【046】尋問
ピカッ ピカッ ピカッ
横断歩道の信号は黄色に光っている。
そして。
パッ!
それはすぐに赤色に変わってしまった。
「うぉぉぉい!!
なんでこのタイミングで……!」
ドスッ!
ドスッ!
地団駄を踏むベンジー。
道の向こうにいるハナコと彼氏?は、どんどん遠くに行ってしまう。
信号機には、青になるまでのカウントダウンが表示されており…。
その数字はなんと【4分】。
おぉ。
結構長いぞ、これは。
「…!
クッソォ!!!
信号なんか……待ってられっかぁぁぁ!
ワラァ!!!」
唾を吐き散らしながら大声を出したベンジーは、突然両手を前に突き出した。
「え?!
ベンジー、どうするつも…。」
「シュラッペェェェェェ!!!
オラオラオラァァァァァ!!!」
シュラララララララ〜〜〜・:*.: ・:*.: ・:*.:
なんと、ベンジーは渾身の力を込めて魔法を放ったのだ。
それもなぜか、道路へ向けて。
ブワッ!
全身の毛が逆立つ。
目は血走り、額は青筋だらけ。
その姿は、まるで闇から引き摺り出されたモンスターのよう。
ザワザワッ!
「きゃあー!」
「逃げろー!」
周りの人間やシロクマたちが、慌てて走り出す。
「ベ、ベンジー!
一体何を…!」
意味が分からず、俺もパニック状態。
まさか、正気を失ってこの町を破壊するつもりじゃないだろうな?!
すると。
ドゥラーーーーーーーーーーーーー。
ボン!ボン!ボン!
なんと、横断歩道の上に、氷の歩道橋が現れた。
?!?!?!
なんだこれ?!
冷却魔法の……最上級バージョン?!?!
ザワザワ!
「す、すごい!
歩道橋が出てきたぞー!」
「おーい、こっち来て見てみろー!」
離れていった人達も戻ってくる。
ボタッ。
ボタッ。
「はぁ〜…、はぁ〜…。」
頭から大粒の汗を垂らし、息を切らすベンジー。
なんだか随分とゲッソリしてしまったような…。
「よぉぉぉし!
これで向こう側に行ける!
ハナコ達を……追いかけるゾォ!!!」
つま先、ダァーッシュ!!!
ドドドドドドドド!!!
「は?!
ちょ、ベンジー!」
ベンジーは全速力で氷の階段を駆け上がる。
お、俺も追いかけなくちゃ。
ベンジーが走っても崩れないんだから……これ、俺が乗っても、大丈夫だよな?!
「えぇーいっ!」
覚悟を決めて、俺も歩道橋へゴー!
トンッ!トンッ!トンッ!
ツルッ。
「お、あぶね!」
時々滑りながらも、一段飛ばしでダッシュ。
急がないと、ベンジーを見失ってしまうから。
……が、俺は途中で足を止め、後ろを振り返った。
くるっ!
「あ、あのぉー!
そこにいらっしゃる、人間やシロクマの皆さん!
この歩道橋は氷でできてるんで!
そのうち溶けちゃいます!
利用する際は、十分気をつけてくださーい!」
怪我人でも出たら大変なので、一応伝えておく。
って、そうだ!
車に乗っている人達にも。
「これきっと、上から水が垂れてくるので、ワイパー!
ワイパー動かして!」
ブンブンブン!
右手を大きく左右に振って、ワイパーのジェスチャーをする。
クイックイックイックイッ!!!
メッセージが伝わったようで、下を通る車が一斉にワイパーを動かし始めた。
「よし!」
これで安心だ。
俺は再び前を向いた。
そして。
「ベーンジ〜!!!
置いてかないで〜!」
タタタタタタタタタッ!
急いでベンジーを追いかけた。
…
「ハァナコォォォォォ!!!」
ドドドドドドドドドドドド!!!
公園の時の倍くらいのスピードで、ハナコへ突進していくベンジー。
その距離、わずか100メートル。
フイッ。
ドデカイ声と振動で、ハナコが振り返った。
「へ?
……やだっ!
お兄ちゃん?!」
ハナコは顔面蒼白。
そして…。
ドンッ!!!
とうとうベンジーがハナコに追いついた。
「はぁ、はぁ、はぁ…。
ハァナコォォォォォ!!!」
膝に手を乗せ、苦しそうに屈むベンジー。
ボタボタと落ちる汗が、コンクリートを水玉模様に変えていく。
と、その時。
俺もなんとかベンジーに追いついた。
「はぁ、はぁ。」
こんなに全力で走ったの、久しぶりぃぃぃ。泣
ヒュッ!
