64 冬休み
期末テストも無事終了し、冬休みが始まった。
前回のテスト結果が芳しくなかった祀莉は、桜の指導のおかげでまともな点数に戻っていたのを確認して安心した。
(桜さんには本当に感謝です。結果が悪ければ冬休み補習が……)
──考えただけでも恐ろしい。
これから約2週間、冬休みの課題はあるが自由な時間に起きて自由な時間に寝られるという至福の日々が与えられる。
それがテスト結果で失われてしまうなんてありえない。
なによりも要が補習を許すはずがない。
ぐちぐちと文句を言われるか、それとも無言で責めてくるか……。
とにかく必死に勉強して冬休みの補習は免れた。
部屋にこもって読書し放題という楽しい毎日が過ごせると思うと自然と顔がにやけてくる。
(あっ、そうです! 要に小説を返してもらわないと!)
勉強の邪魔になるからと、祀莉の部屋と四方館にあった未読の漫画や小説類は要に没収されてしまっていた。
そのおかげで集中してテスト勉強ができたのだが、もう良いだろう。
そろそろ返してもらいたい。
テストが終わっても要は相変わらず眠そうで、授業が終わると早々に下校してしまう。
小説を返してほしいと話をするタイミングが掴めなかった。
(まだプレゼントのことで忙しくしているのでしょうか……?)
***
冬休み初日、祀莉は大きな旅行鞄を持った両親たちを見送るため、使用人とともに玄関に並んでいた。
「いってらっしゃいませ。お父さま、お母さま。お気をつけて」
「祀莉、本当に大丈夫なのかい? やっぱりお父さまと一緒に……」
「あなた、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。ね、祀莉」
「はい!」
心配そうに娘の肩に手を置いている父親とその隣で優しく微笑む母親。
祀莉は安心して家を出てもらおうと、力強く返事をした。
仕事の関係で今年は海外で年を越すこことになった父親。
行き先が暖かい気候の国だったので母親も一緒についていくことにした。
ならばついでにみんなで旅行にしようと、西園寺家に仕える人たちも共に行くこととなった。
残るのは祀莉とクラブの合宿に参加する才雅と、家庭の事情で旅行を辞退した数人の使用人。
日本に残していくのが心配で何度も一緒に行くように父親は説得したが、残念なことに冬休み中には帰国できないので、話が出るたびに断っていた。
先に1人で帰国すれば良いのだが、それはそれで面倒だった。
結局、祀莉は日本で留守番することを選んだ。
「今年の誕生日は一緒に祝ってやれなくてすまないね……」
「もう高校生なんですから大丈夫ですよ」
「せめて誕生日プレゼントを……。何か欲しい物はないか?」
「旅行先のお土産で充分です」
(夏に観た映画のDVDがそろそろ発売なんですけど、それが欲しいだなんて言えませんし……)
父親の気遣いに微笑んで答えた。
まだ諦めきれない父親はどうにか祀莉を一緒に連れ出そうとしている。
今度は「何か欲しいと思うものがあるかもしれない、向こうで一緒に選ぼう」と言い出した。
隣で呆れた顔をしていた母親が時計を見ながら口を開く。
「あなた、そろそろ時間です」
「う……」
「早く行かないと時間に間に合いませんよ、お父さま。それに明日は諒華の家のパーティーに招待されてますから」
織部家では毎年クリスマスイブにパーティーをするらしい。
それに参加しないか?とテスト前に諒華からのお誘いがあった。
堅苦しいものではなく、立食しながら世間話をして過ごすというものらしい。
友達のパーティーに呼ばれたことなんてなかった祀莉は少し悩んだが、諒華がずっと一緒にいてくれると言ってくれたので、それなら安心だと喜んで招待を受けた。
「あぁ、そうだったな……。諒華さんのところにはお礼を贈っておいたから、粗相のないようにするんだよ」
「はい」
「一緒に行ってあげられなくれすまないね」
冬休みに入る直前に諒華から2枚の招待状を受け取っていた。
“保護者にもよろしく”と言って手渡されたが、見ての通り父親は出席できないので祀莉は1人で出席することにした。
「風邪をひかないように気をつけるんだよ……」
寂しそうに言いながら、観念した父親は足元の鞄を手に取って庭を歩きはじめた。
その後を母親と使用人が追う。
祀莉も見送りのため、一緒に歩き出した。
外は雪が降るのではないかというくらいに外の空気は冷たい。
車に乗り込んだ両親に対して胸の前で小さく手を振った。
「祀莉のことは要君にも頼んでおいたから安心だろう……」
「えぇ、そうですよ。では行ってきますね。祀莉、要君の迷惑にならないようにね」
「…………はい?」
出発すると同時に言った両親の言葉に思わず振っていた手を止めた。
(……どうして要のところに? 小父さまと小母さまにわたくしのことを頼んだってことでしょうか?)
「お嬢様、体が冷えます。屋敷の中へ」
「え……あ、はい」
冷たい風が頬を撫でる。
もうとっくに車が見えなくなったその方向を見つめて動かない祀莉に、使用人は家の中に戻るよう促した。
暖かい部屋に入って渡されたココアを飲みながら両親の言葉を思い出す。
──要君にも頼んでおいたから、安心だろう
──要君の迷惑にならないようにね
ずっと家にいるつもりだから特にお世話になることはないだろうと、この時は父親の言葉を深く理解していなかった。
それよりも明日のパーティーの準備をしなくてはならない。
部屋にはパーティーに招待されて出席すると言い出した祀莉のために、両親が嬉々として用意したドレスやアクセサリーが並べられている。
残った使用人とともに華やかな衣装を眺めた。
ドレスを合わせた祀莉を見ながら、これが良いあれが良いと楽しそうに選ぶ使用人たち。
「要様はどんな色の物をお召しになるのかご存知ですか? 同系色の物を身につけたりなど──」
「要ですか……? 要のことは気にしなくても良いですよ」
「え……そ、そうですか」
使用人が要の服装を気にするが、そもそも要は招待されていないので考慮する必要はない。
何でも良いから共通の色やモチーフを身につけさせたかったらしい。
使用人たちは不満そうな顔をしていたが、祀莉は別のことで頭がいっぱいだった。
(パーティーは明日なのに今から緊張してます……。要も緊張することなんてあるのでしょうか……?)
まぁそんなことよりも、これから彼にとって大切なイベントが待っている。
要はどんな風に桜の誕生日を祝うのだろうか。
好きな子への贈り物をする要をどうにも想像できない。
唯一、可愛らしいラッピングのプレゼントをぶっきらぼうに突き出すシチュエーションが思い浮かんで、祀莉は表情を緩めた。




