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【さびついた剣】を試しに強化してみたら、とんでもない魔剣に化けました  作者: 万野みずき
第三章

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第百五話 「勇者の仲間たち」

 

 黄金色の城の大広間に、魔人たちの怒号が飛び交う。

 連中は各々、不気味な見た目の神器を片手に、容赦なく赤髪の少女に襲い掛かった。

 その中で少女ルビィは、まるで舞うように魔人たちを斬っていく。

 およそ大振りな大剣を振っているとは思えない軽快さ……ともすれば小振りなナイフを手元で遊ばせるように、ルビィは自在に大剣を操った。


「くそッ! 近づけねぇ!」


「誰かそのガキ止めろッ!」


 それを可能にしているのは、言わずもがな神器から与えられている莫大な恩恵のおかげである。

 しかしそれに加えて、ある一つの要因が、ルビィの強さに一層の拍車を掛けていた。


「は……あぁぁぁぁ!!!」


 ルビィは元々、腕っ節が強かった。

 女の子にしては力持ち、という程度の可愛らしいものではない。

 ましてや、同年代の子と喧嘩をして負け知らず、という程度の微笑ましい腕っ節でもない。

 一言で言えば……『人間として見て常軌を逸している』、というほどの恐るべき怪力の持ち主だ。

 細腕一本で丸太を持ち上げ、握り拳一つで大岩を砕き、本気を出せば民家一軒なら円卓のようにひっくり返すことだってできてしまう。

 ルビィはそのことを、他の誰にも話していない。

 勇者パーティーの面々にも、故郷のレッド村の知り合いたちにも、幼馴染のあの臆病な少年にさえも、この秘密を隠し続けた。

 理由は当然、怖がられると思ったからだ。


「力比べじゃ勝てねえッ!」


「なんなんだよこのガキ!」


 ルビィが初めて自身の剛力に気付いたのは、僅か四歳の頃だ。

 家に置いてあった大きな棚が、少しの地震のせいで傾いてしまい、不運なことにその下には母がいた。

 ルビィは近くでその光景を見ており、母の元に棚が倒れていく様は四歳の目にはとても衝撃的に映った。

 その時ルビィは、どうすればいいのか判断ができず、ただがむしゃらに横から棚を突き飛ばした。

 その程度のことでどうにかできるはずがない、と思っていたのだけれど……


『えいっ!』


 ルビィは自分よりも何倍も大きい棚を、家の端まで吹き飛ばしてみせた。

 当然自分でも驚いたし、近くで見ていた母はもっと不思議そうにしていた。


『ル、ルビィが助けてくれたの? いや、まさかね……』


 母も他の家族もそれまでは、少し力が強い子という認識しかなく、ルビィも自分のことをどこにでもいる普通の子だと思っていた。

 それに結局、母はその時、動揺から来た見間違いということで片をつけてしまった。

 しかしルビィは自分の力の強さを目の当たりにして、この時初めて、本気を出した自分が人類にあるまじき剛腕を発揮するのだとわかった。

 以来、ルビィは力を抑えながら日々を送り、本気を出すのは誰かを助ける時だけにしようと心に誓った。


「せ……やあっ!」


 そして今、ルビィは人類のために全力を尽くして戦っている。

 超人的な怪力を遠慮なく解放し、極悪の魔人たちを自慢の愛剣で薙ぎ払っていった。

 魔人たちはその猛攻に、手も足も出せずに苦難する。

 神器の恩恵ではなく、ただの“才能”とも言える怪力はもちろんながら、そこに本来の神器の恩恵が上乗せされて、ルビィは計り知れない存在へと昇華した。


名前:炎龍の大剣

ランク:A

レベル:25

攻撃力:400

恩恵:筋力+400 耐久+320 敏捷+250 魔力+380 生命力+350

魔法:【炎剣(サラマンドラ)

