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【さびついた剣】を試しに強化してみたら、とんでもない魔剣に化けました  作者: 万野みずき
第三章

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第百八話 「魔王の器」


 パールティがこんな顔をするなんて、まったくもって信じられない。

 いつもどんな状況に追い込まれても、終始冷静な様子を貫いて、焦りを見せることは一度もなかった。

 絶望なんてまるで知らないかのように。

 あるいはそれこそが……絶望を見せないことこそが勇者の使命だと言わんばかりに。

 けれど、今のパールティは、これまでの彼女の心象を完全に崩してしまうような、焦りに塗れた顔をしていた。


「――っ!」


 パールティのその表情が、嫌というほど物語っている。

 目の前にいるこの魔人は、規格外の“化け物”だということを。

 そして今すぐに無力化しなくては、きっと手をつけられなくなってしまうと。

 瞬時にそうと判断したパールティは、誰よりも先に動いて妖精魔人に斬り掛かっていった。

 目にも留まらぬ速さで、先手必勝の一突きを繰り出す。

 だが……


「なっ――!?」


 妖精魔人は軽く一瞥しただけで、パールティの光速の一撃を、左手の人差し指と中指だけでピタリと掴んだ。

 細剣の切っ先が、魔人の指の間で完全に止まっている。

 パールティは細剣を突き出したままの体勢で止まり、そんな彼女を目の前で見据えて妖精は呟いた。


「ほぉ、人間もいたとは気が付かなかったな」


「……っ!」


 パールティは脚に力を込めて、全力で細剣を引いた。

 するとなんとか妖精魔人の指から切っ先を抜くことができて、彼女は即座に後退する。

 警戒するように妖精魔人を見据えながら神器を構えていると、奴が品定めをするようにパールティを眺めた。


「我を前にして武器を手放さないとは大した度胸だ。確か『神器』、というのだったか」


「……?」


 その発言には疑問を感じざるを得なかった。

 まるで神器について何も知らないかのような言い草。

 しかしその言葉に引っ掛かりを覚えたのはルビィだけだったようで、他の者たちは変わらず奇怪なものを見る目で妖精魔人を見つめていた。

 そして奴の方も、パールティに視線を注ぎ続けている。


「我を倒す気は充分にあるといった顔だな。良い、ならば相手をしてやろう」


 妖精魔人は背中の羽根を一度だけ広げ、軽く両脚を開いて言った。


「さあ、いつでも来ていいぞ」


「――っ!」


 挑発された気になったのだろうか。

 パールティは眉根を動かして、怒りをあらわすように地面を蹴飛ばした。

 純白の細剣を握りしめて、神速の一突きを繰り出す。

 その素早い一撃を目で追えた者は、この場にほとんどいなかった。

 ルビィでさえ、辛うじてその影を視界の端に捉えることができた程度なのだ。

 パールティの俊敏性がこの上なく驚異的なことを、何よりも証明している。

 しかし妖精魔人は、パールティのその光速の一撃を、まるで羽虫を払うかのように容易くあしらってみせた。

 それに対してさらに憤りを覚えたパールティが、二撃目の突きを送る。

 先刻よりも素早く、至近距離での一撃だ。

 だがそれすらも、魔人は危なげなく躱してみせた。


「ちっ――!」


 滅多に見ない、パールティの苦渋した表情。

 彼女が前のめりになって敵を追う展開自体が珍しいというのに、その相手をまったく捉え切れていないのは驚愕の光景だ。

 やはりこの魔人は強い。あまりにも強すぎる。

 それに、ただ強いだけではない。

 先ほどの台詞からも違和感を覚えたのだが。

 この魔人……


「じ、神器を持たずに、この強さなの……?」


 同じことに気付いたサファイアが、唖然とした声を漏らした。

 そう、神器を持っていないのだ。

 初めは小さな触媒系の神器を懐に忍ばせているのだと思っていたが、先ほどからまったくそれを取り出す気配もなく、何らかの力を使おうともしてこない。

 それにチャロ・レギオンの魔人を殴り飛ばした時も、神器を使わずに素手で行なっていた。

 事実、殴られた魔人は、硬質の魔装に守られて傷一つ付いていない。

 神器を持たずして、なおこの強さ。

 誠に信じがたい事実である。

 いったいこの魔人はどこからやって来たのだ?