呼吸が整ってきたベンジーが、腕で額の汗を拭った。
そしてハナコの方へ顔を向ける。
…
「ふぅ、ふぅ、ふぅ…。
ハァナコォォォォォ!!!」
「…お、おにいちゃん。」
「はぁ、はぁ、はぁ…。
ハァナコォォォォォ!!!」
いや、だからなんなんだよ!笑
ハナコハナコって、何回言うんだよ!笑
後ろから見ていた俺は、思わず笑いそうになる。
…
「もう!
お兄ちゃん!
さっきからなんなのよ!」
ドン引きしながら怒鳴るハナコ。
でも。
プンプンしているけど、女の子のシロクマってすごく可愛いんだな。
ピンク色の丸いほっぺに、まつ毛がクルン。
前にベンジーの家で見せてもらった、あの写真のまんま。
フリルが付いた黄色い花柄のワンピースも、若者らしくて似合ってる。
…
「あ、あの…。
初めまして。
ハナコさんとお付き合いさせてもらってます、ナツヒコと申します。
お兄さん…。
なんですよね?」
おそるおそる口を開いた、ナツヒコ。
やっぱり彼氏だったんだ。
優しそうなタレ目に黒縁メガネをかけ、水色と緑色のチェック柄シャツを着ている。
「…。
お兄さん…。
だぁ?」
ブチッ。
ここで再びベンジーのスイッチがオン。
じーーーーーー。
ナツヒコの目をじっと見つめると。
「オラァァァァァァァァ!!!」
やっぱり。汗
「俺は、オメエの兄貴なんかじゃネェェェ!!!
お付き合いしてますって、いつから付き合ってんだ!!!
えぇ?!?!
1日か、2日か?!?!
そもそもオメエ、職業は?!
産まれた日の天気は?!
海の神への最長祈祷時間は?!
全部答えられんのか?!?!
ああん?!?!」
…ブチッ。
これは、今度はハナコがキレた音。
「…お兄ちゃん!!!
もう…。
いい加減にしてーーーーーーー!!!」
道のど真ん中で叫ぶハナコ。
その勢いに、さすがのベンジーも口を閉じた。
「なっ…。」
…
しーん。
…
「お兄ちゃん…。
さっきから、本っ当に失礼ね。
私、恥ずかしいわ。」
グサッ!
ベンジーの心にナイフが突き刺さる。
「は、は、は、恥ずかしいだと?!
俺はなぁ!
オメエのために言ってやってんだぞ!!」
するとハナコは、ナツヒコの腕に手を絡ませた。
クルンッ。
「な、な、な、な?!」
パニくるベンジー。
困るナツヒコ。笑
「いい?
さっきの質問、ぜーんぶ私が答えてあげる。
まず、お付き合いしている期間は2年よ。」
「に、に、に、に…?!」
ねん まで声が出ないベンジー。笑
「そして。
産まれた日の天気。
これはお兄ちゃんだって自分の分からないでしょ。
変な質問しないで。
バカみたい。」
「ば、ば、ば、ば…?!」
…ちょい待って。
このやり取り、なに。笑
助け舟出そうと思ってたけど、面白いからこのまま見学してよう。
「ふふっ。」
俺は後ろで静かに見守ることにした。
「で、最後の質問ね。
海の神への最長祈祷時間?
ナツヒコさんは、12時間の記録を持ってるわ。」
「じゅっ、じゅっ、じゅっ、じゅっ…?!」
これには相当ショックだったようで、ベンジーはアワアワし始めた。
「はぁー、はぁー、
なんだか、息が苦しくなってきたぜ…。」
そこへハナコが追い打ちをかける。
「それにね。
1番重要なことだからよく聞いて。
私がナツヒコさんに告白したの。
私がこの人に夢中になったの。
私が積極的にスキンシップしてるの。」
…。
「積極的に、スキン…シップ…。」
…
バタァ!!!
ブクブクブク…。
「ベ、ベンジー!!!」
「お兄ちゃん?!」
ベンジーは泡を吹いてその場に倒れた。
最後の
「積極的にスキンシップ」
これがトドメを刺したっぽい。
「スキン…シップ…。
2年間…。
海の神と…。
スキン…シップ…。」
違う違う!笑
情報が全部ごっちゃになってる!笑
って、笑い事じゃない。
「あ、あ、あの俺、救急車呼んできますね!汗」
そう言うとナツヒコは、電話を借りに近くの飲食店へと飛び込んだ。




