24.領地での出来事 ③
私はその声を信じられない気持ちで聞いた。
そしてその声のした方を見て、益々驚いた。
「マヒーユ様!? どうしてこちらに!?」
そこにはマヒーユ様が居たのだ。こんなところにいるはずのない人の姿に私は思わず声をあげてしまう。
本当にどうしてマヒーユ様がこんなところにいらっしゃるのだろうか……?
私の驚いた顔を見て、マヒーユ様はおかしそうに笑う。
「ユリアンリが困っているって聞いたから。フロネア伯爵家から騎士も連れてきた」
「え」
さらっとそんなことを言われて、益々驚く。
だって私が困っているからってこうやってここまで来てくれるなんて思ってもいなかった。確かに私はマヒーユ様と親しくさせていただいているけれど、まさか駆けつけてくださるなんて……。
私は嬉しいと同時に、どうして……? というその疑問でいっぱいになった。
「とてもありがたいと思います。きてくださって、私は嬉しいです。……でも、どうして来てくださったんだろうってそう思います。もしかしたら騎士が出動しなければならない事態になっているかもしれないけれど、マヒーユ様がいらっしゃるなんて……」
どうして来てくださったんだろう。
……マヒーユ様は優しいから、他の誰かがこうやって困っていても助けてくださるのかな。私だけだったら、嬉しいのに。なんて、そんなことを考えてしまう私は欲張りだろうか。
こうして尊敬するマヒーユ様が、他でもない私のために駆けつけてくださった。
それを実感するだけで、私はなんだか嬉しい気持ちなのだ。ああ、こんな風な状況なのに、喜んでしまっているなんて……私は能天気すぎるかもなん自分で思う。
「放っておけないと思ったから。事情は聞いたけれど、ユリアンリの口からききたい」
「えっと、そうですね」
私はマヒーユ様の言葉に、今の状況を説明する。
こんな風に家の恥を口にする。両親の借金のこと、そのせいで私が結婚を強制されていること、そのためにお金を稼ごうとしたこと。そして両親が商人に領地を任せてしまっていること――。それらを説明する。
本当にもう……憧れであるマヒーユ様にこういうことを話さなければならないことが本当に恥ずかしくて仕方がない。
マヒーユ様の生家であるフロネア伯爵家は立派な家だ。
英雄の家系で、こういう借金問題とか全くない家だ。マヒーユ様の話を聞く限り、そういう問題があったらすぐに解決してしまうような力があるから。
「本当に……情けない話ですよね。両親がお金もないのに借金をしてしまうなんて。私がもっと長女としてしっかり出来ていたら別だったんでしょうけど……」
自分のことが情けないと思う。
この国の誇りある王宮騎士団の一員で、私は自分の力で何だって解決できるようなそんな女性になりたかった。英雄として活躍し、多くの人を救っている人。――私は、家族の問題一つ一人で解決が出来ないのだ。
私は理想を抱いて、憧れに追いつきたいと思っていた。でもあくまでそれは憧れでしかないのだ。
私がどれだけ手を伸ばしても、そこにはたどり着けない。それに憧れのマヒーユ様にこんな風な姿を見せるなんて……っ。
「もっと上手く、出来たんじゃないかって。もっと前から両親のことを止められたかもしれないとそんな風に思ってしまって……。私の力不足を実感してます。今も、弟妹たちのことを助けたいと思っているのに、全然で」
もっと私が上手くやれていれば――別だったんじゃないか。
そんな風にずっと考えている。
後悔ばかりしていて、落ち込んでしまう。
「――自分で全部解決しようって私はそう思っていたのに。マヒーユ様が駆けつけてくださったことに安心してます。マヒーユ様がきてくれて嬉しいとそう思ってしまってます」
それなのに、私はマヒーユ様がきてくれて安堵している。
自分一人で解決できる強さがあったらよかったのに。
だけれどもこうして誰かがきてくれたことが嬉しい。
私はマヒーユ様の顔が見れない。
私のことをマヒーユ様は、どう思うだろうか。情けないと失望するだろうか。
こんなことにまで、マヒーユ様に赴いてもらって。迷惑をかけて。
ああ、もう本当に色々と考えてしまう。
「ユリアンリ」
考え込んでしまって、下を向いてしまう私にマヒーユ様が声をかける。
その声が優しい声で、私は顔を上げる。
そして顔をあげた先では、マヒーユ様はいつも通りの表情を浮かべている。
「騎士になったばかりのユリアンリが上手く出来ないのは当たり前のことだ。俺だって最初から全て出来たわけじゃない。だから、そこまで落ち込む必要は全くない」
マヒーユ様はそう言って、続ける。
「なぁ、ユリアンリ。母さんは借金の形にユリアンリが誰かに嫁ぐなんて良しとしてないんだ。それは俺もだ」
「そうなんですか?」
「母さんは若い女の子が親の影響でそんなことになるのを嫌だと思っているからな。そして、俺は……お前のことが好きだと思っているんだ。ユリアンリ」
急にそんなことを言われて私は声にならない声をあげてしまった。




