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36 葬送曲。

 パトリック兄ちゃん達が帰って来たのは、冬が始まりそうな秋。

 遺髪と既に焼かれた遺骨を持って来てくれた。


 イーライのお母さんは見なかったけど。

 俺とライアン先輩と、イーライのお兄さんとお父さんとで、熊に噛み砕かれた骨を見た。


 確かにコレじゃ助からないなって。


 間違いだったり、嘘だったりしてくれないかって。

 その気持ちがすっかり消え失せた。


 本当にイーライは死んじゃったんだって。


《すみませんでした》


『いや、っ事情は、分かっている。すまない、このまま暫く』

《はい、行こうケント君、ライアン君》

『はい』


 パトリック兄ちゃんを怒ってやろう、とか思ってたのに。

 全然、怒れない。


 ずっと、1番辛かったのはパトリック兄ちゃんなんだなって。


「パトリック」


《ぁあ、ガブリエラ》

「今は彼の婚約者として、ケントの保護者として同席させて貰っている」


《そう、おめでとう》


「誰か、パトリック兄ちゃんを怒ってよ」


「分かった分かった、私が怒っておく。隣の領地までぶっと飛ばしておいてやるから、顔を洗ってきなさい、良いね?」


 返事をしたら大声で泣き出しそうになるから。

 黙って、部屋を出て。


 もっと構ってやれば。

 相談を聞ける様にしてやれば。


 もっと穏便に。

 そうしたら、そうすれば。


 イーライは休学せずに、遊学にも行かずに。

 イーライは、まだ生きてて、アイツに新しい婚約者が出来て。


 誂って、相談し合って。

 長い休みには一緒に遊びに行って。


 普通に、他と同じ様に、出来ると思ってたのに。


「何で死んじゃうんだよぉ」




 罪悪感で、死にそう。


 墓地で、遠くから元自分の葬式を見て、凄く後悔した。

 泣きじゃくるローズ、俯いたまま泣くケント。


 墓石に縋り付く母親に、涙を堪える父親。

 抱き合う姉達に、大泣きする兄達。


 そして泣かないパトリックに。

 静かに泣くライアン先輩と、その肩を抱いてるのが、多分婚約者で。


「自由の対価が、重過ぎる」

『けれども生きている事は悟られてはいけない、似た者によって家族を乱されない為にも、明確に死んだとするしか無い』


「他に、方法って」

『生かしておいた方が問題が起きる、既に前例では悪い結果を招いてしまった』


 転生者が生まれた先が酷い家で、隣の領地どころか他国にまで行って、金をせびって。

 それが叶わないとなると親族同士で子供を作らせ、その転生者の子だ、と。


「酷過ぎる」

『イーライの家は大丈夫だとは思う、だが悪しき者に利用されないとも限らない。人の欲は際限無く、幾らでも悪辣になる事が出来る。守る為だ、家族を、友人を』


「欲張りなのかな、友達が欲しかったから」

『作ろう、今からでも』


 家族を得る為に、家族を捨てた。

 突然に、酷いやり方で。


 でも、もう取り消せない、やり直せない。


 せめて。

 せめてイーライの家族に胸を張れる子を、家族を。


『そう片意地を張らないで大丈夫、事故はいつ起こるか分からないんだから、気負い過ぎない方が良いよ?』


「誰」

『嫌だなぁ、マーリンだよ、知らない?』


「知ってますけど、単なる人に」

『あぁ、アレは神の約束ね、僕は少し違うもの。どちらかと言えば精霊寄りだし、夢魔的な?』


「軽っ」

『そもそも、死を重く受け止め過ぎなんだよ。問題提起の為の自死、圧政を強いる無情な法へ抗議する死、死が意味を持つ事が有るって知ってるでしょう?既に転生を果たしてココに居るんだから』


