいどうぞ」


 祀莉も今までの話などそっちのけでケーキを選びはじめた。

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