 どこでこんな怪物が生まれたのだろうか?

 この場にいる全員が妖精魔人に疑惑の眼差しを向けた。


「お前、人間にしてはなかなか強いではないか。その脚でここまで戦えるとは大したものだ」


 妖精魔人はパールティの石化した脚を見て感心したように呟く。

 絶え間なく続く勇者の猛攻を踊るように躱しながら、奴はさらに続けた。


「脆弱な人間でも我ら魔人とここまで戦うことができる。それを可能にしている『神器』とは、やはり素晴らしいものだな」


 終始感情を窺わせることのなかったその顔に、ふと笑みが浮かぶ。


「じきに手にできると思うと、気が高ぶる」


「……」


 その笑みを遠くから見て、ルビィは例えようのない恐怖を覚えた。

 何か取り返しのつかない事態が迫っている気配。

 今すぐに動き出さなければ、絶望的な何かが起きてしまうような悪い予感。

 寒気を覚えたように密かに身を震わせていると、パールティと妖精魔人の戦況に変化が起きた。


「ぐっ!」


 妖精魔人が振るった手刀が、パールティの横顔に直撃する。

 まるで羽虫を払うかのように、軽く振られたように見えた一撃だったのだが、パールティの細身の体は凄まじい勢いで吹き飛んだ。

 彼女は大広間の壁に激突し、力なく地面に膝をついてしまう。

 パールティも全快ではなかったとはいえ、右脚の石化を感じさせないほど普段の動きに近いものになっていた。

 事実、チャロ・レギオンの魔人たちを寄せ付けることなく、先ほどは見事に圧倒してみせた。

 しかし、それでもなお、この妖精の魔人には手も足も出せていなかった。


「パールティ!」


 ルビィはそう叫びながら懸命に立ち上がろうとする。

 だが体の傷が痛むせいで、またすぐに膝をついてしまった。

 なんとかしてあの戦況に割り込みたい。パールティを手助けしたい。

 だが、あの妖精魔人から放たれる威圧感と、パールティが圧倒されているという絶望的な現実を前に、足が根を張ったように動かなくなってしまった。

 こんな気持ちを味わったのは、本当に久しぶりだ。

 どうしようもできない無力感。死を改めて考えさせられる底無しの恐怖。

 同様に、サファイア、エメラルドの心も、すでに枯れ枝のように呆気なく折れていた。

 一方で、そんな彼女たちの心をまるで鏡写しにするかのように、無類なき愉悦を覚えている者もこの場にいた。


「……す……すごい」


 七大魔人チャロ。

 彼女は絶対的な強さを誇る妖精魔人を前に、感激の声を漏らしていた。

 あの勇者パールティを圧倒している。

 自分たちがまったく手を付けることができなかったあの憎き人間を、まるで赤子の手を捻るように弄んでいる。

 先ほどまで勇者に追い詰められて、危うく殺されかけた。

 その状況を一変してみせた妖精魔人は、もはやチャロの目には英雄のように映った。

 チャロはそんな彼女に心酔し、同時に一つの確信を得る。

 現在空席となっている“魔王の座”は、この方のためにあったのだと。

 一度でも魔王の座を夢見た自分が、とてつもなく愚かだったと。

 この方のお側に仕えて、何もかもを捧げたい。

 いつまでも近くにいて、この圧倒的な強さをずっと見ていたい。

 チャロの心に、恋心にも似た猛火が灯った。


「ぐ……あっ……」


 やがて、勇者パールティは倒れた。

 誰も敵わなかった絶対的な存在が、一瞬の内にボロ布のように地面に倒されてしまった。


「あの、勇者パールティが……」


「うそ……だろ……」


 魔人たちは信じがたい光景を前にして絶句する。

 しかしただ一人、七大魔人のチャロだけは、妖精魔人に近づいて跪いた。


「素晴らしきお力でございます」


 その姿に、彼女の部下であるチャロ・レギオンの魔人たち数人が憤りを見せた。