スキル:【炎舞】

耐久値:350/350


 まさに勇者の右腕を担うに相応しい少女である。

 するとルビィの猛攻に痺れを切らした、狐のような女魔人が、集団の後方で怒号を響かせた。


「ならこれでどうよ! 【風刃(ガストロア)】!」


 そう叫ぶと同時に、狐魔人は神器と思われる“扇子”を横に薙ぐ。

 瞬間、凄まじい突風が発生し、それは真っ直ぐにルビィの元に飛来した。

 念入りに研がれたナイフのように、薄く鋭い風の“魔法”。

 触れれば生身の肉体は切り裂かれ、四肢をもがれてしまうことだろう。

 たとえ神器から多大な恩恵を受けているとしても無事では済まない。

 だが、その風がルビィに届くより先に、また一つの声がどこからか上がった。


「【風刃(ガストロア)】」


 瞬間、さらに強い突風が、ルビィの後方から吹き荒れた。

 それはルビィの横を抜けていき、迫ってくる突風を迎え撃つように吹いていく。

 そして二つの風がぶつかると、激しい押し合いになった。

 その結果、最後に押し勝ったのは、後から吹いて来た方の風だった。


「なっ!?」


 押し返された突風はそのまま魔人集団の元へ返り、一人一人を切り裂いて傷を付けていく。

 その様子を見て、二つ目の風を起こした張本人であるサファイアが、感心したように呟いた。


「あらっ、結構便利ねこれ」


「わ、私と同じ魔法……!?」


 驚いて目を丸くする狐魔人に、別の魔人が毒を吐く。


「バカかてめえ! あいつは他人の魔法を真似るって言っただろうが!」


「他の触媒系の奴らも下手に魔法使うんじゃねえぞ!」


 賢者サファイア・グリモワール。

 彼女の持つ神器は“本”の形をした触媒系の神器だ。

 名を……【賢者の魔本】と言う。

 その神器の特徴を挙げるとすれば、稀有な見た目や高い恩恵値はもちろんながら、何を置いても驚異的な“スキル”はやはり外せないだろう。

 肉眼で目視した触媒系神器の魔法を模倣するスキル……【学修】。

 Cランク以下の神器のみ有効という条件はあるものの、そのスキルによってサファイアはこれまで数多の魔法を習得してきた。

 その数およそ二百。

 その話がどこからか広まってしまい、いつの間にか尾鰭が付いて『千の魔法を操る大賢者』なんて呼ばれたりもしているが、複数の魔法を合わせて使うことでまったく未知の現象を引き起こすことも可能なので、実質千より多くの技を彼女は心得ている。

