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ヒロインにしか見えない悪役令嬢?物語  作者: 松菱
五章 魔王子編
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魔王会議ってなんですか?







「これなんかがいいんじゃないか?」


「そうだね。ガンマはどう思う?」


「シス、ガンマなら祖国へ帰っただろう?」


「あ、そっか」



久しぶりに冒険者としてお金を稼ごうと、お兄さまと二人で酒場に顔を出し、掲示板を覗く。

任務の数は少なく、あっても薬草の採取の手伝いや畑の種まきの手伝いなど農家の仕事が多い。

その中でりんご農家の手伝いがあったので、それを受けることにした。りんごなら修道院でやってたし、役に立てるかもしれないからね!

ガンマに意見を聞こうとして、お兄さまに諭される。そういえば里帰りしたんだっけ。今頃、魔王会議ってのに、参加してる頃かな。なんてぼんやりと考える。

思い出すのは、ガンマに矢文が届いてすぐのこと。











暇が欲しいというガンマに魔王会議という単語がわからず、問いかける。



「魔王会議ってなに?」


「ああ、そのままの意味だ。5つの魔族の王が1ヵ所に集まって魔族の今後を考え決める。議題は先日のガストロー襲撃事件について話し合うので当事者である自分も出席するように、とのことだ」


「なるほどー、首脳会議みたいなものかー」



確かにこの前の襲撃事件は本当に危なかったもんね。そりゃあ話し合う必要があるよ。ん?5つの魔族?



「ちょっと待って?魔族って、4つだよ?オーガにヴァンパイアにウェアウルフ、そしてドラゴン。5つじゃないよ?」



種族の名前を1つ言うごとに指を折って確認したが、やはり4つだった。

しかし、ガンマは静かに首を振る。



「いや、実は魔族にはもう1人いるんだ。人間の国には現れないから知らなくても無理はないが」


「もう1人……?」



言い方が引っ掛かる。種族がもう1つあるなら、1つじゃないの?

その疑問が口に出る前にギルさんが答えを述べる。



「最後にして最古の魔族、アンデッド。罪を犯した男が死の国ロプトに封印されている」


「え!?そうなの!?」


「という噂を小耳に挟んだことがございます。ガンマ様、噂は真実ということなのでしょうか?」



ガンマを見ると、目を見開いて驚いたあと、神妙に頷いた。



「驚いたな、不死王の噂は魔族でも知る者はなかなか居ないのだが。先日の記憶操作の手際といい、アルファの言う通り、貴方は本当に優秀な方のようだ。良ければ今度手合わせ願いたい」


「お戯れを。ガンマ様のような豪腕なお方と手合わせなどしたらこの老いぼれなど軽く吹き飛んでしまいましょう」



ギルさんに飄々とかわされて、残念そうなガンマも最高に可愛いし、格好いい。これだから私の最推しは。

お兄さまが二人の会話に口を挟む。


「今はそんなことどうでも良いだろう。死の国?ロプトとはなんだ?」


「ガストローから北へ、ティルナノグから西へ、ギムレーの山脈を越えてさらに北に進むと見えてくるフリージのある森よりもさらに鬱蒼と生い茂る黒き森。その黒き森にはこの世界で死んだありとあらゆる生き物の魂が新たな命に生まれ変わるために集い、女神に救われる日を待ちながらさ迷っている。森の中には一軒の屋敷があり、不死王ハーディンがそこに住んでいる。不死王は罪を償うため、不死となり黒き森を護っているのだとか」



ガンマが語り終わる。なんて知的好奇心を擽る話なんだ!詳しく調べたい!



「まるで神話みたい!そんな人が本当にいるの?」


「さぁ?5つの魔族の王が集まるといっても、実際に不死王が会議に出たことは一度もないため、父もその姿を見たことはないと言っていた」


「名前からしてラスボスって感じだもんね。そうそう会えないってことかな」



ガンマが首を傾げながらも、私の言葉に同意してくれる。



「らすぼす、とは何かわからないが、そうそう会えないというのはその通りだ。不死王は女神から、役目を放棄しないように黒き森から出ないように封印されている。そして黒き森は死者のみが入れる場所。不死王に会うには死ぬしかないわけだから」


「おお、そういうところもラスボスっぽい」



物語終盤で死の危険と隣り合わせになりながら闘うやつだ。まさかゲーム以外でそういう存在がいるとはなぁ。世界は本当に広いや。



「ガンマ様、国王様に呼ばれているのでは?そろそろ行きませんと」


「そうだった。シス、細かいことはまた戻ってきてからでいいか?」


「うん、引き留めてしまってごめんね。いってらっしゃい」


「ああ、行ってくる」



中庭を出ようとするガンマに軽く手を振ると、手を振り返してくれた。これってファンサ?ファンサだよね!?ガンマは今日も本当に格好いい!