「チャ、チャロ様! なんでこんな奴に……!」


「神器も持ってねえ奴に頭下げることなんかないですよ!」


 するとチャロは瞳を細めて、その魔人たちを睨め付けた。


「あなたたちも膝をつきなさい。この方は私たちを導いてくださる存在よ」


「……」


 チャロの心酔ぶりに、部下の魔人たちは唇を噛み締めた。

 勇者を倒した実力は確かだが、所詮はぽっと出の見知らぬ魔人。

 そんな奴に主人であるチャロを取られた気分になり、魔人たちは怒りに任せて動き出した。


「うらあぁぁぁ!!!」


 それぞれ神器を握りしめて、妖精魔人に飛び掛かっていく。

 奴は神器を持っていないため、まず殺されることはないと踏んだのだろう。

 神器がなければ魔族の魔装を傷付けることは決してできないから。

 だが……


「遅いな」


 妖精魔人はまったく焦る素振りを見せず、最初に斬り掛かってきた魔人を躱した。

 次いで即座にその魔人の手首――神器を握っている右手の手首――を掴み、ぐるっと捻ってみせる。

 すると右手に持っていた直剣の神器の切っ先が、持ち主の腹部に向けられた。

 妖精魔人はそのまま、直剣の神器を持ち主の腹に突き刺す。


「ぐあっ!」


 その勢いのまま魔人ごと持ち上げると、自らの神器で自らの腹を突き刺した、なんとも哀れな魔人が掲げられた。


「ははっ、見てみろ。使い勝手の良い神器が手に入ったではないか。そのまましっかりと握っていろよ」


 妖精魔人は再び、無感情だったその顔に笑みを浮かべた。

 その姿を見て、追随していた他の魔人たちがさらに勢い付く。


「ちょ、調子に乗ってんじゃねえ!」


 怒りに任せて神器を振ると、妖精魔人は軽々とその攻撃を回避した。

 そして右手で掲げていた魔人付きの神器を、剣に見立てて乱暴に振るう。

 腹を突き抜けている直剣の神器は、いまだに魔人の手に握られたままなので、装備中という扱いになっている。

 ゆえに神聖力はそのまま働いており、通常では傷付けることができない魔装にも……


「うっ!」


 当然、刃は通った。

 妖精魔人は即席で作った神器を乱雑に振り回し、飛び掛かってくる相手を片っ端から斬り伏せていった。

 その度にぐちゅぐちゅと、神器代わりにされている魔人の腹部から血が滴り、床を真っ赤に染めていく。


「ぐっ……あぁ……!」


 そして三十秒も経たずに、最後の一人が斬られてしまった。

 と同時に、刃が中途半端なところで止まって、妖精魔人は首を傾げる。


「途中で斬れなくなった。ということは絶命し、神聖力とやらが失われたというわけか。存外魔人も脆いものだな」


 右手で持っていた魔人をつまらなそうな目で見て、紙屑を捨てるように放り投げた。

 それと同時にその魔人の体が光の粒と化して、空気に溶けるように消えていく。

 チャロ・レギオンの魔人たちをも圧倒してみせた妖精は、残った者たちに無機質な視線を向けた。


「神器を持っていなくとも、お前たちを倒す手などいくらでもある。死にたい者から掛かって来るがいい」


 その言葉を受けて、魔人たちは思わず萎縮した。

 しかしただ一人、常に膝をつき続けて頭を垂れる者がいた。


「いえ、種族の女王たるあなた様に、そのようなご無礼は決していたしません」


「……女王?」


「あなた様は私たち魔族の女王たる存在。あらゆる生物の頂点に立つ、何者も逆らうことを許されない魔王様です」


 チャロが改めてそう言うと、妖精魔人は興味がないといった様子で肩をすくめた。


「魔族の女王など、微塵も興味はないのだがな。我はただ、愚かな人間を殺せればそれで充分だ」


 それを聞き、チャロはすぐさま前のめりになって反応した。


「でしたらその宿願、是非ともこの私たちに手伝わせてください」


「手伝う? 我をどう手伝うというのだ? お前たちにいったい何ができる?」


