.4.ジードの従姉妹(1)
※前話、投稿ミスだったようですみません。続き投稿致します(冒頭も重複していたので削除しました)。
夢を見た。
一人の美しい女の人が、見上げるほど巨大なドラゴンと闘っていた。
つるっとした醜悪な顔をした蜥蜴を引き伸ばして、申し分程度に翼をつけたような――よくRPGにでてくる西洋のドラゴンとは、似ても似つかないシロモノだった。
女の人は、両手を額の前にかざす。
すると青白っぽい光が溢れ出し、ドラゴンが炎に包まれた。
そうだ、あの光を僕は何度も見たことがある、と思いだす。
僕も助けに行かなくては。この手に持った『神秘の槍』を、こん、こん、と、ドラゴンに突き立てるのだ。
こん、こん?
***
誰かが、何かを叩いていた。
目を開けると、朝日がまぶしかった。
一瞬、自分がどこにいるのか分からず、戸惑った。
「……はい」
叩く音はノックの音だと分かったので、とりあえず返事をした。
「おはよう」
ドアを通して、くぐもった声が聞こえた。
「ぐっすり眠れたかな? 朝食の用意ができているよ。食べ終わったら、オーネを案内するから」
「あ、はい」
ようやく、ここは『海の宮殿』で、今話していた声はジードだと思いだした。
「じゃ、また」
ジードが廊下を歩いて行く足音を聞きながら、しょぼつく目を擦る。
そうだ、着替えなくては、と思った。
昨日はすぐ寝てしまったので、あまり見慣れない部屋の中を見回すと、タンスがあった。
いや、『ルグ』とかいうやつを使うべきなのだろう、と思いだす。
心に念じる。
すると僕は、例の白い貫頭衣を着ていた。
別の服でもいいのだが、あまりここで目立つものにしてはいけないだろう、うん。
ついでに、シャワーを浴びた状態を想像した。
手のひらを頬に当てると、つるつるになっている。
「鏡よ、出でよ」
わざと、もったいをつけて言ってみる。すると、手のひらの中に手鏡が出現した。
鏡を見てまた念じると、いつもの見慣れた髪型になった。
「よしっ、と。これでオーケーかな」
昨日、初めて『ルグ』とかいうものを見たときは驚いたけど、案外、便利かもしれないなあと思った。しばらく、この世界にいなければならないなら、使い慣れる必要があるだろう。
僕は――自分でも思うのだが――一旦驚いた後は、状況に適応するのが早い方だと思う。
「……とにかく、できるだけのことは、やってみよう」
一晩寝て、そういう結論に達していたのだ。まあ、これは『いきあたりばったり主義』と言えないこともないのだけど。
まずは、もっとこのオーネ世界のことを知らないことには何も分からない。ジードともっと話をしてみるべきだろう。
そこまで考えて、鏡を消して、ベットから立ち上がった。
ちょうどその時、またドアがノックされた。
「よろしいですか?」
「あ、はい」
応えると、ちょっと茶色がかった黒髪をした女の人が入ってきた。昨日の食事のときにもいた、給仕の人だ。
彼女は、僕の姿を見て開口一番、
「まあ。なんともったいないこと!」
――と、目を大きく見開いて、告げた。
「え?」
僕が戸惑っていると、彼女は微笑んで、言った。
「普通、『神族』の方々は、日常のこまごました事には『ルグ』を使わないのです。決まりというわけではないのですけれど……」
彼女は、ドアの外からトレイを運んできて、蒸らしたタオルや、着替えの入ったバスケットを見せた。
「そうしないと、私達の『仕事』がなくなってしまう、という『神族』のみなさまのご配慮でもあります」
「そうなんですか……」
神様もいろいろと大変なのかもしれない、と思った。