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サイ×サイ×サイ! ー彼は勇者だったー  作者: 赤差棚
第二章 冒険者になろう

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十二話 吐瀉物まみれのおんなのこ

 

 レメア王国イラミジャーの街付近、イロム大森林。

 草木が生い茂り、魔物も活発に生息している場所。

 魔法や空想の動物といった不思議を連想させる中でファンタジーの序盤の森のような馴染みを感じさせるこの場所には、依頼を受けた冒険者以外はほぼ立ち寄らない。


 ほぼ。

 そうほぼである。

 全くの皆無という訳では無い。

 家出をした少年少女が暖を凌いだりする。

 首都から遠すぎず、人の喧騒も届かない静かな場所だ。

 奥深くに行けば危険な魔物も湧き出るが、森の中間地点であるこの辺りでは大きな危険はない。

 そんなこの場所にある洞穴から

 人の声たるものが一つーー


「イヤッホぉぉぉお!!!!」


 他ならぬ主人公、エリウ・ウォーカーである。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 長かった長かった!

 この世界に来て三年と二月、文字通り地の底から這い上がる日々の連続。

 この、ファンタジーのファの字の無い毎日に遂に光が。

 前世で死ぬ前に当たり前に見ていた太陽の光が、今俺の目の前にある。


「ヒャッホぉぉぉぉおおおお!!!」


 暗い洞窟という牢獄から出て、ついに、ついに目の前の光を感受する。

 あぁ、光が! 光が、光が、、、光が眩しすぎる!


「ギィィィヤぁぁぁあ! 目が! 目がァ! あああああ!!」


「ハハハハハハハハハハハ!!! バカめ! 何年も洞窟暮らしだってのに、急に飛び出したらそうなるっての」


 クソ! このバカ神め!

 絶対こうなるの見たくてわざと言わなかったろ!

