.2.『神族』会議(2)
※カンタロウは、いわゆる遣い魔ですが、ストーリー前半ではあまり出てきません。
僕が、鳥に変身したルーファに驚いて、口をあんぐりと開けていると、
「ま、これぐらい、たいしたことはないが」
大きな鳥が、威厳ある声で言った。
「イアヌーよ。彼のいた世界では、『ルグ』の発現の形式が違うのだよ」
髭の男ルーファが、もったいぶった口調で続けた。
すると、見る間に大きな鳥が元の威厳あるイアヌーに戻った。小首を傾げて、言う。
「彼の驚きようを見ていると、確かに、そうなのかもしれぬな」
「おぬしは、この世界での『ルグ』の使い方を知らぬだけなのだ」
ルーファは僕に向かって、諭すように言った。
「はあ……」
僕は、ただ頷くしかなかった。
「なるほど。それではユウ君。このテーブルの上に、何かがいると想像したまえ。小動物がいいだろう」
「小動物ですか?」
まだイアヌーの変身のイメージがこびり着いていたせいか、イアヌーの提案に対して頭に最初に浮かんだのは『カンタロウ』――僕が子供の頃しばらく飼っていた烏だった。
「そうだ。強く、念じるのだ」
「はあ」
僕は何も置いていないテーブルの上に、子烏のカンタロウが羽を閉じているところを想像した。
すると、何もないはずの空間が、いきなりキラキラと光り始めた。給仕の女の子が指を光らせたのと同じだ!
「ええっ?」
小声で叫んでしまった。
次の瞬間、目の前に、カンタロウが、僕の知っているそのままの姿で、横たわっていた!
「カ、カンタロウ……?」
カンタロウは、巣から落ちて家の玄関をよちよち歩いていた、小烏だ。
飼おうとしたのだけど、すぐに死んでしまったはずなのだが……。
「『主』ユウ様」
その小烏が、やにわに僕の方を向いて、ハッキリと言葉を話した。
「あっしを創っていただき、ありがとうござんす。あっし、いや、わたくしカンタロウ、一生ユウ様に忠誠を誓いやす」
僕は、また驚きのあまり、口を大きく開ける。
カンタロウは、ぱたぱたと羽ばたいて僕の肩に止まった。
「ほう。この鳥は、なかなか賢いようだな」
イアヌーが感心したように言った。ルーファが説明する。
「これは、おぬしの知っている鳥ではない。おぬしの時空は、オーネからは多分、遠すぎるからな」
髭をなでながら、言葉を続ける。
「この鳥は蓋然性の中から、おぬし自身が記憶を元に組み立てたものだ。おぬしが望んだから、知能のスキルが高いのだ」
まだ驚きが収まらなかった。
しかし、確かに子供の頃、カンタロウが育ったらおしゃべりすると思い込んでいたのを、ちらりと思い出した。
「僕は……」
何かを言おうと思ったが言葉にならない。
髭モジャのルーファは、にやりと笑って応えた。
「まあ。じきに、『ルグ』の使い方にも慣れるだろう」
イアヌーが、こっくりと頷いた。
「君は、とりあえずはルーファの処に滞在してもらうことになっている。兄の『海の宮殿』で、くつろがせてもらうといいだろう」
「はあ」
「それでは。これで親族会議は終わりだ」
その言葉を待っていたように、皆が席を立ち上がった。
「君は、ここにも、いつでも来てもらって構わない。何か分からないことがあったら、答えてあげよう」
「ど。どうも」
僕は礼をしたが、戸惑っていた。
どうもこの世界は、物理法則からして、ひょっとしたら僕が元いた世界と異なっているかもしれない。
そこまで考えて、別の世界に来てしまったということを、もはや事実と捉えている自分に、愕然とした。
まさか自分がそんな事態の当事者になるとは、思ってもいなかったが……。
カンタロウが、カア、と鳴いた。