空腹のフィオナとシオン
「ハァ……ハァ……。ようやく、ようやく光が見えましたわ……っ! シオン、あれはヒトミノジの境界線ですわよね!?」
「……ああ。……分析結果、一致。……我々は、あの地獄のようなリヴァイアサン・コースを、……生きて、戻ってきた……っ!」
泥と潮風にまみれ、フィオナのドレスはボロボロ、シオンの和装も引き裂かれ、二人は幽霊のような足取りで洞窟を脱出しました。しかし、彼らの前に立ちはだかったのは、またしてもあのパステルピンクの結界でした。
ヒトミノジ境界線:絶望の再会
フィオナが結界に手を触れますが、レベル479の「鉄壁の人見知りパワー」は微動だにしません。鈴が別荘で深い眠りについている間、結界は「外部からの刺激を一切遮断する」という最強の安定モードに入っていたのです。
「……くっ、魔力が……、胃袋が……限界だ……」
シオンはついに膝をつきました。二人は丸一日、命を懸けて洞窟を彷徨い、何も食べていません。極度の空腹と疲労により、二人は結界のすぐ外側で、重なり合うようにしてバタリと倒れ込んでしまいました。
数時間後:ヒトミノジの住人たちの慈悲
結界の内側から様子を見ていた町の人たちが、慌てて駆け寄りました。結界は「外からの侵入」は防ぎますが、「内側から外へ物を出す」ことには寛容です。
「ほら、これをお食べ。鈴様特製のレシピで作った『ハチミツリボンパン』とスープだよ」
「う、うぅ……。……美味しい……。……お姉様の、お姉様の慈悲が、五臓六腑に染み渡りますわ……(涙)」
「……分析……不能。……この美味、もはや魔導の域を超えている……(モグモグ)」
住人たちから差し入れられた温かい食事を貪り食い、二人はなんとか一命を取り留めました。
ヒトミノジ別荘:翌朝
「ふにゃぁ……。よく寝ましたぁ……。カレンさん、おはようございますぅ」
鈴がのんびりとあくびをしながらテラスに出ると、門の外に町の代表者がやってきました。
朝の光を浴びて、鈴がのんびりとテラスに出た時のことです。結界のすぐ内側で、町の住人のおじさんがオドオドしながら手招きをしていました。
「あ、あの……鈴様。……あそこに、行き倒れが……」
「……えっ? 行き倒れ……ですか?」
おじさんが指差した先――結界のちょうど真上、外側の地面には、ボロボロになったフィオナ王女とシオンが、力尽きて重なり合うように倒れていました。
「ひ、ひぎゃぁぁぁ! シ、シオンさん!? それにフィオナさんまで、どうしてあんなところで転がってるんですかぁぁ!!」
鈴は驚きのあまり、持っていたジョウロを落としそうになりました。てっきり二人とも、仲良く王都へ帰ったものだと思い込んでいたからです。
---
境界線の外:配給タイム
町の住人たちは、言葉少なに、しかし手際よく動き出しました。結界越しに、温かいスープの入った木皿と、鈴直伝の「ハチミツパン」をそっと差し出します。
「……ほら。……食べなさい」
「……精がつくぞ」
「……う、うぅ……。……ありがたい……ですわ……(ズズッ)」
「……分析……不可能……。この……甘み……細胞が……蘇る……(モグモグ)」
二人は住人たちの情けにすがり、泥だらけの顔で食事を貪りました。言葉を交わさずとも、住人たちの「困った時はお互い様」という静かな優しさが、二人の疲弊した心に染み渡ります。
ヒトミノジ別荘:テラス
「……そ、そんな。あんなにボロボロになるまで、外にいらっしゃったなんて……。わ、私、ひょっとして……追い出したのが酷すぎたんでしょうかぁぁ!!」
鈴は恥ずかしさと申し訳なさで、顔を真っ赤にしてオロオロしています。
「……鈴殿、落ち着いてください。あの方たちは、自業自得な部分も大きいですから」
「ニャー……。まあ、あの執念は褒めてやるニャ。鈴、どうするニャ?」
「……う、うぅ。死んじゃうのは困りますぅ……! あの、おじさん! 私の朝ごはんの残りのサンドイッチ、リボンもつけたので……あ、あの方たちに渡してあげてくださいぃ!!(必死)」
鈴は恥ずかしさを堪え、住人にバスケットを託しました。
現在の状況
| 登場人物 | 状態 | 備考 |
| 桜井 鈴 | Lv.479 | 【罪悪感パニック】「私のせいで餓死しそうに……っ!」 |
| 親衛隊(王女&シオン) | 【復活・潜伏中】 | 住人の炊き出しで一命を取り留める。結界の外で「野営」を計画。 |
| 住人たち | 【無口な慈悲】| 余計なことは言わず、ただスープを注ぐ。 |
| カレン| 【あくび】| 「クゥ~(また騒がしくなりそうだね)」 |
「……あ、あの方たち……。食べ終わったら、ちゃんと帰ってくれますかねぇ……?」
鈴が不安げに門の外を覗き込むと、サンドイッチを受け取ったシオンが、震える手でパンの厚みを測りながら「……これは……黄金比だ……!」と何事か呟いているのが見えました。




