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龍王の胸に乗り上げた状態のメイリンは、龍王の早い鼓動に耳を傾けていた。
「…早く。」
メイリンは急かされて、恐る恐る自分の舌を龍心に当てた。
「んっ…」
痛みを感じたような龍王の声にメイリンは驚いてすぐに離す。
「痛くないから続けて。…鱗の近くや首も。」
龍王のその言葉にメイリンは胸を撫で下ろし、言われた通り龍王がメイリンにしたように舌を這わせた。
薄紅色の鱗はメイリンの唾液で湿ってより艶々と光っている。
「最後は歯で鱗を噛んで。」
龍王が喋るたびに動く喉元が鎮まるのを待って、またメイリンは舌を這わせたが、鱗に歯を添わせる前に顔を離した。
「…できません。」
龍王はこのまま鱗を噛み千切らせて飲ませるつもりなのだろう。
しかし、今の状態で龍心を飲むことはメイリンにはできなかった。
「何故だ。」
一度は収まっていた龍王の怒りがまた再び湧き上がるように、目を血走らせ、虹色の鱗のように全身を光り輝きはじめた。
「…このまま不安を抱えて生きていくことは死よりもまた怖いのです。」
メイリンは本音を隠したままでいることができなかった。
嘘や誤魔化しが効かないほど切迫していることを何となくわかっていた、メイリンも、龍王も。
「今賭けをしているのです。私の命が消えるのが先か、龍王の龍華国への愛が消えるの先か。」
メイリンの命と龍王の龍華国への愛、その二つが共存できたのなら、どんなに幸せだっただろうか。
メイリンはそう思う。
しかし、どんなにメイリンが身を引こうとも龍王の番である限りは龍華国の民は納得しない。
そのこともメイリンは知っていた。
龍心を飲んで身体が丈夫になったからと言って、龍を前にすればひとたまりもない命。
その恐怖に晒されながら、家族さえも置き去りにして一人で生きることはできない。
二者択一、それしか方法は無かった。
「ならば、とっくの昔に決まっている。」
怒りの消えた龍王はただ悲しい顔をしてメイリンの頰に触れた。
「私を選ぶならば未練を残さず選んでほしいのです。私のためにも、ハクレン様のためにも。」
頰に触れる龍王の手にメイリンもそっと手を重ねる。
意図も簡単に自分の命を賭けに使うメイリンが、龍王には痛々しく、そして自分がメイリンに押し付けてしまったこと、民がメイリンにした愚行、その事実が重くのしかかっていた。
止まぬ愚行を考えれば何度となくメイリンは死に直面する。
しかし、それを龍王の気持ちが整うまで待つということなのだ。
龍王の心は着実に国から離れていた。
民が愚行をやめることは無いだろうとそう思うほどに、龍王は今の民を信じることができない。
それ程の愚行を民は今も重ねている。
そして、幾重にも殺されそうになるメイリンを見ることは龍王も耐えられなかった。
「…もうすぐ季節が変わる。秋が終わるまで…それまでに職を辞する。賭けはしない。させない。」
龍王はメイリンを抱き寄せた。
入院中暇なので更新します。
手術後が大丈夫そう、暇ならまた更新します。