 曖昧なその問いかけに、チャロは一も二もなく返答した。


「お望みとあらば、如何なるご命令も受ける所存です」


「……」


 その答えを気に入ったのだろうか。

 妖精魔人は小さな頷きを見せた。


「良い。ならば我について来るがいい」


 その言葉を受けて、チャロは深く頭を下げる。

 そんなやり取りを見つめながら、ルビィは静かに冷や汗を滲ませていた。

 ただ黙ってぼんやりと魔人たちのことを眺めていたわけではない。

 火傷が痛むというのももちろんなのだが……

 いつ、どのように動けばいいのかわからず、様子を見ることしかできなかったのだ。

 迂闊に動けばあの魔人に目を付けられて、一瞬のうちに首をはねられてしまう。

 どころか瞬き一つの間に首を落とされてもおかしくない状況なので、下手に目の乾きを潤すことすらままならないのだ。

 今こうして息をしていること自体が、奇跡だとも思える危うい戦況。

 サファイアとエメラルドも同様の考えだったらしく、狼狽えたように目を泳がせているだけだった。

 何より、倒れているパールティを放ってはおけず、どうにか助けられないかと頭を回すので精一杯だった。


「――っ!」


 すると驚いたことに、力なく倒れていたパールティが突如として立ち上がった。

 瞬く間にルビィの元に駆け寄ってくると、傷付いて動けないルビィを抱え上げてくれる。

 同時に彼女の神器も拾い上げて、即座にその場から走り出した。


「サファイア! エメラルド!」


「「――っ!?」」


 仲間の二人に呼び掛けると、彼女たちはハッとなって我に返り、すぐにパールティの意思を読み取って後ろを向いた。

 現状、あの魔人に勝つ手段はどこにもない。

 ゆえにパールティの取った選択肢は、不意を突いた“逃亡”。

 至極当然の成り行きである。

 今まで無敗の戦績を誇ってきた、人類の希望の象徴とも言える勇者パーティー。

 これからも敗北の二文字はないだろうと確信していたのだけれど、よもやこのような場所で尻尾を巻いて逃げ出すことになるとは。

 そんな状況に追い込まれて、この上ない悔しさに苛まれる。

 同時に最強の冒険者でも敵わない相手が現れたという事実に、震えるほどの絶望感を覚えた。

 規格外の魔人の襲来。次世代の魔王の誕生。その第一目撃者となり、ルビィは今一度思う。

 ……これは悪夢だ。


「どこへ行くというのだ?」


「――っ!?」


 完全に魔人たちの不意を突いたと思ったが、規格外の魔人だけはしっかりとパールティたちの動きに反応していた。

 即座にパールティに追いつくと、再びあの鋭い手刀を放ってくる。

 それをなんとか目で捉えたパールティは、ルビィを庇うようにして彼女を手放し、たった一人で攻撃を受けた。


「パールティ!」


 放り投げられたルビィは地面に倒れながら、パールティの行方を目で追う。

 彼女はまたも大広間の壁まで吹き飛ばされており、今度こそ力尽きて横たわっていた。

 それでもパールティは懸命に立ち上がろうとする。

 目の前に妖精魔人が立ち塞がっていても、なんとかこの状況を打開するために逃げ道を探し続けている。

 だが……


「【蛇眼(イビルアイ)】!」


 突如、離れたところで声が上がった。

 釣られてそちらに目を向けると、チャロが眼鏡の奥の瞳を怪しく光らせていた。

 その視線の先にいるのは、傷付いて力を失くした勇者パールティ。

 弱った彼女の肉体に、再び石化の呪いが襲い掛かる。


「ぐ……あっ……!」


 初めは右脚だけしか石化させることができなかった石化の呪いだが。

 今のパールティはひどく弱り切っているため、呪いへの耐性が著しく低下している。

 ゆえに、七大魔人のチャロが放った呪いは、パールティに容赦無く牙を剥いた。