 何も見えなかった周りの景色も段々見えるようになってきた。


「おぉ、これがこの世界か」


 広がる景色は、普通だ。めっちゃ普通。

 遠足とかで来る森と大して変わらない。

 ちょっと深めの森くらい印象だ。

 それでもこの筆舌に尽くし難い感動。

 日光を浴び、新鮮な空気を吸うことの素晴らしさ。

 今俺は猛烈に感動している。


「すぅーーーはぁーーーー。いや〜やっぱり自然はいいねぇ! メルヘンチックなの想像してたけど、意外に日本の自然と変わんねーな」


「まーな。ここら辺は特に珍しい動植物はねーし、こんなもんだ」


 これがいわゆる、期待不一致理論ってやつか。


「でも、たま〜にいるけどな。強い魔物とか」


「…そういうのを人はフラグっていうんだけど」


 ほらほら、きたよ。

 ドンドンズシズシ足音が。


「フゴォォォォオ」


 イノシシのような化け物が背後から近づいてきた。

 ただし、イノシシに比べたらバケモノなのだが、異世界に来た最初の頃のような、明らかに元の世界では見慣れないフォルム感に対する恐怖は薄まってしまった。


「はいっ、毎度おなじみ説明は?」


「スモールベヒーモス。ここら辺じゃかなりの強さだが、まぁ大丈夫だろ」


 最近、神さんの説明が雑だ。

 特に情報をくれるでも無く、大雑把な事しか言わなくなってきた。

 それだけ俺が強くなったってことかも知れないが、性格の悪さはやっぱり変わらない。


「へいへい」


 スモールベヒーモスの攻撃を避ける。

 なるほど、確かに強い。

 だが、はっきり言ってお世辞レベルだ。

 スピードもパワーもあるがいまいちパッとしない。

 この感じだと、特殊能力がある訳でも無さそうだ。

 小細工のないタイプだけど、一つに特化している訳じゃないって事か。

 スモールという名前だし、まだ進化前ってことかな。


 約三年、洞窟生活を続けて来て知ったが、魔物や人間、ステータスのある生き物は種族で差があれどある程度レベルが上がると進化をする。

 そして進化をすると滅法強くなるのだ。

 一度だけ戦ってる敵が進化してきたことがあったが、それまで追い詰めていたとは思えない、信じられない程の強さになった。

 その時は迷わずトンズラをかいたものだ。


 ちなみに、職業レベルにも進化というものはあるらしい。

 そちらは俺もそろそろ進化しそうとの事。

 早く進化しないかなー。


「うおっととと」


 危ない、危ない。

 考えごとをしててつい攻撃を喰らってしまうところだった。


「あーーー? 気ぃ抜けてんじゃねーの?」


「うるせーー、黙って見とけっ」


 この戦いの場で気を抜くのは良くないなと少し反省。

 慣れてる時が一番危ないしな。

 神様にも言われたし、そろそろトドメをさすか。


「お、ら、よ!」


 我ながら完璧に決まった。

 攻撃を掻い潜って土手っ腹への右ストレート。

 これを喰らって生き延びるなど……。


「ん?」


 スモールベヒーモスの様子がおかしい。

 何かを堪えてるような。


「ヴォォォォォォォ」


 スモールベビーモスの口から何かが飛び出てきた。

 ただの吐瀉物なら、攻撃も止めなかっただろう。

 しかし、スモールベヒーモスから出てきたのは吐瀉物ではなく、人間だった。

 しかも女の子。


「は?」


 動揺、それによる静止。

 気づけばスモールベヒーモスはすでに逃げていた。


「あっ、おい待てっ」


 追いかけようとも思ったが、目の前の少女を見捨てる訳にもいかない。

 野郎だったら別に見捨ててもいい気がするが、女の子を見捨てるのは流石になぁ。

 それでも、この世界で食糧がどれだけ貴重かは身に染みている。

 一瞬迷って、人としてここは女の子を助けるべきだと近くへ駆け寄った。


「えーっと、大丈夫ですかー?」


 脈は、どうやらあるらしい。

 どれだけさっきのやつの腹の中に居たのかは知らないが、消化液で溶けてる様子もない。

 それどころか、等身大のクッションを抱きかかえて寝息をたてている。


「いや……コレ、人間か?」


 人の形をした魔物とかだったらどうしよう。

 そんなのいるか知らないけど。


「神さん、ステータス確認してくれ」


「えー、めんどくせーな。スリーサイズはわかんねーぞ?」


「ちっげぇよ! そういうの聞きたくて言ったんじゃないから、生存確認!」


 まったくけしからん!

 別に、言ってくれるなら聞くけど。


「へーいへい、……あぁ?」


 神様から怪訝そうな声が出てきた。


「おい、なんかわかったのか?」


 すると、少女が起き上がってきた。

 歳は高校生くらいだろうか、長い金髪は吐瀉物を被っていながら、見るものを惹くものがある。

 顔立ちも、所謂モデル顔ではあるもののどこか幼さを感じさせるものだ。

 簡潔に言うと、完璧な美少女だ。

 前世ではこんな美少女を目の当たりにしたことは勿論ないし、思わず顔が赤くなってしまう。

 これはもしかすると、あれか。

 ヒロインとの初イベントってやつか?

 洞窟からやっと抜け出せたし、ヒロインと遭遇したし、今日は前世を含めて人生最大の吉日だなと感傷にひたる。

 こんな日がついぞ訪れるとは。

 少女の一挙手一投足に目が釘付けになってしまう。


「んーーー」


 気だるそうな様子を見せた少女は、周囲を見渡し、俺の臭いを嗅いだ後ーー


「おえーーーーー」


 俺にゲロをぶちまけながら倒れた。

 くっっっそ、最悪だ。

 やっぱり見捨てとけばよかった。

 地から這い出てきた少年は、ゲロまみれの少女にゲロを吐きかけられるという、訓練されたおじさんが大層喜びそうな地獄を味わったとさ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 とりあえず近くの川に連れて行き、俺と少女のゲロまみれの体を洗うことにした。

 俺は約三年、まともに体を洗っていない。

 ウォーターショットで出せる水は以前よりも増えたが、それでも貴重な水を体を洗うことにまで回せなかったからだ。

 この三年でだいぶ伸びた髪の毛、脇、あと股間。

 臭いとぬめりが取れるように特に念入りに、、、一応口も濯いどこう。

 別に、少女の反応に心が傷ついたとかでは無い。


「SPは減ってるけどなーー」


「辞めろよぉ! ちょくちょく俺の心見てくるの!」


 水はとても冷たいが、体と同時に心も洗われる気がした。

 この際だ、服にしていた魔物の皮も丁寧に洗おう。

 獣臭とかは流石に落とせないと思うが。


 問題は少女だ。

 流石に服を脱がす訳にはいかない。

 コンプラ的に一発アウト、レッドカードだ。

 だけど、このままにしとく訳にもいかないしな。

 とりあえずコレでいくか。


「ウォーターショット!」


 この三年で出来るようになったことその一、ウォーターショットの詠唱の短縮。

 別に難しいことじゃないけど、これはかなり便利なので出来るようになったのは良かった。

 正直言うと、毎回毎回詠唱を言うのもなんか恥ずかしいし。

 その一なので、他にも出来るようになったことはあるが、それはおいおい話すとしよう。


 そして少女だが、奇妙なことに、水をぶっかけたら汚れが綺麗に落ちた。

 服や体に一切の残りもなく。

 まるで、汚れを身体が弾いていたかの如く綺麗にだ。

 そういう魔法でもあるのだろうか?

