1.両親からの手紙
「はぁ」
私、ユリアンリは手紙に視線を落とし、ため息を吐く。
私はジェネット王国で騎士職についている。私はこの国の英雄に憧れて、騎士になることにした。
下位貴族の娘である私の家は、正直言って貧乏である。貴族とは名ばかりの小さな領地しか持たず、両親が浪費家なのもあって、お金もたまらない。それどころか借金もしている。
人としては悪い人たちではない……でも、親としてはちょっと問題のある両親なのだ。
私はそんな両親のことが嫌いではない。けれど、その送られてきた手紙は彼女の頭を悩ませるには十分なものだった。
その手紙の文章を再度見直す。
――そこには『結婚相手を見つけておいたので、その方と結婚するように。私たちは借金をしてしまったの。ごめんね』と母親の字で書かれている。
……借金の形として売られるように結婚するなんて嫌だ。こんなことならさっさと誰かと恋仲になるなり、結婚していたら良かったのだろうか。
騎士として鍛錬に励むことに必死で、騎士として名をあげようとそればかり考えていた。
家を出て、騎士として生活する日々は充実していて楽しくて――だから、恋なんて全く考えていなかった。
そのことがこうやって仇となってしまうなんて!!
ど、どうしよう。
正直、結婚なんてまだまだ考えていなくて、結婚なんてしたくない。
……まだ私は十七歳だし、結婚するにしてもちゃんと好きな人がいい。恋なんてわからないけれど友達や同僚から聞く恋の話はドキドキするものばかりだった。それに結婚ってとても素敵で幸せなものなはずだ。
いや、まぁ、私も一応貴族の娘だから政略結婚は仕方がないと言えば仕方がないのだけど……でも借金の形でというのがなんだか嫌だなって思う。それにね、相手は父親と同じぐらいの年代で、お金が全てだと思っているような商人みたいなの。……うん、借金の形に花嫁を希望するなんてそういう相手と結婚なんて嫌だなぁと遠い目になる。
私は騎士として働き続けたい。
私の夢と、未来。私が想像していたのは、騎士として活躍していくこと。かっこいい女騎士になって誰かに憧れられるような存在になりたいと思った。私が《炎剣帝》マリアージュ・フロネア様に幼い頃、憧れを抱いたように。私も同じように周りから憧れられる存在になれたらと思った。
――マリアージュ・フロネア様は、本当に凄い人だ。
誰よりも強く、誰よりも偉業を成した。そんな人。
私はマリアージュ様と実際に話したことは数えられるだけしかないけれど、英雄なのに驕ることなど全くなくて下位貴族の娘でただの騎士団の一員でしかない私にも優しく笑ってくれた。
――戦いの場で活躍して、そして伯爵位を賜って。それでいて《光剣》グラン・フロネア様と結婚して、お子さんも沢山いて。うん、英雄としての活躍だけじゃなくて女性としての幸せも掴んでいるマリアージュ様って騎士としても同じ女性としてもやっぱり憧れる。
あんな風に、英雄と呼ばれるほどに私は才能があるわけではないけれど――、そういう風に生きられるようになりたいとそう思っていた。
「本当に、どうしよう……」
借金の額がもっと少なかったら、私は自分でお金を返す道を選んでどうにでもなったかもしれない。だけど手紙に書かれている金額が驚くほどの額なのだ。浪費家だからとはいっても、これだけ借金をするなんて何をしていたのだろうか。私だって給与から少なからず仕送りしていたのに。弟と妹のこともあるからあんまり借金しないようにって言っていたのに!!
どうしてあの両親は何も考えずにそんな風に借金をしてしまったのだろうか。……あんな両親のことを見捨てられれば一番良いのだろうけれど、幾らああいう親でも育ててもらった恩があるから見捨てられないでいる。
「あー。もう!! 考えても仕方がないよね。飲みに行こう!!」
正直どうしたらいいのか分からず、考えすぎてしまうことにつかれた私は一人で声をあげる。
このまま一人で寮の部屋にいてももやもやした気持ちを抱えてしまってどうしようもないだろうなと思った。私はあんまり考えることが得意じゃない。どちらかというとあんまり何も考えずに行動してしまう方で、身体を動かす方が好きなのだ。だからこうやってどうしようもないことを考えるのは苦手。
なので、もう一旦お酒を飲んですっきりしようと思った。
私はそう思ったので、早速寮を出てバーへと向かうことにした。
「ぷはぁ、美味しい!!」
アルコールを口に含むと、余計なことを何も考えなくてよくなる。お酒を飲むのって好きだ。
今日はもう、考えることを忘れるぐらい沢山飲もう。
――私は自棄になって、普段飲まないぐらいのお酒を注ぎこんだ。
「ええええええええ!!」
その結果、起きた時に私は予想外の事態に見舞われることになった。
※「女騎士が〜」「冤罪をかけられ~」などと同じ世界観の物語です。