 右脚で止まっていた石化が、役目を思い出したかのように進行を再開する。

 痛いのか苦しいのか、パールティは石化していく体を見下ろしながら歯を食いしばっていた。

 やがて彼女の肉体は、完全な石像と化してしまう。

 そんな勇者パールティの悲惨な姿を見て、チャロの頬に今一度、あのいやらしい笑みが戻った。


「あはっ!」


 目の前で何もできずに、ただ見守ることしかできなかったルビィは、パールティの石像を見て声を震わせる。


「あ……あぁ……!」


 パールティが、やられてしまった。

 自分を庇って攻撃を受けて、果ては石化の呪いまで掛けられてしまった。

 自分がもっとしっかりしていれば。自分がもっと強ければこんなことには。

 そんな後悔ばかりが頭の中を駆け巡る。冷静な判断ができなくなる。

 どうすればいい。ここからいったいどうすれば……


「【聖域(サンクチュアリ)】!」


 ルビィの焦る思考を解きほぐすように、後方でエメラルドが声を上げた。

 瞬間、彼女を中心に円形の魔法陣が展開される。

 大きさはそこまでではなかったものの、ルビィやパールティがいる場所までは辛うじて届いており、各々に癒しの効果が与えられた。

 ルビィは火傷が徐々に治っていくのを感じながら、前方を見てハッとする。

 あの妖精の魔人に、【聖域(サンクチュアリ)】が効いている様子はまるでないけれど、突如として展開された魔法陣に多少の気を取られているのがわかった。


「【白雲(ニムバスベール)】!」


 次いですぐにサファイアが魔本を掲げて、白い霧を発生させた。

 攻撃的なものばかりが溢れる触媒系魔法の中で、珍しく補助的な役割を果たす【白雲(ニムバスベール)】。

 瞬く間に大広間が白一色の景色に塗りつぶされて、視界を奪われた魔人たちは怒号を散らした。


「な、何しやがったてめえら!」


「ふざけた真似してんじゃねえ!」


 その時すでに、ルビィは走り出していた。

 自らの神器を拾い上げて恩恵を取り戻す。

 そして感覚だけを頼りに、石像になったパールティに駆け寄ると、今度は逆にルビィが彼女を抱えてその場から逃げ出した。

 サファイアとエメラルドもすでに混乱に乗じて出口の方を目指して走っている。

 やがて大広間の扉を抜けると、ルビィたちは城の廊下へと躍り出てそのまま出口に向かってひた走った。

 ただ前だけを見てがむしゃらに足を動かす。一歩でもあの魔人から遠ざかるために必死に地面を蹴飛ばす。

 今度こそ完璧に奴らの不意を突くことができたけれど、今この瞬間にも背後にあの妖精魔人がいても不思議ではない。

 そんな恐怖に後押しをされるように、ルビィたちは気が付けば黄金城の外まで逃げていた。

 見ると、隣を走っているエメラルドは顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっていた。

 敗北したことの悔しさ以上に、現状の絶望感に打ちひしがれている様子だ。

 そしてサファイアも険しい顔をしながら、震えた声を漏らしていた。


「何よ、何なのよあの化け物……! あんなのいったい、どうすれば……」


「……」


 本当にどうすればいいかわからない。

 あんな規格外な魔人に勝てる人間など、果たしてこの地上に存在するのだろうか。

 せめて、パールティが石化の呪いを受けずに、全快の状態だったならば……

 いや、それでも勝てたかどうかはわからない。

 何よりそれを証明することすら、今はできなくなってしまった。

 ルビィは抱えているパールティの石像に目を落とし、強く唇を噛み締めた。

 この日、勇者パーティーは初めて、敗北と絶望の味を知った。


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