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.2.『神族』会議(1)

 女の人に従って中に入ると、そこも豪華に飾られた広間だった。

 細長いテーブルの周囲に、四、五人の男女が座っている。

 全員、白っぽい貫頭衣を着ている――給仕の彼女や、今の僕と同じような服だ。

 皆、若かった。一番年を取った人でも、外見的に三十歳前後くらいに見える。

 全員が、西洋人的な風貌をしている……いや、手前の方に座っている、ほっそりした女の人一人だけが東洋人風だった。

「それでは失礼します」

 給仕の彼女は礼をして戻り、僕は一人残された。

「ユウ君、だったね。君が私達の予言に含まれていない要素であることは、確かなようだ。おそらく何かの意志が、君をこのオーネの地に引き寄せたのだろう」

 やにわに、テーブルの正面に、女の人と並んで座っている男の人が、威厳ある声で話し始めた。彼が、給仕に受け答えした人だった。

「まあ、君を〈次空の浜辺〉から拾ってきた我が兄、ルーファの意見は違うようだが」

 威厳ある男の人は、僕から見て正面左に座っている人に、ちらりと目配せする。

 そこに座っているのは、金髪の口髭をモジャモジャ生やした豪快そうな男の人だった。そうか、僕はこの口髭の人に運ばれてきたのか、と直感的に分かった。

「……私達は、君の処遇について話し合っていた。結論として、君は私達と同じ種類の身体を持っているようだから、とりあえず私達と同じ待遇で、このオーネに留まってもらってかまわない」

 そこまで一気に言うと、威厳ある人は、ごほんと咳払いをした。

「全ての権力は、すでに分配されているから、君に何かの『仕事』をしてもらう必要はない。おそらく、しばらく居れば、君が導かれた理由も分かるだろう」

 何を言われているのか分からずに目をしばたくと、威厳ある人が苦笑のような表情を浮かべつつ、告げた。

「申し遅れたな。わたしは、ここオーネ世界の主神、天界の統治者イアヌーという者だ」

「え 神様?」

「いかにも」

 僕の頭は、完全に混乱していた。

 どう返事したものかと悩んでいると、彼はそれをどう解釈したか、微笑みのように見えなくもない表情を浮かべて、先を続けた。

「おっと、ここにいる皆を紹介するのも、まだだったな」

 イアヌーと名乗った男の人は、ざっとテーブルの人達を紹介した。

 彼の隣に座っている生真面目そうな感じの女の人は、彼の妻で正義と理知の神(!)、ネフィール。

 金髪髭モジャの男の人、ルーファは、海と森と地下の神だそうだ。

 その手前の東洋的な女の人は妖精族のヌデムというそうだ。彼女は、ルーファの従者の一人だった。

 テーブルの右側には、一見して僕と同じ歳ぐらいの女の子が、思いっきり背を後ろに反らせて姿勢悪く椅子に腰掛けていた。

 彼女は、イアヌーが紹介しようとするのを制止して、ちょっと伏し目がちに、僕の方に視線を向けた。

「あたい、ルーム。イアヌーとネフィールの娘で、月と美の女神。よろしくな!」

 彼女は、そう言うと、少し椅子から起き上がって、凄みのある微笑みを浮かべてみせた。

 回りの質素な身なりの人々の中で、彼女だけがジャラジャラした派手なアクセサリーを身に纏っていた。彼女の髪は、不思議な光沢のあるピンクのまだら色の短髪だった。

(この女の子、グレているんじゃないかな……)

 実のところ、僕は、いわゆる不良は苦手で、彼女の微笑に背筋がピクンと緊張したのが分かった。

 女の子の手前は、これといって特徴はないけど、いかにも雑誌とかの外国人モデルにいそうな感じの綺麗な女の人が座っていた。彼女は、大地と穀物の神、エパームというそうだった。

 一通りイアヌーが紹介を終えるのを見計らって、僕は彼に質問する。

「……あなたがたは神様、だそうですが――人間を創ったり、願いを叶えてくれるとかの、ですか?」

 僕の質問に、イアヌーはちょっと当惑したような表情を浮かべた。

「人間? あの賢い動物は、たしかに我が叔父、『石の人』の子供達だが……。うむ、人間が何か願えば、叶えてやらんこともないな」

 一言一言が、僕の理解を越えていた。

 しかし、子供の頃に映画で見た、ギリシア神話の物語が、なんとなく頭によぎった。

 ちょうど世界史の授業で、ギリシアの歴史をやっていたせいで、そういう世界に飛んでしまったのだろうか?

 いや、でも主神がゼウスでないようだし、どうも、ギリシア神話の世界そのものではなさそうだが。

 僕は、ようやく働き始めたアタマで一生懸命考えつつ、言葉を続けた。

「それでは、僕は人間で、そのようなことは、できません」

「? いったい君は何を言っているんだね?」

 怪訝な表情を、イアヌーは浮かべた。

「君は我々と同じ『非存在的』な、身体の造りをしているではないか。君も、なかなかの『ルグ』を持っているように感じられるのだが?」

「『ルグ』?」

「そうだ。思考を具象化する力のことだ。例えば――」

 彼が言い終えると、彼の身体は僕の見ている前で変形しだした。

 あ、という声を上げる間も無い間に、彼は大きな鷲のような鳥に変身していた。


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