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今ならわかる。
メイリンは初めて口付けをした時からずっと龍王に魔力を注ぎ込まれていた。
それがようやくわかるようになったのだ。
前よりもずっと龍王が近くに感じる。
メイリンは魔力を目一杯注ぎ込まれて溺れそうになる感覚の中で、今まで歯痒く思っていたものが溶かされ、求めていたものを手にした嬉しさもまた感じていた。
「メイリン、また帰ってきてから続きをしよう。」
気づけば龍王が政務に向かう時間が迫っていた。
龍王からそう言われメイリンも気づいたのだが、身体はくたくたの筈なのに名残惜しかった。
一日中怠惰に意識が飛んでしまうまで口付けをしていたい、そんな自分を恥ずかしく思うが、安心する一面もある。
久しぶりに不安や寂しさではない、心から龍王を求める、そんな純粋さがあるようで…。
メイリンはその日、番としての役目を忘れ、龍王に職務を促すような言葉を掛けれずにいた。
「お待ちしております。」
気怠い身体を持ち上げて、メイリンは潤んだ瞳で龍王を見つめる。
乱れた襟元には沢山の龍王の印が主張するように付いていた。
その姿に龍王も行くのをためらったが、職務に励むのはこの愛らしい番を守るためでもあった。
メイリンが後宮の中に引きこもってくれてよかったと思うほど、今はあらぬ噂が王宮には吹き荒れている。
そしてメイリンに害を成そうとする輩もまた多い。
そんな中からいち早く心安らげる場所へと連れ出したい。
龍王はその想いを糧に今日も王宮に向かう。
自分勝手に引き留めたい気持ちを隠せなかったメイリンは我に返り、龍王に微笑んで見せた。
「いってらっしゃいませ。」
「ああ、行ってくる。」
見送りの口付けは最後までメイリンを満たして、そして離れた。
一人になった後宮の中で、メイリンはすぐに強烈な眠気に襲われる。
魔力を与えてくれた龍王はもっと疲れいるはずだとメイリンは思ったが、眠気には勝てず惰眠を貪った。