 奇妙といえばもう一つ。

 少女が抱きかかえていたクッションだ。

 ものすごい力でクッションにしがみついている少女を無理やり剥がして、担いでここまで運んできたがクッションは自動的に俺の後をついてきた。

 俺ではなく、少女についてきたんだろうが。

 そしてこのクッション、少し浮いている。

 奇妙だ、何もかもが。


「そういや、神様はなんでこの子のステータス見てちょっと驚いてたんだ?」


 色々あって流しそうになっていた質問を投げる。

 神様が驚くことは珍しい。

 俺の奇行に対してならよくある事だが、俺以外のことでは滅多にないのだ。


「それがさー、俺もステータス見ようとしたんだが、どうも見れなかったんだよなー」


「ステータスが見れない?」


「そうそう。考えられるのは、ステータスが見れないような特殊な職業持ちか、『降臨』しない状態では見れないくらいステータスが高いってことなんだが」


 一つ目はまぁ、理解できる。

 そんな奴にこの三年会ったことはないけど。

 問題は二つ目だ。

 神様がステータスを見れないほどの強さ?

 この少女が?


「この子がそんな強い訳ないだろ。だってそんなに強かったら、あんなイノシシに食われる意味が分からないでしょ」


「いや、確かにそうなんだよなぁ。とにかく、今の俺じゃあこれが何者かも、ましてや人間なのかも分からないってこと」


「んーーー」


 話に結論もつかないまま、実体のない呆けた声を上げて少女が起き上がってくる。

 本日二度目の少女の目覚め。

 だが、この話を聞いたあとじゃ印象もまるで違う。

 猛獣が目覚めたような迫力を感じる。

 少し距離を取り、警戒体制をとる。

 敵か、否か。

 それを判別するためには目を見ることが重要だということを異世界に来てから学んだ。

 今じゃ敵対心があるかないか位はわかる。

 …意図的に騙してくるタイプは正直五分五分だが。


「ふぁぁあああ。ねむっ」


 普通の女の子だった。

 魔物の腹から出てくる時点で普通ではないが、とにかく目を見た感じ、普通の少女だ。

 金髪碧眼、キメ細かい肌、慎ましい胸。

 見る人が見たらそれはもてはやされるだろうし、学校に居たら学年一は張れる見た目だ。

 ただ、、


「ん〜〜〜〜〜、あれ? キミだれ?」


 なんつーか、内面のだらしなさが全てを台無しにしている。

 そんなオーラが滲み出ていた。


「あーっと、俺はエリウ・ウォーカーってんだけど、き、君は?」


 神様がサブイボが立ってるみたいな顔でこちらを見ている。

 分かってるよ。

 俺も自分で言っててちゃんと鳥肌立ってるわ。

 何せ、人間…しかも女と喋るなんて数十年ぶり過ぎて、全くらしくない喋り方になってしまった。

 それに、神様に名前考えて貰ったけど基本話す時に名前で呼ばれないし、名乗ったのは初めてだからなんか違和感が凄い。


「エリウ・ウォーカー? …ふーん。わたしの名前はダフィでいいよ」


 ダフィと名乗った少女はすぐさま浮くクッションに寝転がりながらそう答えた。

 クッションは彼女を乗せても浮いている。


「ダフィ、ね。早速だが、なんで魔物の腹の中に居たんだ?」


 この世界の常識は知らないが、どんな世界でも動物の腹の中にいるなんて常識ではないだろう。

 対話は出来るようだが、警戒を解くことはできない。


「んー、魔物? あぁ、また食べられちゃってたかぁ」


 自覚無し。

 だが、頻繁に食べられてるらしい。

 なるほど、大物かとてつもない悪運の持ち主かの二択だな。

 どっちにしてもこの世界で初めて会った人間だ、貴重な情報源に変わりない。

 ひとまず質問責めだ。


「まずは、ここはどこか知ってるか?」


「しらないよ」


「じゃあどこから来たんだ?」


「言っても分からないと思う」


「…家はどこ?」


「遠いとこ」


「……家族は?」


「いないよ」


「………どこで生活してる?」


「寝ながら、色んなところを回ってる」


 うん、なんだこいつ。

 赤ちゃんみたいなやつだ。

 赤ちゃんってよりは口調ははっきりしてるから、単に面倒くさがってまともに質問を返して来ない感じだ。


(おい、こんなやつほっとけよ)


 神様のお告げ、至極もっともだ。

 だけどなー、見捨てるのも少し気が引けるんだよな。

 もう少し話を聞いてみよう。


「何か目的があって旅をしてるのか?」


 すると彼女は今までとは違い、少し視線を下げながら困った様子を見せた。


「あーーー、探し物をしてるんだ」


「探し物? どんなやつなんだ?」


「それがさー。困ったことに、今どんな形をしてるかはわからないんだよね」


 なんじゃそりゃ、なぞなぞか?

 どんなものか分からない物を探してる?

 わけがわからないよ。


「ーーまぁ、大変なんだったら手伝ってやるよ」


 それぐらいしか言えない。

 だって、俺は善人でも無ければ神様でもないわけだし。

 それでも、やっぱりこのまま放置は気が引けるので、この不思議ちゃんを町まで送り届けることにした。


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