 ゆえに本人はそれを否定していない。

 何より『千の魔術師』という呼び名を、密かに気に入っているから。

 その大それた名前に恥じぬ活躍を見て、ルビィは『千の魔術師』に笑みを送った。


「ありがとうサファイア!」


「魔法は私が何とかするから、思う存分暴れなさい」


 相手と同じ魔法を使ったのにも拘らず、押し合いに勝つことができたのは、一重に魔力の恩恵が並外れて高いからだ。

 ましてやCランク以下の神器で太刀打ちできる値ではない。

 だから同じ魔法を鏡写しのように使っていけば、ルビィや他の仲間に魔法の危害が及ぶことはないのである。

 むしろ先ほどのように、逆に魔法を跳ね返すことだってできてしまう。

 魔人集団の顔がより曇った。

 そして奴らは、『ならば先に動けない勇者を攻撃して優位を取ろう』と考えるけれど、その作戦も思うようには行かない。

 ルビィの猛攻やサファイアの援護に手を詰まらせているというのもそうだが……

 何より勇者パールティの傍らに、さらに厄介な人物が立っているからだ。


「こここ、来ないでください!」


 聖女エメラルド・ロッド。

 彼女の持つ神器は、“錫杖”の形をした触媒系の神器だ。

 名を……【聖女の錫杖】と言う。

 一応触媒系の神器に分類されるが、サファイアの持つ【賢者の魔本】や他の触媒系神器とは違い、魔族を討伐することに重きは置かれていない。

 どちらかと言えば“人々を守るため”の神器である。

 傷を癒し、魔族の脅威を遠ざける特異な力が宿っている。


「ひえっ! 【聖域(サンクチュアリ)】!」


 エメラルドは相変わらずのビクついた様子でそう言うと、慌てるように緑色の錫杖をブンブンと振った。

 すると彼女を中心に“薄緑色の魔法陣”が展開されて、身動きが取れない勇者パールティだけでなく、周りにいた魔人たちも領域内に覆ってしまう。

 瞬間、魔人たちの肉体が、まるで焼かれるようにして傷付いていった。


「ぐあぁぁぁぁぁ!!!」


「あ、熱いっ!!!」


 一方で魔法を発動したエメラルドと、魔法陣の領域に入っているパールティには何も起きていない。

 これこそが魔人たちが攻めあぐねている最大の理由。

 聖女エメラルドの持つ攻守完備の領域魔法……【聖域(サンクチュアリ)】。

 人に癒しを与え、魔に痛みを及ぼす治癒系最強と謳われている魔法だ。


「つつ、次はもっと強めにいきますよ!」


 エメラルドは両手で握った錫杖を、忙しなくシャカシャカと振り鳴らし始めた。

 一生懸命にやっている反動で、緑色の髪まで激しく揺れており、まるで子供が駄々をこねているようにも見えてしまう。

 なぜ今そんなことをしているのか。

 これは別に遊んでいるわけではなく、【聖女の錫杖】の神器に宿されているスキルを使うための動作だ。

 錫杖を振って音を鳴らすほど治癒魔法の効果が上昇するスキル――【祝奏】。

 このスキルにより【聖域(サンクチュアリ)】の領域は広がり、加えて攻撃力と治癒力が飛躍的に上昇する。

 その代わりに振るほど神器の耐久値は減少してしまうので、ここぞという場面でしか使わない。

 エメラルドは『もっと強めにいく』という宣言の通り、【祝奏】のスキルで強化した【聖域(サンクチュアリ)】を展開した。


「【聖域(サンクチュアリ)】!」


 先刻よりも大きく、強い光を放つ魔法陣が現れる。

 それは前方で戦っているルビィの元まで届き、彼女の傷を癒すと同時に、彼女を取り巻く魔人たちまでも大いに苦しめた。


「ぐ……あぁぁぁぁ!!!」


 戦況はさらに勇者側に傾いていく。

 勇者パールティの動きを止めて、完全に優位に立ったと思っていた魔人チャロは、頬から完全に笑みを消していた。

 だがそれでも、焦っている様子はまったくない。

 集団の後方にて、冷ややかな目で戦場を眺めながら、不意にため息を吐いた。


「はぁ、仕方ないかぁ」


 うんざりした様子でぼやくと、次いで彼女は声を高くして何者かの名を叫ぶ。


「クォーツ!」


 するとその声を聞いた一人の魔人が、集団の隅からおもむろに歩いてきた。

 子供のような見た目をしており、肌も髪も目も、新雪のように真っ白な魔人だった。

 見るからに異質な雰囲気を纏っている。そして見た目の特徴と名前にも聞き覚えがある。

 勇者パーティーの面々は、それぞれ確認をするように顔を見合わせて頷きを交わした。

 七大魔人の一人……クォーツだ。


「どうかしたチャロ?」


「少し予定外だけど、今すぐにあれを出して」


「んっ? 本当に今でいいの? ぼくは別に構わないけどさ」


 チャロは面白くなさそうに肩をすくめる。


「さすがにこれ以上戦力を失うのは得策じゃない。それにいつまでも勇者パーティーの連中を調子に乗らせておくわけにはいかないし、一気に片を付けてやるわよ」


 七大魔人の二人がそんな会話をする中、ルビィたちは戦いを続けながら内心で舌を打つ。

 まさか七大魔人同士で手を組んでいるとは思わなかった。

 それも想定する中で最も厄介な組み合わせと思われる二人。

 何かしらを企んでいる様子なので、一刻も早く止めるべきだとルビィは思った。

 しかしそれよりも早く、七大魔人のクォーツは動き出した。


付与魔法(エンチャント)――【開門(ニューゲート)】」


 腰に下げていた鍵のような剣を掲げて、クォーツは付与魔法(エンチャント)を発動させた。

 瞬間、鍵剣の刀身に白いモヤが纏わりつき、一層不気味な雰囲気を醸し出す。

 そしてクォーツは魔人集団の後方から前に出てくると、他の魔人たちを下げるように声を上げた。


「はいはーい、みんな危ないから後ろに下がってねー」


 その光景を見つめながら、ルビィは警戒するようにクォーツを睨め付ける。

 いったい何をするつもりなのか予測ができない。

 クォーツの能力はいまだに判明していないため、迂闊に動くことができないのだ。

 何かをされる前に動くべきか、それとも慎重に様子を見るべきか。

 そんなことを考えている間に、クォーツが鍵剣を高々と振り上げた。


「最近は若くて強い子がたくさんいて怖いね。でも、この子を倒すことはできるかな?」


「……この子?」


 するとクォーツは、何もない空間を斬りつけるように振り上げた鍵剣を下ろした。

 瞬間、まるで陽炎が発生したかのように、斬りつけた部分が激しく歪む。

 次第にその揺らぎは大きさを増していき、やがて大広間の天井に届きそうなくらい巨大なものになった。

 想定外の事態を目の当たりにして、ルビィは思わず身を強張らせる。

 するとその歪みの中から、突如として“巨大な影”が這い出てきた。

 ぬめりと光る群青色の鱗、鋭い牙と爪、片方が大きく損傷した両翼。

 “傷付いた青龍”と呼ぶべき存在が、目の前に現れた。


「巨大魔獣『アルミナドレイク』。終焉期(エクリプス)当時に数千の人間の命を刈り取り、冒険者に片翼を奪われてしまった哀れな老龍だよ」


 その魔獣の名前には聞き覚えがあった。

 終焉期(エクリプス)当時に魔王が従えていた巨大魔獣の一体で、人類と魔族との戦争に投じられたと。

 その魔獣による被害は計り知れず、多くの上級冒険者が束になり、犠牲になったことで、ようやく片翼を奪い撃退することができたと。

 そんな伝説上の生き物とも言える巨大魔獣を呼び出されて、ルビィたちは思わず言葉を失った。

 まだ生きていたというのも驚きだが、かつての魔王に代わって奴らが抱え込んでいるとは思わなかった。


「ちなみにぼくと同じで、人間のことが大嫌いだから、気を付けた方がいいかもよ」


 そんなクォーツの台詞を合図にするように、老龍が咆哮して黄金色の城を震わせた。


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