8.待ち合わせをする。
マヒーユ様と魔物討伐を行うことに関しては、誰にも言わなかった。だって下手に勘繰られてしまっても困るから。
マヒーユ様はあくまで優しいからこそ、騎士の後輩である私が困っているから放っておけないと思ってくださっているだけなのだ。それ以上の理由があるはずがないのだ。
下手に期待をしてはいけない……。マヒーユ様に憧れの感情は抱いている。かっこいいなとは思っている。でも私はただの後輩騎士……!
見た目が良くて、英雄の家系のマヒーユ様は異性から勘違いされることも多いのだ。
それはマヒーユ様だけではなくて、マヒーユ様のご兄妹にも言えることだけど!! それだけ英雄の家系というのは目立つし、沢山の人が寄ってくるのだ。私はそれをよく知っている。
マヒーユ様が騎士として女性を助けた際に、勘違いされてストーカー化されてしまったこととか! たまにそういうこともあるの。
「ユリアンリ、来たか」
だから、幾らマヒーユ様が笑みを浮かべてくれていても私は勘違いしない! うん、マヒーユ様は私を心配してくださっているだけ!
平常心平常心……。
マヒーユ様と待ち合わせしていたのは、王都の外。王都内でマヒーユ様と並んで歩くのは私に覚悟が足りない! まぁ、騎士としての勤務中なら仕事ですでごまかせるけれど、そうじゃないのならば色々ややこしくなるから。
というか、マヒーユ様に迷惑をかけてしまうことになるもの。私はそれが嫌だからこうして人目のつかないところで待ち合わせになったのだけど。
「はい! お待たせしてすみません。マヒーユ様」
「今来たところだから気にしなくていい」
マヒーユ様の方が先にきていたので待たせてしまったことが申し訳なくて言った言葉に、マヒーユ様は答える。
「どの魔物を狙いたい?」
「ええっと、どの魔物がお金を稼ぐのに一番効率が良いですかね?」
「本当にお金に困っているんだな」
「はい。恥ずかしながら!」
元気よく答えたら、呆れた目を向けられる。
「ユリアンリはなんというか、本当に金銭的に困ってそうだが悲壮感がないな」
「どうしようかなとは思ってますし、未来に対して心配はありますけれど結局うじうじ悩んでも仕方がないなって思います」
正直、お金を用意できなければ私は結婚しなければならない可能性が高い。それは絶望的な状況だ。でも……それでただ暗い顔して、何かありました! って悲壮感満載で過ごして何になるんだろう? と思う。
まぁ、大人しくて周りから守られるような性格で、それでいて周りが助けてくれる環境ならばあるのかなと思うけれど……。私はそういう性格でもない。そうやって誰かから手を差し伸べられるのを待つ暇があるなら、状況を変えるために動いた方がいいと思う。
「前向きでいいな。母さんを思い出す」
「マリアージュ様ですか?」
「ああ。母さんは本当に何処までも楽観的で、何事もうまく行くと思って生きている人だから。まぁ、母さんの場合は本当に何があっても解決できるだけの力を持っているけれど」
「それは嬉しいです!」
「本当にうちの国の騎士たちは皆、母さんのことが好きだよな」
「当たり前ですよ! マリアージュ様は本当に凄い方ですから! もちろん、マヒーユ様も凄いです!」
「俺もか?」
「マヒーユ様もです! 騎士として立派でかっこいいと思います!」
それは本心からの言葉だった。勢いのまま告げた言葉にマヒーユ様は小さく笑っていた。
「それでお金を稼ぐのに効率が良い魔物だっけ」
「はい。マヒーユ様はご存じですか? 魔物図鑑を見て、お金になりそうなものを倒していこうとはしているのですが、私は知識が足りません!」
「自信満々に言うことか? 王都周辺だとそもそもそこまで希少な魔物が居るわけではないからな。危険度が高い魔物は早急に討伐されるし」
「まぁ、そうですよねー」
「ただ少し行けばよい魔物はいるぞ。馬で乗ってになるし、日帰りでは少し厳しいが」
「なるほど! ならその魔物のこと教えていただければ、休みの日に行ってきます」
「いや、その時は俺も行く。休みを合わせるから行きたい日を教えろ」
「いいんですか? マヒーユ様の貴重な休みが!! 今もただでさえ、マヒーユ様のお時間いただいているのに」
「問題ない。流石に新人騎士一人で行くところでもないしな。それでお前に何かあったら寝覚めが悪い」
マヒーユ様はそんな風に言うけれど、多分、心配から言ってくれている言葉だというのは分かる。
やっぱりマヒーユ様は良い人だと嬉しくなった。だって想像していた通りの人だったというのは素敵なことだもん。
「今日は近場で魔物討伐するぞ」
「はい!」
その日帰りで行けない場所に関しては、また今度。
だから、今日は王都から日帰りで行ける範囲の場所で魔物討伐を行うことになった。私はマヒーユ様に案内されるがままに、小高い山の方へと向かうことになるのだった。