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3.そんなことあるわけないと、同僚に告げる。

「ねぇ、ユリアンリ。昨日は何処に行っていたの? 貴方が外泊するなんて珍しいわ!!」

「……おはよう、シガルト」



 私は同僚であり、友人でもある女騎士シガルトにひとまず挨拶をする。

 マリッサ様の屋敷を出て、一旦寮の部屋に戻ったのだけど……友人が朝食を食べに行こうとやってきた。


 一旦、私の部屋に彼女を招く。



「ええっと、私朝食をもう食べてきたの」

「そうなの? 外で食べてくるのも珍しいわね。もしかして男でも出来た?」

「違うわよ!」



 シガルトの言葉に私はそう答える。



 本当にそういう相手がいるのならば、何も問題がないのに……。というか、私、酔いつぶれてマヒーユ様とマリッサ様にご迷惑をかけてしまうということがあったから忘れていたけれど……両親からの手紙には結婚についてが書かれていたのだ。このまま何もしないでいると、私は父親と同じぐらいの年の男性と結婚しなければならなくなるのだ。

 本当に……どうしよう。




「ユリアンリ、何かあったの?」

「……ええっと、話すと長くなるのだけど。あと誰にも言わないで欲しいのだけど」



 私はそう前置きをして昨日起こった出来事についてシガルトに語った。

 一人で抱え込むよりも誰かに聞いてほしいという気持ちも強かったから。



「まぁ!! マヒーユ様に助けていただいたの!!」


 シガルトは私の話を聞いて興奮したようにそう言った。

 前後の話など聞いてないとばかりにそこにだけ食いついている。



「ええっと、シガルト。それよりも私が結婚を強要されかけていることとかには何もないわけ……?」

「それはユリアンリ自身がどうにかすることよ。それよりもマヒーユ様とお近づきに慣れている方が重要だわ! マリッサ様の家に行けるなんてすごいことだわ!」



 確かにその通りではあるのだけど、食いつきが良すぎて驚いてしまう。


 マリッサ様は騎士である旦那様と結婚して、貴族社会とはあまり関わりのない暮らしをしている。元々伯爵令嬢という立場だったのに、結婚のために平民としての暮らしをすることに全くためらいもなかったらしいと噂で聞いたことがある。

 マリッサ様は美しい人でなおかつあのマリアージュ様とグラン様の娘だから、結婚相手はより取り見取りな状態だったらしい。それでも幼い頃から恋をしていた相手と結婚したのだ。フロネア伯爵家の方々って噂を聞く限り凄く情熱的というか……貴族社会には珍しく政略結婚などを全く気にせずに生きている。親が決めた相手と結婚するではなく、自分で決めた相手と結婚する。――そういうのいいなぁって思う。




 家族のこと、家のこと。

 私はそれを完全に振り払いは出来なくて、といっても両親の決めた相手との結婚が嫌だと不満を抱いている。

 ……私って中途半端だなと思って、少しだけ自己嫌悪してしまいそうになる。



「マリッサ様の家に行ける機会なんてそうそうないものね。ユリアンリが困っていたからといってマヒーユ様があなたをマリッサ様の家に連れていくなんて……! 恋の予感みたいなのを感じないかしら??」




 私が考え込んでいると、シガルトは相変わらず興奮したままそんなことを言いだした。

 予想外のことを言われた私は思わずむせてしまう。



「そんなことあるわけないでしょ!」




 確かにマリッサ様の家を訪れた人の話はあまり聞いたことはない。……というより、他の騎士たちは多分私みたいに酔っぱらいすぎてヘマを犯すなんてことほとんどないってだけな気もする。



 シガルトは恋愛話などが好きだからこそ、すぐにそういう方向に結び付けることが多い。

 他の同僚の騎士たちにも同じように言っているのは知っている。何か些細なことがきっかけで恋が訪れることは確かによくある話だとは思うけれど……、私とマヒーユ様じゃ釣り合わなさすぎる。




「でももしかしたらきっかけにはなるかもしれないじゃない。ユリアンリだってマヒーユ様のことは好ましく思っているでしょ?」

「それは……その、マヒーユ様は騎士として立派で、かっこいい方だから……憧れはもちろんあるわ。寧ろマヒーユ様に悪感情を抱いている人の方が少ないじゃない」

「そうよねぇ。マヒーユ様って流石、マリアージュ様とグラン様の子供って感じよね。フロネア伯爵家の方はどういう教育をされているのかしら? 皆さん、しっかりしていて素敵だものね! ユリアンリは他の方には会ったことある?」

「ないわよ。噂は聞いたことはあるけれど……」

「私もきちんと話したことがあるのは、マヒーユ様だけなのよね。他の方ともお話出来たら素敵だろうなって思うけれど……。ユリアンリがマヒーユ様と親しくなったら他の方々とも会えそうよね。そうなったら実際の皆さんがどんな方なのか教えてね!」

「だから、そんなことあるわけないって……」

「でも将来がどうなるかなんて分からないでしょ?」



 にっこりと笑うシガルトを見ながら、私は思わず笑ってしまった。



 そんなことはあるわけはないけれど、シガルトが楽しそうに笑っているのを見ると手紙で沈んでいた気持ちが少しだけ上向きになった。……解決したわけではないから、ちゃんとどうするかは考えなければならないけれどね。



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