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65 “保護者によろしく”の意味

 翌日の夜。

 パーティーへと赴く準備が整った祀莉は、自宅の車で織部家が貸し切っているホテルの会場へ向かった。

 似たような黒塗りの高級車が順々に駐車場に並べられていく。

 織部家の印が入った招待状を提示すると、快く諒華のところへ案内してくれた。





「いらっしゃい、祀莉。今日は楽しんでね」

「はい」


 朝からずっと緊張していたが、諒華の顔を見て少し落ち着いた。

 知っている人が1人いるだけで随分と違うものだった。

 挨拶した後、諒華は何かを探すかのように周囲や祀莉の背後を何度も確認していた。

 それを不思議に思いながら行動の意味を問いかけた。


「どうかしましたか?」

「1人なの? もう1枚招待状を渡したわよね?」

「はい。両親は出張で昨日海外に。才雅はクラブの合宿があるらしくて……。ですから今日はわたくしだけで出席させてもらいますね」

「は? いやいやいやいや! え……と、北条君は?」

「……要?」


 なぜここで要の名前が出てくるのかと首を傾げる。

 諒華は「保護者にもよろしく」と言って祀莉に招待状を2枚渡していた。

 要の分があるなんて聞いていない。



「……その招待状、北条君のために渡したんだけど」

「そうだったんですか!? え? でも“保護者によろしく”って言ってましたよね?」

「あんたの保護者と言ったら北条君しかいないでしょ!」

「はい!?」


(どうして要がわたくしの保護者なんですか!?)


 まさか諒華がそんな風に思っているなんて心外だ。

 そこまで要に世話になっているつもりはない。……多分。


「……もしかして、今日のパーティーのこと言ってないの?」

「言ってませんよ?」

「なんで!?」

「なんでって……諒華はわたくしを招待してくれたんですよね?」

「そうだけど…………えぇ、そうね。ややこしい言い方をした私が悪いわ……。どうしましょう……もし私がお父さまに呼ばれたら行かないわけにもいかないし。でも祀莉を1人にできないし……」


 諒華は額に手を当てて難しい顔をしていた。

 そしてぶつぶつと小さく呟いている。



「はぁ〜〜〜、仕方がない。今から北条君を呼ぶか……」

「待ってください! 大丈夫です! 必要ありませんっ!」


 長いため息を吐いて、要に連絡をいれに行こうと背を向けた諒華の腕にしがみついた。



 今日はクリスマスイブ。

 桜の誕生日は明日。

 誕生日を祝うためのプレゼントやデートの下準備で今日は忙しいはずだ。

 邪魔をしてはいけない、と本能的に諒華の行動を制していた。




 ぎゅーっとしがみついてくる祀莉を見下ろしながら諒華は困った顔をしていた。


「必要ないって……」

「要は忙しいので、こんなことで呼び出すなんてきっと迷惑に思います!」

「迷惑に思うどころか慌てて飛んでくると思うけど……」

「そ、それは……」


 諒華の指摘に口をつぐんだ。


 ……確かに。

 プライドの高い要のことだ。

 まだ(・・)婚約者の祀莉をエスコートしないなんて北条の名に傷をつけると、責任を感じて仕方なく出席しそうだ。

 ──がしかし、世間はまだ祀莉の顔を認識していない。

 名乗らなければ招待された諒華のお友達だ。



「それなら大丈夫です! わたくし、今日は大人しくしてますから! 西園寺家の人間だなんて名乗りませんっ!」

「はぁ? 名乗ってもらった方が虫除けに──」

「とにかく良いんですっ! 行きましょう! わたくし、すっごく楽しみだったんですっ」

「そ、そう……」


 いつにもない強い主張と勢いに気圧されて、諒華は頷くしかなかった。

 祀莉はそう言うが、手を打っておかねば何かあった時が大変だ。

 何もないだろうと言い切れる自信がない。

 後で怒られるのは自分なのだから|(別に怖くないけど)、それなりの対処はしておかないと。



 しかし、まずそれをするには自分を見張るようにくっついている祀莉から開放されなければならない。

 祀莉が掴んでいる右腕は、赤くなっているのではないかと不安になるくらい強い力で握られている。



「祀莉。くっつきすぎじゃない……?」

「だって……知らない人がいっぱいいて……。き、緊張してるんです!」

「あ、そう……」


 だったらなおのこと、自分の婚約者を呼べば良いのにと思う諒華なのであった。


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