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村の外れに住む貧乏な家の娘がこの日祝言を挙げることとなった。
娘の母が花嫁を介助する。
チラリと見えた仰々しい程の娘についている傷跡に、結婚を辞めるようにいう言葉を出したくもあったが、なんとも言えない穏やかで幸せそうな娘の表情に、納得するしかなかった。
番を離してはいけない。
娘の母は自分の母と父のことを思い出す。
あれは…番だった。
死んでも尚、離れることのできない、強い呪いにも似た絆。
ならば、せめて一緒にいさせてあげたいと思うのが親というものだろう。
着替え終わった娘の傍で娘婿が迎えに来るのを待った。
「…メイリン、綺麗だ。」
花嫁姿を見たハクレンがそう言う。
王宮にいる時よりも肌も荒れ、衣もそう良いものではない。
けれど、花嫁であるメイリンも花婿衣装に身を包んだハクレンがいつもよりも凛々しく、特別に見えていた。
そう、特別な日である。
番の契りは行なったが、夫婦として契り、他者に宣言することは今日が初めてである。
メイリンは差し出された手を取ると、そのままハクレンに抱きかかえられた。
会場となる場所は家のすぐ側の草原である。
遥々遠くから来てくれた親戚一同を前に、二人並んで座る。
この日のために用意された絨毯は全員が乗るほど大きく、これから親族となるものを囲う。
絨毯を彩る柄は羊と共に大地に生きる人が描かれて、天を司る中心部には龍が描かれている。
実にありふれた柄ではあるものの、メイリンは初めてハクレンを見上げた日のことを思い出して嬉しくなる。
あの日の苦い思い出は、今はただ幸せな物語の始まりに過ぎなかった。
メイリンとハクレンは羊の乳からできた酒を酌み交わし、夫婦の祝詞を呼んだ。
その後はみんなで揃って食事をするのだが、意外にも萎縮する親族たちを気遣ってハクレン自らが声をかけていた。
その姿を見てメイリンも嬉しくなる。
いつか、時をかけてでも、その恩に報いたい。
メイリンの死ぬべきだった時だったのを永らえさせ、共に死を選んでくれた人。
メイリンはあの時、殆ど死んでしまっていた。
止まっていたメイリンの心臓をハクレンは魔力で無理矢理動かし、そして、血が止まるまで魔力を与え続けた。
それでも容体が安定するまで一年、意識が回復するまでには三年かかってしまった。
ハクレンは一年間もの間、片時もメイリンと重ねた唇を離さず絶え間なく魔力を注ぎ込んだのだ。
あの時、回復しなければ自分の命が途切れるまでハクレンはそうしていたと言う。
何としてでも番には生きていて欲しいと思ってしまう一方で、メイリンも共に死することに嬉しさを感じている。
死ぬのならば共に。
メイリンもまた思うのだ。
宴もたけなわになった頃、ハクレンが立ち上がる。
「遠い所から今日の日にお集まりくれたことに感謝する!」
ハクレンは光り、龍の姿となって、会場とメイリンの家の上空の周りをくるりと回った。
パラパラと虹色の雨が降って来たかと思うと、会場に居た皆の手にゆっくりと降り注ぐ。
皆の手のひらにはハクレンの鱗が行き渡っていた。
「少しばかりではあるが、受け取って欲しい。」
再び人の姿になったハクレンがそう言うが、多くの親戚は初めて見る龍の姿に驚き、腰を抜かしたように固まっていた。