あの後、なぜかお兄さまに格好いいって100回言えって言われたり、ギルさんにアルファがいかに良い男か懇切丁寧に説明されたりされたなぁ。



「シス、聞いているか?」


「え、なに?」


「この任務は場所が近いから、今日行って済ませてこよう、と言ったんだが」



お兄さまに咎めるような視線を向けられ、縮こまる。じっと私を見つめた後、深いため息を吐いた。



「ガンマが居なくて寂しいのはわかったが、俺だけでは不満か?あいつよりよっぽど役に立っているだろう?」


「不満なんてないよ。ガンマは頑張ってるかなって思っただけ。お兄さまと一緒にいられて楽しいから拗ねないで」


「……拗ねてない」



拗ねてますやん。もう、お兄さまは本当に仕方ないなぁ。



「ほら、りんご農家さんのところ行くんでしょ?案内してほしいな」



お兄さまの手を握って、お願いする。お兄さまはパアッと表情が明るくなり、手を握り返して嬉しそうに酒場を後にした。

どうよ、伊達に6年もお兄さまと一緒に暮らしてないからね!お兄さまの扱いなら手慣れたもんよ!










農家さんに任務の話を聞きに行くと、雑草が増えてきたので果樹園に生える雑草を抜いて欲しいとのことだった。

もちろん修道院でやっていたことがあったので、お兄さまの助けもあり、半日で雑草を綺麗に抜き取った。



「本当に助かったよ。ありがとうね。お礼にりんごを食べていきなさい」


「やったー、ありがとうございます」


「すいません、ご馳走になります」



農家さんがりんごを剥いてくれたので、遠慮なくいただくことにした。お母さまが作ってくれるりんごのお菓子が一番だけど、生でかぶりつくのもこれはこれで捨てたもんじゃない。

うーん、瑞々しくて美味しい!!


それにしても……



「ここには初めて来たからかもしれませんけど、全然害獣や害鳥がいないんですね。いつも畑の手伝いしてたら、1匹は出てくるのに」


「いなくなったのは、つい最近だよ。1ヶ月前くらいかねぇ。今までどんなに追い払ってもしつこくやってきたってのに、まったく来なくなっちゃって」


「そうなんですか?」


「そうだよ、それに害獣がいなくなったのはウチだけじゃなくてこの辺の農家はみんな言ってるよ。だから、いつもなら害獣が食べてくれる雑草がこんなに生い茂ってしまって、嬉しいのか困ったのか」



農家さんがりんごを齧りながらぼやく。そういえば、酒場の掲示板でも魔物退治はおろか、害獣退治すらなかった。

てっきり腕利きの冒険者達が持っていったんだと思ってたけど、そうじゃなくてそもそも任務自体が存在しなかったのかな?



「何かの前触れでないと良いけどねぇ」


「そうですね」




確かに地震や津波が起こる前とか、動物は危険を察知して逃げるっていうもんね。

でも、この世界で地震を経験したことないし。そもそも地震だとしたら、1ヶ月も前から逃げるのもおかしな話だ。

動物が逃げる、広範囲に被害が及ぶ地震や津波以外の危険なこと、か。



『人間に愛想を尽かした魔族が人間に宣戦布告するの。そして世界を巻き込む大戦が始まるわ』



ふと、お姉さまがとある未来を口にしていたときのことを思い出した。


確かに、世界中を巻き込む大戦なら……


そこまで考えて、我に返る。私ってば何を考えてるんだ。

大戦の芽は皆で摘み取ったじゃん。首謀者だったおっさんも雷の事故で亡くなったし。魔族との戦争なんて、起こるはずはない。



なのに、なんだろう。この胸を掻きむしられるような焦燥感は。なにもない、よね?










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