「仰ってる意味は分かりますが」

『死の良い面も見るべきだよ、それこそ君が死ぬ事で家族も皆も良い方向へ向かうって、信じてあげるのも弔いの1つじゃない?』


「まぁ、はい、ですけど」

『今の君の家族はウォルターにパトリック、それにキャサリン。それとも、前の前の家族に申し訳無いからって何かを制御するの?』


「それは」

『同じ事だよ。全く、皆が君の幸せを願ってるのに。すまないけどウォルター、彼女の記憶を消すよ』


「そん」




 神と呼ばれる程でも無い。

 そう言って、マーリンは瞬きの間に消えてしまった。


《そう、ならコレは、僕らに課せられた問題って事だね》

『イーライを、セシルを疎かにすれば、神以外からも見捨てられてしまう』


《ごめんね、僕らの為に苦しませた》

『もう、同じ思いはさせない』


《だね。いつ起きるかな》

『言い訳は既に整っているんだろうか』


《やっぱり嫌になって眠らせた》

『それは俺の役に、葬儀で辛かっただろう』


《少しね、やっぱり、もう少しどうにか出来たんじゃないかって。散々考えて結論も出たのに、あの場に立つとね、どうしても考えちゃうから》


『すまなかった、俺も加わったばかりに』

《口調、もう王族じゃないんだから》


 長年の患いから、病死。

 イーライと同じ日付で亡くなり、今は既に王族のウォルターは故人となっている。


『すみません』

《まぁ、僕らだけだから良いけど。僕にだけ、家族が居るんだよね、何か申し訳無いな》


『流石に全員が何の繋がりも無いのは困る、すまない、コレからも動いて貰う事になる』


《愛してるからね、何物にも代えがたい、得難いモノを得たんだし》

『あぁ』


《って言うか、本気で怒られると思うよ?眠らせたの》

『構わない、せめてもの償いだ、2人へ』


《助けないからね、賛成したのは本当だし。後悔してる、本当》

『俺も迷ったが、結果的に連れて行ったのは俺達、2人の決断だ』


《そうだね、罪も償いも全部、もう共有するんだしね》

『永遠に、死んでも3人で』


《分け合おうね、全て》




 葬儀に行こうと思ったのに、眠らされた。


「せめて葬儀には行きたかったのに」


『すまない、悲しむセシルを見ていられる自信が、無くなった』

「だからって、説得すれば良いじゃんか」


『止められる言葉を、単語が思い浮かばなかった』


「ウォルターは見た?」

『見せるべきでは無かったと、思っている』


「ごめんなさい、は?」

『ごめん、すまない』


 こう泣かれちゃうと、もう怒れないよね。


「って言うか、初めて泣くじゃん」

『イーライの葬儀は、嫌なんだ』


「ロウヒおばあちゃんが長生きするって言ってたんだし、大丈夫だよ」

『イーライから、家族も友人も何もかも、奪った』


「ごめんね、半ば奪わせたんだよね」

『いや、本当に、すまない』


 ウォルターがこれだけ泣くって事は、凄い、いたたまれなかったって事だよね。

 好かれて、愛されてたんだな、イーライ。


「セシルも、そうなる様に頑張ろう?」

『あぁ、本当に、すまなかった』


 もうちょっと、胸の肉が欲しいな。

 あ、脂肪か。




「ごめんね、ありがとうパトリック」

《ううん。それにしても、何をしたらそんなに胸元がびしょびしょになるの?》


「ウォルターが泣いた」

《本当に?》


「マジで、見た事有る?」

《無い無い、遠慮せず見に行けば良かったな》


「珍しい、遠慮するなんて」

《僕も一緒に怒られたくなかったし、責めたくなかったし》


「見せたかった?」


《ううん、見せるべきじゃなかったなと思った、だから責められないなと思ってる》

「まぁ、泣いてたしね」


 良かった、平気そうで。

 確かにイーライの良さが少し霞むかも知れなかった、なら、コレで良い。


《ごめんね》


「パトリックは見せるの賛成してたんでしょ?」

《浅はかだったと思う、あんなの、見せるべきじゃない》


 イーライの願いを全て叶えたい。

 それは本当に浅はかだった。


 傷付くと分かっているなら、どんなに憎まれても守るべきなのに。


 浮かれてた。

 イーライの普段の強さに甘えてた。


 もう、次こそは守る。

 ちゃんと、もう絶対に傷付けない。

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